理想は過去のライブラリを含め、どんなデバイスでも遊べるようにすること

 2013年9月19日~22日(19、20日はビジネスデイ)、千葉県・幕張メッセにて東京ゲームショウ2013が開催。ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオプレジデントの吉田修平氏に直撃し、インディーゲームの今後の展開などを中心に、プレイステーションプラットフォームが目指す方向性について話をうかがった。

ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオプレジデントの吉田修平氏に直撃!【TGS2013】_03

――プレイステーション4のローンチタイトルの中に、配信タイトルが3本ありますが、これはインディーゲームへの取り組みを強化すると発表されていた戦略のひとつと考えていいのでしょうか?
吉田 じつは、いわゆるインディータイトル、小さな規模のデベロッパーさんたちが”クリエイタードリーム”を実現できるように開発をサポートする取り組みというのは、PSNのスタート時からずっと続けてきました。目立った成果が出たのは、『風ノ旅ビト』ですね。ご存じの通り、『風ノ旅ビト』は全世界で高い評価をいただいて。社内的な取り組みもそうですが、全世界的にインディーゲームの盛り上がりが欧米を中心に広がっていて、タイトルのクオリティーも高い。それを証明する、ひとつの象徴的な出来事だったと思います。インディーゲームのサポートは、プレイステーション4になったからといって急に始めたわけではないんですね。PSN立ち上げの時代から独立系の小さなデベロッパーを大事にして、非常にユニークな展開を続けてきました。プラットフォーム的に言いますと、大きな変化、意図して変化を努力しているのは、プレイステーションフォーマットでインディーゲームが発売できる環境を整えるということ。インディーの盛り上がりで言えば、いまもっとも盛り上がっているのは、PCのSteamであったり、スマートフォンやモバイル用タイトルであったりするわけです。開発者、小規模の開発チームにとっては参入する敷居がもっとも低いんですね。まずそこから入って、知名度を上げて、人気が出たらいろいろなプラットフォームで展開するという流れがあるわけです。家庭用ゲームの配信市場は大きくなってきてはいるのですが、開発機材ですとか、契約であるとか、PC、スマートフォンやモバイルプラットフォームと比べると、いろいろな敷居が高かった。そこで我々は意図してその敷居を下げ、独立系の開発者さんたちがぶつかる壁を取り除く努力を、ここ2~3年やってきています。その成果として、欧米ではPSN上でほとんど毎週のように、クオリティーの高いゲームが配信されているという状況を生み出せました。つぎにプレイステーション4の時代にあたっては、いよいよ日本でも、高いクオリティーでユニークな、欧米で作られているゲームを配信できる環境を整えていこうと考え、日本のインディーゲーム開発者の方々にもコンタクトを取り、彼らがプレイステーションプラットフォームでゲームを出しやすいよう、サポートすることに取り組んでいます。その大きな流れの中で、ファーストパーティーとしての独立系のサポートをつけて、ローンチタイミングで、『Doki-Doki Universe(ドキドキユニバース)』、『Hohokum(ホホクム)』『RESOGUN(レゾガン)』の3本が配信されるわけです。

――吉田さんご自身、インディーゲームに造詣が深いという印象がありますが……。

ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオプレジデントの吉田修平氏に直撃!【TGS2013】_01

吉田 もともとはモバイルのゲームはよくチェックしていたのですが、じつはPCのインディーゲームはあまりチェックしていなかったんです。ですが、アメリカのチームの人間がいろいろと紹介してくれたのをきっかけに、「こんなにおもしろいゲームがあったのか」と気づいて。いまではアメリカのPSNでゲームが新しく配信されるたびに目を通すようにしています。大手のタイトルはいろいろなところでマーケティングされていますので、目立たないけれど光るゲームを紹介する活動を、私自身のTwitterアカウントでやっているんですね。そういった活動を行っているうちに、海外のイベントなどでインディーゲーム開発者の方々との交流を深めることができました。ゲームもおもしろいですけれど、作り手のパワーが大きく、大きなスタジオの人たちとは違った刺激を受けるので、そういった方々が作ったゲームを遊ぶことは非常に楽しみにしていますね。

――吉田さんが考える、インディーゲームならではの魅力とはどういったところなのですか?
吉田 とにかく、作っている人たちが「自分が作りたいから作るんだ」という部分を押し通しているところですね。我々がサポートした『風ノ旅ビト』や『The Unfinished Swan(アンフィニッシュド スワン)』をファウンディングしたときも、できるだけ彼らの作りたいものを実現するようにと心がけてはいましたが、インディーで独立して制作している方はすべてを自分で決められるんですね。パブリッシャーが自分ですから、全部自分で決められる。誰かに承認をもらうこともなく、クリエイターの想いが最後まで貫かれていて、遊んでみると作っている人の姿が見える。パーソナルな部分も含めて、それが伝わってくるのが魅力ですね。

――まるでミュージシャンのようなイメージですね。
吉田 そうですね。若い人たちが4人でバンドを組んで世界へ飛び出せる、という意味では近いですね。最近はエンジン、ツールが発達していますので、昔のようにすべてを学んで、プログラミングする必要はないですから、ゲームを開発する環境自体も整ってきています。また、開発者のキャリアも上がってきているんですね。インディーと聞くと、アマチュア、学生というイメージが強かったですが、いまはタイトルがひとつヒットすれば、ビジネス的にも成功と言えるポテンシャルがありますので、大手のスタジオで10年以上経験を積んだ人たちが独立し、デジタルで自分たちが作りたいものを作ってもビジネスになるんです。経験もあり、ゲーム作りも熟知している。しかも仲間までいる。そういった人たちが独立してゲームを作れるという環境がありますので、いまのインディーゲームのクオリティーの高さには目を見張るものがありますね。

