ロマンシング嵯峨が訊く、『ロマンシング サ・ガ』サウンドの魅力

 暦の上では春になりましたが、まだまだ寒い今日このごろ。世間は“ロマンシング佐賀”(佐賀県と『サガ』シリーズのコラボプロジェクト。詳しくは→こちら)の話題でもちきりですが、いやいやちょっと待ってよ。『サガ』シリーズとのコラボ(?)なら、私のほうが先にしてたんだから!

 というわけでこんにちは、週刊ファミ通の編集者、ロマンシング★嵯峨です。「苗字が嵯峨なら、この編集者ネームしかないでしょ」と名付けられて早数年。当初は、偉大なゲームタイトルと同じ名を名乗っていいものか悩み、「誰かRomancing止めて」と思っていましたが、幸運にも河津神(『サガ』シリーズの生みの親、スクウェア・エニックスの河津秋敏氏)に認めていただくことができ、晴れて堂々と活動できることになりました。ほら、これもある意味コラボ……でしょ?

 まあ、そんな私の話はさておき、今年(2014年)は、『サガ』シリーズが生誕25年を迎える年。これを記念し、さまざまな企画・催しが行われます。2014年1月18日には、この25周年記念企画の皮切りとして、作曲家のイトケンこと伊藤賢治さんらによるライブイベント“One Night Re:Birth Again”が開催。そして、2014年2月26日には、シリーズの人気曲のアレンジバージョンを収めたアルバム「Re:Birth II -閃- SaGa Battle Arrange」が発売されました!
※“One Night Re:Birth Again”リポートは→こちら

 今回は、イトケンさんをゲストに招き、アルバム収録曲の聴きどころや、開発の思い出について、たっぷり語っていただきました。『サガ』ファンは必読ですよ!

ファンクな「下水道」を聴け! 「Re:Birth II -閃-  サガ バトルアレンジ」の楽曲を、イトケンこと伊藤賢治氏が語る_04

「Re:Birth II -閃- SaGa Battle Arrange」
2014年2月26日発売 2857円[税抜](3000円[税込])

トラックリスト
01. 必殺の一撃~死闘の果てに メドレー from Sa・Ga2 秘宝伝説
02. バトル2 from Romancing Sa・Ga
03. 下水道 from Romancing Sa・Ga
04. クジンシーとの戦い from Romancing Sa・Ga 2
05. バトル#1 from Saga Frontier
06. バトル#5 from Saga Frontier
07. ラストバトル -アセルス- from Saga Frontier
08. 呼び醒まされた記憶 from Romancing SAGA -Minstrel Song-
09. 邪聖の旋律 from Romancing SAGA -Minstrel Song-
10. 七英雄バトル from Romancing Sa・Ga 2

「Re:Birth II -閃- SaGa Battle Arrange」公式サイトは→こちら

※以下のインタビューには、『ロマンシング サ・ガ』を『ロマサガ』、『サガ フロンティア』を『サガフロ』と略称で記載している箇所があります。

ファンクな「下水道」を聴け! 「Re:Birth II -閃-  サガ バトルアレンジ」の楽曲を、イトケンこと伊藤賢治氏が語る_02
作曲家
伊藤賢治氏

■大盛況だった“One Night Re:Birth Again”

ロマンシング★嵯峨(以下、嵯峨) CD「Re:Birth II -閃-」発売、おめでとうございます! 1月に行われたライブ、“One Night Re:Birth Again”も、とても楽しかったです。大盛り上がりのライブを振り返ってみて、いかがですか?

伊藤賢治氏(以下、伊藤) いろいろよくやったな、ひとつ結果を出したな、と思います。『ロマサガ』というタイトル名義で、ゲーム音楽、しかもインストゥルメンタルで、あれだけ大きなイベントを成功させたということは、ひとつの証になったと思ってますね。もちろん、お客さんとスタッフのサポートがあってのことですけど。

嵯峨 新宿文化センター大ホールが満員で、すごい熱気でしたよね。つぎは東京国際フォーラムかな? と河津さんがおっしゃっていましたけど、いかがですか?

伊藤 河津さんがお金を出してくれるなら、いいんですけどね(笑)。

嵯峨 (笑)。これからも、まだまだライブをやっていきたいと考えていますか?

