異色の水泳選手は考えかたも独特だった!?
日本で150万人のプレイヤーを持つオンラインFPS『Alliance of Valiant Arms (以下、AVA)』を運営するゲームオンの主催で、『AVA』トップクランと国際的に活躍するスイマー・平井康翔選手による対談が実現した。トップアスリートとの対談企画は、ボクシング世界チャンピオン、パンクラス王者に引き続き、3回目の実施となる。
3回目の対談相手はオープンウォータースイミングなどで数々の国際大会に出場している平井康翔選手。オープンウォータースイミングとは海や川といった自然のなかを泳ぐ長距離水泳競技のことで、通常の競泳とは競技性が大きく異なる。
『AVA』からは実力派クラン・DeToNatorのリーダーであるDarkよっぴー選手とマネージャーのMaxJam氏、日本運営プロデューサーの井上洋一郎氏が参加。DeToNatorは10月31日~11月4日にルーマニアで開催される国際大会“IeSF”に日本代表クランとしての出場が決まっている。ちなみに、平井康翔選手とDarkよっぴー選手は同い年。すでに世界を舞台に活躍している同年代のアスリートの話から、Darkよっぴー選手は何を感じ取ったのだろうか。
トップアスリート対談企画(1)『AVA』トッププレイヤー×ボクシング世界チャンピオン スペシャル対談! プロの在りかたとは?
トップアスリート対談企画(2)『AVA』トップクラン×パンクラス王者 スペシャル対談! 3人の戦士から“戦う”ことの意義を学ぶ!
<<対談出席者>>
幼少の頃から水泳を始め、水泳競技歴は21年。
2009年からオープンウォータースイミングに取り組み、同年の日本選手権で初優勝。2010年から日本代表に入り、国際大会に出場する。2012年にはオープンウォータースイミングの日本人選手第一号としてロンドンオリンピックに出場した。
『AVA』の実力派クラン、DeToNatorのリーダー
【DeToNator大会戦績】
2013年大会成績
2013AVARST Season2爆破部門:優勝
2013AVARST Season2護衛部門:優勝
2013AVACST Season1奪取部門:優勝
2013ALIENWARE BATTLEGROUNDS Season2:優勝
2013AVALMT Season1護衛部門 護衛部門:優勝
2013AVA国際エキシビジョンマッチ 爆破部門:優勝
2013ALIENWARE BATTLEGROUNDS Season1:3位
2013AVARST Season1爆破部門:準優勝
2013AVARST Season1護衛部門:準決勝敗退
2013AIC AVA INTERNATIONAL CHAMPIONSHIP:準優勝(世界2位)
DeToNatorチームマネージャー
自身ももともとはプレイヤーだったが現在は一線を退き、チームのマネージャーとしてメンバーの管理からスポンサーとの交渉まで幅広く行っている。
『AVA』日本運営プロデューサー
2008年のサービス開始から現在まで『AVA』を手掛けている日本の運営プロデューサー。
実力を100%発揮するためのメンタルトレーニング
井上 海外では対戦ゲームの人気が高くて、大きなホールに集まってステージ上の対戦を観戦するというイベントが盛り上がっています。大きいイベントになると1000人以上のお客さんが来場して、それこそスポーツライクなショーと同じです。平井選手は海外で活動されていますよね。日本でやることとの違いや海外の人たちと接することで学んだこと、環境の違いなどについて教えていただければと。ちなみに、Darkよっぴー選手は平井選手と同い年です。同世代の先駆者の話を聞いて、これから海外での国際試合に挑む彼には何か感じ入ることもあるかもしれません。
MaxJam 平井選手のオープンウォータースイミングと我々の『AVA』、状況的に似ている部分もあります。オープンウォータースイミングは、水泳のなかではこれからのジャンルだと思います。ゲームもたしかに盛り上がってはいますが、誰もが興味を持っているかと言うと、そうではありません。平井選手はひとりでアグレッシブに活動されていると思うので、苦労や心境の変化などをぜひ聞きたいですね。
井上 これまでの国際大会は韓国で開かれることが多くて、ヨーロッパで開催される大会に出場するのは初めてのことです。アジアと大きく異なる土地や水の状況、生活のスタイルと、すごく不安な部分もありますが、そこをどうにか短い時間で克服して戦わなくてはいけません。最初は海外で初めて乗り込んだときのエピソードなどを聞かせてください。
平井 僕の場合、ヨーロッパは時差が体にアジャストしやすいというか、適応しやすかったですね。アメリカやメキシコは体が適応するのに1~2週間ほどかかることもありました。そういった意味ではヨーロッパはすごくいいと思いますよ。ルーマニアは行ったことないですけど、スペインやイタリアなんかだと食事はおいしいし、人はやさしいし。試合+観光で異文化に触れるっていうのは楽しいと思いますよ。僕はヨーロッパに行くと、そういう部分も楽しんじゃいますね。
MaxJam 言葉はどうですか?
