プロジェクト5番目の作品とは……?

 世界中が注目するトップクリエイターが集結し、“日本”をテーマに短編の映像作品を作り上げた劇場映画『SHORT PEACE』(オープニング+4作品)。2013年7月20日公開の同プロジェクトの5番目の作品として発表されたのが、プレイステーション3用ソフト『月極蘭子のいちばん長い日』だ。同作を手がけるのは、グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏と、クリスピーズの片岡陽平氏。この異色のコラボレーションによって、どのような作品が生み出されるのか? “ハイスピードエフェクトアクション”と銘打たれた横スクロールアクション『月極蘭子のいちばん長い日』について行われた、エグゼクティブプロデューサーの浅沼誠氏(バンダイナムコゲームス)へのインタビュー、そして須田剛一氏、片岡陽平氏、内山大輔氏(バンダイナムコゲームス)へのインタビューの全文を公開する。

エグゼクティブプロデューサーが語る『SHORT PEACE』

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■浅沼 誠氏
『SHORT PEACE』プロジェクトではエグゼクティブプロデューサーを担当。バンダイナムコゲームス取締役、第1事業本部本部長。

――浅沼さんはどのような役割で本企画に関わっていらっしゃるのでしょうか?
浅沼誠氏(以下、浅沼) クレジット上はエグゼクティブプロデューサーです。

――企画自体はどのようなきっかけで始まったのでしょう?
浅沼 もともと僕は大友さんと『スチームボーイ』など、いろいろな細かい仕事も含めてさせていただいていたんですが、そろそろつぎの作品は何を作りましょうかという話になりまして。そのときにサンライズのプロデューサーの土屋君という方がいるんですが、大友さんが彼といま短編を考えていると仰られて。その時点では本数が4~5本だったと思います。実際いまの形とはだいぶ違う形だったんですが、大友さんの作品はすでに『火要鎮』で決まっていました。なぜ短編だったのかというと、海外で“国際アニメーション短編映画祭”というのがありまして、大友さんが見に行かれて感銘を受けていたんです。それで短い作品を1本やりたいなと。もともと『MEMORIES』など、短編モノもやってらっしゃったじゃないですか。かといって短編で10分ぐらいでホントにおもしろいのかなと。ただ、今回見ての通り非常に珍しく男女の悲恋みたいな話なので、「これは素晴らしいな」と。だったらいいなぁというところでいっしょに企画を考えましょうかということがスタートでしたね。

――アニメの話が進行していく中で、ゲームの話が出始めたのは何がきっかけだったんでしょうか?
浅沼 カトキハジメさんが監督をされている『武器よさらば』がアクション的なSFをモチーフにした作品なので、ゲームにもなりやすいと思ったんですよ。ただ、単純にゲームを1本作るのではおもしろくないなと感じたんです。そこで『SHORT PEACE』は日本が誇るクリエイターが集まって作る作品ということなので、ゲームも日本が誇るクリエイターにお願いして、アニメーションが4本、ゲームが1本、5本をまとめて『SHORT PEACE』というようクリエイターの作品集にできればいいんじゃないかなと思ったんです。「それならば」とプロデューサーの内山から須田剛一さんがいいんじゃないかと提案がありまして。世界からも評価されていますし、非常に“変なモノ”を作ってくれるので、それはいいなと。

――5番目の作品としてゲームがあるという見せかた、売りかたというのはとても越えるべきハードルも多いでしょうし、非常に難しい案件だったと思うのですが、踏み切ったきっかけは?
浅沼 そもそも我々はアニメーションやマンガのゲーム化をふつうに行っていますが、なかなか関係性が難しいんです。上下があるわけではないのですが、マンガの原作、アニメーションの原作に負けないクオリティーのゲーム作品を作ることは非常に難度が高いですよね。もちろん、昨今の『NARUTO』などは我々のプロダクションチームが担当しているのですが、岸本斉史先生に非常に高く評価いただける内容のものを送り出せてきているように、ゲーム自体の役割も高まってきていると思います。ただ、アニメーションがあってのゲーム化以外にも、可能性はないか? と考えていたんです。ゲームとアニメを横並びにするためには、映像作品が4本あったら、その5本目としてゲームを新しく作ったほうが絶対におもしろいだろうと思ったのがきっかけでしたね。アニメとゲームとマンガというのは、世界に誇れる優秀なコンテンツだと思いますので、我々としては同じくくりで扱っているという感じです。