伊藤 はい。いろいろ企画していこうかなと持っています。

嵯峨 楽しみにしています! それでは、「Re:Birth II -閃-」に収録されている曲について、1曲1曲お話をうかがっていきたいと思います。

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▲記念すべき伊藤氏の作曲デビュー作。

■必殺の一撃~死闘の果てに メドレー from Sa・Ga2 秘宝伝説

伊藤 『Sa・Ga2 秘宝伝説』は、伊藤さんがスクウェアに入社してすぐ参加された作品ですよね。

伊藤 すぐでしたね。

嵯峨 今回、「必殺の一撃」と「死闘の果てに」をアレンジしようと思った理由をうかがってもよいでしょうか?

伊藤 バトル曲がこの2曲だったので、じゃあ、メドレーにしよう、と。遡ること3年前、バトル曲メインのgentle echo meeting 3(※2011年に伊藤賢治氏が開催したライブ)で「『サガ』シリーズの楽曲をやるよ!」と言った後に演奏したのが、この「必殺の一撃」と「死闘の果てに」のメドレーだったんですよね。gentle echo meeting 3では、ほかにも何曲か演奏したのですが、そこで演奏したものを形にして残そう、昇華させようという思いはありました。

嵯峨 この曲を書かれたのは20数年前だと思いますが、アレンジしてみて、いかがでしたか?

伊藤 ゲームボーイの三和音で作ったものだったので、如何様にもアレンジできる曲ではありましたね。

嵯峨 三和音だったからこそ、いくらでも想像の幅が広げられた、ということですね。

伊藤 そうです。当時の自分が表現したかったビート感などが、今回のアレンジバージョンで表現されているものに近いかな。

嵯峨 『Sa・Ga2 秘宝伝説』は伊藤さんの処女作ですから、やはり思い入れもひとしおでしょうか。

伊藤 思い入れはありますね、やっぱり。よくやったな、と。まだ21歳でしたからね。ゲームボーイが三和音ってことも知らなくて(笑)。自分は新人だし、まず植松(※『ファイナルファンタジー』シリーズなどの楽曲を手掛けた植松伸夫氏)さんのお手伝いから始まるんだろうなとタカをくくっていたら、植松さんに「俺、今回バトル曲作りたくないから、お前、ちょっと修行でがんばれや」と言われて(笑)。「はい!?」みたいな。

嵯峨 ものすごいスパルタ教育ですね(笑)。

■バトル2 from Romancing Sa・Ga

嵯峨 そのスパルタ教育を経て、伊藤さんはスーパーファミコンの『ロマンシング サ・ガ』の開発に参加されたわけですが……今回、『ロマサガ』からは「バトル2」と「下水道」が収録されていますね。四天王戦などで流れる「バトル2」は、河津さんもイチオシの曲ですよね。

伊藤 『ロマサガ』開発当時は、河津さんに褒められたことはなかったんですよ。きっと、あんまり褒めると図に乗るから、あまり言わんでおこう、って考えていたと思うんですよね(笑)。でも、月日が経って曲の感想を聞くと、河津さんも「じつはあの曲、結構好きだよ」って言ってくださったり。当時はまだ、坂口さん(※『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親のひとり、坂口博信氏)が開発中のゲームのモニターをしていた時期でもあって、「この曲いいじゃん」と言っていただいた思い出もあります。この「バトル2」は、意外にも気に入ってくださった方が多かったという印象がありますね。

嵯峨 それゆえに、アレンジする際、プレッシャーを感じたりもしたのでは?

伊藤 『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』のときのアレンジで、自分としては「アレンジを完成させた」と思っていたんですけど、じつは賛否両論があって。スーパーファミコンの『ロマサガ』のときのメロディーは、サンプリング機能を使って、トランペットの音色を指定して作ったものなんです。シンセチックな感じで、生っぽさはなかったんですね。で、いざ『ミンストレルソング』で生っぽく作ったら、印象が弱い、インパクトがないという意見をいただいて。せっかくの生っぽい音ではあったんですが。ならば歌メロのような部分を活かして、バイオリンに弾かせたらどうかな? と考えて、今回アレンジを行いました。

嵯峨 「シ~ラソラシ~」というメロディーを聴くと、四天王の姿が蘇ってきますね。

伊藤 『ロマサガ』では自分もモニターをしていたので、四天王と戦っていた気がしますね。確かアルベルトでプレイしていました。

嵯峨 『ロマサガ』の8人の主人公の中で、伊藤さんはどのキャラクターがお気に入りなんですか?