平井 言葉は英語ができたら大抵は大丈夫だと思いますけど、大都市から外れると現地の言葉だけになりますね、やっぱり。僕は渡航する前に短期集中的にババッと例文や単語を覚えるようにしています。30パターンもあれば簡単な日常会話はできますしね。試合のときってすごく集中して自分の“ゾーン”に入るじゃないですか。それを語学でも応用するような感覚ですね。
MaxJam 必要最低限の要点を抜き出して効率よく覚えていく、と。
平井 僕はこの2年くらいで意識的にその“ゾーン”に入れるようになりました。こういうメンタルトレーニングも大事だと思うんですけど、ゲームのトッププレイヤーがどういうメンタルトレーニングをしているのかは気になっていました。
井上 これまでにいろいろなプレイヤーと接してきたり、プロのアスリートにお話を伺ったこともありましたが、“メンタルトレーニング”という言葉が出てきたのは今回が初めてかもしれません。
Darkよっぴー “メンタルトレーニング”を意識したことはないですね。
平井 アウェーでも雰囲気にびびったりしないですか? 観客に日本人がひとりもいないような状況でも、練習と同等以上のパフォーマンスを出せるようにしておいたほうがいいじゃないですか。
Darkよっぴー 僕らのチームはまだ海外でプレイしたことがないんです。今回のルーマニアが初めての海外遠征で。
MaxJam 海外の強豪チームと日本で戦ったことはあって、そこでは勝ってはいるんです。ただ、今回のルーマニア大会のように、完全にアウェーの状況での国際戦は初めてなんです。心の準備は必要ですし、心配は大きいです。
平井 じゃあ、これからある意味スタートですね。もしかしたら全然ダメかもしれないし、意外とすんなり適応できるかもしれないし。
MaxJam 平井選手の考えかたをお聞きすると、事前の準備をしっかりして自分の優位なものを探す努力をされているように感じますね。海外遠征となると、勢いで「行っちゃえ!」みたいな人もいるんでしょうけど。
平井 たしかに準備はしますけど、勢いで何とかしている部分もあると思いますよ。アウェーに乗り込むときって、自分の軸がしっかりしてないと雰囲気に流されちゃうじゃないですか。敵地で自分のパフォーマンスを100%発揮するにはメンタルがしっかりしていないといけないと思います。
Darkよっぴー ヘッドフォンを着けてPCを前にして完全に集中するので、試合になってしまえば周りの環境は気にならないとは思います。試合以外となると、ちょっと想像ができないですね。
平井 今度のルーマニアの大会と同じスケールの試合が日本で開催されたことはあるんですか?
井上 今年は2回ほど国際試合を開催して、ニコニコ動画での配信で10万人近くの視聴がありました。
Darkよっぴー とは言え、来場者はみんな日本人ですからね。
平井 会場の雰囲気は絶対違うと思うんですよ。「そこが逆に楽しみ」という考えかたもありますけどね。選手としてだけじゃなくて、人間的な幅は絶対広がりますよ。
Darkよっぴー そういう感覚は日本でやっているだけだと気づかないでしょうから、楽しみです。
井上 平井選手は2009年からオープンウォータースイミングに挑戦しているんですよね。海外経験も多いですか?
