『俺の屍を越えてゆけ2』桝田省治氏×テレビアニメ『ログ・ホライズン』石平信司監督 特別対談完全版

『俺の屍を越えてゆけ2』で注目を集めるゲームデザイナー・桝田省治氏と、テレビアニメ『ログ・ホライズン』の石平信司監督の対談が実現!

●PS Vitaでのリリースが必然だった『俺屍2』

 『俺の屍を越えてゆけ2』(以下、『俺屍2』)で注目を集めるゲームデザイナー・桝田省治氏と、テレビアニメ『ログ・ホライズン』(以下、『ログホラ』)の石平信司監督の対談が実現! 今秋よりアニメ第2期が始まる『ログホラ』は、じつは桝田氏ががっつりと監修している作品。桝田氏と石平監督がタッグを組み、ゲーム好きが見て納得のアニメになっているのだ。ゲームデザイナーとはまた違った側面を見せる桝田氏と、ゲーム好きな石平監督のこだわりに注目! 

※本記事は、週刊ファミ通2014年7月31日号(2014年7月17日発売)に掲載されたものに加筆・編集を行った完全版です。

桝田省治氏(左)
有限会社マーズ代表取締役。ゲームデザイナーとして『俺の屍を越えてゆけ』シリーズなど多数の作品を生み出し、作家としても活躍している。

石平信司監督(右)
アニメ監督・演出家。『ログ・ホライズン』や『FAIRY TAIL』などを手掛ける。『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の絵コンテも担当。

――おふたりは、『ログホラ』の監修とアニメの監督というつながりがありますが、お付き合いは長いのでしょうか。

石平信司氏(以下、石平) 『ログホラ』のアニメの準備からなので、おととしの10月くらいからですね。それからほぼ毎週、シナリオの打ち合わせでお会いしているのですが、桝田さんの出されるアイデアがおもしろいんです。今週の話の盛り上がりはどこにするのか、次週への引きになる部分はどうするかという話を、いちばん先に提案されるのも桝田さんなんですよ。桝田さんが話される内容がおもしろいので、そのうち、作られているゲームにも興味が湧いてきて。そのときちょうど、『俺屍2』を制作されていたんですよね。

桝田省治氏(以下、桝田) アニメの監修のついでにやってるの(笑)。さっき、僕がプレイしているときに横から見てたよね。

石平 自分で作られたゲームなのに、「あれ、効かない」とおっしゃってました(笑)。

――制作者も楽しめるってことですね(笑)。石平監督は、『俺屍2』を見て、どういった印象を受けられましたか?

石平 ビジュアルがカッコいいです。僕は和柄が好きなのですが、エフェクトも全部和風だったので、そこに食いつきました。ちょうど金太郎みたいな恰好をしたキャラクターが映っていて、何だろうって思って覗いたら、神様だったんですよ。名前を見たら“滝のぼり金太”……こんなのもいるのかって驚きました(笑)。僕はゲームを遊ぶほうなのですが、日本産のRPGは長いことプレイしていなくて、『俺屍2』は久しぶりにやらせてもらおうと思っています。

桝田 本当はさっきまで、僕がゲームデザイナーだって知らなかったでしょ?

石平 知ってますよ!(笑)。『俺屍2』のセリフの表示について話をしたじゃないですか。

――表示について、ですか?

石平 以前、桝田さんが、『俺屍2』で表示される文章の精査がたいへんだとおっしゃっていて。『ログホラ』で、シナリオの決定稿から絵コンテを起こすとき、尺に収まるようにセリフの量を調整するのですが、セリフにムダな言葉がないので削るのがすごく難しいんです。2、3行のにゃん太のセリフを考えるのに、2時間以上もかかったりするときがあります。ゲームもそういったことがあるんですよね?

