くり返し挑みたくなる絶妙なバランスの秘密

 注目タイトルが多数発表されたE3にあっても、しっかりとその存在感を主張しているのがプレイステーション3、Xbox 360で開発中の『DARK SOULS II( ダークソウルII)』だ。今回、海外でのパブリッシングを担当するバンダイナムコゲームスのミーティングルームにおいて、同ソフトのディレクター、フロム・ソフトウェアの谷村唯さんに話を聞くことができた。(聞き手・大塚角満)

谷村 大塚さん……って、『DARK SOULS』でプレイ日記を書いてくださっていた、あの大塚さんですよね? ……あと、パズドラ部も書いておられる。
大塚 あ、ありがとうございます(笑)。そうなんです、前作ではヘタレたことをたくさん書かせていただきました(シミジミ)。……で、インタビューの本題に入らせていただきたいのですが、『DARK SOULS II( ダークソウルII)』の発売時期は来年3月と発表されましたよね。なんというか、非常にスピード感がありますねえ。
谷村 『DARK SOULS』とそれほど開発期間に差があるわけではないんですけどね。前作が2年半くらいで、今回も同じくらい……ですから。現時点で中盤戦が終わって、もう後半に突入している感じです。
大塚 前作が出たあとにDLC『深淵のアルトリウス』の出されていますよね? その開発と並行して『II』も作っていたんですか?
谷村 『II』とDLCはそれぞれ別チームで作っていましたので、並行して作ることができたんです。
大塚 ああ、そうなんですね! ……で、いま初めて触らせていただいて、わずか30分のあいだに20回くらい死んだのですが……。
谷村 あ、ホントですか? ……スミマセン(笑)。
大塚 いやでも、すごく『DARK SOULS』を遊んでいる! っていう気がしました。「きびしさは損なわれていない!」って思えて、うれしかったですもん。
谷村 海外のメディアにいちばん聞かれたのが、「『II』は簡単になってしまうのではないか?」ということなんです。『DARK SOULS』っておかげさまで予想だにしていなかったくらい売れたんですけど、売れたタイトルって続編が出るたびにヌルくなる……ってこともあるじゃないですか?
大塚 はいはい、わかります。日和る、って言うんですかね。
谷村 そうですそうです。海外メディアもそれを心配していて、「『II』で難度を下げるつもりじゃないだろうな?」なんて言うわけです。でも作っているほうとしてはそんなつもりは微塵もなく、海外メディアから受けるインタビューではひたすら釈明……というか説明に追われています(苦笑)。
大塚 でも、わかる。前作……というか、『Demon's Souls』のころから遊び込んでいるプレイヤーにとっては、難度が下がったり、ヌルくなったりすることに危機感を覚えますから。僕もヘタクソですけど、やられてもやられても立ち上がり、どうにか壁を越えていく……ってところにすごく快感を覚えているので、難しくてよかったです(笑)。
谷村 ただ今回出展したバージョンは、キチンと注意して進んでいれば、それほど難しいこともないかな……と思っていたんですけど(ニヤリ)。
大塚 え! そうですか!?
谷村 はい、慣れれば簡単に進めるところだと思いますよ。でも、途中に置かれている死体が起き上がってきますけど、アレに気づかずに素通りしちゃうと前後を挟まれてやられてしまう。そういったシーンでも、「こいつ、怪しいな」と思って斬ってみれば起き上がってくるので倒すことができますし、一度は失敗しても「ここは気をつけよう」と注意するようになるので、死んだぶんは必ず進めるように意識して作っていますね。
大塚 確かに! まんまと制作陣の術中にハマって死にましたけど、気づきが生まれたことによって、「オマエが起きるのは知ってるんだよ!」という上から目線の快感はたまらないものがある(笑)。でも、そこを突破したあとにまたまた死体をスルーして、再度挟撃に遭って死にましたけど……。
谷村 あははは。そこも学習していれば、難なく進めたと思いますよ(笑)。
大塚 それにしても、アクションが増えましたね。……改良された、と言ったほうがいいのかな。
谷村 今回、ベースのシステムは前作と同様なんですけど、キャラクターのコントロールとかはイチから作り直しました。モーションもすべて、モーションキャプチャーを撮り直して作り変えているんです。地味かもしれませんけど、かなり手を加えています。
大塚 キャラの動きが軽快になった印象を受けましたけど、これについては?
