GDC開催4日目の3月20日に行われた“Sexism and the Game Industry: An Empirical Study”の模様をお届けしよう。

●業界での活発な議論を期待したい

 2014年3月17日~21日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2014が開催。ここでは、開催4日目の3月20日に行われた“Sexism and the Game Industry: An Empirical Study”の模様をお届けしよう。“セクシズムとゲーム業界:実証的研究”とでも訳すべきこちらのセッションは、ゲーム業界に性的差別は存在するのかに焦点をあてた講演。ネクロソフトゲームスのディレクター、ブランドン・シェフィールド氏がウィラメット大学の学生であるジェニファー・アラウェイ氏と記事を通して知り合い、調査を行うことになったもの。クリエイターと学生が協力して調査を行い、その成果をGDCで発表するというのも、アメリカらしい懐の広さと言えるだろう。

▲ブランドン・シェフィールド氏。

 講演では、まずはシェフィールド氏が、「業界で働く女性は全体の1割にしか過ぎません。これは非常に低い数字で、何かしらの理由があるはずです」と口火を切る。一方で、GDCの参加者の20%は女性。「どうしたら、ゲーム会社がもっと女性を雇うようになるのでしょうか?」とシェフィールド氏。シェフィールド氏はあるコミュニティーにリサーチを行なったところ、ゲーム会社内の男性の存在感は大きく、当然のこと作っているゲームにも影響するという。果たして、男性中心主義の“ボーイズ・クラブ(女性を軽視するグループ)”は本当に存在するのか? ここでシェフィールド氏はアラウェイ氏にバトンタッチをする。

▲ジェニファー・アラウェイ氏。

 まずアラウェイ氏は、このテーマの資料を大学のデータベースで調べたが、一切見つからなかった。そこで自分で行うことにしたのだが、簡単な研究になるものと想定していたところ、思いのほかに手間がかかり、これまでで最大のプロジェクトになったらしい。調査は、34インタビューで、334人からの回答を得ている。

 研究ということで、まずは研究で使われた“セクシズム”という言葉に対する厳密な定義がなされた。それは以下の通り。

セクシズム……性別による差別、不快感
・公然と行われるもの(オープンな行為):見えない昇進の壁(報酬差別)、セクハラ
・非公然で行われるもの(公然とではないが、性的差別により不快感を起こすもの):女性はゲームに興味がないという思い込み、ボーイズ・クラブ・メンタリティ(女性の意見軽視)

【質問】
「ゲーム業界にセクシズムは存在するか?」。

【回答】

[女性]
セクシズムを自分で経験した……60%
セクシズムを経験した女性を知っている……77%
自分の同僚が性差別行為をした……70.7%

[男性]
セクシズムを経験した女性を知っている……55.2%
自分の同僚が性差別行為をした……44.4%

<おもな意見>
「業界を代表する有名人に会ったが、性的なまなざしで見られただけだった」
「社内でレイプの話題が冗談で話されるのを聞いて、1年半で会社を辞めた」
「毎日ふつうに行われることなので鈍感になってくる。自分では何もできず、パワーがないと感じる」

▲ブース・ベイブを不快に感じる女性は多いようだ。

【質問】
「ブース・ベイブ※とコンベンションについて」
※いわゆるコンパニオンのこと

【回答】

[女性]
・ブース・ベイブの存在には不快感を持っている……56%
・コンベンション会場を歩くのは快適ではない……33%

<おもな意見>
「正社員なのにブース・ベイブと勘違いされ、いっしょに写真を撮ってくれと言われた」「GDC会場で仕事をしているのに、“迷ったのか?”とか“ボーイフレンドを探しているのか?”とか声をかけられる」

【質問】
「見えない壁について」

【回答】

[女性]
・見えない壁があると感じている……30.8%
※あるサーベイによれば給料格差が生じている。平均的に女性の方が、経験が浅いケースが多いことも影響していると言われる。今回の調査結果ではそうではない答えもあった。