伊藤 テーマ曲の作りやすさというか、自分らしい曲になったというところも含めて、クローディアですね。

嵯峨 クローディアの曲、私も好きです。当時、『ロマサガ』の楽譜(ロマンシング サ・ガ 全曲集)を買って、ピアノで弾いたりしました。

伊藤 あ、本当ですか? あの、ドレミ出版の。

嵯峨 そうですそうです、ドレミ出版の!

伊藤 懐かしいですね、それも。

嵯峨 アイシャのテーマも弾きやすくてかわいかったので、よく弾いてました。懐かしいです。

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▲嵯峨家の実家にいまも大切に保管されている楽譜たち。この記事を作るため、郷里の母に写真を送ってもらいました……

■下水道 from Romancing Sa・Ga

嵯峨 続いて「下水道」ですが、これは以前のライブ(2013年開催の“One Night Re:Birth”。リポートは→こちら)で、「収録してほしい!」とユーザーからの熱い声が寄せられた曲ですね。私、昔のファミ通で見つけてまいりました、下水道の地図。

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▲20年以上前の記事なので、紙もボロボロ。「ジャミルはダウドとともに地下水路の探索へと旅立つのだ。ゴーゴー!!」と書いてある。テンション高い。

伊藤 ははは(笑)。なるほど、確かに。ああ、南エスタミルですね。当時が懐かしいな。

嵯峨 まあ、まさか下水道で流れる曲になるとは、予想していなかったと思いますが……。

伊藤 まったくしてなかったですね。

嵯峨 全主人公共通の、フィールドテーマ曲のはずだったんですよね?

伊藤 ええ。それが、それぞれのキャラクターのテーマ曲を流すということになって。この曲を当てはめるところがなくなっちゃったから、下水道でいいんじゃないの、みたいなノリだったと思いますよ(笑)。それにしても、「下水道」人気がこれだけ長く続いているっていうのはスゴイですよね。

嵯峨 下水道に行ったことってありますか?(笑)

伊藤 いや、ないですね(笑)。でも、行くなら、ひとりで行ったほうがおもしろそうですよね。

嵯峨 もしかして、インスピレーションが湧くかもしれません!

伊藤 でも、下水道に行ってあの曲が浮かんだりはしないですよね(笑)。

嵯峨 (笑)。「下水道」もファンに人気の曲ですが、アレンジするうえで、プレッシャーはありましたか?

伊藤 うーん、そうですね。やっぱり、『ミンストレルソング』の存在が大きくて。一度『ミンストレルソング』で完成させたものとは、別のものにしなければならない、違いを出さなければならない、というプレッシャーはありました。『ミンストレルソング』ではエレクトリカルな「下水道」でしたが、今回はファンクな感じの「下水道」です。アレンジしながら、方向性を模索していきましたね。

嵯峨 「下水道」は、まだまだアレンジのしがいがあるんじゃないかと、個人的に思っているんですが。

伊藤 混声合唱の「下水道」なんかもおもしろそうですよね。みんな「あ~あ~あああああ~♪」って歌うような感じで。

嵯峨 「下水道」のコンピアルバムが出たら、喜んで買いますよ! ところで今回の「下水道」、先日のライブでも演奏されていましたが、ファンの皆さんからの反応はいかがでしたか?

伊藤 「カッコイイ」、「好きだ」と言っていただくことができました。「まあ、無難だね」という意見もあったのですが……(苦笑)。

嵯峨 手厳しいですね。

伊藤 そのような感想も、大事な意見なので、全部受け止めています。

嵯峨 それだけ、ファンが大切に思っている曲ということですよね。

■クジンシーとの戦い from Romancing Sa・Ga 2

嵯峨 『ロマサガ2』の人気曲のひとつ、「クジンシーとの戦い」ですが、本当はこの曲、クジンシーのための曲じゃないんですよね?

