7月下旬より、ガンダムを動かすためのアイデアを募集開始
『機動戦士ガンダム』が生誕40周年を迎える2019年に向けて、18メートルの実物大ガンダムを動かすプロジェクト“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”の記者発表会が、本日2014年7月9日に、東京・ベルサール神田で開催された。
当日は、“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”の概要が発表されたほか、『機動戦士ガンダム』の総監督を務める富野由悠季氏が本プロジェクトへの想いを語った。ここでは、その模様をお伝えしよう。
■“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”がいよいよ始まる
記者発表会では、まずはガンダム GLOBAL CHALLENGE 理事 兼 創通 代表取締役社長 青木建彦氏がプロジェクトへの意気込みを語った。
「本年よりガンダム35周年プロジェクトが開始しています。これまでにも3Dプロジェクトションマッピングや、劇場での『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』の公開がありました。今後も7月から大阪で開催される“THE ART OF GUNDAM”などの企画を展開していきます。そして、ガンダム40周年記念プロジェクト“GLOBAL CHALLENGE”がスタートします。企業とともにプロジェクトを作っていき、ガンダムが持つ夢を、可能性を、ワクワクしてもらえるようなプロジェクトにしていきたいと考えています」(青木建彦氏)
※関連記事
・池田秀一さんも思わず涙! 『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』初日舞台挨拶リポート
・“機動戦士ガンダム展”名セリフ・名場面のコースター配布や、会場限定販売のガンプラなどの最新情報が公開
引き続き登壇した、バンダイ代表取締役社長 兼 チーフ・ガンダム・オフィサーの上野和典氏はつぎのように語った。
「ガンダムを動かすということについて、選択肢と可能性は無限に広がると考えます。日本やアジアだけでなく米国や欧州、世界中にたくさんいるガンダムファンの期待に応えるため、“RISE!――世界は動いている。”というコンセプト通りの35周年を通過点として、40周年に向けての新しいチャレンジのスタートを設定をしています。2009年の30周年のプロジェクトである1/1スケールのガンダムは世界中に大きなインパクトを与えました。2019年には、世界中から多くのアイデア、技術の進歩、エンターテインメントの表現力をじっくりと探りながら、18メートルのガンダムと、その先にある新たな可能性にご注目いただき、夢への挑戦とチャレンンジを続けるガンダムに期待してほしいです」(上野和典氏)
※関連記事
富野監督、古谷徹、GACKTも駆けつけた! ガンダム実物大立像のオープニングセレモニー開催
■“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”では、世界中からアイデアを募集する
今回のプロジェクトの目玉のひとつは、“ガンダムを動かす”ためのアイデアを一般から公募することだろう。ガンダム GLOBAL CHALLENGE 代表理事 兼 サンライズ 代表取締役社長 宮河恭夫氏は“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”のプロジェクトそのものが、エンターテインメントであると語った。
「“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”は『機動戦士ガンダム』40周年となる2019年を目標に、18メートルの巨大ガンダムを動かそうとするプロジェクトです。この実現のため、プロジェクトチームを結成し、世界中から幅広くアイデアや設計プランを募集します。アイデア募集、検討過程、製作過程、それらすべての流れがひとつのエンターテインメントであり、プロジェクトの醍醐味になると考えています。プロジェクト全体を通して、ガンダムコンテンツの認知度の拡大、ロボット技術の周知、研究の発展、技術の開発、映像エンターテインメントの探求が行われるのことを願っています。さらに、海外のみなさまにもご協力いただくことでさらなる相乗効果が生まれることも期待しています」(長宮河恭夫氏)
なお、“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”の募集部門は大きく2部門にわかれるそうだ。ひとつはリアルエンターテインメント部門、もうひとつはバーチャルエンターテインメント部門だ。