平井 そうですね。いまはちょうどビザの関係で日本に戻ってきていますけど、今年の4月からトレーニングの拠点をオーストラリアに移しています。
MaxJam 我々はずっと日本でやっているので、平井選手の考えかたは新鮮です。海外での試合やトレーニングを経験している人ならではというか。でも、たしかにそうなるだろうなとは感じます。
平井 慣れるには場数をこなす以外の方法はないと思います。ゲームも水泳の練習も、こなした時間と回数が結果に結びつくじゃないですか。海外への適応も、“どれだけ長いこと滞在したか”と“どれだけ多くの国に行ったか”というのが大切なんじゃないかな。自分のキャパが広がれば、泳ぎに対する考えかたや取り組みかたも変わっていきます。カフェでお茶しているときにハッとトレーニングのアイデアや閃くなんてこともありますよ。
井上 ゲームの作戦の幅も同じことかもしれませんね。
平井 自分のキャパを広げることを楽しみにして行くと、つぎの遠征も効果的になると思います。違う環境にいると、同じことをしても別のことみたいに感じますから。あとは、人と会うことが楽しく感じる人は本物らしいですね。これは田中角栄さんの言葉ですけど。
MaxJam なるほど。海外にも出会いはたくさんありますもんね。それが楽しみになれば最高ですね。
平井 極論ですけど、ルーマニアなんてきれいな人がいっぱいいるだろうから、ナンパとかしちゃって、その閃きからゲームの作戦に通じる何かが得られるかもしれないじゃないですか。
MaxJam それはすごくわかるな……(真顔)。
一同 笑
井上 若いなぁ。人と人が接することによる化学反応を楽しめるかどうかですよね。
MaxJam そういう感覚は、海外に行って自分で体験して初めて理解できた感じですか?
平井 そうですね。
MaxJam ブログなどの記事を拝見して、平井選手はその気持ちや感覚を伝えようとしているように感じました。“自分が第一人者になろう”と。
平井 オープンウォータースイミングは水泳の一種ですけど、ある意味ニッチなスポーツじゃないですか。競技のことや自分のことを広めるきっかけは何でもいいと思いますね。こういう対談もそのひとつで、たとえば僕を応援してくれる人がこの対談を読んで『AVA』をやってみようと思ったら、それも新しいきっかけですし。お互いに相乗効果の関係を構築できればもっと広がるという考えを持っています。
「オンオフの切り替えができない選手は強くなれない」
Darkよっぴー 僕たちはチーム5人での練習を1日に2時間30分ほどやるんですけど、平井選手はどのくらい練習しているんですか? ざっくりとした1日のスケジュールを教えてほしいのですが。
平井 基本的には日曜日以外は毎日泳ぐんですよ。1日のスケジュールは、朝の5:30から8:00まで泳いで、夜にまた18:00から21:00まで練習します。1日に2回練習するイメージですね。いまは泳ぐのが仕事なので、その間の時間はケアに充てたり好きな時間として使っていますけど、去年までは大学生だったので、授業に出ていました。練習、授業、練習ですね。
Darkよっぴー それはハードですね。
MaxJam 学生時代に遊ぶ時間はありました?
平井 それなりに遊んでいたと思いますよ。「オンオフの切り替えができないやつは強くなれない」って先輩に言われてましたし。グッと集中するときと息を抜くときの切り替えが大事だと思います。
Darkよっぴー 日曜日は練習しないというのも、オンオフの切り替えの一環ですか?
平井 精神的な切り替えもありますけど、疲労はどうしても蓄積するので、週に一度は何もしない状況を作らないと体が回復しないんですよね。ゲームはやり過ぎると目が痛くなったりしませんか?
Darkよっぴー なりますね(笑)。なりますけど、僕らは1日の練習時間がすごく長いわけじゃないので、ほぼ毎日練習はします。メンバーの予定が合わないとき以外は、ほぼ毎日。
平井 1日はどんなスケジュールなんですか?
Darkよっぴー 平日は10:00から19:00まで仕事をして、だいたい22:00頃から練習ですね。
平井 飽きることってありますか?
Darkよっぴー 飽きを感じたことはないですね。
平井 できるなら、おじいちゃんになるまでやりたいとか?
