アイデアと技術のコラボレーションで、新たな体験の構築を目指す
Bossa Studiosの新作『Worlds Adrift』は、飛空艇を作って浮き島が点在する世界を旅するMMOアクションアドベンチャー。不安定な操作で大惨事になっていくのを楽しむ極悪手術ゲーム『Surgeon Simulator』や、“パンになって己を焼くのが目的”というイッちゃってるコンセプトのアクションゲーム『I am Bread』のスタジオから、なぜこんなに幻想的で夢のあるゲームが飛び出てきたのか?
今月頭にサンフランシスコで行われたGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)の会場で、同スタジオを率いるエンリケ・オリファイアーズ氏とシルヴェイン・コルニヨン氏、そして本作で技術協力を行っているImprobableのハーマン・ナルーラ氏に話を聞いた。
中央:ハーマン・ナルーラ CEO/最高経営責任者, Improbable
右:シルヴェイン・コルニヨン CTO/最高技術責任者, Bossa Studios
自動生成を活用し、プレイヤーの増加に沿って拡大する世界
エンリケ ところで最初に聞いておくけど、ゲームについてはどれぐらい知ってるの?
――開発ブログはよく見てますよ! これまでに出ているトレイラーで記事も書いたんですが、結構反応も良かったです。飛空艇を使った空賊の話ってことで、「天空の城ラピュタ」みたいな感じを持つ人も多いみたいですね。
エンリケ それは良かった。このゲームの場合はそういった雰囲気の上に、さらにマルチプレイで自由な体験もあるからね。
――そうですね。僕らはジブリが好きで、マインクラフトみたいなマルチプレイなサンドボックスゲームも好きだし、ローカライズされればベストですけど、このタイプならちょっとぐらいは……いやー、最高なんじゃないですかね。(雑なまとめに一同笑)
エンリケ あぁ、日本へのローカライズはやってみたいことなんだよね。それじゃあまずは初めにビデオをお見せしよう。GDC直前に公開したから、まだ観てないだろうからね。世界に漂っている浮き島を生成するツールのビデオだ。
エンリケ 本作のシステムはプレイヤーが参加して人数が増えていくに連れて自動生成を利用して島を作って世界を広げていくんだが、ミッションが行われるような特別な島を作るには、やっぱり人間の手が必要だ。そこでこのツールを使う。このツールではやろうと思えば3~4分で作ることもできるよ。
――このツール、“FEELING LUCKYボタン”がある(Googleの検索ページのオマージュ)のがいい感じですね! つまり気に入らなかったらこれで再ランダム化して、そこからまた整えていくような作業を通じて、島をどんどん作っていくと。
ハーマン このゲームは単一の大きな世界で展開されて、壁などはない。そこにこういった島をボンボン置いていくんだ。
シルヴェイン プレイヤーに“混んでいる”と感じるような経験はして欲しくないから、プレイヤーが増えてもそれを吸収してそれぞれに十分なスペースを与えられるような作りにしてある。Improbableの技術プラットフォームがそれを可能にしてくれた。
ハーマン どれぐらい負担を減らしているか付け加えておくと、すでにテストサーバーにはちゃんと繋がったMMOの世界があるけど、これは5人で作ったものだ。
――えーと、冗談ですよね?
ハーマン いやもっと詳しく言えば、そのうち2人はよく病欠していたから3.5人で作ったようなものだよ(笑)。Improbableには50人いるけど、ゲームそのものを作っているんじゃなくて、Bossaのようなスタジオに必要なテクノロジーを提供している。
――でもどうやって島を足していくんですか?
ハーマン 島を加えるぐらいだったらシステムをダウンさせずにゲームを成長させることが可能だ。リリース後も新しいコンテンツ、ビヘイビア(キャラクターなどのふるまい)、ゲームプレイコンテンツなどを追加したければライブで展開することができる。プレイヤーを待たせずにね。
エンリケ 選ばれた一部の人に体験してもらうαテストは6月以前を予定していて、年内にはローンチに持って行きたいと思う。
――めちゃくちゃ早いですね。
ハーマン コンセプトからローンチまで最速のMMOになると思うよ。Bossaのアイデアと我々Improbableのコラボレーションによって可能になった。他のデベロッパーにも、これを見て「これを取り入れたい」と言っていたところがあるぐらいだ。
開発者が思いもよらないことをできる、生きたMMO世界
――アイデアとしてはどういった所から始まったんですか?
