『デジモンストーリー サイバースルゥース』渡辺浩弐氏が描くデジタルとオカルトが融合したサブクエストのストーリー

2015年3月12日に発売予定のプレイステーション Vita用ソフト『デジモンストーリー サイバースルゥース』。同作でサブクエストのストーリー原案を担当した渡辺浩弐氏にインタビューを実施した。

●羽生プロデューサーと意気投合してサブクエストの原案を担当

 2015年3月12日に発売予定のプレイステーション Vita用ソフト『デジモンストーリー サイバースルゥース』。大人になった『デジモン』ファンに向けて手掛けられている本作は、デジモンとの冒険、育成、バトルの要素を継承しつつ、ゲームシステムやビジュアルが大幅にグレードアップしている。また、小説家の渡辺浩弐氏が一部サブクエストの原案に協力しているのも本作の魅力のひとつだ。そこで今回、渡辺氏が経営する中野ブロードウェイのカフェ“K-CAFE”でインタビューを実施。サブクエストの内容だけではなく、中野ブロードウェイの魅力についても伺った。なお、インタビューにはプロデューサーの羽生和正氏(文中は羽生)にも参加していただいた。

■渡辺浩弐氏
小説家。ゲームライターとして活動するかたわら、週刊ファミ通で『1999年のゲーム・キッズ』を連載して人気を博す。現在は、『最前線』にて『2013年のゲーム・キッズ』を連載中(文中は渡辺)。

■現実世界と幻想世界をつなぐ場所“中野ブロードウェイ”

――渡辺さんはシナリオの原案を手掛けられているとうかがいました。
羽生 渡辺さんにはメインストーリーではなく、サブクエストのシナリオの一部の原案をお願いさせていただきました。本筋のストーリーや『デジモン』の設定は気にせず、単純にサイバーとオカルトを絡めて原案を書いていただき、我々のほうで本作の世界観などに合うようにアレンジしています。シナリオは、“デジモンが暴れて悪さをします”という単純なものではなく、サイバーとオカルトを結びつけたことによって、ホラーっぽいテイストになっています。
渡辺 論理的で合理的にオカルトを書こうとしたとき、あの世とこの世、リアリティー(現実)とファンタジー(幻想)といった関係の設定が必要です。羽生さんから原案のお話をお聞きしたとき、『デジモン』の世界には“現実世界”と“電脳世界”があるので、オカルトと組み合わせるのに非常にいいテーマだなと思いました。

――なるほど。では、どのような経緯で原案をお願いすることになったのでしょうか?
羽生 以前、“プレコミュカフェ”という番組で、プレイステーション・ポータブルの『デジモンアドベンチャー』をご紹介いただいたときに、渡辺さんと初めてお会いしまして。番組には、『デジモンアドベンチャー』の監督の角銅さん(角銅博之氏。テレビアニメ『デジモン』シリーズのディレクターなどを務める)といっしょに出演させていただきましたが、そのときに「『デジモン』は、あくまで電子機器を通したことによって、デジモンというものを知覚できているだけで、考えかたによっては妖怪や霊的な存在とも言えるかもね」といったお話をしまして。その流れで、「渡辺さんもそういうテーマで小説を執筆されていますよね」と盛り上がったんです。
渡辺 2年くらい前ですよね。「中野ブロードウェイっておもしろいよね」という話題でも、盛り上がったのを覚えています。
羽生 そうですね。中野ブロードウェイには、僕も学生のころにマニアックな輸入物のアメコミのフィギュアなどを探しにきたりしていたんですよ。それで中野ブロードウェイの混沌とした感じがすごく好きになってしまって。ブロードウェイ内のお店やトレンドが時代とともに変わるのもいいですよね。

――非常におもしろい場所ですよね。
羽生 しかも、中野ブロードウェイは建物自体にいろいろなエピソードがあっておかしいので(笑)、「ゲームに登場したらおもしろいですよね」という話になったんです。渡辺さんは当時、中野ブロードウェイの理事をされていて、「ゲームの舞台にしても大丈夫ですか?」と相談したところ、事務局につないでいただいて。それでいろいろ相談に乗っていただいたのですが、渡辺さんの小説の世界観が今回のゲームの作本で演出したかった、“デジタルをモチーフにした怪談話”と合致していると思ったので、原案をお願いしました。

――渡辺さんとの出会いがあったからこそ、ゲーム中に中野ブロードウェイが登場することになったんですね。
渡辺 僕は中野ブロードウェイに出入りし始めて30年くらいになりますが、現実世界と仮想世界の接点として、これほど相応しい場所はないと思います。ですから、『デジモン』で言うところの現実世界と電脳世界の接点として登場するのは、すごくおもしろいなって。