Darkよっぴー いまはそう思っています。チーム戦なんですけど、自分のなかでの理想の動き(チーム5人の連携)があるので、それを目指して活動している感じです。まだまだそこに至らないんですよ。
井上 Darkよっぴー選手には週末に行うネットカフェイベントにも帯同してもらったり、『AVA』の普及に協力してもらっています。
平井 そこまでやっているんだったら、“ゲーム1本に絞る”というのをモチベーションにするのもいいかもしれないですね。
井上 “ゲームをすることで賃金が発生する”ような環境を作れればいいんですが、いまはまだ難しいです。
MaxJam まずは環境作りですよね。僕もいろいろな大人のかたに働きかけていて。海外はそれが整っていますから、まったく不可能というわけではないと思うんですよ。
平井 アメリカで“ゲームの選手がアスリートとして認められた(※)”みたいな話もありましたよね。
(※編注:アメリカでは対戦型戦略ゲーム『League of Legends』の大会がプロスポーツとして認定され、選手に長期滞在が可能なアスリートビザが発行された)
MaxJam 賞金は1億円を超えますからね。すごい話ですよ。
平井 そのゲームには挑戦しないんですか?
Darkよっぴー ジャンルが違うから、最初からやり直しになっちゃうんですよね。
世界最高峰の大会への挑戦
平井 『AVA』における最高峰の大会って何ですか?
MaxJam いま現在で言えば、今回のルーマニアでの国際大会ですね。これは1年に1回開催されています。世界各国からいろんなチームが集まるので、いちばん規模がでかいです。日本でも国際大会は開かれていますけど、参加チームはそれほど多くないんです。
井上 『AVA』だけではなく、世界的に人気の高い対戦ゲームが集まります。単一競技の世界選手権ではなく、複数の種目が集まるので規模が大きいんです。女子の部門もありますし。IeSFという組織が各国にあって、発足して5年ほどになるんですが、ようやくヨーロッパで開催できるまでになりました。来年以降も世界各地を回っていくんじゃないかと期待しています。
平井 女子は別に部門が用意されているんですね。ゲームって頭脳を使う競技じゃないですか。男女でパフォーマンスは全然違うんですか?
Darkよっぴー 極端に違うということはないと思いますけど、少しは違いがあるかもしれません。これはFPSに限った話じゃないですけど、“男性のほうが空間認識能力が高い傾向にある”と言われていますよね。だから敵の位置を把握するのがうまいのかなと思います。逆に、敵に照準を合わせる能力は女性のほうが優れているような印象があります。
平井 スポーツは体を使うから身体的な差は明らかじゃないですか。ゲームはどうなのかなと思って。
MaxJam 年齢や性別の差は、多少は出ると思います。けど、ほかでフォローもできますからね。僕はいま38歳で、『AVA』を始めたのは33歳のときですけど、それでも何とか勝てました。勝つために人生経験も役立ちますよ。目指すは中年の星(笑)。
井上 今年40歳になるような人も現役でやっていたりしますから。
平井 やっぱり反射神経が重要なんですか?
井上 重要な要素ではありますね。10代は0.15秒前後で、20~30代になると0.2秒前後に落ち着くんですね。この0.05秒の差が影響する場面もありますけど、動きかたや戦略でいくらでもカバーできます。敵の位置を瞬間的に把握する能力が優れているのが、トッププレイヤーに共通する点なのかなと思います。
MaxJam あとは集中力と大舞台での強さ、精神力も大切ですね。
井上 日本にはゲームに競技として向き合う環境があまりなくて、プレイヤーの成長度合いも海外と比べると差があります。日本代表は一度も国際大会で優勝したことがなかったんですが、今年は海外の選手を日本に招待して、多くの人が注目する場所で対戦ができる環境を増やしてきました。あとは、トッププレイヤーとカジュアル層のレベル差が縮まれば試合がさらに白熱すると思うので、全国のネットカフェでの交流対戦会を開催するという動きにも力を入れています。
平井 海外のほうが強い選手が多いということですけど、やっぱり韓国が強いんですか?
井上 オンラインゲーム大国の韓国はトップクラスですね。プロゲーマーもいますから。そのつぎは台湾やヨーロッパです。
平井 本気でやるんだったら、留学とかどうですか?
