モーションコントロールで新たな没入感を目指す

 アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで開催中のカンファレンス“GDC Next”から、アクセスゲームズのSWERY氏による講演“D4: Dawn of the Dreaming Director's Drama”の模様をお届けする。

 講演の冒頭では、あいさつから早速、同社が開発中のXbox Oneタイトル『D4』のデモをプレイする様子を収録したビデオをいきなり公開。そのちょっと変わったプレイスタイルが明かされた。なんと本作、Xbox Oneの新Kinectを使用してモーションコントロールでプレイする、ミステリーアドベンチャーゲームなのだ。

 本作のコンセプトは、キャラクターへの感情移入と、キャラクターがやろうとしている行動の感覚の再現を行うこと。
 アドベンチャーゲーム+Kinectということで、派手に体を使わなければいけないかというとそういうわけでもなく、ほとんどソファーに座ったまま、右手のみでリラックスして操作が可能。講演で出た基本的な操作は以下。

・干渉可能なオブジェクトの選択(右手で画面上に出ている手のカーソルをオブジェクトに合わせて選択する。オブジェクトに重なるとハイライトされる)
・オブジェクトへの干渉の実行・アクションシーン(QTEのように画面に簡単なコマンドが表示され、それに合わせることで完了)
・押す動作(手を前に出す)
・カメラの変更(画面の端からスワイプ動作)
・移動(移動できる場所で表示される足のアイコンを選択する)

 なお、手を開いた状態、握った状態、その中間の状態を認識可能で、選択は手を握ることで行われる。セリフの選択シーンでは、セリフを読み上げてのボイスコマンドでの実行も可能だ(ちなみに、キャラクターが実際に言いそうなことを選択すれば、シンクロ率が上がってスコアが高くなるとのこと)。
 オブジェクトに対する干渉のコマンドも、顔を洗うシーンでは手を上に挙げるなど、キャラクターの動作に近いようなものが採用されており、自然とキャラクターに没入していくようになっている。

 プレイヤーを助けるシステムも組み込まれており、使用回数に制限があるものの、“ビジョン”と呼ばれる能力を使用することで、画面内の干渉可能なオブジェクトを浮かび上がらせるシステムが用意されているほか、アクションシーンでコマンドが失敗した場合でも、QTEでありがちな“ゲームオーバー→巻き戻してリトライ”ということにならず、失敗は失敗で進んでいくことができるという。

新しいデバイスに引きずられるのではなく、コンセプトに立ち返ってデバイスを使う――新Kinectで遊ぶアドベンチャーゲーム『D4』の場合【GDC Next】_01
新しいデバイスに引きずられるのではなく、コンセプトに立ち返ってデバイスを使う――新Kinectで遊ぶアドベンチャーゲーム『D4』の場合【GDC Next】_02
▲『D4』は、“キャラクターへの感情移入と、キャラクターがやろうとしている行動の感覚の再現”がコンセプト。新Kinectを使い、ほとんどのシーンを座りながら右手だけで操作できる。
ちなみにストーリーとしては、妻を亡くした男が過去に遡れる力を使い、妻の死の真相を追うという内容。

 さて、ここからが本題。この講演の目的は、『D4』が現在のコントロールシステムになるまでの失敗談の共有にある。
 リラックスしながらライトな動作のモーションコントロールでキャラクターにシンクロし、プレイヤーとキャラクターが一体となりながら探索していく本作だが、SWERY氏によると、初期段階から、かなりの試行錯誤があったという。

 まず、当初は全身を使ったモーションコントロールを検討していたそうだが、じっくり探索していくアドベンチャーゲームには疲れるだけで不向き。そうではなく、じっくりとキャラクターと一体化し、世界の探索を楽しめる設計でなくてはなrない。そこで、座ってできるものを模索していくことになるのだが、これがなかなか難航。

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▲初期コンセプトその1:全身を使ってプレイヤーの動きをそのまま再現する。歩く動作をするなら実際に歩く。→もちろん疲れる。
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初期コンセプトその2:座って操作するように。移動と探索(オブジェクトへの干渉)などを右手を使って行う。→ジェスチャーの動きがかぶっているので上手くいかない。
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▲初期コンセプトその3:左手で移動とカメラ、右手でオブジェクトへの干渉。→もはやどうやって遊んだらいいのかわからないレベル。

 頻度の高い移動やカメラの変更を右手だけの操作にまとめ、移動についてはポイントの選択だけに留めるように決定するも、今度はオブジェクトとの関わり合い方が問題となる。
 キャラクターがやろうとしている行動の感覚をプレイヤーに味わってもらうために、近い動作のモーションコマンドを用意しようとしても、キャラクターとのゲームデザイナーがキャラクターに行わせたい動作と、各プレイヤーがその動作に対して抱いている動きのイメージが異なるのだ。これでは合わせようとすることがストレスになってしまい、逆効果だ。

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▲オブジェクトへの干渉を実際に近い動作でやってもらう場合の問題。“カップを取ってコーヒーを飲む動作”は、いきなり飲む人、匂いをかぐ人もいる。
▲“電話を使う動作”でイメージするものも、受話器を取る動作でいい人、番号を押す動作が入る人……。
▲イメージした行動とゲームで正解とする動作のずれによって混乱させてしまっては、安心してやってもらえない。
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▲戦闘の場合も同様。避ける動きもイメージがいろいろある。自分が思ったのと違う動きはストレスになる。
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▲そもそもゲームのプレイヤーコントロールは動作のシンボル化から始まっている。シンボル化の積み重ねがゲームの歴史だとすれば、その原点に立ち返ればいいのではないか?

 ここまでで1年ほど開発をしていたそうだが、さらにシンプルでプレイヤーにストレスの少ないモーションコントロールを目指すために、思いきってそれまでのものを捨てて、作り変える決断を下したそう。

 そこでSWERY氏が振り返ったのが、ビデオゲームの原点である、動作のシンボル化。
 ボタンを押してジャンプするとか、メーターが上がったのに合わせてボタンを押してゴルフクラブをスイングするとか、ビデオゲームはキャラクターの動きをシンボル化したコントロールを導入してきた。

 その歴史に従い、(顔を洗うシーンでキャラクターに合わせて手を上に挙げるように)なんとなく近い感覚が得られるようなシンボル化した動作をあてはめたところ、ようやく現在の、操作をシンプルかつリラックスして実行できるものに維持しつつ、動作の感覚をプレイヤーに残せるシステムになったのだという。

 SWERY氏は、新しいデバイスを前にすると、まずデバイスに合ったゲームデザインを考えようとしてしまいがちであると述べ、そうではなく、そもそも作りたいゲームのコンセプトに立ち返り、あくまでそれに合わせた使い方を探すことが作りたいゲームに近づく近道ではないかと語り、講演をしめくくった。(取材・文・編集:ミル☆吉村)

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▲新しいデバイスに合わせたゲームデザインをするのではなく、新しいデバイスをコントロールして自分たちの作りたかったコンセプト、ゲームデザインに合わせ、それを実現すること。