――今回、『SHORT PEACE』の5番目の作品にあたるゲームには、プロジェクト内でどのような役割を担ってほしいですか?
浅沼 基本的には変なものを作ってほしかったんです(笑)。ふつうによくできているねとか、上質でよくまとまっているねというのは今回の作品に関しては必要なくて、やっぱりとんがったものが欲しかった。いまの時代、ゲームもアニメも尖ったものは作りづらいんですよね。一見尖っているように見えても、綿密なマーケティングのもとで作り出されたものがほとんどです。でも、『SHORT PEACE』ではクリエイター主義ではないですけれど、クリエイターがやりたいと思ったものを実現してもらっているので、ふだん観たことのないものができあがっていると思います。ゲームも須田さんと片岡さんの個性が混ざり合って、不思議なものになりましたね。

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■火要鎮
脚本・監督:大友克洋/キャラクターデザイン・ビジュアルコンセプト:小原秀一/音楽:久保田麻琴
■九十九
脚本・監督:森田修平/ストーリー原案・コンセプトデザイン:岸 啓介
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■GAMBO
監督:安藤裕章/原案・脚本・クリエイティブディレクター:石井克人/キャラクターデザイン原案:貞本義行
■武器よさらば
原作:大友克洋/脚本・監督:カトキハジメ/キャラクターデザイン:田中達之
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――ある程度完成したものを最初にご覧になった感想はどんなものでしたか?
浅沼 いちばん最初に企画書を見せてもらったときは、「これはないんじゃないの?」と思ったんですよ(笑)。当初はコンセプトがちょっと違っていたんですよね。もともと16ビットの昔ながらのグラフィックとCGのグラフィックが混ざり合うみたいな、レトロなようでレトロじゃないみたいなゲームを考えていたんです。それがいろいろな事情で変化していって、現在のものになったのですが、それにしてもどうなんだと(笑)。いまの時代、横スクロールで走るゲームなんてなかなかないじゃないですか(笑)。その辺をウチの内山に言うと、「大丈夫です。任せてください」と言うんです。
内山大輔氏(以下、内山) 実際に企画の段階で言われたんですよ。「ないわー」って(笑)。ただ、企画書を見た段階で「ないわー」と言われることも含めた、“リアクションが出てくるようなもの”を作らないとダメだとは感じていたんです。とんがっているものを真面目に作らなきゃいけないんだと。実際、『SHORT PEACE』のほかの映像作品に関しても、かなりクリエイターの色が強く出た作品になっているので、負けてられないと感じていて。ゲームも変なため息が出るようなものを作ったほうがいいんじゃなかろうかと思いまして、企画書の段階から振り切ったものを用意していたんです。
浅沼 まぁ、結果オーライということで(笑)。ただ、実際に動くものができてきたときの感触としては、本当にビックリしましたね。

――ちなみに、ゲームは5番目に触れるのがいいですか?
浅沼 我々の希望としてはそうですね。まず映画を観ていただいて、その後にゲームをやってほしいなと。そうするとうまくつながるんじゃないかと思います。

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――こういったメディア展開というのは今後も行われていくのでしょうか?
浅沼 もちろん考えていかないといけないでしょうね。今後プレイステーション4やXbox Oneも発売されれば、ますます映像との融合ということが頻繁にあると思いますし。また映像以外にも我々のグループはいろいろなメディアがあります。その根底にあるのはやっぱりアニメーションだったり、ゲームであったり、マンガであったり、映画であったりというのが中心になるのは間違いない。それらを中心に、どうやって多くの人を巻き込んでいくかが重要かと。ほっといてもバンバン売れる時代ではないですからね。とくにウチのバンダイナムコグループというグループで言えば、ランティスが音楽CDを作ったり、バンダイビジュアルが映像パッケージを作ったり、玩具という視点で見ても、カードゲームからガチャから立体物からプラモデルから、この世に存在するエンターテイメントのほとんどをやっていると思うんですよ。ただ、新規コンテンツでグループ全体を巻きこんでいろいろなことをやっている作品というのはまだあまり出てきていないと思うんです。ちょうど我々は映像とゲームといういいポジションにいるので、うまくグループを巻きこんで新しいことができればと思います。