MaxJam そういう選択肢もありますよね。ただ、5人チームなんですよね。ひとりが離れてしまうと練習に支障が出る可能性もあって。5人まとめてだったらいいのかもしれませんけど、なかなかそうなってくると、こういう問題もありますから(親指と人差し指で円を作りながら)。
一同 笑
MaxJam このゲームが魅力的であることをスポンサーさんに認知してもらうためにも、僕たちは『AVA』のおもしろさを伝えなきゃいけない。選手の環境を変えていけば、もっと上にいけると思うんです。ということは、注目もされる。いろんな人に興味を持ってもらえる。まだやることはたくさんあるんですよね。
井上 運営側としては、『AVA』そのものを日本のみならず世界でも盛り上げて、選手が挑戦したいと思える環境を作れるように、地道に進めている状況です。FPSのような銃撃戦のゲームはヨーロッパで人気があって、有名な選手は北欧やドイツに多いんです。そこで『AVA』が流行ればどんどん盛り上がっていくので、ヨーロッパで流行るように仕掛けていきたいと。ルーマニアでそのきっかけを作りたいですね。
平井 Darkよっぴー選手的に、海外のチームに加入とかは考えないんですか? やっぱりいまの仲間といっしょにやりたいですか?
Darkよっぴー プレイのレベルとしては海外とそこまで差は感じていないので、いまのチームメンバーとやりたいですね。
平井 あ、そういうことではなくて、ヨーロッパが本場なんだったらそこに飛び込んで、逆にヨーロッパの強豪を引き連れてチームを作ったり。僕は日本でコーチに教わったりチームメイトといっしょに練習するのに飽きたんですよ。気持ちが燃えないというか。全然知らないところに行って、トップの選手と練習するほうが性に合っているんです。
Darkよっぴー 話を聞いていると、スケールが大きくてすごいなーって思っちゃいますね。全然そこまで考えられていないです、正直な話。
平井 つまらなくないですか? 日本の恵まれた環境で、世界のいいものが何でも手に入って、自動販売機もコンビニもいっぱいあって、学生も適当にバイトをすれば楽しく生きられて。そういう何でもある環境に、僕は飽きちゃったんです。日本で有名になるより、自分を全然知らない国で自分と言うものをブランディングしていくほうが、生きている証を残せると思うんです。
MaxJam なるほど。我々の場合はあくまでもチームスポーツなので、チームとして活動したいんですよね。『AVA』は韓国でスタートしたゲームですけど、世界的に見たら『AVA』はそれほど知名度が高いわけじゃなくて。日本から『AVA』というものを各国に伝えるのが、いまの目標のひとつです。世界で勝てばそれだけ注目されますので、選手にももっと前に出てもらいたいです。スポンサーもつけて、チームとして世界に乗り込んでいきたいんです。
井上 逆パターンが発生するかもしれないですね。海外の人が日本に来てDeToNatorというチームに入るかもしれないし。
MaxJam DeToNatorというチームを通して『AVA』に興味を持ってもらいたいんですよ。
井上 水泳にはいろいろな種目があってルールも違いますけど、泳ぐことはいっしょですよね。FPSの場合は、ゲーム性やルールは違うけど“敵を撃つ”という根幹はいっしょです。複数のタイトルが集まる大会は必要だと思うんですけど、そこに海外で人気のタイトルだけが集まっても日本のプレイヤーには注目されません。だからこそ、いまは日本で盛り上がっているタイトルを海外に知ってもらう準備をする段階かな、と。その下地をいまのうちに作っておかないと、もっと大規模な世界大会が開催されたときに、日本人が参加しにくくなってしまいます。
MaxJam そこをこじ開けようと必死です。この熱意はまさに“情熱大陸”ですよ。
一同 笑
未来を見据えて自分を高め続ける
Darkよっぴー モチベーションは何に由来しているんですか? 自分がオープンウォータースイミングを広めてやろうという意識とかでしょうか?
