関西にCEDECが上陸!
さる2015年2月7日、国内ゲーム開発者向けカンファレンスKANSAI CEDEC 2015が、大阪府大阪市のあべのハルカス内大阪芸術大学スカイキャンパスにて行われた。関西初開催となるCEDECの様子を、記者が受講したセッション内容を中心にリポートする。
2014年11月に開催され好評を博したSAPPORO CEDEC2014に続く、地方開催CEDECとなるKANSAI CEDEC 2015。任天堂、カプコンといった大手メーカーを筆頭に、さまざまな規模のディベロッパーがひしめく関西地方での待望の開催とあって、会場には多くの参加者が詰めかけた。
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全17のセッションは、3つのスペース(セミナールーム1、セミナールーム2、レセプションホール)で順次行なわれた。セッションは、開発現場の事例紹介から、ゲーム業界への就職を希望する学生向けのロードマップ紹介まで、多岐に渡る内容揃い。地理的事情などから昨年横浜で開催されたCEDEC 2014に参加できなかった人向けの再公演に、時間経過に則した補足を少々……といった形式のセッションも、多く見受けられた。
以下に、その中の一部を、以下に紹介する。
ゲームの“ナラティブ”がどうしてこれほど問題になるのか?
近年ゲーム業界で取り沙汰される機会が多くなった、“ナラティブ”という概念をめぐるディスカッション。冒頭では、立命館大学ゲーム研究センター客員研究員で『ゲーミフィケーション』(NHK出版)の著者・井上明人氏が、物語論になぞらえる形で、ナラティブの大枠の概念について説明した。ミクロでは認知科学的見地から、マクロでは人文/社会学的見地から研究される物語論の現状を“カオス”と表現した井上氏。また、物語論の批評理論と実践分野の間に断裂があったことを指摘し、「2012年のGDC講演(※英Quantic Dream社のDavid Cage氏による、ゲームナラティブに言及した講演)以降のゲーム業界におけるナラティブ議論は、両者の断絶を乗り越えようとするいい流れだと思っています」と語った。
立命館大学ゲーム研究センターの感性学者・吉田寛氏は、ゼロ年代(2000年~2009年)に大塚英志氏、東浩紀氏の著書を中心に巻き起こった“ゲーム的リアリズム論争”を、ゲームに関心を寄せる者としてどう評価・展開するかについて言及。ゲームキャラクターの死後の挙動(ペナルティと復活)に関する実例を挙げつつ、「ゲームにおける死の経験は物語の絶対的外部にある」と結論づけた。そして、ゲームオーバー以後のプレイヤー自身の実生活との関係を意識した“ゲームオーバーのデザイン”が、ゲーム的リアリズムのさらなる課題である……としめくくった。
Oculus Panel Discussion in KANSAI ~Oculus Riftを用いたゲーム制作~
Oculus VR社開発のヘッドマウントディスプレイ“Oculus Rift”を利用したゲーム制作におけるポイントや注意点を議題としたパネルディスカッション。昨年のCEDEC 2014で行われた“Oculus Panel Discussion~Oculus Riftを用いたゲーム制作~”で討論された内容に沿いつつ、開発環境の変化やレギュレーション変更に伴う補足が、5人のパネラーによって行なわれた。
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【テーマ1:考慮すべきゲームデザイン・ポリシー】
“実行アプリのフレームレートは75fps以上”という前回の結論に対して、“Unity+Oculus Rift開発メモ”ページ著者のフリーランスプログラマー・古林克臣氏は「完全同期の75fpsが必要。これが1回でも滞ると“Oculus酔い”の原因になってしまいます」と補足した。また、おすすめのPC環境について、フェンリルの渡部晴人氏は、「今度出る予定のコンシューマ版Oculus Rift(バージョン1.0)を動かすには、現行のPCのスペックではパワー不足。ハイエンドのGPUを買う必要がある」とした。また、一部のノートPC用のGPUで不具合が生じるとの報告も付け加えた。
【テーマ2:ベスト入力インターフェイス】
OculusRiftとほかハードを組み合わせて使用する際の遅延に関する話題から、現状のおすすめ入力インターフェイスについての話題に移行したとき、しのびや.comのプロジェクトリーダー兼エンジニア・西岡右平氏は「いちばんいいのは、Oculus Rift以外何も使わないこと(笑)」としつつ、Kinectとの連携を提案。「デスクトップPC限定ですが、Oculus RiftとKinect、それぞれのUSB接続ポートを変えることで遅延を低減できます」(西岡氏)と、ハードウェアの接続のしかたがパフォーマンスに影響を及ぼすことを付け加えた。