伊藤 いわゆる、中ボスの曲だったと思います。

嵯峨 最終皇帝時代、復活したクジンシーとの戦いでは、「七英雄バトル」が流れますもんね。

伊藤 「クジンシーとの戦い」っていうタイトルは後付けでしたので。僕がモニターしながら、このクジンシーとの戦いぐらいまでしかゲームプレイを進められなかったので、この曲名になったんです。『ロマサガ』は基本的に難しいですから、ボス戦も辛くって……。

嵯峨 人気の高い曲ですが、前のアルバム「Re:Birth II」には収録されていなかったので、「ついにアレンジされた!」と喜んだファンも多いと思います。

伊藤 ライブでも、「おお!」ってけっこう歓声が上がっていたので、「意外に人気が高いんだな」と思いました。じつは、今回のアルバムを作るとき、スクウェア・エニックスのスタッフの方から「クジンシーをぜひ入れてください!」という熱烈なオファーがありまして。それゆえに入れたようなものなんです。本当に(笑)。その方は、「クジンシーとの戦い」を目覚ましのメロディーにしていたそうですよ。

嵯峨 目覚ましですか! あんまりいい寝覚めにならないような気がするんですけど……。だって起きたら、脳内にクジンシーがいるわけですよね(笑)。

伊藤 (笑)。そういえば、河津さんが前にも言ってたんですよね。「イトケンのバトル曲って、苦労して苦労して、やっと勝った! という苦労を味わったときに流れているものなのに、やたら人気があるのは違和感があるよね」って。

嵯峨 その苦労があったからこそ、記憶に残るんでしょうね。ボス戦ですか……イヤな思い出しかないですけど、でもやっぱり曲はカッコいいですよね(笑)。

伊藤 ありがとうございます。今回の「クジンシーとの戦い」には、間奏部分に『ロマサガ2』のラストバトルのフレーズをちょっと組み込んだりと、お遊びが入っていますので、ぜひ聴いてもらいたいですね。

嵯峨 ちょっと話題がズレますけど、ラストバトルについて言うと、ラストバトルが始まる前の演出もカッコいいですよね。『ロマサガ1』も『ロマサガ2』も『ロマサガ3』も。サルーインは、「邪神復活」を聴きながらサルーインのところまで歩いていって、会話が終わるとオレンジ色の背景になって、「決戦!サルーイン」が流れるっていう……。『2』は七英雄がグルグル回るのが印象的で。『3』はみんながサササーッて走っていくのがカッコイイですよね。

伊藤 『3』の走っていく演出は、とくによかったですよね。きっとどれも、河津さんが曲を聴いてから考えついた演出だと思いますよ。聞いてみないとわかりませんが。

嵯峨 我が家は兄弟で『ロマサガ3』をやってたんですけど、姉がサラでプレイしてまして。サラって、ラストバトルがコマンダーモードじゃないですか。なので、あのカッコいい曲を聴きながら「マジか……」って。なかなか厳しい仕様だったと思います(笑)。

伊藤 ああ(笑)。もう、『ファイナルファンタジー』シリーズとは真逆の方向に行っていましたからね、当時は(笑)。

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■バトル#1 from Saga Frontier、バトル#5 from Saga Frontier

嵯峨 おつぎは『サガフロ』のお話についてうかがいたいと思います。『サガフロ』は、とにかくバトル曲が多かったですよね。

伊藤 多かったですね。

嵯峨 今回は、「バトル#1」と「バトル#5」がアレンジされましたが、このふたつを選んだ理由を教えてください。

伊藤 「バトル#5」は、“One Night Re:Birth”で演奏したものです。そこで、「バトル#1」のアレンジもぜひ聴きたい、というリクエストをツイッターなどでいただいたので、「バトル#1」を選びました。

嵯峨 では、前回のライブで「バトル#5」を選んだ理由は?

伊藤 動画投稿サイトなどを見ると、『サガフロ』について言えば、人気があるのはやっぱりアルカイザーのバトルなんですね。メタルブラック戦。ですので、「バトル#5」を選びました。アレンジのイメージはけっこうすんなり浮かんできまして、イケイケな感じで勢いで作りました。

嵯峨 個人的には「バトル#4」も好きなんですけど……。

伊藤 あれはフルオケのシミュレーションなので、なかなかアレンジが難しいですね。

嵯峨 『サガフロ』のCMで使われていましたよね?