リアルエンターテインメント部門で募集するのは、18メートルのガンダムを物理的に動かし、エンターテインメントとして成立させる具体的なアイデアや設計プラン。バーチャルエンターテインメント部門では、18メートルのガンダムを視覚効果などを利用しながら、仮想現実で動きを再現し、それをエンターテインメントとして成立させる具体的なアイデアや映像プランを募るという。
いずれの部門も、全体的なプランだけではなく、一部の技術のみのプランや提案でも応募が可能だ。なお、募集は7月下旬より公式サイトにて開始され、2015年2月27日に応募締め切り予定となっている。
■“『ガンダム』の生みの親”が“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”に期待すること
そして、記者発表会では、ガンダムの生みの親とも言うべき富野由悠季氏が登壇。今回のプロジェクトへの期待を口にした。
「ようやくです。絵空事で考えていたものが形になります。いままでは製作者が作品に携わってきましたが、今回は公募という形を取っています。いままで消費者であった新しい人たちも巻き込んで、新しいエンターテインメントのフィールドを構築することができるかもしれないと考えています。工学に憧れながら、理系の勉強ができずに断念した僕のような人間から言えば、1/1のガンダムを動かすことから、つぎの地平である、エンターテインメント、工学のありかたが見えてくれば素敵だと思っています」(富野由悠季氏)
■それぞれの“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”への期待
さらに、記者発表会では、ゲストとしてミュージシャンのSUGIZO氏、脳科学者の茂木 健一郎氏、早稲田大学副総長・理工学術院教授の橋本周司氏、作家の福井晴敏氏が登壇しし、それぞれが今回のプロジェクトに対する想いを明らかにした。
SUGIZO氏は熱心な『ガンダム』ファンとして知られ、『機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙』の挿入歌“ビギニング”をアコースティックアレンジしたことで知られている。橋本氏は2足歩行ロボットなど、最新のロボット事情に詳しく、今回のプロジェクトには技術監修として参加している。福井氏は『機動戦士ガンダム UC』のストーリー担当としておなじみだ。なお、脳科学者の茂木 健一郎氏は、この後に行われたパネルディスカッションにモデレーターとしての参加となる。
「世界中のクリエイターに影響を与えてきた『ガンダム』という作品の新しい門出に立たせていただいて、大変恐縮しています。子どものころに憧れていた世界が目の前にある。テクノロジーが武器ではなく、平和利用されている。こういった夢の実現は、いち大人としてうれしく思います」(SUGIZO氏)
「日本のロボット技術はちょっとまずいところにきていて、アメリカでは『鉄腕アトム』を通り越してガンダムのようなロボットが作られようとしています。今回は“GLOBAL CHALLENGE”ということで、ロボット技術の”ハブ”はここにある、ここから陽が昇るぞといった、日本のロボット技術の再生のシナリオを夢見ています」(茂木健一郎氏)
「ガンダムに向かって世界中の知恵と想いがまとめあげられるということを、世界中に見せたいと考えています。それに参加できることをうれしく思っています」(橋本周司氏)
「ガンダムが動くところはもちろん、最終的には飛ぶところまで見届けようと思っています」(福井晴敏氏)
■富野監督の考える今後のロボットのありかたとは
記者発表会は2部構成で行われ、“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”の詳細が明らかにされた第1部に続き、第2部ではプレゼンテーションや、『ガンダム』の技術をテーマとしたパネルディスカッションなどが実施された。第2部の冒頭に登壇した富野由悠季氏は、今後のロボットへの期待についてスピーチした。
富野氏は、2009年の1/1のサイズのガンダムを見て改めて“おもちゃカラー”のすばらしさを感じ、リアルなロボットだけでなく、リアルではないロボットだからこそのすばらしさというものを、つぎの世代の人たちに感じてほしいと考えていたそうだ。また、富野氏は“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”においてみんなが集まってディスカッションをすることで、新しいロボットのありかたが見つけられるのではないかと、プロジェクトへの期待も語っていた。
さらに富野氏は「僕ももう72歳だから、あと5年後にはどうなっているかわからないなあ」と不安を口にしつつも、この後に行われる『ガンダム Gのレコンギスタ』第1話のアフレコの収録現場に直行するとのこと。「現場が大事です!」と現役ばりばりであることをうかがわせた。
※関連記事
・『ガンダム Gのレコンギスタ』が2014年10月よりMBSほかアニメイズム枠で放送決定 8月下旬からは全国13館で特別先行版のイベント上映も