エンリケ そもそものアイデアは15年前、『ウルティマオンライン』などを遊んでいた頃に遡る。当時のゲームはまだラフで、今から考えるとぶっ壊れている感じで、想定外のことも出来てしまった。誰かの家に入り込んで盗みをはたらいたり、誰かを誘い込んで殺されるようにしたりね。もちろんこうしたストーリーを共有して楽しかった。それは良かったんだが、一方では好まない人たちもいた。それでルールを厳しくして保護するようになり、ルール外のことは何も出来なくなったよね。
――そうですね。意図して設計されたことか、グリッチ(システムの穴を突いたバグ技や裏技)扱いになるようなことの、ほぼ2択になってしまいました。
エンリケ このゲームはいわばプレイグラウンドだ。オープンエンドで、フィジカルな実体のあるゲームだ。大きなスケールでありながら、物理演算を使った遊びを持ち込んだマルチプレイヤー体験があるんだ。船の上に岩を投げたり、それを転がして下の船を壊したり、4~5人でロープを使ってエンジンを破壊するとか、とても物理的でリアリスティックなことができる。自分たちもできると思わなかったことができているんだ。
――確かに、初期の『ウルティマオンライン』の体験のマジックや、『EVE Online』のようなサンドボックスなゲームが持っている魅力を感じます。
エンリケ その通りだと思う。
ハーマン だが『EVE Online』には本作のように物理演算で遊べるような部分がないからね。また古いゲームだから低レイテンシーなアクションのマルチプレイはできない。
エンリケ でも『EVE Online』がいいのは、ゲーム外で起こることも楽しいことだ。誰かがコーポレーションを裏切ったりする。ゲーム自体がプレイヤーを動かしているんじゃなくて、プレイヤーがゲームを作っているんだ。このゲームも、プレイヤーが作っていくゲームにしたいと考えているんだ。
エンリケ 船を乗っ取ったり、色々なものを作って応用したり、こちらが思いもしないことをやってほしい。他のプレイヤーはそれに対抗しなくてはならなくなる。ゲーマーは常に興味深いアイディアを出してくれる。『マインクラフト』もプレイヤーなしにはあそこまで進化しなかっただろう。
ハーマン そういったプレイヤーの創造性を刺激するためにも、ワールドはクリーチャーなどがいて生き生きとしているものでないといけない。
エンリケ その上で次の一歩として、本作の世界はただ存在するんじゃなく、その背後にはストーリーラインがある。浮き島は利用されつくして破壊されたワールドの一部であり、古代文化の秘密が隠されているんだ。それを発見して優れたテクノロジーを知ることで、より良いシップ(船)や武器が作れるようになる。
――グラフィック・スタイルがとても幻想的です。『Surgeon Simulator』や『I am Bread』のようにラフな感じにしなかった理由は?
エンリケ リード・アーティストが、ジブリ的なものをやりたかったんだ。キャラクターなどはまだ変更を重ねているけど、全体のルックスには満足している。クリーチャーも色々なものが出て来るよ。リアリスティックな感じより、もっとファンタジックなスタイルとアートを重視しているのは確かだ。
ジャンルによって定義されたゲームは作りたくない
――「『Surgeon Simulator』のスタジオの新作は『I am Bread』」って聞いた時には、すごく納得がいきます。でも今回のゲームはとても異なる。最初は「本当に? Improbableって会社が作ったゲームをパブリッシングするだけじゃないの?」って思いました。もちろんそれは違ったわけですが、全く違うゲームに取り組むことになった経緯は?
エンリケ 確かに最初は混乱したかもね(笑)。『Surgeon Simulator』と『I am Bread』は、どちらも物理を使ったゲームで、プレイヤーが思いがけないことをやるという点が共通している。プレイヤーたちが発見したんだけど、ブレッドを横に転がしていけば60秒以内にマップをクリアーできるなんて、僕らはそんなことは思いもよらなかったんだよ。
――確かに。どちらもプレイヤー本人すらも思いもよらない挙動で何かを発見してゲラゲラ笑えるゲームですね。
エンリケ その体験をMMOにしたということだ。我々のスタジオには僕ら創設者も含めてMMOの開発経験者がたくさんいて、基本的なやり方はわかっている。でも我々から見ると、今のMMORPGは進化していなくて、退屈なものが多いんだ。例えば物理的な遊びができない。隣の人に触れることもできない。木を切り倒したり、引きずったりできない。ドラゴンをとらえる罠を物理的に仕掛けることもできない。つまりワールドが生きていないということだ。
――物理で繋がった活き活きとしたカオスなMMOの世界……段々繋がりが見えてきた気がします!
エンリケ 我々はジャンルによって定義されたゲームは作りたくないんだ。『Surgeron Simulator』も『I am Bread』もジャンルがはっきりしない。(『I am Bread』では)でもパンを活き活きと色々な動かし方で動かせる。例えばこれをプラットフォーマーにして、ブレッドを前後に動かしジャンプさせるのは簡単だ。でも我々がやりたいのは、他の人がやっていない形でブレッドを動かして活き活きとさせることだったんだ。
――それを今度はMMOのアクションとしてやると。
エンリケ そう。30年前にMMOな世界を考えた時に想像した夢を元にね。そして今はテクノロジーが進化し、小さなチームでもこのようなゲームを作ることが可能になった。「じゃあやろう!」というわけさ。
ハーマン ここからどんな世界になるか、ちょっと技術デモの映像を見せてもいいかな?(ライフゲームのようにクリーチャーが戦ったり増えたりしているデモを見せながら)このデモからモンスターやクリーチャーがどうなるかがわかってもらえると思う。このワールドには何千というクリチャーが入っていて、食べて育って分裂して戦っている。これは技術デモだけど、ゲームとベースは同じだから、実際のゲームでこういう世界を実現できるようになる。Improbableはテクノロジーを提供するだけで、ゲームプレイも美しい画面も作らないが、才能あるBossaがそれをやってくれるので、怖いものや美しいものが出来る。いまは2週間ごとにゲームが大きく改善されていて、はっきりとした結果として進歩が見られるのはすごい。
エンリケ ワールドには一貫性を持たせているので、例えばあるシップが島に座礁して、立ち去った場合、3ヶ月後に行ったらクリーチャーがシップに巣作りをしているかもしれない。行く度に様子が変わっている。Improbableの技術には本当に助かっているよ。彼らがいなきゃこんなものはできない。その島に食うものと食われるものがいれば、自然と弱肉強食状態に入る。プレイヤーが来てシップの材料としてあるクリーチャーの餌となっているものを持ち去れば、そのクリーチャーは餌がなくなり凶暴さを増すだろう。プレイヤーは襲われるかもしれない。生態系は変化し、島は生きている。