“確実に物事が起こるわけじゃない世界”で生き、死ぬ愉悦──『野犬のロデム』開発者、ラショウ氏&小清水氏にロングインタビュー

1990年代、イタチョコシステム名義で数々の”ヘンなゲーム”を世に送り出してきた奇才・ラショウ氏が監修する最新作ということでも注目を集めている『野犬のロデム』。今回は、ラショウ氏と、開発を手掛けたピグミースタジオの”工場長”こと『野犬のロデム』プロデューサー・小清水史氏に、開発時のエピソードや作品に込められた思いを中心に話を伺ってみた。

●プレイヤーにゲームの遊びかたを見つけてほしい

 いよいよ2014年7月2日にPlaystation Mobileで配信がスタートした『野犬のロデム』。1990年代、イタチョコシステム名義で数々の”ヘンなゲーム”を世に送り出してきた奇才・ラショウ氏が監修する最新作ということでも注目を集めている同作だが、まだまだ謎めいた部分が多い。今回は、編集部に来訪したラショウ氏と、開発を手掛けたピグミースタジオの”工場長”こと『野犬のロデム』プロデューサー・小清水史氏に、開発時のエピソードや作品に込められた思いを中心に話を伺ってみた。


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▲イタチョコシステムのラショウ氏(右)とピグミースタジオの小清水史氏(右)。

■チーム開発によって生まれ変わった『野犬ロデム』

──本作は『野犬ロデム』の移植版として開発がスタートしたものの、新要素がたくさん追加されて結果的に新作タイトルになった……とのことですが。

ラショウ 『野犬ロデム』はマッキントッシュというパソコンで開発していたんですけど、ゲームデータをディスク1枚に収めようという野望がありまして、なんとかできたんです。そのときに登場キャラクターを削ったり、大きなサイズの絵が使えなかったり、本当は音や曲をたくさん入れたかったといった無念を今回で晴らせるならと詰め込みました。結果的には、いまの時点で新たに思いついて入れた要素の方が多くなって、テイストは残っていると思うんですけど、当初とはまた別物になっています。

小清水 マスターアップ1ヵ月前あたりで、猛烈に新しい要素が入りました。インペーターっていう炎を吐くキャラクターがいるんですけど、あれもだいぶ後になって追加されましたね。

──新キャラクターは、思いついたらそのつど描き起こすのですか?

ラショウ はい。スタッフさんにキャラクターのグラフィックデータテーブルを確認して「隙間があるからいいよね」と、テーブルの余白にキャラを押し込んでいきました。今作に関しては監修という立場に立たせてもらったんですが、ちょっと監修の域を超えてしまったかなと(笑)。

小清水 ラショウさんは、ゲーム開発における立ち位置的にはディレクターですが、もっとクリエイティブな……すべてのイメージを監修しながらの実作業もできてしまうんです。ご自身で絵も描くし、プログラマーの横に行ってC#のプログラミング指示を口頭や手書きでしたり。


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──第1回アスキーソフトウェアコンテストのグランプリ受賞作『ボコスカウォーズ』や、イタチョコシステム名義のゲームソフトはすべておひとりで制作されていたとのことですが、今回チーム単位でのゲーム制作を経験されての感想は?

ラショウ おもしろかったですね。というか、ちょっと味をしめました。「楽じゃん、好きなこと言えて」って(笑)。わがままを言わせてもらったぶん、できあがったものは結構奔放なものになっているので、またこんな感じで新しい作品をやれたらなと思います。

──ピグミースタジオ側はラショウさんのイメージ、ゲームデザインに対してどのようなスタンスで開発を進めたのでしょうか?

小清水 当初はソニーハード用に出すということもあって「これはやらない方がいいんじゃないかな」といったギリギリの線を考えていました。

ラショウ ロデムは何でも食べられるのですが、園児も食べてしまうのはどうなのか? といった部分ですね。しかし私は自由度の方を訴えたかった。「倫理に引っかかってしまうから食べられない」というのをこちらがしてしまうのではなく、それを抑えるのはプレイヤー側であるべきだと。最終的に、ロデムにダメージを与えられた園児は倒れてクッキーになるようにしました。園児は食べられたのではなく、クッキーを奪われてどこかに逃げたんだと。逃げ道と言うとあれなんですけど。そういう面ではたくさんアドバイスをいただきました。

