『維新!』特有の難問も。いかに解決していったのか?

 2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”。3日目の9月4日に開催されたセッション“『龍が如く 維新!』制作事例:進化し続けるイベント制作の運用手法とクロスへの新しい挑戦”をリポートしよう。

 約1年に1本という驚異的ペースで、かつクオリティーの高い作品を作り続けている『龍が如く』開発チーム。このセッションでは、『龍が如く』を構成する要素のうち、“シネマチックシーン”、つまりイベント部分の制作手法について解説された。

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▲講演を主導したのは、セガ第一CS研究開発部チーフマネージャー 工藤裕一氏だ。

 まずは、イベント製作チーフを務める、セガ第一CS研究開発部の斉藤裕司氏が登壇。数時間規模に及ぶカットシーンを、わずか10ヵ月で完成させるスケジュール感覚を解説するとともに、同時に高いクオリティーを保つためのポイントが説明された。

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 各工程での注意点は細に入るが、全体で共通するのは、関係するチームの責任者とともに、入念なミーティングを行うというところだ。これは、各工程でコストをかけるべきポイントをしっかりと絞るとともに、決めておくべきことを明確にし、後になって大きなリテイクが生じるリスクを減らすことにつながる。

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▲作業の工程。イベント制作チームが担当するのは、“フェイスターゲット準備”と“ライティング”の部分。さらに、全体の進捗管理と、外注に出す部分の品質や進捗管理、制作に用いるツールの管理も、イベント制作チームで受け持つ。管理には、“REDMINE”を使用しているそうだ。
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▲各パートでチェックしておくべき事柄は、非常に実践的なもの。“この段階でプロデューサーやディレクターに見せると、納得してもらいやすい=チェックを通りやすい”、といった部分にも配慮されているそうで、それも全体の工程をスムーズにするうえでひと役買っているのだとか。

 また進捗管理の重要性という点で、斉藤氏は、プロジェクトが終わるたびに、毎回“コストマップ”を作成するそうだ。これは10ヵ月間の作業時間をパーセンテージで表したもの。それによると、なんと管理関連に40%の時間を費やしていることになるのだそうだ。このことから斉藤氏は、イベントパート制作にあたっては、管理業務もしっかり見積もっておくことが重要だと強調した。

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 まとめとして斉藤氏は、各フェーズでの確認事項は、
・力の入れどころが明確になる
・リテイク回数を最小限にできる
・意志決定をするタイミングとして最適である
 といったことを目的に設定するべきである、と語る。そして、管理ツールを用いて、膨大な量のスケジュールの共有とタスク忘れの防止を徹底できる体制をとることが重要、と改めて強調した。

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 ここで再び工藤氏が登壇。『龍が如く 維新!』では、現代ものの作品にはないような、“揺れもの”が多数登場するが、それは従来のシリーズ作品の制作フローにはない、プラスアルファの制作コストになる部分。それをいかにクリアーしていったかが、ここからのテーマだ。
 工藤氏の説明によると、『龍が如く 維新!』において“揺れもの”の表現を実装しようとした場合、その総量は、従来通りのやりかたであれば、だいたい6年分の作業を要するほどのものになるのだという。
 もちろんそれは許容されないので、解決策として、作業する人員を3名に増やすこと、複数マシンによる分散処理を採用すること、デザイナーが担当する作業を絞り込むこと、そして“Cloth Engine”を自主開発することで、作業を飛躍的に効率化させることに成功したのだそうだ。

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▲人員やマシンは、増やせば増やしたぶんだけ作業が速くなる、というものではない。ほかのパートとの兼ね合いや、分割して作業したシーンの統合などにも時間がかかるため、一定以上の増員、増台は、コストに見合わなくなるわけだ。
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▲標準的なclothシミュレーションでは、問題点が多すぎ、デザイナーにかかる負担をほとんど減らすことができない。
▲改善イメージ。本当にデザイナーにやってほしい作業を絞り込み、残りをコンピュータにやらせる。
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 “自動化”の部分については、リードプログラマを務めるセガ第一CS研究開発部・坂本吉紀氏から詳しく解説された。仕組みとしては、“監視プログラム”が揺れものを付けるシーンを発見すると、自動化プロセスが実行されるようになっているのだとか。ここで意図しているのは、“モチベーションが上がらない、つまらない作業は全部自動化してしまおう”ということだ。

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▲clothのアサインstepにおいてトライ&エラーをくり返したことが、効率のよい自動化につながった。
▲実際にコリジョンをアサインしているシーン。キャラの大きさに応じて自動でコリジョンを配置する。また、アニメーションに対してコリジョンが自動的に変形する仕組みも組み込まれているそうだ。
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▲標準のclothシミュレータの問題はほぼ解消され、自然なアニメーションに。ここから、よりかっこいいシーンに仕上げる作業は、デザイナーにとっても楽しい仕事となる。
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▲揺れもの処理特有の問題も発生。これらに対しても、細かく対応を加えていった。

 最後に改めて坂本氏が強調したのは、楽しいデザイン作業以外は極力自動化したことが、効率を上げるだけでなく、スタッフのモチベーションを上げることにもつながった、ということ。「楽しい作業しかないので、みんな遅刻せず、定時に出社します(笑)」(坂本氏)と、その効果は絶大だったのだそうだ。


 最後に、質疑応答の時間が設けられた。その内容を一部紹介しよう。

――マネジメントのタスクが40%以上にも達するとのことでしたが、そこは専任のプロジェクトマネージャーが担っているのか、それとも斎藤さんが兼任されているのですか?

斎藤氏 専任の人がめちゃくちゃほしいのですが、兼任しています(苦笑)。ただ、ひとりだけでやってしまうのはよくないですし、これからはマネージメントを経験していくことも大事になると思いますので、なるべく、その作業も割り振ってやれるようにしていますね。

――シミュレーター、エンジンを作っているときに、デザイン側から新たな機能の要望があった場合、プログラマはすべてを受け止めるのでしょうか? それとも最初からコストは決まっていて、その中でやりくりをする感じなのでしょうか。

工藤氏 全部ではないですが、基本的には、ほぼすべて受け止めます。それが内部で作るよさなんですよね。けっきょく、権利とか細かい話にならず、がんばれば全部できるので……吸収します(笑)。

――自動化ツールについてですが、これはいままで継続して作られてきたものなのか、それとも『維新!』だけのために作られたものなのでしょうか。また、制作にはどれくらいの期間がかかっているのでしょうか。

坂本氏 自動化ツールは、今回のために作ったものです。ただ、そのノウハウは、いまも違うものにも使っています。制作期間はだいたい2週間くらい。プログラマふたりで、ダダッと作った感じです。

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