平井 オープンウォータースイミングの認知を高めていくためにも、まずは自分が国際試合で結果を残して、僕の活躍を通して、競技の認知が高くなっていけば、という気持ちがあります。そうすれば、僕名義でいろんな活動ができたり、オープンウォータースイミングに挑戦してみたいという人が飛躍的に増えるのではと思い、いまは日々努力しています。
MaxJam 自分のためだけという、その活動の結果が競技を広めることにつながっていると思います。
平井 そのために、誰もが納得するような結果を出さないといけないですよね。『AVA』だったら、毎年世界一になるとか。そこまでやれば全然興味を持っていなかったメディア媒体とかも「日本にすごいチームがある」と取り上げてくれるかもしれないし。それがきっかけでプレイヤーの人口が増えたら最高じゃないですか。そのためには、プレイヤーががんばらないといけない。やっぱり大事なのは選手ですよ。
MaxJam 違うジャンルのプロゲーマーの方で、「ゲームがおもしろくても、プレイヤーが魅力的じゃなければ流行らない」というようなことを言った人がいるんです。いまの話を聞いてまさしくそうで、やっているプレイヤーが魅力的だから「どんなゲームなんだろう」と興味を持ってもらえる。人がありきですべて発生する。ゲームそのものだけじゃなくて、そこに人間のドラマがあるから応援したくなる。
平井 僕らで言うと、純アスリートみたいな人たちはフィーチャーされなくなってきたように感じます。同じように、純ゲーマーだと、ゲーマーからしか興味を持たれないと思うんですよ。わかりやすい例で言うと、何かの種目で世界一になったとしても、その競技しかできないと、競技人生が終わった途端に名前を聞かなくなっちゃって。けど、メダルを獲れなくても、その競技という軸があって、ほかにもいろんなことで秀でているものがあると、その各ジャンルで注目されますよね。僕は水泳以外に、アスリートのなかでは、洋服や音楽の知識もあるほうだと思いますし、MMA(ミックスマーシャルアーツ)とかの勉強もして自分のバックボーンを作り上げています。水泳選手でこんなことができる人がいるんだって思ってもらえるかもしれないですよね。Darkよっぴーさんの場合、ゲーム以外で好きなこと、得意なことはありますか?
Darkよっぴー うーん……ゲーム1本なんですよね、現状。
平井 それがいいか悪いかはわからないですよ。ただ、いまは“パラレルキャリア”を持つ人も多いですよね。ひとつの会社に勤めながら、週末はまた別の仕事をする人とか。となると、ゲーマーもアスリートもビジネスマンも、いろんなことができたほうがいい。たとえば、絶対に無理だとは思いますけど、僕がいまから『AVA』を始めて同じくらいの競技結果を出したら、僕に注目が集まっちゃいますよ。いま僕が気になっている人は、たいてい特定のジャンル以外のことでも飛び抜けているんですよね。水泳界のなかでは多方面にアンテナを広げる人は少ないから、自分がパイオニアになりたいという気持ちもモチベーションになっています。
Darkよっぴー 平井選手みたいなタイプは少ないんですか?
平井 いないですね。ほかのスポーツに目を向けると、海外にはいたりしますけど。ふだんは野球選手だけど試合が終わったら弁護士とか。マルチに才能を開かせていますよね。そういうのは海外に行かないとわからないんじゃないかな。
MaxJam 自分の可能性を広げるのにどこまで時間を割けるか、時間の使いかたですよね。僕の場合はもともと美容師だったんですけど、ゲームやチームのマネジメントをしっかりやりたかったから店を畳みました。僕は何でもやったほうがいいと思うタイプなので、いろいろな選択肢があることを選手たちにも伝えたいですね。ただ、平井選手は自発的にできていますけど、育ってた環境によってはそこに気づけない人もいると思います。そこは周りがサポートをしたり、こういう異文化交流の場を通して自分たちで見つけてほしいなと。お父さんみたいな感覚ですね。
平井 Darkよっぴー選手は30歳になったとき、どういう自分を思い描いてますか?
Darkよっぴー 30歳か……。そんなに先のことを考えられていないですね。いまに必死になっているというか。平井選手の話を聞いていると差を感じてしまいます。
井上 そのアクティブなモチベーションはいつ頃からのものですか?
平井 水泳を始めた小さい頃からですね。最初は全国大会に出たくて、つぎは決勝に残りたくて、日本一になりたくて。日本一になったら日の丸をつけて世界大会に挑戦して。出るだけじゃつまらないからメダルを取りたくて。ひとつずつ目標を達成していったらここまで来れました。たぶん、やればやるほど見えてくるものってあると思うんですよ。いまはその途中なんです。結果を出すと見える世界がどんどん広くいく。トップの人はみんな突き詰めたくなる性格なんですよ、きっと。結果を出さないとふるいにかけられる世界ですから。僕はどこまで残れるんだろうっていう漠然とした思いがあって、限界が見えたときに辞めると思います。
井上 いまは23歳で、ひとつの区切りである30歳まであと7年。まだ伸びていくと感じていますか?