――中野ブロードウェイが、現実世界と仮想世界の接点として相応しいと思う理由とは?
渡辺 架空の世界や物語に対してのセンスが卓越した“オタク”から“聖地”と呼ばれていることです。つまり中野ブロードウェイは、イメージとして現実と疑似現実とのちょうど境界に立っているわけです。
羽生 中野ブロードウェイ自体が、非日常な空間なんですよね。
渡辺 そうなんですよ。だから僕は、創作の拠点を中野ブロードウェイに移しました。本作は主人公が電脳探偵として中野ブロードウェイを拠点に活躍しますが、僕も過去に探偵や殺し屋を主人公にした小説を書いたとき、探偵事務所や殺し屋のアジトを中野ブロードウェイ内に設定したんです。このカフェで原稿を書きながら、壁を隔ててすぐ隣りに僕の小説の主人公や『デジモン』の登場人物がいるような感覚になれるんですよ。インターネットやコンピューターの発達のおかげで、バーチャル空間が現実世界に侵食してきたとか、あの世とこの世が融合し始めたことというのが、とてもイメージしやすいんです。

――執筆活動を行うには、最高の場所なんですね。
渡辺 ファンタジー、あるいは嘘の世界を現実世界とどうつなぐかということについて、多くの作家さんから、さまざまな方法論が提示されています。たとえば村上春樹さんの作品の中ではしばしば“壁抜け”が行われます。僕の場合、この場所にいることでそういうことがかなりスムーズにできるんですよ。

▲K-CAFEにて、渡辺氏の淹れてくれたコーヒーをいただきながらのインタビューとなりました。

――先ほど羽生さんが「中野ブロードウェイは建物自体にいろいろなエピソードがある」とお話されていましたが、それも執筆活動の役に立ちそうですよね。
渡辺 噂で聞かれたことがあるかもしれませんが、屋上が野生化して不思議な生き物がいっぱいいたり、上の階に住んでいる人がベランダを勝手に改造してそこに川や森を作ったり。あとは、部屋を3軒くらいぶち抜いて、映画館にしちゃった人もいましたね(笑)

――フリーダムですね(笑)。
渡辺 エピソードをお話するとキリがないんですけど、夜中に地下を歩くと、ゴーンと鐘の音が鳴るという話もあって。都市伝説としてブロードウェイの地下には寺院があるみたいなことも言われていましたが、調べてみたところ、鐘の音の正体は大量発生したスズムシの鳴き声だったんです。

――スズムシってあのスズムシですよね? 鳴き声が鐘の音には聞こえませんが……。
渡辺 数が少ないと、皆さんおなじみの鈴の音色なのですが、それが何万匹という数になると、ゴーンという鐘の音に聴こえるんですよ。ほかには、中野ブロードウェイの事務所のベランダに空から魚が降ってきたこともあって。種明かしをすると、屋上の池にいる魚を鷺がとって途中で落としただけなんですが、「魚が空から降ってくる」という事象はおもしろいですよね。それと、事務所の風呂場でカエルが泳いでいましたが、それはどこから入ってきたのかわからなかったです(苦笑)。
一同 (笑)。
渡辺 ここに拠点を移して、理事会に入って、昔の設計図などを一生懸命探して見ているうちに、建てられた当時の“SF”が詰まっている場所だということもわかりました。というのも、中野ブロードウェイは、当時最先端の技術を駆使して、“未来”のビルを建てようとして設計されているんです。昭和30年代に館内をトータル的に冷暖房管理したり、監視カメラをつけたりしているんですよ。さらに、核シェルター機能もあるのですが、2011年3月11日の東日本大震災のときに、その機能が初めて作動しまして。

――それは、住民の方も驚いたと思いますが……。
渡辺 あのときの大きな揺れに反応して、壁に仕込まれていた鉛製の防火シャッターがガンガン飛び出してきて、最終的には数メートル置きに廊下を遮断しましたからね(苦笑)。その機能の存在を若い世代の住人は知らなかったのでみんなすごく驚いていましたが、昔から住んでおられる90歳くらいの方に聞いたら、これは延焼や崩壊を防ぐだけでなく、放射能遮断の性能もあるシャッターだよと。建築当時は冷戦時代で、“核戦争”も現実的な恐怖だったというわけです。

――なるほど。
渡辺 どこまで本当かわかりませんが、たとえ核戦争が起こっても中野ブロードウェイの住人は生き残れるように、全体を鉛で遮断したうえに、地下の食糧庫で何ヵ月も生きられるようになっていたというんです。ほかにも、非常時のための隠し通路もいっぱいあるんですよ。誰も知らないうちに閉鎖された通路もあれば、もったいないから利用しようということで、現在は開放されている通路もありますね。
羽生 さすがにそこまでの要素は表現できませんでしたが、渡辺さんからこういう話を聞いていたので、不思議なキャラクターたちが集まる場所としてふさわしいなと思ったわけです(笑)。

