音の深堀りと応用をくり返し、『初音ミク』が生まれた
2014年9月2日~4日、パシフィコ横浜にて日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催された。本記事では、開催3日目に行われたセッション“地方から世界に発信する初音ミクとコンテンツの未来”のリポートをお届けする。
セッションの講師を務めたのは、クリプトン・フューチャー・メディアの熊谷友介氏。2002年にクリプトン・フューチャー・メディアに入社し、2007年には音声合成ソフト『初音ミク』、『鏡音リン・レン』のプロジェクトに参加。近年は、モバイルコンテンツチームのマネージャーとして、スマートフォン向けのコンテンツの企画・開発に注力している。
熊谷氏は、クリプトン・フューチャー・メディアの成り立ちや、『初音ミク』を始めとする各事業を展開していくうえでのモットー、これからのコンテンツのありかたについて語った。
モバイルコンテンツチーム マネージャー
熊谷友介氏
■クリプトン・フューチャー・メディアの事業
クリプトン・フューチャー・メディア(以下、クリプトン)は、音楽制作ソフトの販売や、コンテンツ投稿サイト「piapro」の運営などを行っている企業。音声合成ソフト『初音ミク』を生み出した企業として広く知られている。
クリプトンはもともと、シンセサイザーで加工した効果音などを販売する事業などを行っていた。そこから、“音で品質・品揃えを広げていく”ことをテーマに、“深堀り”と“応用”をくり返していったという。
“深堀り”とは、音のことをひたすら突き詰めていくこと。“応用”は、深堀りで得た知識を応用し、新しいビジネスを見つけることだ。
クリプトンは、“深堀り”の過程の中で、100ヵ国以上、200万以上の音源を集めた。そして、集めた音を“応用”して、これまでにない形で販売できないかと考えた。その手段のひとつが、携帯電話だった。
2000年、携帯電話でPCMデータ(オーディオデータ)を再生できるチップが登場。クリプトンは、このチップを利用すれば、携帯電話を所持している人すべてがユーザーになると考えた。2001年、携帯電話向け効果音サイト「ポケット効果音」を立ち上げ、クリプトンが取り扱っていた音源を携帯電話向けにカスタマイズして配信。このサイトへの反響は大きく、月間数千万円規模の売り上げを達成したという。
その後もクリプトンは深堀りと応用をくり返していった。その活動の中で『初音ミク』が生まれ、創作の輪が世界中で広がることになった。
■クリエイターのためのクリエイターとして
熊谷氏によると、クリプトンは、みずからのことを“メタクリエイター”と呼んでいるという。音楽やイラストなどのコンテンツを生み出す“クリエイター”が、創作活動を行ううえで必要とするモノや場所、サービスを作る、“クリエイターのためのクリエイター”という意味だ。
クリプトンが運営するCGM型コンテンツ投稿サイト「piapro」も、クリエイターのために作られたもののひとつ。クリプトンは、あるクリエイターが作ったものに対し、ほかのクリエイターが共感し、新たなコンテンツが生まれるという創作の連鎖を大事にしたいと考え、“Piapro Character License”という規約を作った。この規約内であれば、クリエイターは誰でも創作が楽しめる。
また、北海道を拠点とするクリプトンは、「北海道ならではのコンテンツを使って、未来へつながる創作の場を作ろう」と、新たな形態のカフェ“MIRAI.ST cafe”を考案。2014年10月のオープンに向けて準備を進めているという。“クリエイターのための新しいプラットフォーム”として、飲食スペース、物販スペース、多目的スペースなどが用意され、Wi-Fi、電源も完備されるそうだ。このMIRAI.ST cafeは、札幌市中央区の複合商業施設“ノルベサ”内に、10月上旬にオープン予定。
■新作アプリ『初音ミクぐらふぃコレクション なぞの音楽すい星』
深堀りと応用を続け、コンテンツを作り続けてきたクリプトンの新たな挑戦が、スマートフォン用RPG『初音ミクぐらふぃコレクション なぞの音楽すい星』だ。
『初音ミクぐらふぃコレクション なぞの音楽すい星』は、音が失われてしまった世界を舞台にしたRPG。各ステージに落ちている♪マークを集めていくと、BGMの音がどんどん増えていき、最終的に、ファンにはおなじみの人気曲になるという。
『初音ミクぐらふぃコレクション なぞの音楽すい星』は、2014年9月下旬に配信予定。現在、事前登録受付が行われているので、こちらのページをチェックしてみてほしい。
■クリプトンのモットーが生み出した、3DCGシステム
クリプトンは、“自分たちでできそうなことは、とりあえずやってみる”ことをモットーとしている。熊谷氏は、なんでも外注に任せてしまうと、ノウハウが蓄積されないため、“応用”ができなくなるから、とのことだ。先ほど紹介した『初音ミクぐらふぃコレクション なぞの音楽すい星』を作れるまでに至ったのも、コンテンツ制作、デザイン制作、システム構築を自社で行い、ノウハウを得てきたからだという。
そんなクリプトンが作りだしたもののひとつとして、熊谷氏は、“3D CGシステムの開発”を挙げた。3DCGのミクをリアルタイムで動かすシステムを、Unityを使って作りだしたそうだ。
このシステムを使った例として紹介されたのが、アーティスト・BUMP OF CHICKENとミクが共演した、楽曲「ray」のミュージックビデオ。このミュージックビデオの中で、BUMP OF CHICKENのメンバーと、中央の筒状スクリーンの中のミクは同時に撮影されている。実写カメラにセンサーを装着し、カメラの動きに従って、ミクの位置を動かすシステムを導入したという。
自社でできることを追及し、深堀りと応用で事業を拡大して、創作の輪の原点となる『初音ミク』を作り出したクリプトン。熊谷氏は、これからの時代、“共感を生むコンテンツ”こそが、新しいコンテンツを発信する道筋を生むと述べ、「創作の輪が広まっていく土台をこれからも作っていきたい」と語り、講演を締めくくった。