若者らしい思い切りのいいアイデアあふれる作品が多数
グラスホッパー・マニファクチュアが、新たな才能を持つ学生に対し、プレイステーション Vita向けソフトウェアの制作環境をフォローし、新感覚のゲームソフトを創出することを目的として行なっているプロジェクト“ゲームキャンパスフェスタ”。同プロジェクトの第2回の参加チームメンバー、作品タイトルはすでに発表されているが(→こちら)、2013年4月9日、ソニー・コンピュータエンタテインメント社内(SCEは協賛)で、開発中のタイトルの各作品の審議・試遊会(一次審査)が実施された。
審議・試遊会には須田剛一氏のほか、『人喰いの大鷲トリコ』クリエイティブディレクターの上田文人氏、『GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』ディレタクーの外山圭一郎氏が参加した。


第1回開催では、審査で選出された5作品が、PlayStation Networkで配信(PlayStation Plusの会員向け)、さらに、同作品中1作品が“日本ゲーム大賞2012 アマチュア部門”において最終審査進出を果たしている。
今回は12校が参加し、12作品がエントリーされているが、まだ開発期間中ということもあり、一部プレイできない作品もあった(プレイできる作品も、ほとんどが序盤のみプレイ可能な、さわり程度のもの)。エントリーされた作品は、カジュアルでライトなものが多い印象だったが、学生らしい自由な発想、工夫が凝らされた意欲作ばかり。企画書にも熱い気持ちが伝わってくる。記者も少しプレイさせてもらったが、開発中ということもあって、まだまだ荒削りな内容ながら、もっと続きがプレイしたくなる作品もあった。そもそも学生時代にプレイステーション Vita向けのソフトを開発して、遊べる形に仕上げられる、ということだけでもスゴイことだと思う。
アミューズメントメディア総合学院 『桜花爛漫(おうからんまん)』
京都コンピュータ学院 『ラビリンス(labyrinth)』
東京コミュニケーションアート専門学校 『boqU(ボク)』
東京デザイナー学院 『ネン道』
東北電子専門学校 『Bounding』
トライデントコンピュータ専門学校 『Rising Star(ライジングスター)』
日本工学院専門学校 蒲田校 『LINK(リンク)』
日本工学院八王子専門学校 『socius(ソキウス)』
日本電子専門学校 『忍足 -シノビアシ-』
バンタンゲームアカデミー 『Booking in full swing(ブッキングインフルスウィング)』
総合学園ヒューマンアカデミー東京校 『夜空の守り人』
総合学園ヒューマンアカデミー横浜校 『コロロンキング』
審査、試遊後の感想
今回の審議・試遊会を終えた須田剛一氏、外山圭一郎氏、上田文人氏はエントリー作品をどうみたのか。感想をうかがった。
――今回の審議・試遊会で学生の作品に触れてみての率直な感想をお聞かせいただけますか?
須田 前回もそうなんですけど、学生さんならではのすごくフレッシュな、新鮮なアイデアがそのまま勢いで作品化されている印象です。開発中なのでまだまだ調整が必要な部分もありますが、荒削りな部分も含めて、新鮮でいいですねぇ~(笑)。
――須田さんは、第1回の作品も見ていらしたわけですが、第2回と第1回とでは、何か違いは感じますか?
須田 前回は、まだプレイステーション Vitaが世に出てない時期に開発してもらったので、試行錯誤が感じられましたが、今回は同ハードが発売されたあとということで、お手本となるソフトも多数発売されていますし、プレイステーション Vitaとは何ぞや、ということもわかった状態で開発できる点が前回と大きく違うのではないかと思います。傾向としては、市販のソフトではあまり使われていない背面タッチを使った工夫などは、新鮮に感じましたね。あと、プレイステーション Vitaと言えば“ハンティングアクション”という流れができつつある中で、そういった作品はなかったな、と(笑)。
外山 若いだけあって、いろいろなアイデアとか、いろいろなインターフェースを使ってやろう、といった意欲が感じられて、ポジティブでいいなと思いました。その半面、それらをどうまとめればいいのかといった部分や、比較的大人数で作っているチームでは、グラフィック担当やサウンド担当など、役割を分けて制作している部分をどう線で繋げるか……どうまとめればいいのか、つまり各パートの仕事をひとつのイメージにまとめる、といったところで苦労している印象を受けました。これからがんばってほしいなと思いますね。
――各作品の制作チームの役割分担を見ると、ディレクターといった人がほとんどいないようですが、そういった点につながっているんでしょうか。
須田 ああ、本当だ。
GhM広報 学生さんのチームなので、リーダー的な役割の人はいるんでしょうけれど、いわゆるディレクター的な視点は先生が務めることになるようですね。
――なるほど。
上田 想像以上に、多くの人(20人前後)を使ったチームが多いですよね。同じくらいの規模の開発はSCEでもザラにあるので、経験こそ違えど、本格的に作っているんだな、と。タイトルそのものの完成度で言うと、時間がなかったのかな、という作品が多かったですね。こう調整すれば、または、この要素を入ればとおもしろくなる、という部分は作り手も見えていると思うんですけれど、それらを時間内にどう実装するかで苦労されているのかな、という印象です。二次審査まで、もう少し時間はあると思うので、おもしろくできる要素をできるだけ実現してほしいですね。
――そもそも学生にとって、プレイステーション Vitaでの開発は少しハードルは高いのでしょうか。
上田 (外山氏に向かって)どうなんですか?