平井 そうですね。“7年後に30歳”って、適度に漠然としていて、適度にわかりやすいですね。結婚して子どももいるかもしれないですし。そう言えば、『AVA』をやり始めたきっかけって何なんですか?
Darkよっぴー もともと違うFPSをやっていて、『AVA』が始まるときに試しにやってみたらおもしろかったって感じです。それがだいたい5年前です。
井上 『AVA』のサービスが始まった頃に日韓戦で韓国に挑戦しました。そのときはまさかここまで善戦できるようになるとは思っていませんでした。日本国内だけでやっていても小さくまとまるだけだし、世界中のプレイヤーと切磋琢磨することでおもしろくなっていくのがスポーツですから、そこで初めて「人と人とが活発に対戦できる場を作らないとダメだ」ということに気づきました。
Darkよっぴー 当時は本気でやるチームもすごく少なくて。30~40人くらいしかいない頃もありましたよね。最近はだいぶ増えて1万人を超えるようになりました。
井上 カジュアルに遊んでいる人も含めればその数十倍ですから、ようやく場が整ってきたと思います。
平井 反射神経や反応速度が上がることが実証されたらアスリートもやりそうですよね。トレーニングとして。
MaxJam 大学でそういう研究をしようとする動きもあるみたいですよ。同じように、FPSプレイヤーが適度な筋トレや体幹トレーニングをするのも効果的かもしれませんね。“ずっと同じ姿勢で座っていても疲労が溜まりにくい”とか“集中力が持続する”とか、長丁場の大会になるほど、効果が表れるんじゃないかな。
平井 SAQトレーニングはいいと思いますよ。Speed(重心移動の速さ)、Agility(身体をコントロールする能力)、Quickness(反応速度)。僕もやりますよ。
MaxJam ものすごく長時間プレイを続けると、疲労で実力を発揮できなくなることもあると思います。ゲームとはいえ、もっと高みに行くためには身体のコントロールも必要かなと。そこまで勝ちにこだわった活動ができれば、外部からの見られかたも変わるんじゃないかな。
井上 そう言えば、前川龍斗選手というプロボクサーも弟と一緒にスパーリングの合間を縫ってガチで『AVA』をプレイしているんですよ。
平井 以前の対談に参加されていた方ですよね。(ゲーム内で)戦ったことはありますか?
Darkよっぴー 戦ったことはないですね。一度チャットで話しかけられたことはあるんですけど、僕がたまたま席を外していたんですよ。
MaxJam 前川選手には反射神経では勝てないでしょうね。実際に対戦したことはないですけど、1対1だと撃ち負けると思います。ただ、大切なのはチーム5人での連携なので、そこがおもしろさのひとつです。
Darkよっぴー ひとりだと自分のトレーニングを集中してやればいいですけど、5人が同じ考えかたをしていないと効果的な動きができないんですよね。
MaxJam ゲームは人間関係、コミュニケーションがすごく大切。ゲームをベースにコミュニティーを作っているので、言いかたひとつで感情の伝わりかたも変わります。ゲームに対するモチベーションが高過ぎて言いかたが荒くなったり、逆に控えめすぎ人もいますけど、それだけだとなかなかチームとして強くなれない。
平井 団体競技ですよね。各自役割分担があって。そういうのを考えながらやるのはすごいことだと思います。
Darkよっぴー 世界で戦うことに少し不安がありましたけど、平井選手の話を聞いたら目の前が開けた気がします。平井選手と同じく、世界一を目指してがんばります!
対談を終えて
海外での試合経験のないDeToNatorにとって、世界を舞台にアグレッシブに活動する平井康翔選手の意見は、これ以上ないアドバイスになっただろう。ルーマニアで行われる“IeSF”は世界中のeSportsプレイヤーが注目するビッグイベント。世界中のFPSプレイヤーに『AVA』の存在を知らしめることができるかは、DeToNatorの活躍にかかっている。