CEDECのサウンド関連セッションとして行われた“和楽器推進委員会!”。その名のとおり、ゲームに和楽器を取り入れる際のノウハウや経験談が『戦国無双』や『討鬼伝』シリーズに深く関わったサウンドスタッフの口から語られた。意外に知られていない和楽器についてのアレコレや、西洋音楽との組み合わせることの苦労といった興味深いエピソードが連なったセッションも模様をリポートしていこう。

●セッションは尺八の生演奏からスタート

 2014年9月2日~9月4日、パシフィコ横浜で開催された、日本最大級のゲーム開発者カンファレンスCEDEC 2014。サウンド関連セッションとして行われたのが“和楽器推進委員会!”。その名のとおり、ゲームに和楽器を取り入れる際のノウハウや経験談が『戦国無双』や『討鬼伝』シリーズに深く関わったサウンドスタッフの口から語られた。意外に知られていない和楽器についてのアレコレや、西洋音楽との組み合わせることの苦労といった興味深いエピソードが連なったセッションの模様をリポートしていこう。

▲登壇者の中條謙自氏(左)と渡辺峨山氏。“NJ”の愛称で呼ばれる中條氏は、コーエーテクモゲームスにて『戦国無双』シリーズのサウンドディレクターを歴任。人間国宝にも師事した尺八奏者の大家の渡辺氏は、『戦国無双』や『討鬼伝』などでの演奏に加え、和楽器全般の監修も行っている。
▲作曲者側の登壇者である稲毛謙介氏(左)と坂本英城氏。稲毛氏は『戦国無双』シリーズなどでメインコンポーザーを務め、その後に独立。『討鬼伝』シリーズを手掛けた坂本氏は、沖縄ゲームタクトの功績が認められ、前日にCEDEC AWARDSのサウンド部門にて最優勝賞を獲得したばかり!

 セッションは、なんと渡辺氏による尺八の生演奏から幕を開けた。なかなか目の前で聴くことの少ない尺八の迫力ある音色(しかも一流奏者の演奏)に、受講者は一様に驚いていたようだった。

 トークのはじめに中條氏は、和楽器をゲーム音楽に取り入れ意図が、約9年前に『戦国無双』を世界に通じるグローバルなものにしようと考えたことにあると説明。それまでは、ゲーム音楽にかぎらず和楽器を取り入れた楽曲といっても、サンプリング音を貼り付けているようなものがほとんどを占めており、そうした中で“脱・ウェルカムトゥジャパン”な状況を打ち破るために、和楽器の生演奏を推進していったと振り返った。

 それを受けて渡辺氏は「演奏家の立場からすると、どうしてこう(間違った和楽器の)使いかたをするんだろう」という事例が多数あることを説明。「日本の楽曲では、日本の楽器を日本らしく使ってほしい」と、このセッションに参加した気持ちを語った。

●西洋楽器とは異なる、めくるめく和楽器の世界

 続いては、渡辺氏により和楽器の説明がなされていった。西洋楽器との違いは姿形だけでなく、ドレミファソラシドの七音階にあてはまらず、さらに譜面も五線譜ではなくカタカナや数字譜を使うのだと説明。そのため、西洋音楽と組み合わせるために“通訳”の作業が必要だと解説を受け持った。

※登壇者の許可を得てスライド画像を掲載しています。

▲ご存知尺八。ひとくちに尺八といっても写真のように二尺三寸(右)や一尺六寸など長さ(キー)が異なる複数の種類がある。
▲竹製の横笛である篠笛。こちらもキーによってさまざまな長さのものがあるという。祭りばやしで聞こえるピーヒャラという音はこの楽器によるもの。
▲能で使われる笛、能管。絶対的な音階がないのが特徴。
▲弦楽器の琵琶。弦の本数で種類が分かれ、写真の者は五弦の薩摩流。ダイナミックレンジが広いため、録音には苦労するという。
▲津軽三味線。三味線にも竿の太ささやバチ、コマの種類などでさまざまな種類があると渡辺氏は語る。
▲絃を爪弾いて鳴らす琴。曲によっては演奏途中でチューニング(弦の張り具合)を変えて演奏することもある。
▲鼓(つづみ)は大きく二種類に分かれ、写真はポンポンと鳴る小鼓。胴や皮は百年単位で使われる超ビンテージ品なのだとか。
▲電熱ヒーターなどで乾かした皮をパンパンに張ることで、カンという甲高い音を鳴らす大鼓(おおかわ)。
▲お祭りなどで聴くチャンチキの音と表現される金属製の打楽器。ほかにも複数の太鼓や和銅鑼といったたくさんの和楽器があるという。

 とくに尺八については渡辺氏による実演での説明がなされた。尺八には穴が5つしかないため、本来は“レファソラド”の音階のみで、テクニックによりシャープやフラットを含む西洋の七音階を出せるようになるが、音階によっては弱々しい音しかでなくなってしまうことを解説。また、歌口に付ける口の角度と距離で音が変化する様子も披露し、西洋楽器とはことなるさまざまなテクニックがあることを理解させていった。

▲持参した尺八を取り出して説明をする渡辺氏、七つの節がある竹を切り出し、中に漆を塗って仕上げるという。そのため乾燥には強く、水で洗うことも可能だそう。

●西洋音楽と和楽器をうまく融合するためには“通訳”が必要

 続いては、こうした和楽器を使っていったことでのエピソードが語られていった。和楽器を取り入れる際に一番難しいのは「転調に弱いこと」と渡辺氏は語り、坂本氏の楽曲は転調が多いと苦笑いさせる。逆に中條氏は「そうした予定調和でない組み合わせをすることで、新しいものができるだろう」との狙いがあったことを説明。そのため、収録現場では、まるで合宿のような勉強とイメージのすり合わせといった苦労はあったものの、制作が進むごとに作曲者と演奏者の距離が縮まり、よりお互いの持ち味を引き出せるようになってきたと語った。

 それは稲毛氏も同様で、「書面を紐解いても真に理解はできないので、最初はトライアンドエラーのくり返しだった」と振り返り、「チャレンジしたいと思ったなら四の五の言わずに専門家にたよってみるべき」だと、自身の経験を披露。また渡辺氏は、『討鬼伝』で実際にあったエピソードを例に「譜面を和楽器にあうように“通訳”する時間が必要なので、遅くとも前日までにはくださいね」と、未来のクライアントとなる受講者にお願いをしていた。

▲「峨山さんに会う前は、なぜかすごく気むずかしくて怖い人が来ると思っていた」と笑い話を披露した坂本氏。実際は、ロックやジャズにも精通した、ほがらかな方であるとのこと。

●ときには“お任せ”することも。和楽器奏者の魅力の引き出しかた

 これまでのまとめとして「どういった譜面を書くと、どういう演奏になるのか」が、渡辺氏の実演によって披露された。用意された4パターンは譜面こそ同じだが、譜面の書きかたによっては奏者の自由を奪ってしまい、せっかくの生演奏の良さが死んでしまうということを目の当たりにした受講者は、一様に関心した様子であった。

▲音符の並びこそ同じだが、奏者に任せる度合いによって楽曲の表情は如実に変化。作曲者がすべてをコントロールしようとせず、収録現場で奏者とのすり合わせをしていくことで、よりよい作品が生まれることになる。

 こうして和楽器の魅力と使い方の具体例が示された本セッションであったが、曲をを作るのも演奏するのも同じ人間。お互いをリスペクトした上でのコミュニケーションが重要ということは、「音楽というものは、人を感動させるものなのでハートが通じ合ってないと」という坂本氏の言葉に集約されていると感じた。