桝田 『俺屍2』では、キャラを大きくしたいから、3行表示できるウィンドウを2行にしていいかと言われて、オーケーを出したんだけど、2行だと表示できる文字数が減って、文章の精査がより難しくなったということがありました。とくに、長くなってしまうので、セリフには敬語が使えないなと。よく、「なぜコーちんをああいう口調にしたんですか?」って聞かれるけど、敬語だと長くなって、ウインドウに入らないからです(笑)。

――だから投げやり感のあるしゃべりかたなんですね。最初は敬語の予定だったとは、いまとなっては意外です。

桝田 僕が最初にナビゲーターとして推したのは、前作のお輪さんとか、お業さんとか、妙齢の女性ですから。ユーザーを叱るお母さんという構想でしたが、ほぼ全員に反対され……。じゃあ何がいいのかと聞いたら、「獣で、幼くて、かわいいもの」。それでイタチになりました。

――最初は、男の子バージョンがあったそうですね。

桝田 当初は両方選べるようにしていたんだけど、作業量的にどちらかに絞ることになり、その際に、とっつきやすさを考えて中性的な女の子、という方向性にしました。そうしたら、中年女性を諦めた時点で口出しする気がなくなっていた僕に(笑)、佐嶋さん(※キャラクターデザインの佐嶋真実氏)が、「イタチだったら夏毛と冬毛がありますよ」と、2バージョンのコーちんを提出してきたという……。

――毛色による違いを出したのは、佐嶋さんのアイデアだったんですか。

桝田 アイデアというか、佐嶋さんは、「イタチといえば夏毛と冬毛があるのは当たり前」だと思っていた(笑)。それで、ウインドウ2行ぶんでセリフを書いてみたら入らない。セリフを読ませるために、プレイヤーにボタンをたくさん押させるのはイヤだったので、単語を並べて最低限の助詞や助動詞をつけた雑な言葉にしたわけです。声は、誰にやってもらおうかなと何ヵ月も考えていたときに、たまたま別のアニメの打ち上げで酔っている福圓美里さんを見かけて、ちょっと呂律の回っていない感じがかわいかったので決めました(笑)。

――コーちんは誕生秘話が盛りだくさんですね(笑)。表示については、据え置き機であれば起きなかったことだと思うんですが、今回、『俺屍2』をPS Vitaで出されたのには理由があるんですか? 

桝田 それは、PS Vitaしかあり得ないからですよ。いまのSCEが出している据え置き機にみんなが求めているものは、おもに絵のクオリティー、どれだけ綺麗かでしょう。それは、このタイトルでやるには制作コストが見合わない。ほかのメーカーならPSPという選択肢もあるけど、いまSCEから出すからには、それはないですよね。そうすると、PS Vitaになる。

石平 俺はPS Vitaを持っていなかったんですが、おかげさまで購入のきっかけになりました。『俺屍2』は短時間で区切って遊べるとも聞いていて、合間にできるのもいいなと思って。

桝田 そういう方も、それなりにいるでしょうね。『俺屍』のユーザーは、ほかのソフトより年齢層が高い人たちが多いし、ある程度資金には余裕があるだろうから、きっかけがあれば買ってくれる。

――とくにPS版をやっていた世代は、そうですよね。15年くらい経っていますし。2011年に、PSPで『俺屍』のリメイクを出されましたが、それが今回の制作で活きたりはしたのでしょうか。

桝田 毎回行うこととして、ユーザーがいつ、どこでゲームをやるかという環境の調査、意見の収集があって、そこに合わせてゲームデザインを考えます。いちばん最初のPS版だと、家に帰ってから寝るまでの30分というのが、僕の中で考える“ゲームをやってもらう時間”。ところがPSPで出すとなると、電車の中でやる人が多いだろうし、もう少し短く区切って遊べるようにとか、音に頼り過ぎてはいけない、といった違いが出てきます。そういった意味では、PS Vitaで出す際の基礎になったかもしれません。結果論ですが、携帯機は『俺屍』シリーズに合っていると思いますよ。空いている時間に少しずつ進められますから。

石平 スマホでゲームをやっている人が多いのも、空き時間にやれるというのが大きいからでしょうね。俺も、『ログホラ』の1期で忙しくなってきたころから、据え置き機でゲームをやる時間がなくなったので、スマホのアプリばかりやっていました。『俺屍2』は8月くらいから少しずつ遊べるかな。ようやくじっくりとゲームをやれそうで楽しみです。

■ゲームデザイナーになっていたかもしれない石平監督と、主夫の桝田氏

――石平監督は、ゲームがお好きだとうかがっています。週刊ファミ通も愛読していただいているそうで、ありがとうございます。

石平 週刊ファミ通は創刊号から買っていますよ。ゲームは、ゲームウォッチからやっています。エポック社のテレビベーダーも(笑)。俺はそもそも、最初に就職したスタジオが、ゲームを作っている傍らでアニメの仕事もしている会社だったんです。それでゲームは好きだし、いいなと思ってその会社に入ってみたら、アニメに回されて。

――そのときゲーム制作を担当していたら、ゲームクリエイターになっていたかも?