小清水 私は本作のプロデューサーとして、幅広い層にプレイしてもらいたいと思って、いろいろと調整していたのですが、今年(3月)のBitSummitで実際にプレイしたユーザーさんの反応を見たら、そこはもういいやと。「ウンチは食べれないの?」とかおっしゃるんですよ(笑)。ですので、食べられるものは全部食べられるようにして、そこは”ラショウ・ワールド”のエッジを利かせる方向でいこうとなりました。

ラショウ ラショウワールドのエッジって、ウンチがどうこうの部分なんですか?(一同笑) ウンチは基本的には栄養はそんなにあるわけじゃないんですよ。一度消化されたものですからね。

小清水 従来のファンの皆さんにちゃんと届けばいいかと。あと、新規でこういうタイプのゲームに興味がある方もBitSummitでだいたいイメージができたので、そこに突き抜けていけばいいかなと切り替えました。

ラショウ ちょっとあきらめていただいたという感じですね(笑)。私の言う通りに出したらどうなるだろう……という興味を抱いていただいたのかなと。

──私も実際にプレイしたのですが、ゲーム内のパラメーター類を極力見せない作りは、プレイヤーによっては不親切に映る部分ではないかと思いました。やはりそこは意識的にそうしているのでしょうか?

ラショウ ゲームのおもしろさは何といっても、あーじゃないかこーじゃないかと自分で試行錯誤していくことだと思います。そういう、本来マニュアルで説明すべき部分を、チュートリアルではなくプレイヤーの体験を通して感じていただける線はどこだろうかというところを考えて作っています。いまチュートリアルはどんなゲームにも用意されていて、「これができて、あれができない」という状況を段階的に経験していく流れができていますが、『野犬のロデム』では、ゲーム終盤で必要なことがゲーム開始時にもできるかもしれない……という可能性を残しつつ、何度も死にながら徐々に世界の仕組みがわかっていくようになっています。

──昨今のゲームはその部分の楽しみが奪われているのではないか、と?

ラショウ そこは提言しておきたいですね。イタチョコシステムのゲームにしろ『ボコスカウォーズ』にしろ、既存のゲームに対しての「否」から始まっているわけでして、その否をどれだけ素直に聞いていただけるかが、私がゲーム作りでやっていることじゃないかと。

小清水 画面内のゲーム終了ボタンはときどき消えるんですよ。めちゃくちゃだなあと。ふつうの家庭用ゲームだったらゲームエンドの仕様的にどうかと言われると思うんですけど、そういう部分も楽しんでいただけるところにもっていこうと、あえてわかって意地悪していることもいろいろありますね。

──ゲームの作りかたとしてはかなり特例なんですね。

小清水 ピグミースタジオは受託でいろいろなゲームを開発していて、「このボタンはここにあるのが当たり前だろう」みたいな社内のフォーマットがあるんですけど、『野犬のロデム』ではそれを崩すようスタッフに指示しました。こっち(他の開発中のゲーム)では正す一方、こっち(『野犬のロデム』)は容認する……というのがおもしろかったですね。


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■不確実であることこそがシミュレーション

 一見、独特なグラフィックセンスに目を奪われて単なるキワモノ作品に捉えられがちな『野犬のロデム』だが、実際に遊んでみると心地よい時間の流れを感じられる。どれくらい心地よいかというと、よくわからないままいろいろ試してみて、そこそこ時間が経過した後にゲームオーバーを迎えたとしても、何の躊躇もなく再スタートしてしまえるくらいだ。つねに何か行動目標が提示され、それを達成しなければ”世界の時間”が進まない昨今のゲームと比較すると、その特異性は明白である。これは個々のゲームシステムが云々以前に、テレビゲームの中で再現される世界の在りかたからしてすでに違っているのではないだろうか。そのあたりを中心に、ラショウ氏に聞いてみた。

──本作を楽しむコツというか、おすすめのプレイ法を教えてください。

ラショウ その日によってやりようがいくらでもあると思うんですよ。長生きを目標にしてもいいし、アイテム集めもいい。イタチョコシステム時代から、ゲームが全然できない人も楽しめる状況を必ず用意してきたので、このゲームではセミオートシステムを採用しています。勝手に首輪が飛んできて、ロデムが自由意思で何かをしているっていう。

小清水 自由度が本当に高くて、それでいてちゃんとシミュレーションゲームになっているんです。たとえば木をくわえて別の場所に持っていくと、そこで木がちゃんと増えていくんです。木をいっぱい運んだ場所は森になったり。