[おもな意見]
「同じ仕事をする男性の半分しか給料をもらっていない」
「正当な理由は何もなく、自分の月給が10%減給になった」

 この結果に対しアラウェイ氏は、「苦情を言ってトラブルメーカーのレッテルを貼られたくないので、黙っている場合が多いようです」と泣き寝入りが多いことを示唆。さらに、「非公然とセクシズムが会社内で受け入れられると、時間の経過とともに公然セクシズムに発展する可能性があります」と警鐘を鳴らす。

【質問】
「非公然セクシズム、ボーイズ・クラブ・カルチャーについて」

【回答】

[女性]
・ボーイズ・クラブは存在する……70%
・同僚はセクシズムについて教育されていないと感じる……70%
・人事に話しても対応できない……39.2%

[男性]
・ボーイズ・クラブは存在する……51.4%
・同僚はセクシズムについて教育されていないと感じる……54.2%

[おもな意見]
「自分だけ女性だったが、男性だけで固まっていて、自分は孤独でよそものだと感じていた」
「同僚アーティストが作品に過激な性的表現を用いて冗談を飛ばしたりするのはとても不快だ」
「トレードショーで、同僚が明らかに興味のない女性を誘うのが不快」
「同僚が女性社員を卑下する態度が不快」

 「女性は話をするようにすすめられない限り、みずから積極的に話さない傾向があります」とアラウェイ氏。とはいえ、非公然と行われるものに対処しないでいれば、より大きな行為に育つ可能性が高い。「インターベンション(介入)は効果があるので、実際にこの問題に直面しているのであれば、対処も考慮に入れるべきだ」とアラウェイ氏は語る。

 現在のゲーム業界は、おもに18歳~35歳くらいまでの男性を対象としたゲームを作っていると言われている。その層に調査を行なったところ、ゲームの主人公は男性であることが多いが、87%の男性は女性主人公としてプレイすることは快適だと答えているという。90%の女性、70%の男性が、女性の主人公を求めているというのだ。一方で、85%の女性、77%の男性が“ゲームで女性が正しく表現されていない”と感じている。「これはゲームプレイヤーの数字だが、ゲーム業界の人はゲームプレイヤーであるケースも多いので、この件に関してもっと真摯に考えてみてもいいのでは?」とアラウェイ氏。「ゲーム会社が女性主人公のゲームに投資しないのはなぜか?」「女性主人公は男性主人公の40%しかマーケティング予算をもらっていないのはなぜか?」とアラウェイ氏はゲーム開発にもセクシズムが及んでいることを指摘する。

 調査結果を見る限りでは、ゲーム業界にセクシズムは蔓延している。シェフィールド氏は、「こうした統計を土台として、ディスカッションをしてほしい」と訴えかける。もちろん、ディスカッションしにくい場合も多々あると思うが、「会社全体で推奨すれば、あちこちで肯定的、否定的両方の対話が生まれ、ここから発見があるかもしれません」とシェフィールド氏。さらに、「新たに雇用する際に異なる経験を持つ人を雇う努力をすれば、プロジェクトやチームに多様性を導入できる」とゲーム開発にも寄与する部分が多いことを訴えた。

▲魅力的な女性キャラの存在が、セクシズム改善への大きなパワーとなり得るのかも。

 シェフィールド氏は、78%の女性、71%の男性が、積極的に女性を雇用すべきだと考えていること、さらに、84%の女性、64%の男性が、性についてのディスカッションはゲーム業界に不可欠だと考えているとの調査結果を披瀝し、「“雇用”や“ディスカッション”は皆さんのスタジオでもできることです」と続けた。そして最後に「このテーマはもちろんゲーム業界だけのことではありませんが、この業界の中だけでも状況を改善するパワーはあると思いますし、その方向に進む準備があると考えています」とコメントし講演を締めくくった。

 女性の社会進出の難しさは、記者の回りでもよく聞くこと。一筋縄でいく問題ではないことは間違いないが、シェフィールド氏が指摘する通り、まずはディスカッションして積極的に問題を話しあってみてほしいところだ。一方で、日本でもセクシズムに対する研究発表を期待したい。そう、活発な議論を促すために。

(取材・文/編集部F)