ようやくウェアラブルの時代が到来!?
2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催されている。ここでは、開催2日目に行われた神戸大学大学院 工学研究科 塚本 昌彦教授による基調講演“ウェアラブルコンピューティングの動向とウェアラブルゲームへの展開”をリポートしよう。
塚本教授は、2001年3月より今年で13年間、HMDおよびウェアラブルコンピュータの装着生活を行っている(本講演でももちろん装着)。「すぐにウェアラブルの時代がくると思ったが、2001年から13年間、いまだウェアラブルの時代は来ず、孤独です(笑)」(塚本)。塚本教授は、2003年にもCEDECで講演を行っており、その際には、もうすぐウェアラブルコンピュータの時代が来ることを予言したが、いまだそれは現実のものとなっていない。そのことについては、「世の中が悪い!」と断言し、聴講者から笑いを取った後、経済的な事情もあり、日本企業の創造性が失われてしまったことなどを挙げ、欧米・アジアから出てきているウェアラブルデバイスについて、本来なら10年前に日本から立ち上がっているべきだった、と述べた。
現在のウェアラブルデバイスの動向――いまウォッチに注目すべき
Google GlassやiWatchと噂されているアップルの新デバイス、Android Wearはじめ、米国を中心として、現在、ウェアラブルデバイスへの注目が急激に高まっている。
そしていま、もっとも注目されているのがウォッチ(腕時計)型デバイス。というのも、2014年8月末には、LGエレクトロニクスがスマートウォッチ第2弾“LG G Watch R”を、サムスン電子は、Androidスマートフォンと連携する腕時計型端末“Gear S”を発表。そして、サムスンとLGに先行される形になったアップルのiWatchもそろそろ発表では、という憶測も出てきている。塚本氏は「iWatchが発売されると、これまでのウェアラブル端末とはケタ違いの販売台数になるでしょうから、ウェアラブルがいよいよ普及し始めるかもしれません」と期待を寄せる。
今後はAndroid Ware、Tizen(Samsung Gear Sなど)、そしてこれにiOSも加われば、情報系ウォッチのプラットフォーム争いも激化していきそうな気配だ。
そのほか、ひと言でウェアラブルデバイスといっても種類はさまざま。ヘッドマウントディスプレイ型、メガネ型など、いろいろあることがわかる。ちなみに、Oculus Riftなど仮想現実を楽しむようなものは、本講演の趣旨のウェアラブルデバイスとは呼ばず、常時電源オンでハンズフリーで使え、人間の能力をコンピュータで増強するようなデバイスのことを指す。
ウェアラブルを使ったゲームへの展開
前述のように、ウェアラブルデバイスは、身に付けることで人間の能力をコンピュータで増強し、より便利に健全的に生活を楽しめるものであるべき、というのが塚本氏の考え。それはゲームでの利用に関しても同様で、たとえば、鬼ごっこや缶蹴りといった体を使ったシンプルな遊びにウェアラブルを利用することで、高度で複雑な新たな遊びが作り出せるのではないか、と提案する。「コンピュータゲームはバーチャルな方向に進化してきましたが、ウェアラブルゲームでは、リアルの遊びを“再考”することが重要」だと説いた。
ただ、転倒時、交通事故等の危険、人体的影響などウェアラブルデバイスをゲームに活用する際、気をつけなければいけない課題もまだ残っている。バッテリー、センサーの精度、通信遅延やディスプレイの視認性など、デバイス的にも改善すべき余地はまだある。
塚本教授は、最後に次のようにまとめた。「Google GlassやAndroid Wareなどによって、ウェアラブルはようやく広がりを見せています。それらを使った昔ながらの遊びやスポーツをベースにした、新しい遊びを作り出すことで、心身の健全な育成が推進できる。また、おもしろい実作業をゲーム要素を加えることでおもしろくできる。そういったことを担えるのが、ウェアラブルデバイスだと思います」(塚本氏)
2003年の講演時にも「これからはウェアラブルだ!」と主張した塚本氏。当時は、3年以内に(1年以内の可能性もアリ)原宿・渋谷の若者の50%はHMDを装着、5年後には空前の鬼ごっこゲームのブームが到来する、などといった多少、ユーモアを交えた予測をしたそうだが、「ようやく可能性が出てきたかな」とニヤリ。果たしてウェアラブルはブレイクするか、今後の動向に注目したい。