第1期のサントラよりも進化した、第2期のサントラの楽しみかた
2012年にスタートしたアニメ作品『PSYCHO-PASS サイコパス』。2012年10月から2013年3月までテレビアニメ第1期が放送され、2014年7月~9月には第1期の新編集版、2014年10月~12月にはテレビアニメ第2期『PSYCHO-PASS サイコパス 2』が放送。そして2015年1月には、映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』が公開となり、8億円を超える興行収入を記録している。
また、『PSYCHO-PASS サイコパス』の展開は、アニメだけに留まらない。いまでは、小説、コミック、CDなど、さまざまなメディアで『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界に浸ることができる。
2015年3月18日には、テレビアニメ第2期と劇場版の音楽を収録したCD『「PSYCHO-PASS サイコパス」Complete Original Soundtrack 2』が発売される。ファミ通ドットコムでは、このCDの発売を記念し、すべての『PSYCHO-PASS サイコパス』作品において音楽を担当している、作曲家の菅野祐悟氏にインタビューを実施。菅野氏と『PSYCHO-PASS サイコパス』の出会いや、第1期・第2期・劇場版の曲作りのコンセプト、サウンドトラック第2弾の楽しみかたなどについて語っていただいた。
■「PSYCHO-PASS サイコパス」Complete Original Soundtrack 2概要
・完全生産限定盤
CD3枚組[絵コンテブックレット仕様]+Blu-ray+封入特典/4980円[税込]
・通常盤
CD/3300円[税込]
発売日:2015年3月18日
発売元:ソニー・ミュージックレコーズ
収録楽曲一覧は→こちら
■菅野祐悟氏プロフィール Yugo Kanno
映画、ドラマ、アニメなどの音楽を手掛ける作曲家。近年のおもな代表作は、映画『幕が上がる』、テレビドラマ『軍師官兵衛』、『銭の戦争』、テレビアニメ『ガンダム Gのレコンギスタ』など。『PSYCHO-PASS サイコパス』においては、第1期から劇場版まで、すべての作品で作曲を担当している。
何が正解なのかわからない『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界を、音楽で表現
――初めに、菅野さんが『PSYCHO-PASS サイコパス』(以下、『サイコパス』)のプロジェクトに関わることになったきっかけを教えていただけますか?
菅野祐悟氏(以下、菅野) ここ数年、『サイコパス』で総監督を務めている本広克行さんとは、実写の作品をいっしょにやらせていただいていて。その流れで、「今度アニメを作るから、音楽をよろしく」と言われていたんです。『サイコパス』第1期が放送される、2年ぐらい前かな。そのときは、『サイコパス』という名前も設定もありませんでした。それから、いよいよ企画が具体的なものになって、改めてお声がけいただきました。
――では、『サイコパス』という作品に対し、どんな第一印象を抱きましたか?
菅野 なんだか難しそうな話だな、と感じましたね。いまでこそ、たとえば“東金朔夜(とうがねさくや)”という名前を見て、「いい名前だな」と素直に思いますが、当時はキャラクターの名字も読めなくて。“狡噛(こうがみ)”とか。
――“宜野座(ぎのざ)”、“六合塚(くにづか)”など、変わった名字が多いですよね。
菅野 そういう名前のキャラクターたちを追っかけていけるかな、という不安はありました。設定も複雑そうでしたし。でも、お話を読ませていただいたらおもしろかったので、よかったですね。
――“難しそう”という第一印象を抱いてから、いざ曲作りをするまで、『サイコパス』という作品を噛み砕く必要があったのでは?
菅野 そうですね。映像音楽のお仕事というのは、監督が思い描いている世界のお手伝いをすることなんです。絵コンテを読んだり脚本を読んだりして、自分が「こういう物語なんだ、こういう音楽をつけよう」と思ったとしても、そのまま作り始めたりはしません。(必要な曲の)メニュー表をいただいたら、自分の中でプランを練ったうえで、1曲1曲、監督や音響監督に取材をします。そうしてある程度の答え合わせをしてから、曲作りに臨みます。これはどの作品でもやっていることで、『サイコパス』でも同じように、監督にしつこくお話を聞きました。ですので、いざ作る段階になってからは、迷いはありませんでしたね。
――綿密な準備をしたうえで、『サイコパス』第1期では、どのような点を意識して曲を作りましたか?
菅野 『サイコパス』は、いわゆるヒーローものと違って、どれだけ主人公が活躍しても、何が正解かはわかりません。だから、ヒーローもののテーマ、勧善懲悪のテーマとはまったく違うものにしなきゃいけないなと思いました。何が正解なのかわからないものにしなきゃいけない。でも、カッコよくて、お客さんの気持ちが高揚するものでなければならない。そこは強く意識しました。
――物語の舞台が、約100年後の世界ということは意識したのでしょうか。
菅野 音楽を聴いたときに、いまの世界とちょっと違う、と感じていただけるようにしようと思いました。進化したインターネットや人工知能を想起させるような。一方で、100年後であっても、人間が人間であることには変わりはなくて、悲しくなったり、楽しくなったり、悩んだりすると思いますので、“人間らしい部分”と“電脳的な部分”、その両方を感じさせる音楽にしたいと考えて作りました。
――ちなみに菅野さんは、SF系のお話には、以前から親しんでいましたか? 小説ですとか、映画ですとか。
菅野 キューブリック監督の映画で、『2001年宇宙の旅』という作品がありましたよね。
――2001年……気づけば、もう過ぎていました!
菅野 小さいころに観たのですが、コンピュータのHALと会話するシーンが、すごく気持ち悪かったんです。子ども心に。いまでも記憶に残っているんですよ。
――そのときに感じた違和感が、『サイコパス』の曲作りに影響を与えているということもあるのでしょうか。
菅野 あるかもしれませんね。でも、機械がしゃべる時代は、すでに来ていますよね。たとえばタクシーを呼ぼうとして電話をすると、機械の音声が応えてくれますし。『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』で描かれた2015年には、正確な天気予報が存在していましたけど、現在、そこまで正確ではないにしろ、自分たちの頭上に雲があるかどうかわかるアプリも配信されていますし。
――昔、SF作品で描かれた夢のような技術が、現代では一部実現されているんですよね。
菅野 僕の友だちで、人工知能の研究をしている人がいるのですが――たとえば、人工知能がお味噌汁を作ってくれるとしたら、食べる人の体調を読みとって、味付けを細かく調整してくれる、そんな時代がもうすぐ来る、と友人が言うんです。そんな時代で、たとえばたこ焼きプレートに“壊れることを拒否する”という知能を埋め込んだとして、僕たちが「もうこのプレートを捨てよう」と言ったら、そのたこ焼きプレートは、自分が殺されないための動きをするんでしょうね。
――人工知能の進化と行動は、『サイコパス』にも通じるお話ですね。
菅野 『サイコパス』は、舞台は100年後ですけど、ある意味現実を描いているお話なんだな、と思います。100年後にシビュラシステムができていてもおかしくないな、って。『サイコパス』で描かれている最新技術を追い越しちゃったりするかもしれない。あと30~40年くらいで、人間の知能を全部合わせても、コンピュータの知能に負ける時代が来ると言いますが、そうすると、人間ができることのほとんどを機械ができるようになってしまって、いま存在する職業の大部分がなくなってしまいます。作曲家は大丈夫かな、と心配になりますね。
――実際、今後なくなるだろう、と予想されている職業はありますしね。でも、やっぱり、曲作りはコンピュータだけではできないと思います。
菅野 信じたいですよね、それを。