カプコン台湾のジェネラルマネージャーを務めているの越知雄一氏へのインタビューをお届けする。越知氏にアジア及び台湾の事情を聞いた。

●台湾を始めとするアジア市場のいまと今後の戦略とは?

▲カプコン台湾 ジェネラルマネージャーの越知雄一氏。

 中国を筆頭に、近年大きな伸びを見せているアジアのゲーム市場。有望な市場に注目した多くの国内ゲームメーカーが、アジアへの進出を果たしているのはご存じの通り。カプコンもその1社で、2012年にカプコン台湾を設立。カプコン第二開発部、小野義徳氏とともに同社を“アジアの拠点”として位置づけ、着実にアジアへの足がかりを築いている。そんなカプコン台湾でジェネラルマネージャーを務めているのが越知雄一氏だ。記者は、昨年ChinaJoyと併催されたチャイナ・ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンスにて越知氏のセッションを取材。そのアジアに対する深い知見から、「これは機会があればお話をうかがいたい」と思っていた。それが、台北ゲームショウに合わせて越知氏への取材のお願いをしたところ、ご快諾いただいたという次第。というわけで、ここでは越知氏へのインタビューの模様をお届けしよう。カプコンのアジア戦略からアジア市場に対する分析まで、“アジア市場のいま”を伺ってみた。

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――まずは、カプコン台湾の設立経緯などをお教えください。
越知 ここはですね、2012年7月にオフィスを設立したんです。中国も韓国もそうですが、いまアジアのゲームマーケットって伸びているじゃないですか。とはいえ、2012年以前のカプコンはそこまでアジアにしっかりとアプローチできていたわけではなくて、カプコン全体に占めるアジアの比重は5%くらいしかなかったんです。理由は単純で、カプコンはコンシューマーメインで展開しているのですが、アジアでは何が主流かというと、コンソールではなくて、PCでありモバイルなんですね。

――御社のラインアップと市場が合致していなかったということですね?
越知 はい。もちろん、アジアでビジネスを展開するということは、カプコンにとっても命題ではありました。そこで、アジア展開を……ということになったのですが、現地に会社を作って、もっと現地に食い込んだビジネスを展開しようと考えたわけです。そこでいろいろとリサーチをした結果、台湾にオンラインやモバイルゲームの拠点を作って、運営やローカライズを行うのがよかろうということになったんです。

――言ってみれば、対アジア戦略の前線基地みたいなものですね?
越知 オンラインゲームやモバイルに関してはそうですね。台湾自体にも市場があるし、台湾でビジネスを展開することもできる。さらにそこから先の東南アジアや、そこから先の中国とかもやれたらいいですね……ということで設立したんです。

――それだけアジア市場の伸びがすごいということですね。
越知 もちろんファミコンの時代からアジアにもゲーム市場は存在したわけですが、どうしても数が少なかった。海賊版の問題もありましたし……。ビジネスとして成り立つ規模ではなかったんですね。それが、1990年代の後半に韓国にPCのオンラインゲームが出てきたのを皮切りに、マーケットとして一気に伸びていったと思うんです。それが中国に渡って、さらに中国で火がついて、市場規模がどんどん大きくなっていった。いまは、それがスマートフォンに代表されるモバイルにシフトしていったと。これはたぶんに私見も入りますが、そういう認識でいます。

――ということは、少し乱暴な言いかたをしてしまうと、アジアにおけるゲームの普及は、インターネットとともにあったということですね?
越知 そうですね。市場としての立ち上がりは、インターネットというインフラとともにあったとは言えるでしょうね。

――ゲームとインターネットの親和性みたいなものもあったんでしょうね。で、カプコン台湾に着任されて、どのような感じで事業を展開していったのですか?
越知 まずは、PCブラウザゲームの『鬼武者Soul』を展開しました。こちらは繁体字中文版への言語ローカライズに合わせて、若干中身も変えてサービスしたんです。現地でのマーケティングを押さえつつ、開発に近いところまでアプローチしたんです。それが比較的うまくいったので、それを中国へ持っていったり、タイに持って行ったり……という感じで、ほかの地域にライセンスを広げていきました。さらには、日本の開発チームといっしょにプロジェクトを手掛けたり……と、プロジェクトの数を増やすことで、ビジネスの幅を拡大していった感じですね。

