新規IPとしてこだわった『ソルサク』のアートスタイルの裏側

ゲーム開発者向けツール&ミドルウェアの総合展示会“Game Tools & Middleware Forum 2013(以下、GTMF)”。2013年7月19日の大阪開催に続いて、2013年7月23日には秋葉原UDXにて東京でのイベントが開催された。

 その中で最後に行われたのは、SCE提供によるふたつのゲストセッション。前半では“Making of [SOUL SACRIFICE]”と題し、PS Vita用ソフト『SOUL SACRIFICE(ソウル・サクリファイス)』の開発を担当したマーベラスAQLの岸隆造氏により、本作のビジュアル面を中心にした開発の裏側が明かされた。

 本作は企画やディレクションをComceptが担当し、実際の開発をマーベラスAQLが担当。制作にあたってアートチームでは、ディレクション側から出てきた設定や世界観などを重視しつつ、要望をできるだけ反映できるように開発スピードの向上を図ったという。

『ソウル・サクリファイス』コンセプトを重視しつつ効率的にビジュアル面を仕上げた、アート制作の裏側【GTMF 2013】_01
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▲本講演で繰り返し語られていたのが、ゲームのコンセプトや設定を重視したということ。

 そのためのひとつとして、開発スタッフを“Cabal”と呼ぶ細かいパートごとのチームへと編成し直し、各Cabalでプランニングと実装を細かいサイクルで実行していくというフローを採用。
 また、各マイルストーン(節目)ごとのビルド以外にも“月報ビルド”を作成し、チーム内外でプレイして改善点を洗いだしながら開発を進めていくという方法を取っていた。

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▲全体をCabalと呼ぶ専門チームに分け、細かいサイクルでプランニングと実装を行なっていく。Cabalにはエネミー&バトルを担当するCabalや魔法部分を担当するCabalなどがあり、それぞれにプランナーやプログラマーがついており、複数のCabalにわたって担当することもある。

プロトタイピング

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 ビジュアル面においては、4人協力プレイの魔法バトルが快適に遊べることを大前提としつつ、“欲望と代償”というコンセプトをダイナミックに表現すること、そしてコンセプトアートの空気感や雰囲気をテイストとして反映することを目指したそう。

 本格的な制作の開始前に行って方向性を決定づけるプロトタイピングでは、およそ3ヶ月でビジュアル部分のスタイルを固め、4ヶ月目でPS Vitaでのゲームとしてのプロトタイピングを完了している。

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▲本制作開始前のプロトタイピングでアートスタイルの方向性やツール類の整備、フローの見直しなどを行う。

キャラクターデザイン、モデル製作

 キャラクター制作においても、例えばエネミー(敵)キャラクターならば、エネミー&バトルを担当するCabalのメンバーが、まずは設定から入り、打ち合わせを行いながら、デザイン面での作り込みや、ゲーム上での仕様などを作り込んでいく。

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▲キャラクターにおいてもまずは設定を重視。下川輝宏ディレクターから出てきた設定テキストをベースにイメージ画を作り込んでいき、それらを元にゲーム上でのアクションなども決めていく。
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▲敵キャラクターは比較的オーソドックスな作り。しかしモデルを作る段階で「一体あたり一日」制作日数が減るように工数削減の工夫なども行われている。
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▲プレイヤーキャラクターのモデルでは、カスタマイズ対応が問題に。マスクマップを活用して色変えを容易にできるように工夫している。ちなみにプレイヤーキャラクターのCabalはエネミーとは別。

モーション

 キャラクターモーションでは、本作の重要な部分である魔法アクションの模索が続く中での制作となるため、試行錯誤に対応できるよう手付けアニメーションを採用している。制作スタイルが関連するCabalで前提として共有されていたことから、これがうまく働き、スピーディーな制作が出来ていたようだ。

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▲モーションは要のひとつである魔法アクションを模索しながらの制作であったため、対応できるよう手付けアニメーションを採用。揺れ物はHavokで処理。キャラクターモデルは処理負荷を減らすために1頂点4ウェイトまでを仕様として決定。

背景

 バトルマップの背景などにも設定やストーリーが存在しているそうで、処理負荷の低減によるゲームとしてのパフォーマンスの維持を行いつつ、各マップの細かいディテールや雰囲気を再現するよう工夫されている(具体的なレンダリングについてはスライド画像参照のこと)。
 空気感の点で重要なポストエフェクトについては、実機上でパラメーター調整可能にすることで、大元のデータ修正の必要を減らしている。

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▲本作では、背景にも設定やストーリーが練り込まれている。多数の内製ツールにより作業の効率化も行なっている。
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エフェクト(特に魔法)

 魔法部分のエフェクトは、本作の制作の中でも特に苦労した部分だったそうで、コンセプトアートをどう再現するかというゲームへの落とし込みのみならず、マルチプレイ時には4人が繰り出すことから処理負荷の最適化という点でも大変だったようだ。
 ここではさまざまな内製ツールも紹介されており、Cabalメンバーの試行錯誤によってようやく完成した背景には、こういったツールによる作業の効率化があるのは想像に難くない。

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▲“魔法バトルアクション”のゲームとして重要な、魔法部分のエフェクト。
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▲複数の内製ツール・デバッグ機能で制作・最適化の効率化を図っている。
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▲最初はパフォーマンスが悪かったが、チューニング担当を立てて解析ツールを使いながら問題点を潰していったという。

“本”

 ゲーム中のコンテンツ“本”も、ちゃんとめくりアニメーションをさせるために3D処理を入れたり、レンダリングしておいたキャラクターテクスチャーを貼りこんで使ったりと、世界観を形成する上で欠かせないものとしてこだわった表現を行なっている。

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▲世界観や設定部分で重要な“本”は、めくる動作の実装のために2画面分の描画&2Dと3Dのハイブリッド処理している。
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全員参加によるモチベーションの高さと問題の早期発見、ツールの整備がカギ

 講演のラストでは、全員がゲームをプレイしながら制作に参加し、各Cabalのメンバーとして(パーツ作りではなく)“ゲーム作り”の部分を担ったことで、スタッフのモチベーションが高く保たれていたとの振り返りも行われた。早期にコンセプトを固めつつ問題点を洗い出し、各パートでディレクションのこだわりを活かしながら実制作を進めていくスタイルが上手くいったことが、『ソウル・サクリファイス』の高評価に繋がっているのだろう。

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