──御社の戦略として、ゲームが商品としてではなく、作品として映画などと立ち並ぶような展開というのは考えていらっしゃるのでしょうか?
浅沼 ゲームというカテゴリーに関しては何でもやろうと思っています。いろいろな連動といろいろな仕掛けができると思っていますから。たとえば、ゲームの続きを映画館で映画として観るとか。そんな企画も、どんどんやっていきたいと思っています。

――最後に読者の皆さんにひと言メッセージをいただければ。
浅沼 いままで観たことがないというものが出来上がったと思っています。カップルでもいいし、ひとりでもいいし、グループでもいいし、まずは一度観ていただきたいですね。いろいろなものが詰まっている不思議な雰囲気の作品です。こういう作品が日本から生まれているんだということを、ぜひ自分の目で確かめてもらえればと思います。その後に、ぜひゲームもやっていただければ。このゲームは5番目の作品なので、映画を観たらゲームをやらないと完結しないですからね。

異色のコラボレーションで贈るアクションゲーム

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■片岡陽平氏(写真左)
『TOKYO JUNGLE』などでおなじみのクリスピーズ代表取締役。須田氏の紹介で本企画に参加。ゲームシステムやアートワークを担当している。

■須田剛一氏(写真中央)
グラスホッパー・マニファクチュア代表取締役。本作のコンセプトやシナリオを担当。作品全体を統括する。

■内山大輔氏(写真右)
バンダイナムコゲームス所属。本作ではチーフプロデューサーを務める。須田氏を本企画に引き込んだ張本人。

――まず、須田さんと片岡さんという組み合わせが驚きだったのですが、それぞれどのような役割を担当されているのでしょうか?
須田剛一氏(以下、須田) 僕は総監督ですね。
片岡陽平氏(以下、片岡) 我々(クリスピーズ)はゲーム開発を担当しています。“須田さんのシナリオをもとに2Dのアクションゲームを作りたい”という要望をバンダイナムコゲームスさんからいただきまして、須田さんにチェックしてもらいながら、ゲームの基本部分やコンセプトアート、ムービーなどを作っています。

――そもそも、おふたりは面識があったのでしょうか?
片岡 “金言、賜りました”(※“トップクリエイターに金言、賜りました”という企画)が初対面だったんですよね。そのときに須田さんに『TOKYO JUNGLE』を見ていただいて、そのあと『ロリポップチェーンソー』で逆にコラボをさせていただいたんです。それから今回『SHORT PEACE』のお話があってお声掛けいただきました。

――内山さんはどういう役割なんですか?
内山 僕は裏で悪いことばかり考えている人です。
須田 おなじみの(笑)。
内山 (笑)。もともと『SHORT PEACE』という4つの映像作品(※短編4本+オープニング)を集合させたプロジェクトがありまして、第5番目の作品をゲームにしようとなったんですが、どうせ作るなら完全オリジナルでアニメのクリエイターさんたちに逆に衝撃を与えるような作品がいいと思ったんです。そのためには、ちょっと尖っていて、変なことをする人でないと作れないだろうと。それでまず須田さんにお伺いしたんです。そのときは一度お話をさせていただいて、しばらくしてからまたお邪魔しようかなと思っていたら、その場で「やります!」と引き受けていただけて。