ラショウ 色のいいウンチをして土壌改善をして、空の色(大気)がよくなった場所に木を持っていけば、その木が実をつける確率が増えます。ここに持って行ったらいいことがあるんじゃないかなとか、随分プレイしていくと何となくわかっていくでしょう。それって結局、現実世界の法則と同じじゃないですか。いい土地では植物がたくさん育つし、空の悪いところでは枯れやすくなるっていうのは、本当にこれこそシミュレーションじゃないかと思うんですけど。自然の仕組みを勉強くさくなく体験していただけるのだから、これはぜひ小学校に配布していただきたい(笑)。


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小清水 画面外でも植物が繁殖したり動物が何かを食べたりといった出来事が起きていて、それらすべてをまじめにシミュレートしているんです。犬陽(たいよう)から降ってきた元素から何の生き物が生まれるかといった条件も細かく設定されています。こだわるプレイヤーの方は、発生条件をいろいろ試されるかもしれませんね。

ラショウ ただ、そういった部分にも確率を入れてあります。条件が揃っているからといって必ず起きるわけではなく、違うことが起きたりするのも楽しんでいただけるんじゃないかなと。『ボコスカウォーズ』も、パワーが上がれば勝率がよくなるだけで、必ず勝てるわけじゃない。このへんがクソゲーと言われるゆえんなんですけど(笑)、そういう漠然とした組み合わせがシミュレーションじゃないかと思っています。

──確実に物事が起こるわけじゃない、ということ自体が本作のシミュレーション性と解釈していいのでしょうか。

ラショウ よくゲームをなさる方は「これをこれしたらこうなった」という結果の保証がほしいと思うんですけど、それを本当にやってくれるかわからないところに、私のゲームの特色があります。たとえばプレイヤーの皆さんでゲーム解析が進んでも、「こういうことがおこりがちだ」という傾向がわかるだけで完全攻略法にはならない。そういう噂的な情報をどんどん発信していただけると嬉しいです。

──そこにラショウさんの世界の捉えかたの本質があるように思います。

ラショウ ゲーム世界内のすべてのものにパラメーターがあって、上がり下がりが微妙に行われている。画面外の物事もすべて同時に起こっていて、データのやり取りをしているんです。これがPS Vitaが根を上げた理由でもあります。そうした世界の関係をプレイヤーはこの画面だけで見ていくわけですが、それが犬の視界だから仕方ないじゃないっていうことなんです。ほかのシミュレーションゲームを例に挙げると、ゲームプレイヤーがおもしろいと感じられるようにサービスするじゃないですか。プレイヤーが順調なときには悪いことが起こって、悪いときにはいいことが起こるみたいな。それはシミュレーションじゃないのではないか、と思っていたんです。そこは確率で公平にいこうと。プレイヤーがいいときにもっといいことがあったりその逆もあったりが本当のシミュレーションじゃないかと思うんですね。『野犬のロデム』では、プレイヤーが「なんか今回はよくないなぁ」と思ったときに悪いことが続くことがあると思うんですけど、それは行動が悪いことを呼び込んでしまうフシもあるのではないかと。

──それは……“運気”というパラメーターを用意しているわけではなく?

ラショウ こうなるようにって仕組んでいなくても、ある行い──たとえばやたら動物を食べたりすると、えてして悪いことが重なってしまうというか。「実のなる木を食べたら実はならない」という簡単な因果応報とは別に、それだけでは説明しきれない何か負の行動が積もり積もって、最終的に負の結果をもたらすってことは、ゲームを作ってみて結果論的に感じましたね。

──ゲーム世界内でのプレイヤーの立ち位置が、ほかのゲームとは根本的に違っている印象を受けます。

ラショウ 違えようとした気はないんですけど、シミュレーションを追求していくとそうなってきたっていうのはあります。ロデムも「ほかのオブジェクトと同列で作ってくれ」とプログラマーには指示しました。パラメーター構成もほかの動物と基本的に同じで、ただ周囲の視界が見えてタッチ操作で動かせるという違いがあるだけ。何か特別なイベントをロデムだけにつけているということはありません。


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■ゲーム作家・ラショウの再スタート地点として

 版権には関わらない程度に『ボコスカウォーズ』のテイストもゲームに盛り込まれ、「集大成として、ここで死んでもいいように(笑)」(ラショウ氏)という意気込みで制作された『野犬のロデム』。最後に、長年ゲーム業界から遠ざかっていたラショウ氏が本作に込めた思いの深層に迫ってみた。インディーゲームの潮流の中にあってなおも異彩を放つラショウ氏が見据えている“テレビゲームの地平”とは?