――日本もアジアも、人気が出るタイトルは基本的に変わらない感じですか?
越知 その質問にお答えするのは、非常に難しいですね(笑)。“イエス”か“ノー”かは、言いにくいです。基本的には“イエス”ですが、やっぱりマーケットによって、そのままで行けるのか、それともある程度中身を変えないとダメなのかは、やっぱり違うんですよね。これが台湾だと、日本と同じものが比較的受け入れられると思います。たとえば、テレビドラマはそうですし、歌にしても映画にしてもそうです。とはいっても、そんな台湾でもコンテンツの楽しまれかたは、日本とは少し異なっていたりしますね。

――といいますと?
越知 これは人づての話になるのですが、台湾でも日本のゲームは昔から人気なんですね。日本語がわかるおじいさんやおばあさんに単語の意味を聞いてまで、遊ぶらしいです。ただ、日本語がわからない場合、彼らは“世界観を楽しむ”というわけではなくて、早くクリアーすることが楽しいらしいんです。言葉がわからないから、その世界観にどっぶりハマることはできないわけですが、それを差し引いても、早くクリアーすることを目的にしている。競争しているらしいんですね。

――ああー。同じコンテンツを好きでも、楽しまれるポイントは違うということですね?
越知 オンラインゲームでも、進むのが早いんですよ。消費が早い。サービスイン当初はいいんだけど、徐々に現地に合わせた新しい仕様を入れたほうがよくなったりしますね。

――ああ、そのへんは、まさに“ある程度変えないといけない部分”ですよね。
越知 そうなんです。中国に関して言うと、課金の方法もいろいろなパターンを作っていますね。日本だと、アイテム課金が主流になりますが、中国には“VIPコース”というコース課金があるんですね。

――“VIPコース”ですか。サービスの種類が異なるのでしょうか。
越知 ゲームによって異なるのですが、いちばん安いのは月500円から、高額なものまであるんですよ。コースによって、やれることが違うんです。まず何が違うかというと、使えるアイテムが異なるんですよね。中国だとだいだい3段階くらいアイテムが用意されています。“上級アイテムショップ”なんてのもありまして。そこだと、とても強い武器が入手できたりします。

――うーん、なかなか現金な世界ではありますね(笑)。
越知 VIPコースだと、さまざまな権利を貸与されていたりするんですよ。たとえば、ワンクリックするだけでワンステージクリアーできる権利が月に10回あるとか。要するに、ゲーム上で感じるであろうストレスを、全部お金で解決できるというソリューションがあるということです。いいか悪いかの議論はおいておいて、中国は、そのへんが進化していますね。

――それもある意味で、国民性なのかもしれませんね。
越知 国民性という言いかたが合っているかどうかはわからないですけど、ゲームを遊ぶ目的はアジア各国で比較的違うと、僕は思っています。これが台湾の人だったら、日本語が分かる人はある程度世界観を理解したりできると思うのですが、そうじゃない人だと、どうするかというと、けっきょくは競争なんです。競争がゲームのソースみたいな感じなんですよ。たとえば、友だちといっしょに野球をしていて、「俺はホームランを何本打った!」と競う感覚ですね。「俺はこんなにレベルが高い」、「こんなにすごい武器を持っている」というのを人に自慢する。それがゲームをプレイする大きなモチベーションになるわけです。だから、eスポーツとかが流行るんですね。

――なるほどー。台湾でビジネスを展開して、想定通りに行ったことと、逆に期待通りにいかなかったことなどもあったかと思いますが、いかがですか?
越知 日本のコンテンツと親和性の高いマーケットなので、もともと日本のオンラインゲームやモバイルのタイトルを台湾に持ってきて、ある程度結果は出せるかなとは思っていました。いざ展開してみて、自分たちでしっかりとローカライズをして、成果を出せたことに対しては、大きな手応えを感じています。一方で、思っていたこととちょっと違った部分というのは、やはりひとつのゲームに費やしてくれる時間ですね。日本だとひとつのゲームを比較的長く遊んでくれるのですが、こっちでは短かったです。それはある程度想定してはいたのですが、それよりもお客さんが離れるのが早かったなあと。

