観客参加型の楽しさ溢れるコンサート
2015年3月7日、東京オペラシティ コンサートホールにて、スクウェア・エニックスの人気RPG『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズのコンサート、“BRA★BRA FINAL FANTASY Brass de Bravo with Siena Wind Orchestra”が開催された。本コンサートは、2015年3月4日に発売された、『FF』シリーズ初の公式吹奏楽アレンジアルバム『BRA★BRA FINAL FANTASY Brass de Bravo』を引っさげたコンサートツアーで、今回が初日の公演となる。なお、初日は昼と夜の2公演が行われたが、今回お届けするリポートは昼公演のもの。また、記事の最後には、『FF』シリーズ楽曲の生みの親・植松伸夫氏へのインタビューもあるのでぜひお読みいただきたい。
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コンサートの演奏を務めるのは、CDでの演奏も務めた、プロの吹奏楽団シエナ・ウインド・オーケストラ。植松伸夫氏もMCとしてステージに立ち、楽曲の秘話などを語った。なお、植松氏はコンサートが始まる前にも前説としてステージに登場。「思う存分に声を出して、気軽に楽しんでくださいね」(植松氏)と、かしこまらずに、気軽に楽しんでほしいと強調しつつ、近年の『FF』コンサートでおなじみの“ブラボー係”(曲が終わったときに拍手だけでなく、先陣を切って「ブラボー!」と声を出して、会場を盛り上げる役目)を観客の中から募り、立候補した人には植松氏のポケットの中に入っていたお菓子を渡して、会場の笑いを誘っていた。
コンサートは『FFバトル2メドレー』、『赤い翼〜バロン王国』(『FFIV』)の2曲からスタート。MCでは、吹奏楽アレンジにチャレンジした意図について、「フルオーケストラ、ピアノ、ロックといろいろなアレンジをしてきたんですが、公式の吹奏楽アレンジはまだやっていなかったんですね。5、6年前にスクウェア・エニックスさんに話を持っていったんですが、いろいろと時間がかかってしまって、やっと実現したんです」(植松氏)と待望の企画だったことを明かしつつ、『FFバトル2メドレー』については、「ザコバトル、ボスバトルのアレンジはよく聞くけど、“バトル2”はあまりなかったでしょ? みんな、バトル曲が好きなんだよね。一生懸命バラードを書いても、バトル曲が好きな人が多い(苦笑)」(植松氏)と語っていた。
「(バトル曲で心掛けているのは)戦いたい気持ちにさせる、ワクワクさせること。だから、リズムが大事だと思っています」という話題の後に演奏された『FFモーグリのテーマ』(『FFV』)では、観客もボディパーカッションで楽曲に参加するという、珍しい試みが行われた。楽曲の前にティンパニ奏者である、荻原松美氏が腕にモーグリのぬいぐるみを付けて登壇し、集まった観客の前にボディパーカッションのリズムを伝授。「オーケー、オーケー、みんな簡単にできちゃうよ」とかるーいノリで楽しくリズムを伝授した荻原氏は、『FFモーグリのテーマ』の曲中にも登場し、観客を先導するように楽しげにボディパーカッションを披露していく。会場中で手拍子、膝を叩く音、足踏みの音が鳴り響く中、荻原氏を役目を終えて退場……と思いきや、その後にはモーグリ風のボンボンのついた白ヘルメットをかぶって再登場し、またまた観客を先導する姿に笑いが起こっていた。
『BRA★BRA FINAL FANTASY Brass de Bravo』のCDに収録されていない、コンサートだけの曲として、第二部で演奏されたのは『守るべきもの』(『FFIX』)。また、『守るべきもの』の曲の前には、観客へのアンケートで集まった“あなたにとっての守るべきもの”を披露するトークコーナーが行われた。“家族”、“『FF』の曲”など、さまざまな意見が披露される中、ハープ奏者・津野田圭氏によってBGMとして演奏された『Eyes On Me』、『親愛なる友へ』の曲も、ハープの音色と相まって非常に贅沢なBGMになっていた。