前回に引き続き、パネルディスカッションのモデレーターを務めたセガの渡邉成紀氏は、コロプラが今年1月に発表したOculus Riftタイトル専用コントローラーアプリ『colopad』について言及。前述の西岡氏は「マルチタップが必要なゲームはきびしいですが、シングルタップだったら、スマートフォンを日常的に使っている人にとっては直感的に操作できるのがいいですね」と評価した。また「あまり言うと宣伝になってしまうので……」と自重しつつも、渡邉氏に促される形で、Oculus Riftの画面上に自身の手を表示させることでVR(仮想現実)とAR(拡張現実)の橋渡しを担う、自社開発中のシステムを紹介した。
【テーマ3:Oculusあるある大事典】
国内でのOculus Rift作品のリリース状況に関して、GMOクラウドの山本昇平氏は「日本のOculus市場は、あくまでも“展示”です。プレイの際には必ずアテンドがついて……という状況は、今後1、2年は続いていくと思います」と答えた。
Oculus Rift作品の開発・発表による収益化に関しては、Oculus社公式のガイドラインに「展示の際はフリープレイしか許されない」との要項が追加されたことで、現状は一歩後退した印象。しかし、コンシューマー版のリリースを控えたいま、「開発者が互いに切磋琢磨して、品質の高いVR作品をユーザーに提供し続けることがメッセージになる」と、渡邉氏はOculus Rift作品開発者のひとりとして力強く宣言した。
『ファイナルファンタジー零式 HD』にみる新しいHDリマスター
2015年3月19日発売予定の『ファイナルファンタジー零式 HD』(スクウェア・エニックス)の開発を手掛けた、ヘキサドライブのスタッフによるセッション。2011年にPSP用ソフトとしてリリースされた『ファイナルファンタジー零式』をプレイステーション4、Xbox Oneの2プラットフォーム用にHDリマスター、リファインした際の舞台裏を紹介した。
チーフテクニカルディレクター岩崎順一氏によれば、開発当初の指針は“PSP版原作の完全移植”。しかし、通常のエミュレーション+ポストエフェクトフィルタ処理では現行ハードに耐えうる品質には至っていない……とのスクウェア・エニックスの判断を受け、描画まわりの処理を刷新した過程を、貴重な開発中画面の映像を交えながら解説した。
大まかな流れとしては、PSP版のエミュレーションコードを破棄して、物理ベースのシェーダーを利用したレンダリングを導入し、リッチなフィルターを搭載することで、単純なHD移植ではなく「オリジナルの3Dモデルデータなどを再利用・共存した状態で行った、少しリッチなHDリマスター」(岩崎氏)を実現したとのこと。導入技術の具体例を解説した同社プログラマーの山口裕也氏によれば、シャドウやアンチエイリアシングなど、グラフィック品質に関するあらゆる処理に、高品位かつかつマシン負荷の少ない方式を採り入れ、高速化を維持したという。
本セッションで紹介された開発事例は、近日中にヘキサドライブの公式サイトにて公開されるとのこと。興味のある方は参照されたし。
キャラクター造形とデジタルエンターテイメントについて
漫画家で大阪芸術大学キャラクター造形学科の学科長・里中満智子氏による、基調講演。自身が漫画家デビューする前の思い出話や、石ノ森章太郎(故人)、ちばてつやといった先輩漫画家とのエピソードを交えつつ、漫画の基礎知識、キャラクターや物語を生み出す心構えを語った。
ギリシャ戯曲と映画『ウエストサイドストーリー』を例に挙げ、“知っている話なのにおもしろい作品”から演出の力を感じたという里中氏。「ストーリーやドラマは、物語そのもののあらすじではありません。その中でキャラクターがどう動き、決断するかという、“ことを動かす人の気持ち”があって、初めてドラマチックになります。物語は物語できちんと構成する必要がありますが、ひとりひとりのキャラクターが納得できる存在でなければいけません。便宜上、配置した脇役ほどつまらないものはありません」(里中氏)
続けて、ゲーム制作における、キャラクターに主観を置いた演出の重要性についても言及。「ゲームも“どう戦えば勝てるか?”だけでは飽きられてしまう。このキャラクターはどういう思いや背景でここにいて、何のために意地を張るのか、両者が闘った結果何が起こるか、という根拠がある人生観がないと、盛り上がらないと思います」と、持論を展開した。また、「ゲームは漫画ほどキャラクター性は必要ないかもしれませんが……」としつつも、それを動かし、世界や物語に浸るのは“人”であることを強調。それに触れることで湧き上がった気持ちや感想の原因を意識しながら、漫画やアニメを参考にしてほしいと、受講者にエールを送った。
最後に……
全セッション終了後には、CEDEC運営委員会委員長の植原一充氏、KANSAI CEDEC実行委員長の松下正和氏(ヘキサドライブ代表取締役社長)からの挨拶が行われた。松下氏は、「関西からゲーム業界を盛り上げたいという思いをずっと持っていましたが、今回こうして、関西でも技術カンファレンスを開催できたことを嬉しく思っています」と、まずまずの手応えを感じているようだった。新しいもの、より品質の高いものを生み出す意識の高いディベロッパーが集中している風土ならではの発信力に期待が持てるカンファレンスとなった。