開発者の実体験をもとに制作されたその内容とは……
強迫性障害と鬱を患ったゲームクリエイターが、その苦しみの感覚をそのまま再現したという、何とも気になるホラーゲーム『Neverending Nightmare』の日本語版がPLAYISMから配信された。
本作のメインの開発を担当するのはMatt Gilgenbach氏。以前開発した音楽ゲームとシューティングの融合作『Retro/Grade』のセールスの不調から強迫性障害と鬱を患い、その苦しみの感覚をそのまま映し出した作品が『Neverending Nightmare』となる。実際のところそのビジュアルだけでも相当胸にチクチクとくるものがありまして……。いままでに『デッドスペース』シリーズ、『F.E.A.R.』シリーズ、『クロックタワー』シリーズ、『サイレントヒル』シリーズ、『Five Nights at Freddy's』など溢れるほどホラーゲームをプレイしてきた筆者だからこそ、この一風変わった雰囲気の『Neverending Nightmare』をプレイしないわけにはいかない! ということでその恐怖体験をインプレッションでお届けする。
■絵本のような絵が漂わせる不気味な世界
まずは、本作の主人公から紹介していこう。主人公の名前はトーマス。彼について詳しいことは明かされていないのだが、精神疾患と喘息を患っている青年といったところだろうか。本作では、そんなトーマスが、どこまでも続く悪夢の中を、得体の知れない怪物たちから逃げ回りながら、夢の奥のより深い精神の奥へと進んでいくことなる。悪夢から醒めたと思ったら、さらなる新しい悪夢の中にいる……という、無限に続く悪夢から逃げ出すことはできない状況だ。「起きたと思ったらまだ夢の中だった」なんてのは、筆者もじつは何度か経験しているが、それが悪夢のくり返しだったらと思うと、もし同じシチュエーションに置かれたらたまったもんじゃない。
画面は奥行きがある横スクロールで、トーマスは、歩く、モノを調べる、そして走るというシンプルな行動だけで屋敷を探索していくことになる。明確な目的などは設定されておらず、悪夢の中の薄暗い奇妙な洋館や血みどろの精神病院を彷徨うのだ。舞台となるのは、一見ちょっと古めかしい洋館なのだが、ときに異様な物音や「トーマス……」と名前を呼ぶ女性の囁き声などが聞こえるなど、いつ何が起こるか分からない恐怖がじわじわと襲ってくる。
なお、本作のアートワークはモノクロームの線画タッチになっているのが、こちらは絵本作家エドワード・ゴーリーにインスパイアされたものとのこと。見ていて不安になるような独特の雰囲気を醸し出しているビジュアルもチェックしてほしい。
■逃れられない悪夢は、徐々に怖さを増す
先ほど言及したとおり、本作では、悪夢から目覚めてもまた違う悪夢が待っているという抜け出すことのできない状況に置かれる。しかもその回を重ねるごとに、怪奇現象が頻繁に起こり、多数の異形の怪物に襲われるといった具合に、状況はさらに過酷になっていくのだ。敵も前触れもなく現れ、躊躇なくトーマスを襲ってくる。これも強迫性障害の象徴なのかもしれない。
ときに、悪夢から目覚めると、それまで探索していた場所ではなく、まったく違う場所で目を覚ますこともある。たとえば、それまでいた洋館からいきなり精神病院で目が覚めると、そこは壁一面が血みどろで、人間の切断された手や足、さらに首のない死体が山のように積まれており、異様な叫び声が時折響く異常な世界に……といったことも。
ちなみに本作には武器はなく、敵への対処方法は走って別の場所へ逃げ切るか、隠れるしかない。しかもトーマスは喘息を患っているので少し走っただけで息切れを起こし立ち止まってしまう。そうなると数秒は操作不能となるので注意が必要だ。実際、「ここで敵はでないだろう」と、闇雲にトーマスを走らせて肝心なときに息切れを起こして敵に殺される……なんてこともしばしば。ゲームはほぼ8割が歩きでの探索となるので、ただずっと恐怖におびえながら歩くしかないのだ。
なお、敵に襲われて死亡した際は、死亡する直前の一番近いベッドがある部屋で悪夢から覚めるという形でリスタートとなる。チェックポイントからやり直すということがないので、サクサクとプレイでき、ストレスはほぼ感じられなかった。
なお、トーマスの病みきった精神が描き出す悪夢は、プレイによってその真実が変化するマルチエンディングとなっている。ルート分岐は後半にいくつか存在している模様。“道を引き返す”、“穴に落ちる”などで、別ルートが解放されていく。
エンディングは3種類で、一度ゲームをクリアーすると分岐ごとの悪夢を選択してプレイできるようになるので、分岐点の手前からプレイすることも可能だ。
■精神的な恐怖を与えるホラーゲーム
「鬱の人間にとって、人生は悪夢」と開発者のGilgenbach氏がコメントするとおり、このゲームはすべて悪夢の中で完結している。夢から覚めても夢、終わりのない悪夢は鬱病などの精神疾患者の過酷で長い闘病人生を再現しているのかもしれない。精神病の世界を表現した本作は、ホラーゲームの中でも異色のタイトルだった。
また本作はサウンドに力を入れられており、ヘッドホンでのプレイが推奨されている。BGMはゲーム中ほとんど流れず、物音や唸り声や叫び声、囁き声により臨場感がさらに増しているので、この手のゲームが得意な方はぜひ試していただきたい。
ちなみに筆者は2時間程でクリアー。謎解き要素も少なく、サクサクプレイが可能で、じわじわとした病的な恐怖が味わえる作品と感じた。病的なホラーアドベンチャー好きにオススメしたい作品だ。ただ、冗談抜きで怖いので、あまりホラーゲームに触れたことがない人は、くれぐれも精神的ダメージに気を付けてプレイしていただきたい。
ぜひすべてのエンディングを見て、トーマスが一体どういった運命に見舞われるのか、その目で確かめてほしい。
◆開発:Infinitap Games
◆Windows/Mac (DRMフリー&Steamキー付き)
◆ジャンル:ホラーアドベンチャー
◆価格:1480円[税込]