石平 作れたかどうかは、わからないですけどね。確かドリームキャストくらいの時期に、多少、ゲームの開発に関わっていたこともありました。プランニングを担当していて、いろいろと案を出したら、プログラムを担当する会社に「これはできません」、「無理です」とことごとく突っ返されて、ドヨーンとしたという(苦笑)。それと、女の子の顔のグラフィックには1ドット単位でリテイクを出されると聞いていたんですけど、それが本当だったのには驚きました。

桝田 それはそうだよ。1ドット単位で作っているんだから。

石平 でも、瞳の黒い部分の、左上の1ドットを削ったほうがいいとか、そこまで細かく見るものなのかと衝撃を受けたんですよ。アニメ業界も、ほかの業界から見たらいろいろと驚くことがあるかもしれないですけど。とくにお客さんからしたら、マンガ、映画、ゲーム、アニメは、いっしょくたに見ている部分も大きいかと思うんですが、全部、ぜんぜん違うんですよね。

桝田 それはあるね。そういう“違い”に関して、翻訳をする、アドバイスを送るのが僕のやっている“監修”の仕事でもある。たとえば、“疲れた”という表現をするとします。小説であれば、“疲れた”っていうのを、“鉛が入ったようだ”とか、そんなふうに3行も4行もかけて説明ができる。でもこれをアニメでやると、部屋のどこにそのキャラを置いて、カメラはどこから見て、どこに照明を当てて、声優にどういう演技をやらせるかで、ため息ひとつだけで疲れていることがわかる。一方、ゲームなら、“疲労”というパラメーターがあって、それが上がるとゆっくりとしか歩けなくなる……というような表現方法があり得る。同じ“疲れた”でも、小説とアニメ、ゲームでは、それぞれ最適な表現方法が異なるので、翻訳が必要なんです。

――なるほど。それぞれのメディアの特性を知っていないとできないことですね。それにしても、桝田さんはゲームのほかに本も書かれますし、監修のお仕事もされていて、幅広い活躍をされていますけれど、メインとしているお仕事はどれになるのですか?

桝田 僕の本業は主夫です。これ、冗談じゃなく本当なんですよ(笑)。

――メインがそちらなんですか!? その傍らでゲームやアニメを作られていると。 

石平 でも、ゲームを制作されているけれど、それほど新作などのプレイはしないんですよね。アクションゲームはとくに苦手とか。

桝田 うん、ゲームはやらないですね。ほぼ開発機しか触りません。ゲームには、そこまでこだわっていないんです。“これはおもしろいな”と思うことを再現する媒体が、ゲーム向きならゲームを作りますし、小説として再現するほうがわかりやすいと思ったら、僕が書くか、「こういうネタがあるんだけど、君、書いてみない?」と人に勧めます。

――日々の暮らしの中で、心が動くようなことがあったら、それを表現できる媒体を考えるということですね。人脈や膨大な知識がないと、できないことです。

桝田 必要なのは口がうまいことと(笑)、データですよ。僕は、広告代理店にデザイナーとして入ったんですが、配属されたのはマーケティング部でした。名だたる大学の人たちがいっぱい入社してきた中で、マーケティングの適性テストでいい数字が出たらしくて。せっかくデザイナーの実技試験を受けたのにね(苦笑)。でも、調査とゲームデザインは、よく似ています。調査というのは、必要な数字を、何千、何万という単位で集計して、傾向を分析し、つぎの状況を予想すること。つまりは数字だけを見て、市場の形を想像することです。たとえば、現在の売り上げなどの数字から、“来月のスーパーの店頭”がどうなっているかを予測するようなもの。ゲームはこの逆。僕は“来月のスーパーの店頭”を作りたい。そのために、現在の時点で材料としてどんな数字が上がっていれば、そこまで持っていけるのかを考える。その数字を自分で作っていけば、僕の望む形になるということなんです。それが、ゲームデザインです。

■橙乃ままれ氏を見出した桝田氏の、スゴいプロデュース能力

――アニメの制作においては、桝田さんからはどういうお話があるのでしょうか。

石平 「原作ではこうだけど、こうしたほうがより伝わるんじゃないか」といったように、けっこう細かいところまで、具体的に見ていただいています。たとえば、シロエたちが宙に見えているメニュー画面を指でスワイプするというアイデアは、桝田さんから出たものです。舞台が2018年と少し未来なのと、視聴者の皆さんもスマートフォンで慣れているということから、あのようになりました。

――桝田さんは、それを最初の段階からイメージされていたのですか?