――先ほどおっしゃっていた、台湾のゲームファンは、“消費をするのが早い”ということですね?
越知 はい。後は、やっぱりゲームの数が多いですから、つぎからつぎへと遊びたいソフトがリリースされる。台湾だと、中国でリリースされたタイトルはだいたい来ますし、韓国からも来ます。もちろん日本からも西洋からも来るし……。最近はニュージーランドで作られたMMORPGも人気ですね。

――ニュージーランドですか! 台湾は、世界のゲームの集積地みたいな感じですね。
越知 受け入れるからじゃないですかね。すべてを。

――ちなみに、台湾のクリエイターさんとお仕事をしてみていかがでしたか?

▲カプコン台湾のオフィスをちょっとだけ撮影させていただきました。奥にはロックマンが鎮座。

越知 始める前は、やってみないとわからなかったというのが正直なところだったんですけど、いざいっしょに仕事をしてみてわかったことは、日本のクリエイターに比べて非常に優れた部分があるということと、そうじゃない部分があるということですね。

――ああ、なるほど。たとえば?
越知 たとえば、プログラマーは非常に優秀です。まあ、日本でも優秀な人とそうじゃない人が両方いるから何とも言えないですけど、平均して能力は2倍くらいあるんじゃないかなと。個人的な印象ですが。

――2倍ですか!?
越知 仕事が早いんですよね。すごく効率よくやろうとしますね。それは裏を返せば、面倒くさがりという。

――プログラムでも、“競争”心理が働くのでしょうか。
越知 まあ、関係あるかもしれないですね。

――ちょっと意地悪な質問になりますが、逆に「ここは……」みたいなところはありますか?
越知 企画面は若干苦手かもしれないですね。オリジナリティーの部分は少し弱いかもしれません。

――ああ、台湾オリジナルタイトルが出にくいと言われるゆえんですね。
越知 僕は、未来永劫そうではありたくないと思っているんです。

――越知さんの志として?
越知 はい。まだ、打率は低いのですが、台湾発で、ほかの地域で受けたゲームもないわけではないんです。たとえば、スマートフォンアプリの音楽ゲーム『Cytus』とか。ほかの業界に目を転じれば、HTCやGIANTなどを筆頭に、世界的な企業もあるわけですし。僕がカプコン台湾のスタッフによく言うのは、「台湾のゲームが世界で受ける確率が低いのはなぜか、それをよく考えてみたほうがいい」ということです。そこに答えを出して道筋を見いだせれば、絶対に何か方法があるはずなんです。一方で、日本ではどうしてもできない部分というものたくさんあります。たとえば、オンラインゲームに対する知識は、台湾のクリエイターのほうが圧倒的に豊富です。そこで、お互いの欠点を補い合えるかなという気はするんです。

――パートナーとしての相性はいいと?
越知 いいと思います。

――さきほどおっしゃった“企画力が弱い”というところの理由は、越知さんとしてはどのように分析しているのですか?
越知 エンターテイメントの企画に関わる人というのは、ゲーム以外のコンテンツからいろいろと吸収していると思うんです。映画をたくさん観るとか、コンサートに行くとか、落語を聴くとか……。そういう、一見遠回りに見えることをやって、ある程度自分の中で蓄積がないと、やっぱり企画は出てこない。そういう部分が、あまり得意じゃないのかなと。

――ところで、台湾のゲーム市場ってどんな感じなのですか?
越知 だんだんとスマートフォンが伸びています。コンシューマーは、一定のユーザー層は確実に存在しますね。最近中文化しているタイトルも増えていますし、コンシューマーにとっても悪くない状況だと思いますね。プレイステーション4もしっかり売れているようですし。

――台北ゲームショウを見て思ったのですが、台湾メーカーの存在感が薄いのが、少し気になるところではあります。
越知 優秀な開発会社はいくつかあるんですけどね。台湾で作ったものが、台湾のマーケットやそのほかの地域で広がって、台湾の会社が稼ぐことができていないというのが、いちばん悔しいところなんじゃないかなと。いま、台湾人の気持ちになってしゃべっていますけど(笑)。

