セキュリティー意識の重要性と技術

 日常圏内にさまざまなデジタル端末が普及することで、いまやネットワーク空間におけるセキュリティに関する意識はエンジニアのみならず、我々一般的なコンピューターユーザーにも浸透しつつある。SECCONとは、未来のセキュリティのスペシャリストを育成すべく、その実践的な技能を競う日本最大のコンテスト。CTF(Capture The Flag)という世界共通のゲーム形式でネットワーク、プログラミング、バイナリ解析、暗号解読などの技術を競う国内予選を経て、来る2015年2月開催の全国大会に挑む選手が選ばれる。
 バイナリ解析や、暗号解読というと……ネットワークのセキュリティを脅かす者=ハッカーと同じと思われる方もいるかもしれない。誤解を恐れずに言うならば、技術を持っているという意味では同根のものだろう。ただ、その知見や技術をどのように活かすかが異なる点であり、例えば往年の“マイコン少年”ならば、ゲームプログラムの改造を通じてパソコンの構造やコードの仕組みを習得した……なんて体験もあることだろう。

 本セッションは2部で構成されており、まずはCEDECにて開催されたSECCON2014の国内予選横浜大会の表彰式。続いて、SECCON実行委員と、黎明期のパソコン普及に多大な影響を与えた漫画家で現在は京都精華大学マンガ学部マンガ学科で教鞭を執る、すがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”という構成で行われた。

セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_02
セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_04
セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_05
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▲特別審査員のすがやみつる氏より横浜大会優勝者の“れっくす”氏へ表彰状が渡される。副賞は80年代前半のマイコン少年なら知らない人はいないだろう、すがや氏の入門漫画“こんにちはマイコン”(サイン入り)という粋なもの。決勝進出者も全員登壇し、栄誉をたたえた。

開発者とギークの先駆けが語る古のハッカー体験

 “今昔ハッカー対談”は、SECCON実行委員の竹迫良範氏と宮本 久仁男氏がトークのお題を振る形で進行。幼少のころはゲームをやりたさで機械語を覚えたほどのゲーム好きで、現在は組み込み系OSの開発者として活躍する坂井 弘亮氏と、坂井氏にも影響を与えた漫画「ゲームセンターあらし」の著者すがやみつる氏という大ベテランが、“濃い”体験談をつぎつぎと明した。

セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_12
セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_14
▲竹迫良範氏(サイボウズ・ラボ株式会社 SECCON実行委員長)
▲宮本久仁男氏(NTTデータ/情報セキュリティ大学院大学/NTTDATA-CERT/シニアエキスパート/客員研究員
セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_16
セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_17
▲坂井弘亮氏(SECCON実行委員/セキュリティ&プログラミングキャンプ(現セキュリティ・キャンプ)講師/技術士(情報工学部門)/アセンブラ短歌 五歌仙のひとり(白樺派))
▲すがやみつる氏(京都精華大学 マンガ学部マンガ学科 キャラクターデザインコース専任教員)

 トークは坂井氏の「ゲームセンターあらしを見て、“練習”をしていました! コマを回すんですよ。でも、唯一会得できたのは“水魚のポーズ”」と元ゲームキッズらしい発言から始まった。
 「ゲームセンターあらし」の主人公、石野あらしがゲームをクリアするために編み出した必殺技“炎のコマ”を練習していたのだとかで、会場は爆笑。すがや氏は「当時よく使われていたCPU、8080のクロックサイクルは1MHz。ということはコマを回すアクションで、一秒間に100万回レバーを動かせばコンピューターの動作を追いこすだろう考えたものですが、そうこうしているうちにCPUが進化して2MHzになってしまった。ましてや(クロック周波数がギガヘルツになっている)今のCPUでは絶対に無理ですね(笑)」と当時の裏話も披露。パソコンに触れて勉強しているうちに思いついたものとのことで、いかにも“ハッカー”らしいエピソードでもある。
 “最初のハック体験”というテーマでは、少年時代はラジオ機器の自作を通じて「クリスタルイヤホンをマーブルチョコのケースに収めて作ったマイク」などの機器を編み出したというすがや氏に対して、坂井氏は、兄所有のパソコンのキーボードを分解して、タイマーICと連動したスペースキーの連射装置を自作に挑んだという。「楽をするために、面倒なことに挑むのがハッカーなんでしょうか(笑)」というまとめには一同が思わず納得した。

好奇心がBASICと機械語のプログラミング技術を磨いた

 80年代前半は漫画『ゲームセンターあらし』が大ヒットした売れっ子漫画家でありながら、旺盛な好奇心でパソコンの世界にのめりこんでいったというすがや氏の、歴史的(?)な証言もつぎつぎと登場した。「最初に買ったのはシャープのMZ-80Kというパソコン。19万8000円でモニターから何からついていました」といい、初めて自作したプログラムは確定申告の作業を補助するプログラムだったという。ただし、プリンターがなかったので、モニターに表示されているものを手で書き写すというもの。しかし、漫画執筆の合間にこれまで徹夜で行っていた作業が、5分でできたという。
 ほかにも、国内最初期のアドベンチャーゲーム『ミステリーハウス』が登場したとき、「毎日執筆で忙しいのにゲームで遊びたい一心で、BASIC記述のプログラムリストを出力。中身を解析しながら解いていた」、「思考スピードの早いオセロゲームを作りたくて、機械語をBASICのコマンドとひとつずつ照らし合わせながら覚えた」……という体験談も。対する坂井氏も少年時代に楽しんでいた機械語によるゲームプログラムの改造体験談で対抗(?)。ダンプリスト(メモリの情報を直接引き出した16進数によるリスト)の中から03という数字を代入する部分を検索で見つけ出し、10に置き換えていたという。これがどうなるかというと、本来残機が3のゲームが残機10から始められるのだ。「結構感動しました」というオチに、会場は爆笑。

セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_18
セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_19
セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_20
セキュリティー技術専門家とすがやみつる氏による“今昔ハッカー対談”【CEDEC 2014】_21

ハック魂はいまなお健在!?

 現在は63歳になるというすがや氏。54歳のときに早稲田大学のeラーニング(ネットワークを通じた学習)コースを受講する大学生になり、ここでプログラム言語のPython(パイソン)と統計学を学んだという。もともと「統計学の“ト”の字も知らなかった。高校時代は微分積分を学んだ覚えがない」というすがや氏が、みんなが使える統計ソフトがないという理由で自作し、ホームページで公開していたり(⇒ちなみに、そのページはこちら)、2012年には財務省の職員に統計学を教える体験もしたというから驚きだ。
 坂井氏も自身が提唱している“アセンブラ短歌”の活動を紹介。これは5・7・7・5・7・7個(バイト)の計31バイトの機械語コード(コードは二桁の16進数。命令やデータを表す)によって実際に動くプログラムを作って、その並びや出力結果の趣を楽しむという遊び(⇒ホームページはこちら)。この教科書を作りたいという一心で複数の出版社に企画を持込み、好感触の版元をなんとか説得して機械語の本の刊行にこぎつけるという“出版社ハック”の試み(?)も語った。
 両人ともこれらのエピソードから伝わるのは、形は違えども今なお健在の(いい意味での)“ハッカー”マインド。少年時代から続くコンピューターに対する遊び心と好奇心は、聴講者にとって大きな刺激になったのではないだろうか。