――真っ先に須田さんに話をしたというのは、変なものを作ってくれる人だから?
内山 『SHORT PEACE』という“日本”をテーマにしたプロジェクトは、ゲームも入れて5本で完成すると考えていたので、いろいろな発想、いろいろな舞台というのを準備できるアイデアをお持ちの方じゃないとダメだと思ったんです。そういうアイデアは須田さんから出てくるんだろうと。そうしたら、パートナーとしてさらにクリスピーズの片岡さんを紹介していただきまして。僕はじつは今回初めてごいっしょさせていただくんですけれども、これは変なものができそうだなと(笑)。いま順調に変なものができていますね。

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▲何だか楽しそうな職場のようです。

――須田さんが今回のオファーを即決した理由は何だったのでしょうか?
須田 こんなにおもしろい話ないじゃないですか。内山さんが「変なものを作ってください」って言うんですよ。この先のゲームデザイナー人生で、「変なものを作ってください」というオファーは今回が最後だなと思ったので、これは受けるしかないなと思いました。それに、もはや神である大友さんのラインアップの5番目に添えてもらえるという座組み自体もおもしろかったですし。これは、おもしろい球が投げられるのではないかなと。
内山 それがありがたくて。逆に「変なもの作ってください」と言えちゃうのも、このプロジェクトならではだと思います。通常、開発費を会社からもらうためには、マーケットのシェアがどれぐらいあって、ファンが何人いて、どれぐらいの本数を売るためにはどんな宣伝をする、といったデータが必要なんですが、アニメーションが劇場で公開されますので、そういう前提を取っ払えるんです。そういったゲームの中身のクオリティーよりもマーケティングに必要な情報というところにカロリーを費やさずにいられる。予算限度はもちろんあるんですけれど、「何を作っていただいてもいいので、変なモノを作っていただければ通るようになってますから」とお伝えしました(笑)。僕もこんなお願いするのはゲーム業界に入ってから初めての形でしたね(笑)。
片岡 僕ももともとは須田さんからお声掛けいただく前は、自分のオリジナルの企画を準備していて、それを本格的に進めようというタイミングで須田さんからお話をいただいたんです。タイミングがタイミングだったのでお断りをしようと最初は思っていたんですけれど、話を聞くと、須田さんのシナリオをもとに「どんな変なゲームを作ってもいい」と(笑)。「内山さんというプロデューサーがいるんだけれど、“このゲームは放っといても変なモノを作れる人にしか任せられない”と言っているから、いっしょに作ろうよ」と須田さんから誘われたのがきっかけですね。須田さんと内山さんがそこまで仰ってくださるならということで、参加させていただきました。

――ほっといても変なモノを作ってくれる人として指名されるのは、どんなお気持ちなんでしょうか?(笑)
片岡 クリスピーズ自体が、いままでにない斬新なゲームを作るというコンセプトを持った会社なので、そこで評価されてオファーが届くというのは光栄でしたね。ただ、たぶん須田さんもそうなんですけれど、僕らは変なモノを作っている自覚はまったくないんです。自分が作りたいものを作ったら自然とそういう評価になっていったというか。
須田 そうですね。たまに、これはやっちゃいけないんだろうなって思うことをやろうかなってときはありますけれど。
一同 (笑)。
須田 でも、お客さんにおもしろい球を投げられるといいなということだけを考えてやっていますね。

──さきほど、大友さんについて神とおっしゃられていましたが、そんな大友さんの企画に参加することへの意気込みは?
須田 ゲームのおもしろさも当然ですが、映像作品としても成立するものを作りたいと思いました。『SHORT PEACE』に参加されている、ほかの作家の皆さんに「ゲームもすごい球を投げてくるな」と感じてほしいな、と。ゲームからこういうものが出てくるんだということで、大友さんにビックリしてもらえたらうれしいです。それは僕にとって勲章になると思います。

――ゲームとしても映像作品側をビックリさせる気持ちで取り組んでいらっしゃると。
須田 三振取れるといいなと思っています。なんでさっきから野球に例えているのかわからないですけれど(笑)。
内山 アニメの監督の皆さんとか、キャラクターデザインやシナリオをやられているクリエイターの皆さんというのも、同じプロジェクトの中であれば自分らしさを出していこうということを当然意識してやられているんです。その中でゲームも非常にいいアウトプットができそうですので、『SHORT PEACE』というプロジェクトの中でゲームが果たすべき役割というのは十分出ていると感じていますね。関係者の方にゲームを観ていただいても、なんでしょうね、あのリアクションは?(笑) やっぱり変なモノを見た顔をするんですよね。人によっては、よくこの企画通ったね、みたいな感じですよね。
須田 いいリアクションが取れてよかったです(笑)。

