『Tengami』アートスタイルの魅力に迫る

『Tengami』は、いかにして和風の美学を3Dで再現することに成功したか【GDC 2015】_04

 2015年3月2日~6日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のカンファレンス、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2015が開催。開催2日目にあたる3月3日(火)には、“インディペンデント・ゲーム・サミット”のセッションとして、“Tengami: The Art of a Folding World(『Tengami』:折りたたまれる世界の美学)”が行われた。

 『Tengami』と言えば、イギリスの開発会社Nyamyam(ニャムヤム)が開発したiOS/PC/MAC向けアドベンチャーゲーム。純和風の飛び出す絵本テイストのビジュアルなどが人気を集め、2013年にiOS版が配信されるや、世界各国のApp Storeランキングで1位を獲得している注目作だ。奇しくも、2015年3月4日には、国内でもWii U版がニンテンドーeショップから配信予定だ。どんな独特なビジュアルを持っているか、百聞は一見に如かず! ということで、まずはオフィシャルゲームトレーラーをご覧いただこう。

 何とも独創的なビジュアルではないか! 『Tengami』のを務めるジェニファー・シュナイダーライトさんによる講演は、そんな同作のアートの制作経緯に迫るという内容だ。

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▲アクワイアで4年間働いたというジェニファーさん。Nyamyamは3人で作ったという。

 本作の最初の指針としてあったのは、ゲームのすべてのステージが、飛び出す絵本と同じ動きをすること。そこで、飛び出す絵本がどうやって作られるかわからなかったので、最初は実際に絵本を研究してみたという。そこですぐにわかったのが、自分たちの使いたい用途にマッチするためのプラグインツール(追加プログラム)の制作の必要性だ。そして、Nyamyamでは“Valley Fold”や“Parallel Fold”など、飛び出す絵本のメカニズムに対応したプラグインツールの開発に成功したという。講演では、Nyamyamの制作したプラグインツールが、いかにリアルに飛び出す絵本を再現するものであるかが説明された。実際のところ、飛び出す絵本の世界観にリアリティーを持たせるためには、このプラグインツールは生命線だったと言えるだろう。

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 実際のフィールド作成は、3Dキャラクターのモデル作りに似ているのではとジェニファーさんは言う。3Dモデラーは、飛び出す絵本と同じ要領で“ペーパープレーン”の土台を作り、それにアーティストが、そのシーンにフィットしたテクスチャーをつけるのだという。2Dを3D環境に移すと、もともと2Dが持っていた美しさが消えてしまうときが往々にしてあるが、『Tengami』は、プラグインツールなどを駆使することで、2Dの美しさを3Dでも見事に再現することに成功したようだ。

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『Tengami』は日本人のアーティストじゃないとできなかった

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 講演後には、別室にて希望者を対象とした質疑応答の機会が設けられた。ここでは、その模様をお伝えしよう。

――本作にはストーリーがありますが、誰が考えたのですか?
ジェニファー 誰かが考えたというわけではないんです。私はストーリーにはあまりこだわっていなかったのですが、フィル(共同創業者)が推していたような気がします。私は、明確なストーリーはプレイヤーの判断に委ねたほうがいいと考えていたのですが、“明確な説明はいらない”という点で、みんなの意思は共有できていましたね。本作は、何よりも世界観やアートを堪能してほしいです。

――アート好きな人たちは、必ずしもゲームユーザーではないように思うのですが、アプリをリリースしての反応はいかがでした?
ジェニファー iPhoneユーザーには、「キレイな電話にキレイなアプリを入れたい」という志向があるので、簡単でわかりやすいゲームを作ったつもりです。あと、メールをいただくプレイヤーさんは、意外と年齢層が上の方が多かったですね。リタイアされている方々もけっこう多くて。お孫さんと遊べるということで、購入されたのではないかと思います。

――なぜ、日本を舞台にしたのでしょうか?
ジェニファー 理由はいろいろとあるのですが、おもなものはふたつ。プロジェクトの最初にみんなと話したときは、「ニンジャマジック的なゲームを作ろう」という話をしていたんです。そこから派生していますね。そしてもうひとつが、飛び出す絵本というモチーフに影響されたところが大きいです。本屋さんにも飛び出す絵本はたくさんあるのですが、ヨーロッパだと子ども向けのものが多い。もうちょっと洗練された大人向けのものを作りたいと思ったんですね。で、紙を見ていくと、日本にはいろいろな紙があることがわかったんです。中でも和紙って、すごく自然さを感じさせるところがあって、それで少し和紙をいじり始めたんです。サンプルを作ってみると、期待通りに洗練された大人向けのグラフィックが出てきたので、「これが私たちの求めるアートスタイルだ!」と思いました。和紙ならば、舞台は日本で……というのはすんなりした流れでしたね。

――iOS版の日本でのセールスはいかがでした?
ジェニファー そんなでもなかったかな。日本の方々は、有料ゲームをあまり購入されないようで、家庭用ゲーム機と比べて、有料マーケットはそんなによくないんです。ただ、Twitterを見てみると、『Tengami』の話をしているのは、だいたい日本人の方ですね。私は、4年間日本のアクワイアで働き、『天誅』シリーズの開発にも関わってきました。日本の伝統とかも好きですし、いっしょに仕事をするのに日本人のアーティストを選んだのは、日本人じゃないアーティストとやりたくなかったということもあります。日本人じゃなければ、どんな人が作っても、中国っぽくなってしまうんです。

――『Tengami』のつぎのステップを教えてください。
ジェニファー Android版をリリースする予定です。その後は、まったく新しいゲームを作り始めると思います。『Tengami』は、大きなチームだと達成できないゲームだと思っているので、小さいスタジオのときにやっておいてよかったです。こういうアプリを求める方がいる市場があるということもわかりましたし。