桝田 うちの娘の小学校の卒業式のとき、「うるさい!」と怒鳴った先生が、壇上でスマホをいじり始めて。それを見てカチンと来たんだろうけど、小学生たちがその先生をまねて、一斉に宙に手をかざしてスワイプのような動作をし始めた。その“エアスマホ”の様子を見て、「ああ、小学生はこういうアクションをするんだ」と、僕はちょっと感動したんだよね。だから、夕方5時台のアニメでこれをやったら、小学生にウケると思ったんです。

石平 へぇ、そこから発想されたというのは、いま初めて知りました。確かにわかりやすいし、まねをしやすいですよね。

――身近なところから出たアイデアだったのですね。そもそものお話なのですが、桝田さんが原作の監修という立場で関わられているのには、どういった経緯が? 著者の橙乃ままれ先生とはお知り合いだったのでしょうか。

桝田 何年か前のゴールデンウィークに、たまたまネットで彼の小説を読んで、ブログに感想を書いたら、両者を知っている人が連絡を取ってくれたんです。そのとき、PC上で1日半くらいかけて読んで、もう一度読み直したい箇所がいくつかあったんだけど、モニターで横書きの文章をスクロールさせながら読むのがしんどい(笑)。それで、縦書きで本になったのを見たいと思って、「どこかから出版の話ないの?」という話をしたら、「来てない」と言うので「ちょっと待て」と。それで翌日、僕が知り合いの編集者に話を持っていったんです。

――桝田さんがみずから売り込みに!?

桝田 その編集者は、彼の作品を読んでいなかったんだけど、おもしろいし、話題になっているという話をしたら僕を信じると言って。ところが、「じゃあ、桝田さんが編集方針まで全部監修してください」と、わけのわからない巻き込まれかたをして(苦笑)、その日のうちに、イラストレーターから何から、本にするにあたって必要なスタッフに連絡しまくりました。

――それで、まるごと面倒を見ることになったと。その後はどうされたんですか?

桝田 その作品……『まおゆう魔王勇者』は、僕がおもしろがるくらいだから、少し尖りすぎていました。絶対に採算は取れるけれど、儲かるとは思っていなかった。何しろ、自分が再読したかっただけの本だから。でも、ままれ君に初めて会ったときに、「『まおゆう』は、僕に任せてくれれば、採算が取れて、キミにもそれなりのお金が入るように作るけれども、プロになりたいの?」という話をしたら、彼は「プロになりたいと思います」と真摯に答えた。だったら『ログホラ』のほうが売りやすいから、『まおゆう』といっしょに契約しておいたほうがいいとアドバイスしたんです。

――まさに総合プロデューサーですね。桝田さんの意見が、『ログホラ』の小説の内容に影響することはあるのですか?

桝田 僕は、わかりにくい部分や、読者としてもう少し深く知りたくなるような部分を指摘するくらいですよ。先にネットで公開しているので、それを本にするにあたって、よりテーマを明確にしたほうがいいとか、人気のあるキャラクターのシーンを膨らませると喜ばれるとか。『ログホラ』の本は、ままれ君を中心に、編集、イラストやレイアウトを担当してくれている人など、複数の人間がいっしょになって作っているんです。だから、イラストレーターが「ここのシーンでは、こういう絵が合うから、服を変えてほしい」と作家に言ったりする。それが、いい方向へ回っていると思います。わりと若い女性のスタッフが多くて、僕やままれ君はおっさんだから(笑)、彼女たちの視点が活かされることも多いんですよ。

石平 おっさん、って(笑)。

桝田 「そのほうが女性的にはいい」と言われたら、「なるほど」、「そうしろそうしろ」って(笑)。

――そういった相乗効果もあっての、単行本での見せかたになっていると。サイズや価格を、いわゆる“ライトノベル”の仕様にしなかったことにも理由があるのでしょうか。

桝田 『まおゆう』の話を僕が持ち込んだ相手の編集者は、ファミ通文庫とは違う部署の所属だったのもあって、出すなら文庫じゃないなと。文庫は電撃が棚をたくさん持っているし、そこで勝負してもね。だから『まおゆう』は、1000円から1300円までの価格帯にして差別化し、ユーザーはもちろん、図書館を狙うことにしました。1000円くらいのものだとラノベに分類されなくなるから、中高の図書館で、先生が推薦してくれるような本にしようと。『まおゆう』はテストに出そうな単語がいっぱい並んでいるし、歴史上の事件をつまんでいるから、先生のアンテナに引っかかるという読みもありました。いまは、図書館を利用する人が昔ほどいないけれど、たいていの場合は、頼むとすぐにその本を入れてくれる。だから中高生は、自分で買わなくても、図書館に頼めばいいわけです。それで一時期、杉並区の図書館は全部、貸し出しのベスト10が『まおゆう』と『ログホラ』になりましたよ。中高生が頼んでくれたんですね。