――ゲームの中身についても伺えればと思うのですけれど、『SHORT PEACE』というプロジェクト自体が日本をテーマにした作品ということで、このゲーム自体も日本をテーマにされているとのことですが、なぜ“月極駐車場”を題材にされたんでしょう?
須田 話せばすごく長くなるんですけれど……(笑)。『SHORT PEACE』の作品群の中で“現代”を切り取ったものがなかったんです。それならば、まずは時代設定を現代にしようと。もともと原案になっている脚本がありまして、それが『月極蘭子』の原案になっているんですけれども、立体駐車場に住んでいる女の子がスナイパーを生業としているという原作を作っていたんです。日本って、立体駐車場じゃないですか? 簡単に言うと。まぁ、話せば長いんですけれどね(笑)。ほかの国は立体駐車場というのはほぼないんです。
片岡 月極駐車場はあるんですか?
須田 月極駐車場はあると思いますよ。コインパーキングというのがね。ただ、立体駐車場というのが日本特有のもので雑居ビルの中にあるという、ある意味造形の美しさというところも含めて、現代日本というものを切り取っています。子どものころに“月極財閥”がすべて管理している巨大コングロマリット(※複合企業)があるという都市伝説があったんですよ。その設定っておもしろいなとずっと思っていて。じつはもともとルーツとしてあるんですよね。月極(げっきょく)さんという人がいて、その人がつけたっていう話を誰かに聞いたことがあるんですよ。
片岡 このあいだインターネットで調べていたら、“月極伝説”みたいなものがあって。架空の話なんですけれど、月極財閥の変遷みたいな歴史までちゃんとあるんです。しかもこの駐車場の話は『SHORT PEACE』の企画が始まる前に須田さんとお会いしたときから聞いていて、「月極財閥っていうのがあるんだよ」っていうことをひたすらアツく語られて(笑)。「はぁ、そうなんですか」って言っていたんですけれど、その後シナリオが届いたときに、ここにつながってくるんだって(笑)。あれは前フリだったんだなと。
須田 そういう経緯もあって、このテーマになったんですね。

――日本以外のテーマはあるんでしょうか? 裏テーマ的な。
須田 カルチャーをミックスさせた、“ミクスチャー”というのがテーマですね。『SHORT PEACE』の作品に必ず各短編にテーマがあるんです。
内山 切り取る時代と、それぞれのテーマがあります。
片岡 そのテーマが、この企画はミクスチャーになるんです。ジャパンカルチャーとミクスチャーというのを骨にして作っています。
須田 俗に言う“クールジャパン”という言葉を一周させて自分たちで昇華してみようかなと。現代の日本というものをミクスチャーカルチャーとして表現しています。
片岡 あとは2Dのアクションゲームということが自分の中ではけっこう大きなテーマとしてありますね。じつは『TOKYO JUNGLE』は、最初2Dで作っていたんですよ。ただ、2Dアクションは途中で挫折して、3Dアクションとして作り直したんです。1年半2Dで作って、そのあと1年半3Dで作っていたんです。それで僕的にはそのとき2Dアクションが実現できなかったので、本作で自分がおもしろいと思った2Dアクションを実現したいと思っています。今回は追跡者に追われてそれに捕まるとゲームオーバーになるというシンプルなゲームになっています。ただ、敵を倒すとエフェクトが飛び散ってそのエフェクトがチェーンして、映像表現としてすごくカッコよくなるというコンセプトで作っています。2Dのアクションゲームってどこかで3Dに転換したときに進化が止まってしまった系譜があると思うので、そこを伸ばしたいと思っていて。そんななか、“2Dアクションゲームでゲームデザインをしてほしい”と言われたので「ぜひ、やりたいな」と。僕個人の話になっちゃいますけど(笑)。