――確かに(笑)。僕らが知らないだけで、中野ブロードウェイにはいろいろなものが詰まっているんですね。
渡辺 そうですね。中野ブロードウェイは、レトロでありながらサイバーなところがあって。歴史のあるものやオカルティックなものだけじゃなくて、最先端のコンピューター機器や映像機器も集まるし、いろいろな人も来ますよね。10代、20代の若い人が来る一方で、昭和30年代~40年代のセレブや政財界の大物が住んでいたり。そういう人たち相手の霊能力者や超能力者の方もいますしね。そういう理由で、中野ブロードウェイには占い屋さんが多いんですよ。ですから、中野ブロードウェイで電脳探偵が活動して不思議なことに遭うという設定は、僕としては非常にしっくりくるんですよね。

■現実とのリンクはゲームのひとつの進化系

――渡辺さんはゲーム内で再現された中野ブロードウェイをご覧になりましたか?
渡辺 拝見していますよ。なかなかおもしろいですし、不思議な感じがしますね。
羽生 渡辺さんは中野ブロードウェイに住まれているので、日常の空間がゲームになるというのは、不思議な感覚ではないですか?
渡辺 そうなんですよ。ゲーム内でも、自由に移動できますしね。

――リアルに再現されていてすごいですよね。本当にゲームの中で散歩するというか。
渡辺 最終的には、現実とゲームの境界はなくなっていくと思うんですよね。未来の先取りというところで、現実の空間をゲームに取り込んだり、あるいはゲームで再現するということは、非常に価値があると思います。
羽生 ゲームをプレイされた方が中野ブロードウェイに来たとき、「この場所で冒険したんだよな」と感じてもらえたら、中野ブロードウェイなどの現実世界をゲームに出したおもしろさというのは、成功したかなと思います。

――現実世界の場所とゲームの舞台をリンクさせることで、二次元の世界と現実世界がつながってみえるのはおもしろい体験ですよね。最近では、ゲームやアニメなどで、よく実際の街などが舞台になっているのも、うなづけます。
渡辺 おそらく今回の『デジモン』もそうだと思うんですけど、現実の世界と融合させていく、一種のゲームの進化系みたいなところがおもしろいですよね。もう少し技術が発達していくと、AR技術も組み込まれたり、もっとリアルタイムなものになっていったりするのではないかと思うんです。たとえば、ゲーム内の中野ブロードウェイに並んでいる商品が気に入ったら買うこともできて、買ったらすぐに自宅に届くみたいな。それは未来の話ですが、本作は、現在可能な、最先端の技術で作られていると思います。
羽生 そうですね。ゲームの冒険が日常の延長になるというおもしろさが絶対にあると思うので、今回は現実世界を表現するときにリアルというか既視感を大事にしています。現実とゲームの既視感を感じて、実際にその場所に行ったら、「ここでこういう冒険したな」といったことを体験してもらうことがなるべくできるように、リアルに作っています。
渡辺 SFが現実にオーバーラップしているというか、じつは現実世界がゲームと同じくらいおもしろくなっているということを証明してくれていると思います。『1999年のゲーム・キッズ』を書いたときから、すでに20年以上経っているわけじゃないですか。そう考えてみると、とてつもない未来に僕らは生きているんですよね。

■サブクエストは『ゲーム・キッズ』ファン必見のストーリー

――続いて、渡辺さんが原案を担当されたサブクエストのストーリーについてお話をうかがいたいと思います。渡辺さんはどのくらいの数の原案を担当されたのでしょうか?
羽生 渡辺さんには10本担当していただき、ゲーム中にはすべて収録されています。ただ、もろもろの事情で原案のままだと使えない設定がいくつか発生してしまったため、我々のほうで整合性がとれるように変更しています。
渡辺 あくまで原案なので、好きに料理していただいて大丈夫ですよ。シナリオを担当されている方がすごく優秀な方でしたので、お任せして大丈夫だと思っていますので。

――渡辺さんが具体的にどういった原案を書かれたのか、言える範囲で教えてもらいたいのですが……。
渡辺 僕がお話しするとどうしてもネタバレになってしまうので、どこまで公開できるかわかりませんし、ゲームでどのような形になっているのかわかりませんが、ええとたとえば、コックリさんに追いかけられる女子高生の話とか、真夏につぎつぎと凍死体を出現させる雪女の話とか。

――それぞれ、どういったお話なのでしょう?
渡辺 コックリさんは、透明人間になった女の子がつぎつぎと悪さをしてしまうという現象です。現在は、TwitterやFacebookといったネットワーク上のつながりが非常に大事になっていますよね。逆にその情報が消えてしまうことによって、現実の自分の存在も希薄になってしまい、存在を認識されなくなってしまうということもあるんじゃないかと思うんです。そういったことを最終的に、デジモンが原因で起きた事件だったという話につなげてみてはどうですかって。