――そんな手があるとは! しかも、ばっちり狙ったところにハマっているなんて。

石平 結果、両作品ともテレビアニメになったわけで、スゴいプロデュース能力ですよ。『ログホラ』のDVDのパッケージについても、特典をどうするという話も含めて全部絡んでもらっているんです。

――そこまでチェックされているんですか!?

桝田 『まおゆう』、『ログホラ』の名前が付くものは、全部見ています。誰に何を、どう言って売るのが効果的かを考えるのは僕の仕事。ままれ君が、物書きを職業にしたいと言って、僕はそれを引き受けたわけですから。

石平 10年前に桝田さんに出会っていたら、俺、もっと金持ちになってたなあ(笑)。桝田さんは考えかたがぜんぜん違うというか、ハッとさせられることが多いですね。お金のことだけじゃなくて、テーマの置きかたにしてもそうですし、ものの作りかたもそうです。それで興味が湧いて、桝田さんの『ゲームデザイン脳』(※技術評論社より2010年に刊行された桝田氏の著作、『ゲームデザイン脳 ―桝田省治の発想とワザ―』)という本を買って読みました。

桝田 ああ、そこで初めて、僕がゲームデザイナーだと知ったんだね。

石平 最初から知ってますって(笑)。そもそも『天外魔境』をやっていましたから。でも、それも後から桝田さんが絡んでいたのを知って、驚いたんですよね。『桃太郎電鉄』もそう。

桝田 『桃太郎電鉄』は本当に“桝田さんプロデュース”だよ。だって、最初はさくま(あきら)さんが、『日本一周すちゃらかトレイン』っていう名前で企画を出してきて、「それは売れないからやめて! なんでもいいから“桃太郎”って付けて!」と僕が言って、『桃太郎電鉄』になったんだから(笑)。

石平 ええっ(笑)。もしかしたら、桝田さんが絡んでいなかったらボンビーもいなかった!?

桝田 ボンビーのアイデアはさくまさんが出して、中身は僕が作った。あれは難しいんです。さくまさんみたいにやさしい人が意地悪なことを考えると、1かゼロかになるから。僕みたいな、あまりやさしくない人間が考えると、人がガマンできるギリギリのところを狙える(笑)。

石平 ときどき、その話をされますよね。お客さんがどこまでガマンできるかという話。

――それはどういった?

石平 たとえば、1期の12話あたりで、ダビング(※映像に対し、声や効果音、音楽などを入れ込み、ひとつのデータにすること。制作工程においては終盤の作業)まで進んだときのフィルムを見た桝田さんが、「1本の話として見たときに、達成感がない、お客さんが見ていておもしろくない」という話をされたんです。トウヤたち年少組の新人プレイヤーが、初めてダンジョンに挑んで失敗する回ですね。あの回は“何も解決していない”んですよ。それを指摘されたときに、初めてそのことに気がついたんです。我々は、とりあえずアクションもあって見せ場もあるから、おもしろいフィルムになっているなと思っていました。

桝田 シナリオ会議のときに言えって?(笑)

石平 いえ、文字や絵コンテの状態だとわからないんですよね。音をつけてエンディングまで通して見たときに、“何かが足りない”という感じだったと思うんです。そこからは毎回、何か1個だけでも解決させよう、達成させようという見かたをするようになりました。

■果たして、『ログホラ』のゲーム化は可能か?

――先ほど、メニュー画面のスワイプの話がありましたが、ほかにゲームとしての表現にこだわられているアニメのシーンはありますか?