伊藤 そうです。よく憶えてらっしゃいますね。そうなんですよ。

嵯峨 「バトル#4」もアレンジしていただきたいです。

伊藤 じつは、田中公平さんといっしょに開催するコンサートで、ブラスバンドで「バトル#4」のオーケストラをやります。東京佼成ウインドオーケストラに演奏していただくんです。
※“BRASS UP!Z~!!《ブラスサウンドで知る田中公平と伊藤賢治の正体》~おまけライブ付きだよ~~”の詳細は→こちら

嵯峨 そうなんですね! それはとても楽しみですね。

伊藤 今回は僕はアレンジ担当ではないので、どんな譜面になるのか、僕も楽しみですね。トランペットがいきなり立って、ソロをパーッと吹いちゃったりして。あのフレーズを。

嵯峨 できれば、そのアレンジもCDなどに収録していただけたらうれしいです。ぜひ!

■ラストバトル -アセルス- from Saga Frontier

嵯峨 『サガフロ』には主人公が7人もいますが、今回、アセルスの曲を選んだ理由を教えていただけますか?

伊藤 ラストバトルの曲の中で、アセルスの曲は、最初にできたものなんですよ。ですので、思い入れもあって。自分の好みに合う曲ですし、今回のアルバムにはバイオリニストが参加しているので、アセルスの曲なら、バイオリンを活かせると思ったんです。

嵯峨 バイオリンの音色によって、アセルス編の持つ耽美さが、より強まったと思いました。

伊藤 ええ、それは狙い通りでした。

嵯峨 “One Night Re:Birth Again”で、「クラシックが自分の原点だから、このアセルスの曲に挑戦した」とおっしゃってましたが、クラシックへの想いは、伊藤さんご自身の中にずっとあるのですか?

伊藤 はい、やはりスタートがクラシックだったので。べつにピアニストを目指していたわけではないんですけれども、ベースにあるのは、クラシックかなと。だからポール・モーリアや、リチャード・クレイダーマンなども好きですし。音楽を始めたときから続いている、自分が表現したい部分というのが、そこにあるのかなと思いますね。

嵯峨 この「ラストバトル -アセルス-」の中にも、長く続く、伊藤さんのクラシックへの想いが入っているんですね。オルロワージュ戦のことはよく憶えています。私、アセルス編を最初にプレイしたんですよ。半妖エンドでしたね。

伊藤 誰もが通るエンディングですね。

嵯峨 ですよね! エンディングには種類があるって、かなり後になってから知って、人間エンドも妖魔エンドも見ましたけど、やっぱり半妖エンドが好きですね。ところで、アセルス以外のキャラクターの曲をアレンジするなら、どのキャラクターの曲を選びますか?

伊藤 うーん、やりたくないけど、エミリアですね(笑)。

嵯峨 えっ、やりたくないんですか! エミリアの曲は、プログレを意識した曲なんですよね。植松さんが、プログレの参考になるCDを貸してくださったとか。
※植松さんが薦めたのは「タルカス」(EL&P)とのことです。

伊藤 ええ。テンポも目まぐるしく変わるので、難曲中の難曲だと思うんですけどね。人気は高いので、つぎにアレンジするなら外せないのかな、と思います。

嵯峨 T260Gの曲もかなり人気が高いと思うのですが。

伊藤 そうですね。でも、あの曲は完全にテクノなので。クラブイベントなどがあるのなら、あの曲でもいいかな、と思いますけど。

嵯峨 『サガフロ』って、ひとつのゲームの中に、すごくいろんなジャンルの音楽がありますよね。

伊藤 ラストバトル曲を全員分作るのは、本当にたいへんでしたね。もう、とんでもないスケジュールだったんですよ。1週間から10日で全員分のラストバトルと、全員分のエンディングの曲を作らなきゃいけなくって、半分キレながら作って(笑)。植松さんに「お前、グッタリしてるけど大丈夫か?」って言われて、何とか「大丈夫です」って言ったところで、鼻血がダーッと出て。「え!? お前、ぜんぜん大丈夫じゃないから」と驚かれましたね。それからいろいろな作業を終えて、ようやく家に帰ったんですけど、それから1週間、まるで立てませんでした。あれは地獄でしたね。精魂尽き果てた、みたいな。

嵯峨 ブルーの物語では地獄が出てきますが、まさに地獄ですね……。

伊藤 あんなことはもう、できませんね。若くて体力があったから、ギリギリなんとかなりました(笑)。その1ヵ月か2ヵ月後に、『サガフロ』の打ち上げがあったんですよ。そのとき、河津さんが褒めてくださったんです。「まあ、いろいろあったろうけどよくやったね」と。みんなが「いいなー、河津さんに褒められて」と言うんですけど、僕にしてみれば、あれだけ死ぬ思いしたんだから、そりゃそうだろうと(笑)。

