VFXスタジオだけあって映像のクオリティはガチのガチ

仕上がりはハリウッド大作級! プリレンダCGとリアルタイムCGのいい所取りのVR映像を目指す“PresenZ”【Upload VR】_01

 アメリカ時間の1月16日、サンフランシスコのダウンタウンでVR(仮想現実)関連のイベントを主催する“UPLOAD”による大規模なパーティーが行われた。

 ベンチャー企業が集まるサンフランシスコ/ベイエリアの土地柄もあってか、投資家と思われるお客さんも多く、出展者の側も企業向けの技術出展が結構あって、ゲーム系のイベントとは違った雰囲気だった。

 ベルギー・ブリュッセルのVFXスタジオNozonが出展していたのは、プロモーション用途などを想定した企業向けのVR映像技術“PresenZ”。映画やCMなどにVFXを提供している同社のCG技術の強みを活かし、高品質なプリレンダCGをVRに適応させ、品質と没入感のいい所取りができるというのが特徴だ。

 これには、プリレンダCGとリアルタイムCGのVRにおける違いが関係してくる。まずプリレンダCGや360度カメラで撮影した全天球映像は、カメラがある空間の一点を中心に映像が固定されているので、顔の向きが変わるだけなら対応できるが、頭の位置が移動した時はその視差の違いを表現できない。そのままでは、Oculus Rift DK2(第2世代開発者キット)などで実現されているポジショナルトラッキングを十分に活用できないのだ。

 一方でゲームエンジンによるリアルタイムCGは、カメラの位置や角度がプレイヤーによって常に変わるのがそもそも前提のものなので、頭の位置が変わってもそれに対応して描画が行われ、没入感は途切れない。しかし、物理ライティングなどの対応が進んできているとはいえ、映画やCMクラスのプリレンダCGレベルの映像を市販パーツのゲーミングPCでリアルタイムにやるというのはなかなか厳しい。処理落ちせずにVRが求める高いフレームレートを安定して満たし続けることを考えると尚更だ。

 そこでPresenZでは独自の技術を使い、映画などにも使われるArnold Rendererをカスタムしたプラグインで、まずは頭の位置の有効範囲内の分だけ全天球4000ピクセル×2000ピクセルでレンダリングして物体表面の色やライティングを保存。それを再生時に3Dシーンに読み出し、ある程度頭を動かしても視差を考慮した描画を実現する。使用者のIPD(瞳孔間距離)に合わせてヘッドマウントディスプレイの設定を変えた場合でも、再レンダリングなしで対応可能だという。

 実際デモを体験してみると、映像は超絶美麗で、リアルに描かれている部分は実写さながら。さらに、確かに頭の位置を少し動かしてもちゃんと滑らかに追従する(映像内容はプロモーション動画にもあるシーンと同様)。ただし頭が動かせる範囲はDK2のポジショナルトラッキングの範囲よりもかなり限定されており、範囲外に出ると映像をフェードアウトさせるようになっていた。
 これはすでに説明した通り、PresenZではPoint of View(視点)ならぬZone of Viewという考え方をしていて、その範囲分しかレンダリング結果を持っていないためで、あくまで使用者が椅子に座りながら姿勢をあまり変えずに周囲を見回したりするぐらいに限定されており、グイッと身を乗り出したりするぐらいの動きは対応しきれない。

 「ではリアルタイムCGの向上を待った方がいいのでは」という考え方もあると思う。結局は質を取るか対応力を取るかという話はPresenZでも同様で、「Pacific Rim: Jaeger Pilot」のような映画プロモーション用のコンテンツを、実際の映画レベルのVFXで実現できるというなら、これはかなりアリなんじゃないだろうか(Jaeger Pilotは、コミコン版は映画の素材をベースにモデルの簡略化などを行い、Unreal Engine 4で開発したもの。その後Gear VRに同梱されたバージョンはそれをレンダリング済みの全天球映像にして、ポジショナルトラッキングなしで再生する)。

 デモはベースのプリレンダCGが秒間25フレームであるのに対し、DK2のリフレッシュレート自体は60ヘルツで実行。現在のデータは秒間2.5ギガバイトあるものをRAMから読み出しており、再生時間も1シーン1分が限界。今後は圧縮の最適化を進め、秒間300メガバイトでSSDから再生できるレベルを目指すとのこと。また最低環境はCPUに2.6GHzのCore i7とグラフィックボードにGTX 780Tiを要する。

 まぁそれだけマシンスペックも製作コストもかかるのだが、プロモーション用途であることを考えた場合、頭の位置を無視することによる酔いなどを低減しつつ、「ゲームっぽいね」と言われない超絶CGで驚かせたいというのもよくわかる。これはこれとしてデカいハリウッド超大作をネタにしたコンテンツとか作られないかなぁ、と思うのだが、レジェンダリー・ピクチャーズ版ゴジラ第2作とかで採用してくれないだろうか?