石平 トウヤたちがダンジョンでスケルトンの兵士と戦うシーンがありますよね。そこで、スケルトンは近接攻撃型と中距離型、遠距離型で、それぞれ色を変えたほうがいいという助言を桝田さんからいただいて。

――ゲーム的な考えかたですね。

石平 そうですね。ゲームなら、色分けされていたほうが、どれを先に叩いたほうがよさそうかをプレイヤーが判断しやすいし、制作サイドもそう考えて作るだろうからと。あそこは指摘がなければ、全部同じ色で塗られたガイコツになっていました。桝田さんからそのメールが来たときは、ゾワッときましたね。

桝田 ちゃんと仕事してるんですよ(笑)。でもね、全部、ガイコツだからと灰色にしたら、ユーザーは絶対に怒るでしょう。「なんで区別できないんだ」って。

――確かに……! ほかにも、そういったゲーム的なこだわりはあるのでしょうか。

桝田 だいたいその場で言いっ放しになるからなあ……忘れました(笑)。

石平 個人的にこだわったのは、“大地人”(※ゲーム内のNPCキャラクター)をしっかり描こうということです。あるゲームで倒してはいけないNPCを攻撃してしまい、その重要さを思い知らされた経験があるので(笑)。

――わかります(笑)。そうしたアイデアやこだわりが詰まっているから、『エルダー・テイル』がゲームとして魅力的に見えるのですね。

石平 そうだとうれしいです。アニメで表現するにあたっては、「『エルダー・テイル』というゲームを遊んでみたい」と視聴者に思ってもらえるように作っていましたから。

――めちゃめちゃ遊んでみたいです。実現するなら、桝田さんに関わっていただかないと始まらないと思うんですが、『エルダー・テイル』をご自身で作ってみたいという思いはありますか?

桝田 ない(笑)。コストがかかりすぎて、採算が合わないですよ。でも、『ログホラ』の一部分だけをゲームにするのはアリかな。かわいいキャラクターがいっぱい出てくるから、戦闘部分は捨てるか、できるだけ小さくしたシミュレーションぽい恋愛ゲームや、戦闘の部分を切り取って、ダンジョンに潜っていくタイプで、いかに手数を少なくボスを倒すかといった、戦闘特化やクエスト特化のゲームなら。あの世界全部をゲーム化するのは無理。だってあれは、ままれ君という超オタクが、理想としているゲームを妄想して作ったものなんだから(笑)。

――一部を切り出したゲームでも、やってみたい人は多いと思います。

桝田 僕は、誰かがやれと言えば、暇だったらやりますよ(笑)。

石平 ロデリック商会や第8商店街あたりをメインにして、クラフターゲームにするのもいいかもしれないですね。素材を集めにいって、家を作ったり。

――スマホアプリとの連動もできそうですね。

石平 そうすれば遊びやすいですよね。自分では操作できなくても、知っているキャラがときどき登場してくれるだけでもうれしい。

桝田 ひとつのメーカーでやろうとしても、お金がかかりすぎるんだよね。たとえば3つのメーカーで、さっき言ったような、アイテムを作るのに特化したゲーム、戦闘特化のゲーム、恋愛ゲームを一斉に出して、キャラクターをお互いに共有させるというやりかただったら成り立つかもしれないけれど。あれをそのままやるのは無理だなあ。

石平 格闘ゲームも出してほしいです。

桝田 やるとしたら海外だね。『ログホラ』は、香港では放送するという話だけど、アメリカではどうなのかな?

石平 バミューダ島で放映している、という話は聞きましたけど(笑)。

桝田 日本のコンテンツとしてじゃなく、ワールドワイドなコンテンツとして捉えれば、やりようはあるかもしれないね。ゲームを作るのには、どうにもお金がかかるから。

――お金を持っていらっしゃるメーカーの方、ぜひオファーをお願いします!

■ゲーマー必見のアニメ『ログホラ』2期は、主婦も必見

――アニメ2期についてのお話もうかがえればと思います。制作状況はいかがですか?

石平 シナリオは非常にスムーズに進んでいますね。原作で2期にあたるところはバトルが満載で、ハードな内容の話が多いですから、そのぶん、コンテで煮詰まったりしますけど。

――1期のペースで考えると、2期にはまだ原作が出ていないところも含みますよね。

石平 詳細はまだ言えないのですが、橙乃先生も交えて、綿密な打ち合わせをしていますよ。

――では、1期と2期で、変わっているところはありますか? 