嵯峨 皆さんが「いいなー」と言うぐらい、河津さんが褒められるのは珍しいことなんですね。

伊藤 みたいですね。でも、このあいだ「(褒めたこと)憶えてねえわ」と言われて、「そんな~」と思いました(笑)。後にも先にも、褒められたのはそのときだけでしたね。

■呼び醒まされた記憶 from Romancing SAGA -Minstrel Song-、邪聖の旋律 from Romancing SAGA -Minstrel Song-

嵯峨 それから、『チョコボレーシング』や『ワイルドカード』の開発に参加された後、伊藤さんはフリーに転向されたわけですが、ワンダースワン版の『ロマサガ』で、シェラハ戦の曲を書かれましたよね。今回収録されている「呼び醒まされた記憶」は、そのワンダースワン版の曲を『ミンストレルソング』のためにアレンジした曲を、さらにアレンジしたものということになりますか?

伊藤 はい。『ミンストレルソング』でハードロックバージョンにして、それをさらにアレンジしました。以前gentle echo meetingで演奏したものですが、生演奏のものをCDに収録するのは、今回が初ですね。

嵯峨 一方の「邪聖の旋律」は、ディステニィストーンの守護者とのバトル曲ですね。今回のアレンジでは、バイオリンが印象的です。これも、バイオリンを活かすアレンジを意識したのでしょうか?

伊藤 そうです。こうして見ると、『ミンストレルソング』はバトル曲がたくさんありますね。

嵯峨 でも、まだデス戦はアレンジしていませんよね。

伊藤 『サガフロ』も、ラストバトルはまだほとんど手を付けていませんしね。

嵯峨 まだまだアレンジアルバムを出せるぞ! ということですね(笑)。

伊藤 (笑)。

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▲つぎはデス様の出番?

■七英雄バトル from Romancing Sa・Ga 2

嵯峨 最後のトラックは、「七英雄バトル」。こちらは、“One Night Re:Birth”で披露されたロックアレンジバージョンですね。「Re:Birth II」には、ジャズアレンジバージョンが収録されていましたが。

伊藤 あのジャズアレンジで、賛否両論真っぷたつだったので、ロックアレンジも作らなきゃ、と思ったんです。“One Night Re:Birth”でもすごくいい評価をいただけましたし。

嵯峨 そもそも、「Re:Birth II」でジャズアレンジにしたのは、どういった思惑からだったんですか?

伊藤 もともと、「七英雄バトル」の原曲は、ピアノから作ったものだったんです。何かのタイミングで、「バトル曲にしたほうがおもしろいんじゃないか?」ということになり、「七英雄バトル」に変わったんですよ。ですので、ジャズアレンジバージョンこそ、原曲に近いものだったんですよね。でも、賛否両論だったので……(笑)。

嵯峨 それだけ、たぎるようなアレンジを望まれている方が多かったんですね。さて、持ってきてみました、七英雄の画像。“One Night Re:birth Again”に出演された上倉紀行さんがたとえるには、伊藤さんはダンターグということですが……。
※ギターとキーボード担当の上倉さんが、7人の出演者をそれぞれ七英雄にたとえて紹介。伊藤さんはダンターグ、上倉さん自身はクジンシーとのことでした。

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▲クジンシー
▲スービエ
▲ボクオーン
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▲ロックブーケ
▲ノエル
▲ワグナス
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▲ダンターグ

伊藤 ははは(笑)。ダンターグらしいですね、僕のイメージは。

嵯峨 いやー、当時、辛かったです。ダンターグ。“子供と子ムー”というイベントで出てくると思うんですが、放置していると強くなるじゃないですか、七英雄って。ますます倒せなくなって、ひどく苦労した思い出がありますね。七英雄の中で、トップクラスでイヤでした……。と、伊藤さんの前で言うのは、失礼でしょうか?(笑)。

伊藤 いや、僕はダンターグじゃないですから(笑)。

■肯定的な意見も、否定的な意見も大切にしたい

嵯峨 「Re:Birth II -閃-」は、全体的に見て、どんなアルバムに仕上がったと思いますか?

伊藤 ロックテイストとはいえ、バラエティに富んだものになったと思います。アセルスのクラシックなアレンジもあり、下水道のファンクなノリもあり。

嵯峨 とくにお気に入りの曲を挙げるとすれば、どの曲ですか?