■『ガンダム』が持つ“物語性”と“普遍性”とは
続いて、茂木健一郎氏がモデレーターとなり“夢が現実を創り、現実がまた夢を創る”をテーマにパネルディスカッションが実施。茂木氏が投げかける質問に対して、SUGIZO氏、橋本周司氏、福井晴敏氏、宮河恭夫氏らパネリストが答えていくというスタイルで行われた。以下、興味深かったやりとりを中心にお届けしていこう。
福井氏は『ガンダム』という作品が持つ“物語性”について、「『機動戦士ガンダム』は、冒頭のナレーションで宇宙へ移民の理由を“増えすぎた人間を宇宙に送り出す”ためと語っています。貧乏人が宇宙に送り出され、ついに負け組たちが自治権をよこせと言ってきたという、しっかりとした世界観があるのです。こうした世界観が構築されているのであれば、あとはキャラクターをどこに置き、カメラを追っていくか、という作品作りになってなっていきます。富野監督はそこの作品作りこそが天才的です」とコメントした。
宮河氏は、『ガンダム』になぜ“普遍性”があるのかという問いに対して、「“戦争状態”、“ロボット”、“青春群像劇”という3の大きな要素が作品の根底にあり、世代を超えていろいろな監督が作品に携わり、その時代を切り取っていったために多くの人に受け入れられる普遍性ができた」のだと解説した。
■宮河氏「実物大のガンダムが頭を振っただけで感動できた」
パネルディスカッション中、宮河氏が2009年の35周年の1/1ガンダムのプロジェクトについて「じつはあのときのプロジェクトは、技術的なことはもとより、“18メートルのガンダムが立っていたらおもしろいだろうな”というだけで会社を説得しようとしていたんです。あとは公園の中に立って、子どもが触れることができて……と想像を膨らませていました。だから、動くというのはまったく考えていなかったんですね。僕は現場で初めて知ったのですが、35周年の1/1ガンダムは頭を振って動かすことができました。頭を振っただけで感動できたので、できればいつかは動かしてみたいとそのころから考えていました」と振り返る場面もあった。
宮河氏は、茂木氏からの「2019年ということは翌年には東京オリンピックがありますが、何か考えていますか」という質問に関して「まったくいまのところは考えていませんが、オリンピックのために世界中から日本に来ていただいた人に対して、“世界の人たちといっしょに考えて、日本が作ったものがここにあります”とだけはアピールさせていただきたいですね」と返答した。
■“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”へ賭ける想い
最後に、パネリストたちは“GLOBAL CHALLENGE”に賭ける想いを語った。
「技術系の大学というものは、夢をいかに実現するかということを教えてきました。夢に技術がだんだん近づいてきていますが、その夢と技術のギャップが少なすぎて元気が出ないのではないかという懸念もあります。これからの100年は、大きな夢をどのように見ていくかを教え、ともに考えていかなくてはいけないと考えています。この“GLOBAL CHALLENGE”が、そのひとつのモデルとなって、プロジェクトをやり遂げた後に、さらに大きい夢を見せてくれればよいと考えています」(橋本周司氏)
「『ガンダム』は日本が誇る世界的な文化だと思います。その文化の最新型、もっとも進化したかたちとして2019年に等身大のガンダムの機動が実現できるのであれば、これほど夢を世界に伝えられるチャンスはないと思います。心から成功を祈っています」(SUGIZO氏)
「“クールジャパン”という言葉がありますが、そのアイコン自体を日本人が持ち得ているかと言われれば、実態はないと感じています。そこで、この“ガンダムを動かせる”ということがあれば、クールジャパンというものにようやく身を入れられるかなと考えています。海外の人に“クールジャパンって何?”と言われたら、“見たいんだったらガンダムが動いているのを見てきなよ”と言えるのではないでしょうか」(福井晴敏氏)
「30周年のときもいろいろな問題がこれからあるのだろうな、と考えていましたが、今回40周年に向けて動かすためにはさらにいろんな問題が起こり、それぞれ解決しながらひとつのものをつくっていくのだろうなと、今日改めて思いました。実行委員長として、みなさまに送っていただいたアイデアを見ながら、楽しく、感動できるものを作って参ります」(宮河恭夫氏)
“ガンダム GLOBAL CHALLENGE”は製作者と、いままで視聴者であった一般の人々がともにプロジェクトに参加できるプロジェクトと言えるだろう。そこには、宮河恭夫氏が語ったように、製作過程そのものにエンターテインメントしての楽しさがあるようだ。2019年は、アムロ・レイのように「こいつ、動くぞ!」と言えるような、夢が現実になる日を期待したい。
(取材・文:編集部/オスカー岡部)