――最近のインディーゲームで言えば、アメリカのPSNで配信されて好評を博した『Hotline Miami』が印象的でした。
吉田 『Hotline Miami』は本当にいいゲームですね。アメリカでは、あれほどのおもしろさを有したゲームを低価格で購入できるわけですが、日本では配信されていない。海外でこんなにおもしろいゲームが配信されているのに、日本の方々が遊べないのは残念ですよね。日本はマーケットとしてはかなりのサイズがありますから、作り手にとっても「なぜ日本の人たちに僕たちが作ったゲームを届けられないんだ」という悔しさがあります。こういった状況は、プラットフォームとしては間違っていると思っていますので、その壁を崩していこうと、努力をしているところなんです。

――日本での配信を考えると、レーティングが問題となるのでしょうか?
吉田 そうなんです。レーティングは、いまの仕組みですと、CEROの会員企業でなければ審査を受けられません。海外の小規模なチームが会員企業となるのは非現実的ですし……。欧米のインディーゲームを、作り手たちも日本で売りたいと考えているんですよね。海外の開発者の方々は、日本のゲームで育った方が多いですから。日本のユーザー様にも楽しんでもらえるゲームがたくさんあると私も思いますし。じつは、今回のTGSでは『Octodad: Dadliest Catch』や『Contrast』など、いくつかのインディーゲームを出展しているんですね。これをきっかけに、日本でもPSNで配信されるよう、努力していきますので楽しみにしていてください。

――続いて、クラウドに関するお話をおうかがいします。アメリカで2014年からクラウドゲーミングを利用したプレイステーション3タイトルの配信を開始されるという発表がありましたが……。
吉田 はい。まずはプレイステーション3からスタートするということですね。我々の目指しているところは最終的に、あらゆるコンテンツをあらゆるデバイスに提供したいということです。

――それは、プレイステーションフォーマットの優位性を最大限に活用するということですか?
吉田 過去に出たプレイステーションのライブラリ、今後作られるもの、理想的にはですが、すべてがどんなデバイスを持っていても遊べる。究極の目標としてですが、それがクラウドの強さだと思うんですね。クラウドゲーミングはレイテンシーを極力小さくし、操作性をそこなわないようにするのはもちろん、サーバーの投資も必要ですし、まずは一歩一歩順番に進める。きっかけとして、現在ライブラリがたくさんあるプレイステーション3タイトルの中から、ある程度の数をそろえた形で、インターネット環境が整っているアメリカを皮切りにスタートして、そこからコンテンツの種類、地域の拡大を計画しています。

――ずばり、日本でのサービススタート時期はいつごろを予定されているのですか?
吉田 日本はインターネットの環境という面では整っていると思いますので、できるだけ早く日本でもサービスをスタートしたいと考えています。プレイステーション3のグラフィックに優れたタイトルを、対応機種の違いからプレイステーション Vitaでは動くはずのないゲームが、クラウドゲーミングを使えばプレイステーション Vitaで楽しむことができるわけです。

――サービスが開始されれば、ユーザーの幅が一気に広がりそうですね。
吉田 いまはモバイル機器など、ユーザー様が持っていらっしゃる、新しくハードを買わなくてもいいような環境でゲームを遊ぶという状況になっていますから、ゲームを遊ぶという敷居自体は非常に下がっているんですね。逆に言えば、家庭用ゲームはまずハードを買わなければいけない。そこが高いハードルになっていますので、これからどういう機器にサービスを提供できるかによりますけれども、将来の展望としては、すでにユーザー様が持っている機器にもプレイステーションプラットフォームのハイエンドなゲームをお届けできることを目指しています。

――なるほど。プレイステーション3タイトルと言えば、『人喰いの大鷲トリコ』の状況をおうかがいしたいのですが……。

ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオプレジデントの吉田修平氏に直撃!【TGS2013】_02

吉田  現在、ジャパンスタジオはおかげさまで健全な、作りたいタイトルが作れるリソースの人数となっています。『GRAVITY DAZE 重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』の外山(圭一郎)さん、『パペッティア』のギャビン(・ムーア)さん、そしてもちろん『人喰いの大鷲トリコ』の上田(文人)さん。『パペッティア』、『KNACK(ナック)』の制作を優先しているのでは……と不安に考える必要はありません。『人喰いの大鷲トリコ』の制作はずっと続いていますのでご安心ください。ただ、それ以上の情報のアップデートはいまの段階ではありませんので、我々としても自信を持って情報を伝えられるときになったら改めてご紹介させていただきます。

――では、最後にTGS来場者の方々にメッセージをお願いいたします。
吉田 今回のTGSはプレイステーション4に始まり、新型プレイステーション Vita、プレイステーションVita TV、そしてプレイステーションVitaとプレイステーション Vita TVを使ったプレイステーション4のリモートプレイ。さらには、プレイステーション4の機能を使った、Ustreamでのリアルタイムゲーム映像配信など、非常にさまざまな取り組みを一度に体験、見ることができるブースになっています。ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアブースに来ていただいて、多彩な体験を味わっていただければと思います。