――(笑)。
越知 昔に比べて、台湾でも中小のゲーム会社は減りました。統計を取っているわけではないのですが、実感としてあります。ご存じの通り、1本のゲームを開発するのに莫大なコストがかかるし、作ったら作ったでマーケティングの費用もかけないといけない。そこまで張って勝負できるところは、やっぱり減っているんです。台湾の会社にとってはきびしいところですね。台湾というマーケット自体は伸びているわけですが、台湾のゲーム会社の業績が伸びていない。もちろん、一部成果を上げている会社もありますが、平均すると総じて苦戦しています。いまは、中国大陸と組む台湾のゲームメーカーも増えていますしね。

――では、そんな中でのカプコン台湾の今後の方向性を教えてください。
越知 カプコン台湾をアジアの拠点として、今後さらにアジア市場に向けてアプローチしていきたいですね。そしてゆくゆくは、台湾発のオリジナルタイトルもできたらいいなと思っています。

――アジアにおいては、PCとモバイルの需要が伸びているとのことですが、カプコン台湾のスタンスとしては、コンシューマーにはあまりこだわらずに、アジアではPCやスマートフォンで攻めていく感じですか?
越知 コンシューマーでチャンスがあるのだったら、やりたいですね。いま僕がTシャツを着ている『モンスターハンター フロンティアG』も、いまはPC版だけで展開しているのですが、今度プレイステーション3版も出しますし、台北ゲームショウではプレイステーション Vita版も発表しました。『モンスターハンター フロンティアG』のプレイステーション Vitaでの展開を決意した理由としては、台湾ではプレイステーション Vitaで比較的フリー・トゥ・プレイのゲームが受け入れられたりするんですよ。我々の得意な分野で、アジアのニーズに合致した領域があるのならば、積極的に攻めていこうという戦略です。

――せっかくの機会なので伺いたいのですが、越知さんはいつくらいからアジアのゲーム市場に関わっているのですか?
越知 僕がゲーム業界に関わるようになったのは、2002年以降ですね。一貫してやっていたのは、中国や韓国などのアジアでの仕事です。

――そこで得た、アジアのゲーム市場に対する認識は?
越知 台湾にはカプコンに入社してから関わることになったので、ここは韓国と中国のマーケットに対してコメントさせていただきますが、“想像以上に作るもののクオリティーが高いなあ”ということと、“スピード感があるなあ”ということは実感しました。わりとグローバルでも最先端に行けるんじゃないかなとも思いました。とくに中国に関していうと、成功のパターンがいっぱいある。日本だと……最近僕は日本人じゃない感覚がだんだん増えてきてしまったのですが、日本人って、何かがうまくいくと「うまくいくのはこのやりかただ!」と、ひとつにまとめたがるじゃないですか。

――“成功の法則”みたいなものですかね?
越知 日本人はそういうのが好きですよね。でも、中国のマーケットはジャングルみたいなもので、ジャングルにおけるサバイバルの方法論がたくさんあるのといっしょで、いろいろなやりかたがある。日本だと、中国の大手企業にスポットがあたりがちですが、大手だけが成功するわけではない。いろいろと道はあるんです。

――そこが醍醐味でもあると?
越知 そうですね。いろいろとチャンスはあるんじゃないかなと思います。

――越知さんは一貫してアジアのゲーム市場にこだわっているように思うのですが、それだけ魅せられているアジアの魅力って何ですか?
越知 わからないことが多いからじゃないですかね。後は、自分の力で変えたり、発展させる余地があるような気がしますね。

――いまも、「わかんないなあ~」って、ドキドキしながらお仕事をしている感じですか?
越知 そうですね(笑)。会社に90人くらい社員がいるのですが、人の気持ちもそうですし、文化もそうだし、市場もそうだし、わからないことばっかり……。僕は、好奇心が強いので、それを活かして今後もアジア市場には関わり続けていきたいですね。

▲壁にはカプコンゆかりのキャラクターなどが!