――なるほど。では、雪女のお話というのは?
渡辺 雪女とは、冷凍されてずっと眠っていた70年代のアイドルなのですね。なぜアイドルが冷凍保存されていたかというと、中野ブロードウェイが全盛期を迎えていた70年代に、“タイムカプセル”が流行ったんですよ。じつは中野ブロードウェイにもタイムカプセルを埋めるという計画もあったくらいで。そこで、美少女が歳を取りたくないという理由で自分をタイムカプセルに入れる、つまり人工冬眠するという話を考えまして。ピラミッドに眠るファラオみたいに。それに中野ブロードウェイには、昔のアイドルのグラビア雑誌やブロマイドやビデオが、まるでピラミッド内の宝物のように絢爛豪華に並んでいます。それらの隙間からリアルな幻影が見え隠れする感覚があるんです。伝説的アイドルのイメージは傷つかず、劣化せずに、時を超えます。それが本当に冷凍されて生き残っているという話はおもしろいなって。本当はもうちょっとひねっていたんですけど、あまり言い過ぎるとネタバレになってしまいそうなので(苦笑)。
羽生 ただ、原案がけっこうハードでしたから、我々のほうでだいぶ丸めてしまいました。事件の背景にデジモンがいないといけないので……。また、今回のゲームで表現が難しい要素も多かったので、変更せざるをえない部分も多く、力及ばず申し訳ないです。いつかリベンジしたいですね。

――いまお話を聞いているだけでも、『ゲーム・キッズ』を読んでいた世代としては、非常に楽しみになりました。すごく『ゲーム・キッズ』っぽいですよね。
渡辺 そうなんですよね。とても『ゲーム・キッズ』っぽいと思います。
羽生 ファミ通の読者さんには、「『ゲーム・キッズ』っぽいテイストを入れています」と言っていただいたほうがすごく伝わりやすいかなと思います。ただ、先ほどお話した通り、渡辺さんの原案をゲームで再現するのが難しいところもあったので、別の機会に原案をお見せできるといいですね。
渡辺 僕のほうは公開していただいてもかまいませんよ。

――それはいいですね。ファンの方も喜んでくれると思います。ファンと言えば、ゲームをプレイして中野ブロードウェイの聖地巡礼を行う方もいらっしゃると思いますが、ブロードウェイのどんなところを見てもらいたいですか?
渡辺 中野ブロードウェイのいいところは、10歳の子は10歳の子なりに、90歳の方なら90歳の方なりに、自分との接点が絶対にあることだと思います。子どもたちを連れてきても、本当に大喜びで見て回りますし、オタク文化に興味のないような、40歳くらいの女性を連れてきたとしても、「これは懐かしい」と言って、絶対にはしゃぎ出すんですよね。
羽生 中野ブロードウェイには、世代ごとのオタク文化の象徴的なお店がそれぞれありますからね。
渡辺 そうなんです。オタク文化だけではなく、AV機器だったり、カメラだったり、時計だったり、本当にいろいろなものがあるんですよ。僕には僕のものがありますし、皆さんには皆さんのものがあると思います。たとえば、僕は今日“まんだらけ”で『怪物くん』のローラーコースターというおもちゃと再会しまして。じつはこのおもちゃは、僕が小さいころに生まれて初めて当選した懸賞品なんですよ。ワイヤーがあって、その上をコマが走るだけの単純なものなんですけど、それを見て泣き出しそうになりましたね。小さいころの自分がはがきを送って、当選したときのうれしさを思い出して。でも、そんな大事なものを、いつの間にか、なくしちゃっているんですよね。8000円くらいだったので、思わず買おうかなと思いました(笑)。
羽生 中野ブロードウェイ自体が、思い出のタイムカプセルになっているんですよね。

――自分の思い出を探しながら、中野ブロードウェイを散策するのはおもしろそうですね。
渡辺 ぜひ楽しんでもらいたいですね。ただ、その前にゲームをプレイして、本作でしか味わえない不思議な物語を体験してもらいたいですね。


デジモンストーリー サイバースルゥース
メーカー バンダイナムコゲームス
対応機種 PSVPlayStation Vita
発売日 2015年3月12日発売予定
価格 6640円[税抜](7171円[税込])
ジャンル RPG
備考 プロデューサー:羽生和正、ディレクター:大窪哲也(メディア・ビジョン)、キャラクターデザイン:ヤスダスズヒト、イーターデザイン:大暮維人、音楽:高田雅史、CGムービー:神風動画、開発:メディア・ビジョン

(C)本郷あきよし・東映アニメーション・テレビ朝日・電通
(C)BANDAI NAMCO Games Inc. ※画面は開発中のものです。