2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催。2人のサウンドクリエイターがタッグを組み、20分の制限時間の中でお題に則したジングルを作り上げる「サウンド大喜利!」の模様をお届けする。

●20分で2パターンのジングルを作るタッグ戦!

 CEDECにおけるサウンド関連のセッションでは、もはや恒例になっている“サウンド大喜利!”。各社のサウンドクリエイターが、当日その場で発表されるお題に対して制限時間内で曲を作り上げるというルールで例年好評を集めてきた人気のセッションだが、3度目となる今年は2人がチームを組んでジングル(数秒程度の短い楽曲)を制作することに。曲の完成度に加え、パートナーとのシンクロ率も評価となるため、双方がどれだけ息のあったジングルを仕上げるかも重要となった。

 セッション中は、ひとひねりあるお題のおもしろさや、司会のひとりである佐野電磁氏のマシンガントーク(主に登壇者イジり)もあって、まるでバラエティ番組の収録現場かのような雰囲気に。だがその本質は「業務で培われたテクニックや、各クリエイターのツールやアプローチの違いなど、普段は見られない制作シーンを目の前で存分に見ることができます」(セッションの紹介文より)にある。つまるところ“バラエティの皮をかぶった真剣勝負”というワケで、登壇者は珍問難問に頭を悩ませつつも、日頃のサウンド制作業務で培ったノウハウとクリエイティブさを発揮することとなった。

 なお、本セッション登壇者のご好意により、特別に完成したジングルデータをストリーミング形式で掲載する。20分という制限時間の中で作成された“プロの技”に注目いただきたい。

※記事中の音声データは登壇者、及びCEDEC運営委員に許可をいただいて特別に掲載しています

▲司会はセガの光吉猛修氏(左)とDETUNE代表の佐野電磁氏。この写真でお気づきだろうが、セッションはあたかもバラエティ番組かのよう。そしてご存知佐野氏の超電磁マシンガントークは、セッション開始から終了まで途切れることはなかった。
▲登壇者その1。チーム・ノイジークロークの川越康弘氏(代表作『ポケモン不思議のダンジョン ~マグナゲートと∞迷宮~』ほか)と加藤浩義氏(代表作『DanceDanceRevolution』ほか)。ゲーム音楽専門の制作会社のスタッフにして、同僚ということもあり息はピッタリ!?
▲スクウェア・エニックスの祖堅(そけん)正慶氏(代表作『FINAL FANTASY XIV :新生エオルゼア』ほか)と、元スクウェア・エニックスの谷岡久美氏(代表作:Final Fnantasy XIほか)がタッグを結成。ほぼ同期入社なのだとか。
▲老舗メーカーのタイトーは土屋昇平氏(代表作『ダライアスバースト』ほか)と小塩広和氏(代表作『スペースインベーダーエクストリーム』ほか)がチームを結成。ともに帽子がトレードマークの帽子ーズ。

●ようかいバトルというテーマで各チームの個性が爆発!

 最初のお題は「家庭用の格闘ゲームの勝利・敗北のジングル。テーマは“ようかいバトル”」というもの。最近流行りの妖怪要素を、どのように曲中に取り入れていくかに注目が集まった。

 制作がスタートし(佐野氏にちゃちゃを入れられながらも)登壇者たちは真剣な表情でジングルの制作を進めていく。途中、祖堅氏が「これって手分けしてもいいの?」と説明を聞いてなかったり、祖堅氏のキーボードにトラブルが発生したり、祖堅氏が持ち込んだマイクで「ちょっと歓声ちょうだーい」と来場者にディレクションしたりとしているうちに、制限時間が終了。そうして完成したのが、以下のジングルだ。

▲写真ではわからないが、ノイジークロークの2人の目の前には、なんと社長である坂本英城氏が着席。制作以外のプレッシャーがあったとかなかったとか!?
▲第1問タイムアップ直後の様子。この写真だけで、登壇者がどんな気持ちなのかがおわかりいただけるだろう。

■チーム・ノイジークローク ようかいバトル勝利のジングル

■チーム・ノイジークローク ようかいバトル敗北のジングル

 ジングルが流れると、来場者からは「おおー!」と歓声が上がり、ほかの登壇者は内輪揉めを始めるという、とても20分で作ったとは思えない完成度。川越氏がメロディを作り、加藤氏がアレンジするという、タッグ戦ならではの分業をうまく使ったチーム・ノイジークロークの技が来場者を魅了した。