石平 2期目は、アクションがハードになるので、若干絵柄もハード対応に(笑)。前期よりも、よりハラカズヒロ先生の絵に近いイメージで新たに描き起こしています。本来なら、ハラ先生の絵のまま動かしたいところですが、100人、200人で描くものなので、なるべく全員が描きやすい形にまとめていくことにはなるんですけど。あとは色使いから何から、ちょこちょこと前期から雰囲気を変えています。ちなみに、いまはレイアウトや原画が上がってきているところです。これが、数か月ぶりに見ると、ちょっとホッとするというか(笑)。

――帰ってきた感じがする?

石平 ええ。すごく居心地のいい番組だったので、1期の放送が終わってからしばらくのあいだ、少し寂しかったんですよ。キャラクター的にもシナリオ的にも、すごく満足できる内容でしたし、やり応えが半端じゃなかったのもあって。絵コンテに落とし込む際も、ふだんは感覚でサーッと描けちゃうんですけど、『ログホラ』に関しては、めちゃくちゃ悩んで時間がかかります。このセリフのこの文節は、横顔でシメなきゃとか、合間のこの表情は見せないほうがいいから背中を向けようとか。セリフの量がすごいというのもあって、見せかたにいかに気をつけるかで、仕上がりが変わってくるんです。『ログホラ』は、長ゼリフが多いのですが、聞いていて飽きないというのも特徴だと思います。第14話でリ=ガンがずっと話し続けるシーンも、最初は心配でしたが、実際にしゃべり始めたら、まったく問題ありませんでしたね。

――それはやはり、原作の力が大きいのでしょうか。

石平 そうですね。あとは声優さんの力と。ここまで、セリフだけで聞ける、見られるというのは、あまりないことなので、貴重な経験をさせていただいています。こういう番組には、そうそう出会えないですよ。

桝田 僕のおかげだね(笑)。

石平 ありがとうございます(笑)。さっきの『まおゆう』と桝田さんの出会いのお話を聞いて、それがなかったら、『ログホラ』もなかったかもしれないと思うと、ちょっとグッときましたよ。

――2期には何かテーマが設けられているのでしょうか?

石平 2期は密度的にも濃くなって、なおかつ戦いも1期に比べて増えています。原作を読んでいる方はご存じかと思いますが、今回は24人で挑む“フルレイド”がテーマになっていて、かなり綿密に打ち合わせをして作っています。原作で存在はほのめかされていたけれど、描写のなかったレイドボスの話もあるので、そのあたりもお楽しみに! 

――それは燃えますね! 桝田さんは、どんなプランをお持ちですか?

桝田 2期は本気で主婦層を取りにいきます。土曜日の17時半からという放送枠は、ほかに強いコンテンツもあるのできびしいのですが、そこに勝とうと思って。Twitterなどをチェックしていると、あの時間帯は、ご飯を作りながらテレビを見ている主婦が多いんですよ。たぶんオープンキッチンで、リビングに子どもがいて、料理を作りながらテレビを見ているんでしょう。

石平 それに合わせたわけじゃないのですが、『ログホラ』は食事や調理シーンがけっこうあって、そこに期待している方も多いという話を聞いています。まさか、“飯テロアニメ”と呼ばれるとは思わなかったですよ(笑)。2期では、そのあたりをより意識していますね。

桝田 出てくるのは、簡単に作れるものがいいよね。お母さんの手抜きが誤魔化せるもの(笑)。テレビに出ている料理と同じものを作ってあげれば、子どもは喜ぶし、それを手抜きとは言わないもの。クリームシチューとかいいよ、簡単で。

石平 シチューは2期に出てきますよ。アスパラやじゃがいもが入っています。

桝田 アスパラはいまごろが旬だけど、季節によっては高いからな~。

――あっ、主夫の部分が(笑)。2期はバトルも料理もパワーアップするということで、ますます楽しみになりました。

石平 あと2期は、原作の6巻相当にあたる話、“夜明けの迷い子”にも仕掛けが加えられて、そこもなかなかおもしろいことになっていますよ。

桝田 あれは画期的なアイデアだよね。

石平 そうですね。6巻、7巻を読まれた方は、主人公が不在になるのかと予想されると思いますが、そこも込みでちょっとした仕掛けがあります。6話、7話くらいまでシナリオが進んでいた時期に……。

桝田 僕がまたひっくり返したんだよ(笑)。

石平 その甲斐あって、おもしろさには自信のあるものになっています。もともと原作があるのに自信があるというのもおかしな話ですが、僕もいちファンとして、かなり楽しみながら作っていますので、ご期待ください!



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