ジャズアレンジの楽曲『飛空艇メドレー』ではビッグバンド形式の小編成に。さらに、CD未収録の『Fragments of Memories』(『FFVIII』)はクラリネットのカルテット(四重奏)で、途中からアップテンポになるアレンジの『ザナルカンドにて』(『FFX』)はサックスのカルテットで演奏されるなど、曲に合わせて編成を変える、オーケストラコンサートにはない特徴が見られた。
本編の最後は『ビッグブリッヂの死闘』(『FFV』)、アンコールの1曲目は『片翼の天使』(『FFVII』)と、どちらも『FF』シリーズ屈指の人気曲で、CDに未収録の楽曲を披露。『ビッグブリッヂの死闘』は金管の迫力ある音と、木管の滑らかな音色が、主旋律を交互に奏で、『片翼の天使』では「セフィロス」のコーラス部分を、金管楽器が担うなど、吹奏楽アレンジならではの醍醐味溢れるアレンジになっていた。
そして、本公演の極めつけは、最後の曲の『マンボ de チョコボ』(『FFV』)。この曲は、事前に公式サイトで来場者参加形式の楽曲“みんなで吹こう BRA★BRA FINAL FANTASY”という企画が発表されており、合わせて練習用に譜面が公開されていた。曲の始まる前に、楽器を持ってきた人、もしくは、物販でグッズを買った人に配られるパーカッション(玩具タイプのタンバリンやマラカス)をもらった人へステージに上がるように呼び掛けられると、観客席からつぎつぎと楽器を持った人が立ち上がり、ステージに上がっていく。クラリネットやサックス、トロンボーンなどの管楽器を持っている人から、スネアやマラカスなどのパーカッションを持っている人、さらにはピアニカ、リコーダーを持っている人など、じつにさまざまな楽器を持った人が壇上に上がる中、『FFIV』の中心スタッフで、最新作『FF レジェンズ 時空(とき)ノ水晶』が配信中の、スクウェア・エニックスのクリエイター・時田貴司氏もアコースティックギターを持って登壇。公式発表によると、シエナ・ウインド・オーケストラの48名に、約150名の観客が登壇したようで、約200名による『マンボ de チョコボ』の演奏が行われた。
マンボ風の衣装に身を包んだシエナ・ウインド・オーケストラのメンバーはもちろんのこと、ステージに上がった観客、座席に残ったものの「ウッ!」といった歓声や手拍子で参加した観客、そして、それを見守るマラカスを持った植松氏、会場中にいる人々みんなが満面の笑みで演奏を、曲を楽しみ、ホールいっぱいに楽しげな音が溢れる中、演奏が終わり、明るい雰囲気のままステージが幕を閉じた。
じつは、このアンコール曲を観客といっしょに演奏するというのは、シエナ・ウインド・オーケストラのコンサートではおなじみの企画とのことなのだが、初めて目の当たりにした記者にとっては、これまでに見てきたコンサートとはまったく異質な、非常に驚くべき内容だった。誰もが笑みを浮かべ、楽しげに、臆することなく演奏を楽しみ、その姿を見て、客席にいる観客も笑顔になる。記者はかつて高校時代に吹奏楽をかじったことがあるのだが、その当時を思い出す感慨もあり、「ステージに立って、いっしょに演奏したら楽しいだろうなあ」という想いでいっぱいになった。“BRA★BRA FINAL FANTASY Brass de Bravo with Siena Wind Orchestra”は、今後、日本全国を回るツアーに出る。すでにチケットが完売している場所もあるが、追加公演などもあり、まだ演奏に参加できるチャンスはあるはず。このリポートを読んで興味を持った方は、ぜひチケットを手に入れて、笑顔の植松氏が待っているステージ上に立ってほしい。
このリポートの締めとして、コンサートの後に行われた、植松氏へのインタビューをお届けする。こちらでも最後の『マンボ de チョコボ』の楽しさに触れているので、お読みいただきたい。また、記事の最後にはセットリストもあるので、こちらもお見逃しなく。