■チーム・(元)スクウェア・エニックス ようかいバトル勝利のジングル

■チーム・(元)スクウェア・エニックス ようかいバトル敗北のジングル

 いかにもスクウェア・エニックスといった印象のオーケストラ調の勝利ジングル(歓声あり)に、「へくちっ」のボイスもコケティッシュな敗北ジングルのコントラストが素晴らしい。なお、敗北ジングルのくしゃみボイスは会場では流れなかったが、データとしては完成したのでこちらを掲載している。

■チーム・タイトー ようかいバトル勝利のジングル

■チーム・タイトー ようかいバトル敗北のジングル

 小塩氏によるとコンセプトは「バトル後で妖怪も疲れていると思うので、癒やされたいだろうと」と説明。たしかに癒やしっぽい。敗北ジングルには加工された音声で「光吉、光吉、電磁」とセリフが入っていて、なにか“ひとひねり”を入れてくるZUNTATAイズムが早くも発揮されることとなった。

●全員が頭を抱えた難題は“登場人物がシルバー世代の乙女ゲーム”

 お題その2は“スマートフォン向け乙女ゲームの告白成功・告白失敗ジングル”。そして追加情報として“登場キャラはシルバー世代”が発表となると登壇者は頭を抱え、来場者からは大爆笑が沸き起こる。なんとも難題だ。

 (元)スクウェア・エニックスチームが秘密のメモを記す様子や、小塩氏のヘッドホンから漏れる音の大きさ佐野氏がイジりながらも、20分の制限時間は刻々と進行。途中に設けられた質問コーナーでは「どのくらいの制作時間で完成するのか」との質問がなされたが、皆さん概ね数十分以内で完成させるとのこと。限られた時間の中で最良の成果物を作るのも、プロであることの資質ということだ。という中で完成したのが、以下のジングル。

▲難題に頭を悩ませる登壇者たち。どんな解釈でジングルを制作するかが、腕の見せどころとなった。
▲佐野氏のインターセプトに負けず、制作に打ち込む登壇者たち。全員が、ソニーのモニター用ヘッドホンMDR-CD900STを着用というのも珍しい。

■チーム・(元)スクウェア・エニックススマートフォン用(シルバー世代)乙女ゲーム・告白成功のジングル

■チーム・(元)スクウェア・エニックス スマートフォン用(シルバー世代)乙女ゲーム・告白失敗のジングル

 「ババアの声」がポイントだと祖堅氏が言う成功ジングルと、「おめえなんかピー(放送禁止音)」というセリフの入った失敗ジングル。どちらも声入りというシンクロぶりを披露。お題の咀嚼度の高さもあって、来場者からの大きな拍手を集めた。

■チーム・タイトー スマートフォン用(シルバー世代)乙女ゲーム・告白成功ジングル

■チーム・タイトー スマートフォン用(シルバー世代)乙女ゲーム・告白失敗ジングル

 「シルバー世代といえばインベーダー」ということで、ベースの音にスペースインベーダーのフレーズをフィーチャーするタッグ技を披露。「タイトーさんのジングルは、聴いたあとに説明を受けると、すごく納得がいく。そこが経験値の差」と司会の佐野氏を唸らせていた。

■チーム・ノイジークローク スマートフォン用(シルバー世代)乙女ゲーム・告白成功ジングル

■チーム・ノイジークローク スマートフォン用(シルバー世代)乙女ゲーム・告白失敗ジングル

 再生直後に佐野氏が「ありそ~~う!」と開口一番に叫んだ成功ジングルと、かなり寂しさの漂う失敗ジングル。2問目は“琴とベルを使う”ということを決めて個別に制作したとのことだが、失敗ジングルを聞いた川越氏は「失敗どころか亡くなった感がある……」とやや困惑気味であった。

●最後のお題は四輪以外のレースゲーム。そして優勝者は……!?