谷村 ああ、そうですね。やっぱり死んだときに、「操作性が悪いから死んだ!」と思ってしまうとリトライする気がなくなるじゃないですか。“自分のせいで死んだ”と思えることが重要だと思うんです。そうなるとどうしても、レスポンスとか軽快さは必要なので、それを肝に銘じて作っている感じです。
大塚 歩くスピードや動きの軽やかさに手を加えられた、と。
谷村 はい、だいぶ調整が入りましたね。まだ開発途中なのでこれからさらに調整をすると思いますけど、いま言ったように「レスポンスが悪いから死んだ」、「もっさりしているから死んだ」って思われたくないですから。「いまのは俺が悪かった! じゃあもう1回やろう!!」と歯を食いしばれることがいちばん大事だと思っているので、すごく意識して作っています。
大塚 うんうん。でも、イチからとなるとたいへんですね。すべてを見直すわけでしょう。
谷村 そうですねえ。まあたいへんなんですけど、おもしろさの部分についてはこれまでの蓄積があるので、「こうすればいいんだろうな」という感覚を持てているんです。そういう意味ではやりやすくはあります。とはいえまったく変えないというわけにもいかないので、前作と同じように見えるところでも、細かな変更をしていたりします。
大塚 なるほど! ……で、いま新しい素性と思われるDual Swordmanで遊ばせてもらったんですけど、いままでの素性とは違う感覚で楽しかったです。軽快に2本の剣を振り回すし、△ボタンの長押しで専用モーションは出るし、バックスタブも剣の乱れ斬りになっていたし……。
谷村 ああ、そうですね。ただあのキャラは、かなり上級者向けだと思いますよ。防御を捨てての攻撃一辺倒ですからね。どちらかと言えば“ロマンキャラ”かと(笑)。
大塚 それで俺はあんなに死んだのか!!(驚愕)
谷村 ふつうの剣士とかでやられたほうがずっと楽だったと思いますよ。
大塚 確かに! そのあとでTemple Knightを選んで遊んだんですけど、すごく楽になりました(笑)。
谷村 ああ、でしょうね(ニヤリ)。防御があるだけで、ぜんぜん違いますから。
大塚 それでも、途中に出てくるダンゴムシみたいな敵にやられちゃいました……。
※全身を銀色の鎧で覆った、見るからにダンゴムシのような敵が出てきて我々記者を蹴散らしていたのだ。
谷村 ああ、はいはい(笑)。
大塚 見るからに強そうでしたけど鈍重そうでもあったので、背後に回りこんでバックスタブを決めてやろうと思ったんです。そしたらいきなり後ろに倒れこんできて下敷きになり、それだけで「YOU DIED」だったんですが……。
谷村 あははは。前作もそうでしたけど、敵の攻略方法にも気を遣って作っているんです。あの敵、気づかれたかどうかわかりませんけど、甲羅のような鎧を身に着けていて見るからに「後ろからの攻撃は受け付けないだろう」という記号を示しているつもりなんです。「こりゃバックスタブは入らないから別のところから攻めよう」と思っていただけていたら……。
大塚 ぼ、僕もそうだとは思ったんですよ!!(必死)
谷村 ですよねえ(笑)。まあでもそこでさらに、後ろに倒れてきてダメージ……というのは意地悪すぎましたかね?
大塚 いやいいです。それでこその『DARK SOULS』です!
谷村 ありがとうございます(笑)。バックスタブ自体も、前作と比べるとちょっと入りにくくなっているんです。前作でサクサク決めていた人は当然それを狙ってくると思うんですけど、「バックスタブばかり狙っていると、こういうこともあるよ!」というメッセージも込めているんです。
大塚 ああ、なるほど。前作ではバックスタブが入れば勝ち、って感じではありましたけど、『II』はそうでもないと。

谷村 バックスタブが入れば勝ち、というようなキャラもいるんですけど、そういう一辺倒が通用しない部分は必要だと思うんですよね。単調になってしまいますから。
大塚 ちなみにあの鎧の戦士は、前作のキャラで言うとどのくらいの強さですか……? 黒騎士よりは弱い……ですよねえ?