――ということは2Dのアクションゲームというのは、片岡さんのほうで考えられたわけではなく、最初から提示されたものだったんですか?
須田 そうですね。僕が明確に2D横スクロールアクションというのを最初に伝えていました。それこそ『源平討魔伝』のつぎはこれだというぐらいのイメージを持っていました。

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▲伸び伸びと仕事をされているようです。

――本作は、“ハイスピードエフェクトアクション”と銘打たれていますが、それはどんなものなのでしょう?
片岡 『SHORT PEACE』の中のひとつの作品でもあるので、映像作品のようなおもしろさを用意しています。ゲームでありつつも映像作品であるという感覚で、うまくプレイしていたらPVが再生されて、PVがカッコよくなるような印象を与えたいんですね。うまくプレイすることで映像的にもカッコよく、爽快感もどんどん出てくるという意味で“ハイスピードエフェクトアクション”というジャンル名を付けさせていただきました。ゲームシステムはすごくシンプルで、ジャンプと攻撃ボタンとスティックでのキャラクター操作ぐらいで、誰でも遊べるものなんですけれど、うまくなればなるほど映像としてカッコよくなっていくという不思議なゲームになっています。

――若干、語弊があるかも知れませんが音ゲーっぽい雰囲気なんでしょうか? チェーンがつながって映像が派手になっていくみたいな。
片岡 遊んでいくごとに高揚感が増していくという意味では確かに近いイメージがあるかもしれませんね。

――作品的にイチオシのポイントは?
須田 いちばんは気持ちよさですよね。爽快感を持って遊んでもらえるアクションゲームという部分が軸になっています。入力したときの気持ちよさ、キャラクターのリアクションや、エフェクトのリアクションに、とてもエネルギーを使っています。
片岡 エフェクトは画面を彩るだけの存在ではありません。飛び出したエフェクトが敵に当たり、その敵からエフェクトが出て連鎖していったり、出てきたエフェクトがフィールドに干渉することで足場を作り出したりと、エフェクト自体で遊ぶという部分がシステムとしておもしろいと思います。また、エフェクトが連鎖すると画面が華やかになり、まるでPVがどんどんカッコよくなっていくような感覚を味わえるので、見た目にも気持ちいいと思います。
内山 画的な話をすると、たとえば東京の地下鉄の中の通路だったり、首都高のトンネルの中みたいなところがマップになっているので、「ああ、これは東京がテーマだ」ってわかるんですね。いろいろなシンボリックなものが配置されています。でもやっぱり“変な東京”なんですよ。そこを女子高生スナイパーがヴァイオリンを持って駆けていくという、変わった空気感を持った作品になっています。
片岡 ゲームの話とちょっと離れちゃうんですけれど、今回のプロジェクトはいろいろな部分がすごくおもしろいんです。これは須田さんのスタンスがおもしろいからだと思うんですけれど、たとえばアニメもゲームもシーンによってタッチがぜんぜん違うんですよ。それは須田さんが“ミクスチャー”というコンセプトを持っていて、シナリオとジャパンカルチャーを骨に、それぞれ担当するパートの人たちが自由に好きなものを作っていくことで“ミクスチャー”になるというディレクションをされているからです。だから、みんなすごく伸び伸びやっています。どんなに変なものになっていても、「ミクスチャーだからオーケー」って(笑)。アニメーションでもすごく斬新な設定などがあるんですけれど、それもミクスチャーだからオーケー。そういったみんなが自由に作り上げたものに須田さんが骨を通していくという感じなんです。好き勝手にバラバラに作っているのに、ひとつの作品になっているというのが、すごいなと。
須田 それも『SHORT PEACE』のコンセプトに近くて、『SHORT PEACE』は各作品がすべてコラボレーションなんですね。その感覚をゲームにも取り入れようと。ゲーム中に入るアニメーションを神風動画さんというCGスタジオにお願いしているんですけれど、神風動画さんの作品群を観ていたらいろんなタッチの作品があったんですよ。
片岡 神風動画さんのほかに、AC部さんという、ほかのCGスタジオさんも混じっていますね。それ自体があり得ないですよね(笑)。
須田 (笑)。それでアニメーションの打ち合わせの際に、最初は「このタッチで、この方向性でよろしいでしょうか?」と言われたんですけれど、「いや、たとえばなんですけれど、カットごとに全部タッチを変えるのってどうなんですか?」と聞いたら、「逆にそのほうがやりやすいです」って言うんです。
片岡 並行で作れるので。
須田 ラインを一斉に動かせるのでね。だから、ぜんぜんヒロインの蘭子の顔変えちゃっていいですよって言って(笑)。
片岡 だからゲーム中とアニメとで背景や蘭子がぜんぜん違うんですよ。
須田 コザキ(ユースケ)さんの絵に忠実じゃない蘭子がいっぱい出てきます。
片岡 ベースとしてコザキさんの絵、須田さんのシナリオがあって、そこからもう新しい世界に全部いってるんですよ。
須田 そういった意味でも『SHORT PEACE』らしいというか。“ミクスチャー”でもあり、短編の極みみたいな感じですね。