 最終戦となったお題その3は、“アーケードのレースゲームのスタート・ゴール音。4輪は禁止”。テーマがアーケードゲームということで話題は「(騒音に埋もれないよう)通りのいい音を使うのがポイント」(加藤氏)、「スクエニ以前にいた会社で脱衣麻雀の曲を作りました」(谷岡氏)と、いったエピソードが披露された。

 余談ではあるが、佐野氏と光吉氏はともに『リッジレーサー』『デイトナUSA』という2大レースゲームの作曲者として知られている。だが、リリース当時はデイトナの“歌うBGM”に対し、ナムコ在籍中の佐野さんがものすごくジェラシーを抱いていたという昔話を披露。そんなライバル関係を保ちつつ、いまはとっても仲良しとのこと。そんな光吉氏の「フィニューーーーーシュ!」というシャウトとともに制限時間が終了した。

▲ややお疲れ気味の小塩氏は、制作ソフトに標準搭載のマスコット・FLちゃんを増やしてさらなるテンションアップをはかった。
▲自前のリコーダーやタンバリンを持ち出し、やおら演奏をしだしたチーム(元)スクエニ。いったいどんなジングルが完成するのか!?

■チーム・タイト― アーケードの(四輪以外)レースゲーム・スタートのジングル(作:土屋昇平)

■チーム・タイトー アーケードの(四輪以外)レースゲーム・ゴールのジングル(作:小塩広和)

 水上バイクレースをコンセプトにしたというチーム・タイトー。土屋氏のオープニングには波の音をイメージさせるノイズ音が、小塩氏制作のゴール音にも水の音がフィーチャーされ、かつともに通りのいい音に仕上げている。「カメラが回ってそうなアーケード感がありますね!」と佐野氏が言うのもわかるというものだ。

■チーム・ノイジークローク アーケードの(四輪以外)レースゲーム・スタートのジングル

■チーム・ノイジークローク アーケードの(四輪以外)レースゲーム・ゴールのジングル

 チーム・ノイジークロークもエッジの効いたシンセが奏でるフレーズが印象的な仕上がりに。「本当はもっとテンポをはやくしたかったけど、四輪より遅い二輪…いや一輪レースをイメージして」と語る加藤氏と「最後の20秒くらいで、ラクダの鳴き声を入れようと思ってやめた」という川越氏の追い詰められコメントが笑いを誘った。

■チーム・(元)スクウェア・エニックス アーケードの(四輪以外)レースゲーム・スタートのジングル(作:祖堅正慶)

■チーム・(元)スクウェア・エニックス アーケードの(四輪以外)レースゲーム・ゴールのジングル(作:谷岡久美)

 “大人の三輪車レース”というコンセプトで制作されたジングルは、ベースを祖堅氏が、メロディとリコーダーの演奏を谷岡氏が担当し、ほっこりかわいい仕上がりに。持ち込んだ楽器の生音が効果的に使われていて、「ゲームのビジュアルが浮かんできますね!」とは、佐野氏の評。ちなみに、スタートジングルのカウント音は、FM音源が用いられている。

 こうして完成すべてのジングルを聴き比べてみると、バツグンの安定感があるノイジークローク、やや突飛にしてアイデア勝ちの(元)スクエニ、いぶし銀的な味わいのタイトーと、その色合いはチームごとに異なることがわかる。ジングルひとつとっても、制作者のテイストやコンセプト建てによって、これだけバリエーションがあるのだよ、ということが目の前で実演されただけでも、来場者にとっては有意義なセッションであったといえるだろう。

 なお、すべての出題が終了したところで、来場者の拍手(をマイクで測定しての大きさ)でどのチームが一番素晴らしかったかを決めたのだが……それがどのチームだったかは、来場者だけのヒミツ。ライブで見たい人は、どうにかして来年のCEDECに参加しよう!

●DTM好き必見。登壇者の制作環境をチェック!

▲小塩氏の制作環境。DAW(音楽制作ソフト)はボカロ作曲者に人気のFL STUDIO。コントローラーとして、KORGのnanoKONTROL2、nanoKEY2を接続している。
▲土屋氏の機材は、MacBook Airに、DAWはCubaseと音屋さんらしい構成。キーボードとしてKORGのnanoKEY2を接続している。
▲谷岡氏は老舗DAWのDigital Performerを使用。これは、先輩コンポーザーの下村陽子氏や光田康典氏の影響があってのことだとか。キーボードはKORGのmicmicroKEY。
▲SHUREのマイクSM57が目を引く祖堅氏の制作機材。DAWはCubaseで、愛用のトラックボールはKensington製。
▲川越氏の制作環境は、DWAはCubase。祖堅氏と同じくKensingtonのトラックボールを使い、キーボードはM-AudioのKeystation Mini32を接続。
▲古めかしくもかっこいいデザインのキーボード、カシオのGZ-5を愛用する加藤氏の環境。DAWはCubaseしている。