──ゲーム内でラショウさんの作品を収集するコレクション要素があります。この詳細について教えてください。

小清水 ラショウさんから「いままでやってきたことを全部入れたい」という要望が企画の初期段階からありまして、“成長したパラサイトから出現するお宝”という形で、ラショウさんの作品を集められるようになっています。ラショウさんがご自身のお店で実際に販売していたアート作品は、買ったお客さんに許諾をいただいて、画像を収録しています。ラショウさんの作品をギャラリーのように観賞できるので、ファンにはたまらないのではないかと思います。

ラショウ いままでに作ったゲームのテイストをちょっとずつ入れたこの『野犬のロデム』で”ゲームクリエイター・ラショウ復活”を宣言したかったという野望がありました。アーティストとしての作品もいっしょに入れて、アート面とゲームクリエイターとしての面をここでひとつ主張しておきたかったんですね。

──これまでのご自身の活動の集大成としてテレビゲームを選ばれた、ということなのでしょうか?


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ラショウ というよりは、テレビゲームを制作することになったから、このたびは「野犬的世界の中でどれだけ自分の活動を入れられるか」という試みをしました。逆にアート活動主体にするなら、今度ロフトプラスワンでやるイベント(野犬のロデム発売記念Live & イタチョコ ラショウ復活祭!)のようなステージ形態も、今後の発表の仕方になるかもしれません。

──今後はゲーム制作が活動の中心になっていくと思ってよいのでしょうか?

ラショウ 一回けじめをつけておきたかったってところですね。次回作以降も含めて“これからのラショウ”ということでやっていきたいかなと思っています。私はシミュレーションを追求していくとは思うのですけど、シミュレーションらしくないシミュレーションと言いますか、数字やデータだけをいじるだけではないシミュレーション、これこそがパソコンの中でできるものとして提示できるんじゃないかと思っています。

──現在のハード性能やゲーム業界の流れが、ラショウさんが実現したいゲームを開発・発表しやすいものになっているということも、ゲームクリエイター復活宣言につながっているのでしょうか?

ラショウ 環境はよくなっていると思います。でも私は基本的にやりたいことをやって、そのときどきのハードで無理やり実現している状況であるので、ハードの制限はまず考えないようにしています。それだと一手遅れてしまうというか、創造手としてはまず好き勝手に思ってしまって、それを何とか、何とかやろうじゃないかというスタンスです。それが“無茶ぶり”と言われている気がしますけど(笑)。

小清水 ちなみに集めたコレクションは、ロデムがダメージを受け過ぎて行動不能状態になっているときの復活手段としても使えます。集めたものの中からひとつ選んで手放すことで、生存日数を継続できます。


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──集めたアイテムがなくなっちゃうんですか?

ラショウ 長生きも記録として残るので、記録更新を断念するかアイテムを失うかという選択が問われることもあるでしょう。一度コレクションしたアイテムって失わないゲームが多いじゃないですか。ここはピグミースタジオさんからもだいぶご意見いただいたんですけども。

小清水 いやぁもう、譲らない(笑)。「コンプリートしたら終わっちゃうじゃない」と最初の段階から言われていて、とりあえず言っているだけかな……と思っていて保留していたんですけど、最後の方で念押しが入って(笑)。忘れていたらそのままにしておこうと思ったのですが。集めたものをなくさせたい、いつまでも遊べるようにしたいというこだわりがあるみたいで。

──コレクションを集めること自体、大変ですよね。とくに、特定のアイテムを入手しようとなると。

ラショウ 「こうするとここらへんのアイテムが集まりやすくなります」っていう法則はありますが、例によって絶対に手に入るという状況はありません。

──ちなみにコレクションをすべて集めると何かが起こるんでしょうか。

ラショウ 何かあったかもしれないなぁ。覚えてない(笑)。

──最後に、ユーザーの皆さんにひとことお願いします。

ラショウ あなたがやりかたを見つけてください。そしてこのゲームの遊びかたを教えてください!

小清水 ゲームは世界の縮図です。“ラショウワールド”としていろいろな仕掛けがあるので、それをゲーム的に処理するのではなく、発見して感じることを楽しんでいただければと思います。


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(取材・構成 ライター/戸塚伎一)