谷村 黒騎士よりも弱いですし、格も及びませんね。
大塚 おお、やはり……。でも『II』にも、黒騎士に匹敵するような凛々しくて強い敵キャラはいるんですか?
谷村 ええ、います。ただ、あの鎧の戦士はまったく及びませんよ。
大塚 そんな通過点に俺は、何度も殺されたのか……。
谷村 あははは。
大塚 物語的には、前作とは違うのですか?
谷村 世界観は前作と同じなんですけど、時代や土地が異なります。世界観が共通なので篝火とかエスト瓶という存在も残っているんですけどね。まだ詳しくはお話できないんですが、前作のコイツやコレと共通する何か……というのがあったりしますよ。
大塚 それは楽しみだなあ。前作を遊びこんでいれば、「こいつはもしや!?」と思えるシーンがあるわけですね。
谷村 ええ、そうなんです。「こいつはアレか!」と思うことがあるかと。小ネタでもありますし、メインのストーリーにからむ部分にもありますよ。
大塚 ちなみにゲームのボリュームは?
谷村 けっこうあると思います。当初は前作と同程度で……と思っていたんですけど、作っているとボリュームが増えてきて、現時点では『DARK SOULS』よりもちょっと多い……って感じでしょうか。最終調整でどうなるかはわかりませんけど。
大塚 おお……。
谷村 ただ、しょっちゅう死ぬゲームなので、あまりにも長いと途中でダレちゃうと思うんです。そういう意味で、必要以上に長くしようとは思っていないですね。
大塚 確かに、前作くらいのボリュームがちょうどいいですよね。1周遊んだあとでも、「もう1周やっちゃお」と思える量というか。
谷村 ああ、そうですね。やっぱり長くすればいい、というものではありませんから。
大塚 開発は順調ですか?''
谷村 ものすごく順調……というわけでもないですけど、現時点でだいたい、65パーセントくらいはできています。あとは3月まで、必死にがんばります。
大塚 全世界にファンがいるシリーズになりましたので、プレッシャーもかなりあるのでは?
谷村 もちろんあります。先ほども言いましたけど、難度について外国の方から非常にアツく言われますので、熱量の高さを感じるんですよね。それはプレッシャーでもあるんですけど、逆にこのゲームのコアな部分、たとえば達成感とか「もう1回チャレンジしてやる!」という想いとか、ほかのユーザーとユルくつながっている感覚とか、そのへんをキチンと表現できていれば続編として成り立たせることができる、と思っています。なくてはならない部分をちゃんと継承して作っていこう、ということを日々肝に銘じながら作っている感じです。
大塚 もうひとつ、ネットワークについての遊びについて、現時点で教えていただけることはありますか?
谷村 まず大きな部分として、前作はPtoPで行っていたものが、今回はサーバーベースに変わります。前回の反省点として、つながりにくいとか、過疎ってしまうとか、同じ人がかぶってしまう……というものがあって、じつは続編が立ち上がったときに最初に決めたのが「サーバーベースで作ろう」ということでした。これは絶対に死守しよう、と。
大塚 おお、そうなんですか!
谷村 なので、基本的な部分についても改善できると思うんです。前作ではパッチが多かったんですけど、サーバーベースですのでインフラにおいてもしっかりできると思っています。
大塚 なるほど!
谷村 あと、まだ詳しくは言えないんですけど、侵入とか協力とかも、ルール的に意図したものとは違う使われかたや遊ばれかたをしたりしたので、ルールの見直しも全般的に行っています。もうひとつ、誓約についてですが、コアなプレイヤーや海外の方にすごく人気があったので、今回も残すつもりです。ただ、内容は全面リニューアルします。
大塚 このシリーズって、独特なネットワークの使いかたが楽しくて、だから長く遊べるっていうのは絶対にありますからね。
谷村 はい、そうですね。がんばります。
大塚 侵入されたときの恐怖を極めてください。
谷村 わかりました(笑)。
大塚 では、ホントのホントに期待しておりますので、がんばってください!
谷村 はい、ありがとうございました!