伊藤 いまのところは「ラストバトル -アセルス-」ですね。今後もこういったアレンジをやっていきたいという気持ちも含めて。でも、「下水道」も何だかんだ完成度が高いと思っています、我ながら(笑)。

嵯峨 (笑)。ところで、これまでのお話で、伊藤さんはツイッターなどで寄せられる意見や反応を、かなり大切にしているという印象を受けましたが……。

伊藤 そうですね。褒めていただいているところも、罵倒されているところも、全部ひっくるめてチェックしています。「『サガ』すばらしい」、「イトケン最高」でもいいし、「オワコン」、「最悪」みたいな意見でもぜんぜんオーケーです。「こういうところが好きだ」、「こういうところが嫌いだ」という意見も、研究のしがいがありますし。チェックは怠らないようにしていますね。

嵯峨 伊藤さんが自分で表現したいものと、ファンが望んでいるものを融合しながら、曲を作っていくイメージでしょうか?

伊藤 自分の中でバランスは取っています。

嵯峨 でも、ツイッターなどでは本当にいろんな意見が来ますから、戸惑う部分もあるのではないですか?

伊藤 意外にも、皆さん、いい人たちばかりなんですよ。ありがたいですね。もちろん否定的な意見をいただくこともありますが、そういった意見をちゃんと受け取って、自分の判断材料にしないと、つぎに進めないと思います。

■これからの「Re:Birth」シリーズにも期待!

嵯峨 「Re:Birth II -閃-」のジャケットイラストは、前作に引き続き、小林智美さんが描かれていますね。

伊藤 今回の絵は、まろやかな感じがあると思うんですよ。前作に比べて。

嵯峨 前のジャケットイラストは、ボスばっかりでしたもんね。

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伊藤 ええ。平和なイメージ、柔らかい感じが見てとれるなと思いますね。それから、たくさんの蝶が描かれていますが、その蝶にはどんなイメージを込められているのか、聞いてみたいですね。

嵯峨 描かれているキャラクターの人選についてはいかがですか?

伊藤 うん、いまだにあの左上の女性は誰かわからない(笑)。

嵯峨 ああ(笑)。あれは、たぶん『サガフロ』のIRPOのドールだと思います。

伊藤 ああ、そっかそっか(笑)。

嵯峨 『ロマサガ』からグレイ、『ロマサガ2』からジェイムズ、『ロマサガ3』からサラ、トーマス、『サガフロ』からドール、『ミンストレルソング』から詩人……だと思います。そういえば、以前伊藤さんは、『ロマサガ3』ではカタリナが好みだっておっしゃってましたよね?

伊藤 うん、カタリナ好きですね。

嵯峨 いまでも、選ぶならカタリナ?

伊藤 カタリナは、曲も含めて自分の好みですね。よくできたなと思っています。

嵯峨 つぎは、キャラクターテーマのアレンジ集を作ってみてはいかがでしょう? カタリナとか、クローディアとか。……って、「Re:Birth II -閃-」が出たばっかりなのに、気が早いですかね(笑)。

伊藤 でも、「Re:Birth」シリーズはこれからも、継続的に展開していきたいと思っているコンテンツです。CDだったり、ライブだったり。もちろん、スクウェア・エニックスさんのお力が必要ですが。

嵯峨 そういえばこのあいだ、河津さんが「そろそろ曲を発注したい」とおっしゃっていましたが、進展はありましたか!?
※河津氏の発言の詳細は→こちら

伊藤 いまのところは、まだないです(笑)。

嵯峨 残念です……続報を楽しみにしています! それでは最後に、「Re:Birth II 閃」発売を喜んでいるファンにひと言、メッセージをお願いします。

伊藤 「Re:Birth II -閃-」は、ファンの皆さんの「この曲が聴きたい!」というリクエストを踏まえて作ったものでもあるので、皆さんといっしょに作ったと言えると思います。ですので、いっしょに盛り上げてもらえるとうれしいです。

嵯峨 しかし、今回“閃”という文字を使ってしまいましたので、つぎのアルバムを出すとしたら、タイトルをどうしますか?

伊藤 どうしましょうか。また皆さんに考えてもらおうかな、アンケートで(笑)。

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▲楽しいお話をたくさん聞かせてくださったイトケンさん。これからの作品も楽しみにしています!