――カットごとに違うっていうのは相当変ですよね(笑)。
須田 これはどえらいものを放り込みますよ。

――正直、お話を聞いていて作品としてまとまるのかどうか、不安になりました(笑)。
須田 まとまるというか、それを求めてきていたんですよね。内山さんが「足りない。足りない」って言うんで。
片岡 「これじゃあ、まだまだだなぁ」って(笑)。
内山 でも今回の仕事に関して、僕はすごく楽なんですよ。ミクスチャーというテーマで、須田さんの物語と世界観を片岡さんの表現方法でゲームを作っていただけるのであれば、なーんにも口出ししないんですよ(笑)。上がってきたら「あー、上がってきたんだ。変わってるぅー」みたいな。
片岡 そうそう。「けど、いいや。カッコイイからー」って言うんです(笑)。この内山さんの包容力たるや半端ないです。

――それはたしかに、皆さん伸び伸びやれて楽しいでしょうね。
片岡 そうじゃなかったら参加していなかったと思うし。すごくおもしろいですね。刺激にもなるし。
須田 映像がこれだけやってるんだったらゲームも負けてらんないぞというのもありますし。いい形で刺激し合っていますね。
内山 『SHORT PEACE』の映像作品も本当にビックリするような内容ですからね。これが実際に予算が下りて、このプロットで……くそ、負けてらんねー、みたいな(笑)。映像を観てしまうと、ゲームのほうも才能がはじけ飛んじゃったみたいなものであるべきかなと思うんです。

――ゲームをプレイした人が驚いて、「いったい、これはなんだったんだ」と思うようなものにしたいと。
片岡 終わったあとに、「何だったんだろうこれ? もう1回確かめにいこう」というようなゲームにしたいと最初から須田さんと話していて。
須田 『SHORT PEACE』の映画を観たあとの余韻というのが短編映画独特の余韻なんですよね。この先というものを想像させると言うか。
内山 映像も全部語って、説明を丁寧にしているというわけではないですからね。
片岡 観終わったあとに布団に入って、その続きをずっと妄想するみたいな感じの映画なんですよ。
須田 とくに大友さん原作の『武器よさらば』が『SHORT PEACE』の最後にあるんですけれど、それと同じような余韻をゲームを遊んだあとにも持ってもらいたいと思っています。そこは『SHORT PEACE』であり、短編ならではの余韻というものが感じられるといいなと思って作っていますね。

――なるほど。企画として『SHORT PEACE』というものを体現されようとしているのかなということを感じました。
須田 真面目なんですよ、こう見えて。
片岡 真面目に作ったら、結果的に変なことになっているっていうだけですよね。
内山 狙い通り、問題作が出来上がっています。よかった、よかった。
須田 まだ発表できないところでいろんな仕掛けを用意しているので、エンディングまでぜひ観てほしいですね。すさまじいエンディングを用意していますので。

■月極蘭子のいちばん長い日
対応機種:プレイステーション3
発売日:発売日未定
価格:価格未定