須田 (外山氏に向かって)プレイステーション Vita、どうなんですか?(笑)
外山 ええと……作りやすいマシンだとは思います(笑)。
上田 皆さん、決まったツールやミドルウェアを使って開発されているんですか?
GhM広報 プロの開発の方々が使っているものと同じものを使って開発してもらっています。2回ほど技術説明会なども開催しています。最近はさらに使いやすく、開発しやすくなっているようです。
外山 僕らも実際にプレイステーション Vitaで作ったとき、入力インターフェースの多様さゆえに、タッチさせたほうがいいのか○ボタンにしたほうがいいのか、背面パッドをどうしようかなど、いろいろ考えたり決めることが多くて、学生さんも意外とそういう点に苦労しているな、と感じましたね。
――そういった点では、アミューズメントメディア総合学院の『桜花爛漫』は、左スティックだけでジャンプ(プレゼン資料によると十字ボタンでのジャンプも予定されるが)して、操作するというのは潔い操作性ですね。
須田 そうですね。完成度は高かったですね。
――今回プレイした段階で、これはいいな、と思った作品を挙げていただけますか?
須田 自分はアクションゲームが好きというのもあるんですが、『桜花爛漫』ですね。いまの段階で遊びのコアの部分は出来上がっているので、モーションまわりなど丁寧なチューニングをしていくと、よりおもしろい作品になりそうな気がしますね。PS Vitaを縦持ちしてプレイする『Rising Star』(トライデント コンピュータ専門学校)もいろいろアドバイスしたいな、という気にさせられる作品でしたね。
――そういったアドバイスは随時されているんですか?
須田 そうですね。「こうしたらいいかもしれません」程度ですけれど。自分の視点でアドバイスしていいのか悪いか、まだわからないんですけど(笑)。
外山 それはいいんじゃないですか(笑)。
――外山さんがいいなと思った作品は?
外山 今回、触ったものだと『桜花爛漫』がアタマひとつ抜けている気がしました。操作感に対するリアクションのテンポ感をユーザーの気持ちよさに繋げよう、という意思が感じられましたし。ジャンプに絞った潔さもおもしろいですし、独特のリズム感もよかったです。あと気になったのは、『忍足』と『夜空の守り人』。『忍足』はすごく理想を高く掲げてチームを引っ張っている方がいそう気がしました。
須田 メインプランナーの方が引っ張っていそうですね。
外山 商業作品をすごく意識して、全体的に作り込もうという意思の強さが見えますね。その分、たいへんだとは思いますが、ぜひがんばってもらいたいです。

――『忍足』は初代プレイステーション時代のテイストを感じさせる作品ですよね。
須田 我々3人もそう話していました(笑)。
――では、上田さんはいかがですか?
上田 僕も『桜花爛漫』ですね。アナログスティックの操作はスマートフォンなどにはない要素なので、プレイステーション Vitaには合っていると思いますし。企画書の段階で期待していたのは『バウンディング』。現段階での完成度は高くなかったのですが、もう少し完成度が上がれば、触ってみたいなと思いました。
――では最後に、これからゲームクリエイターを目指す人にアドバイスをいただけますか
外山 これからの若い世代の方々は、生まれたときからゲーム機やスマートフォンなどに触れている世代だと思いますので、既存のゲームの作法を無視した新しいものを作ってもらいたいですね。
上田 外山さんも仰られましたが、僕らはアーケード、そしてコンシューマーゲームで成長してきたので、その文法やセオリーから逃れられない、という部分があるんです。そういうものを壊してほしいですね。
須田 いろいろなデバイスやそれに合わせたさまざまなゲームが出てきている中、ゲームに手を染めている我々ではできない、若い作り手たちによる新しい時代のゲームがどんどん出てくることを期待したいですね。
今回、エントリーされた作品は、5月上旬の2次審査に進む。それまでにいかに完成度を高められるかが重要だ。優秀な作品は、商品化の可能性もあるとのこと。このGAME CAMPUS FESTAからどんな作品が生まれるか、注目したい。