世界に向けて完全新生を果たしたアート誕生の軌跡
2013年3月25日(北米時間)よりサンフランシスコでGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2013が開催中。4日目に行われた『DmC Devil May Cry』のアートディレクションをテーマにした講演の模様をお伝えする。
登壇したのは『DmC Devil May Cry』の開発を手掛けたNinja Theoryでビジュアルアートディレクターを務めるAlessandro Taini氏。カプコンの人気スタリッシュアクション『デビル メイ クライ』シリーズが、“新生”をテーマに開発会社を変更して制作された『DmC Devil May Cry』。これまでのシリーズ作品の既存のイメージを完膚なきまでに破壊し、まったく新しいコンセプトで構築されたビジュアルデザインが大きな話題を呼んだことが記憶に新しい。今回の講演では主人公の“ダンテ”、そして舞台となる街“Limbo(リンボ)”のビジュアルがどのようにして完成に至ったのか制作過程を振り返りながら検証する内容となった。
主人公のダンテは『デビル メイ クライ』シリーズでもおなじみのヒーローだが、『DmC Devil May Cry』制作にあたってキャラクター設定やイメージを変更。まったく新しいキャラクターを生み出すことになったが、カプコン側からは「ウエスタン映画のヒーローを想像してほしい」と言われたという。だが、Taini氏がすぐに思いついた“ウエスタン映画のヒーロー”と“新生ダンテ”とはちょっと違うと感じたそうだ。
Taini氏の考える“ダンテらしさ”とは、まず態度にある。その特徴はクール、セクシー、地に足が着いた落ち着き。そして外見はクリーン、スタイリッシュ、ウエスタン。ここを出発点にして、クレイジーやカラフルではなく、ベーシックでシンプルな方向性にデザインの舵を切る。つまり派手ではないが、強烈な個性が内から滲み出る感じに。
▲ダンテのデザインコンセプトをスーパーヒーローに例えるなら、それはスーパーマンではなく、普通の男だがパワーがある等身大のヒーローだった。
ここからは実際に制作されたアートワークを見ながら、ダンテのキャラクターデザインが完成に至るまでのアプローチを紹介する。
最初のイメージでは、髪は白くコートは赤。落ち着いたコンテンポラリーな印象が強い。この方向性で、カプコン側から「もっといろいろなバリエーションが見たい」と言われたそうだ。
キャラクターの制作における重要な要素として、背景を深く掘り下げることが必要なので、現在の姿だけでなく、子供の頃から大人になるまでのアートを描いている。ダンテは子供の頃に衝撃的な出来事(例えば母親を殺してしまったとか)があったことで、悪魔を思わせる側面を持っているイメージを表現した。テレビドラマ『Dexter』や映画『Perfume: The Story of a Murderer』のキャラクター(どちらの主人公も生まれた環境が影響してキラーになった)を参考にしたそうだ。
ダークヘアーの髪に白い部分を付けるなど、脚本を書くみたいにキャラクターにイメージを追加。力強さを強調したり、白い髪を強調したりと、さまざまなバリエーションを考えている。
さまざまな状況に置かれたダンテを描いて、そこから感じられるイメージから個性を把握するようにしたとのこと。カラバッジョ(バロック期のイタリア画家)の作品も参考にしている。1点でゲーム全体の雰囲気を表現できるキーイメージの制作に取り組んでいる。美しい女性に囲まれているのに、気にも留めないクールさとキラーのイメージを表現。
強烈な眼光で、顔色ひとつ変えることなく誰でも殺せる印象を与えている。
これがファイナルバージョン。ストリート風のジャケットになり、さらにクールな態度を強調している。
続いては『DmC Devil May Cry』の舞台となるLimbo。現実世界と魔界の中間にあるという設定だが、カプコン側から伝えられた要求は「スクリーンショットを見たら、すぐに認識できるようなもの」。これに対してNinja Theory側は、これまでのシリーズ作品の舞台誰もいない空虚な感じだったことから、今回は人が大勢いる環境がいいと思ったそうだ。そして実際の都市を反映した環境を構築していった。その中にナイトクラブも含まれる。
Limboのデザインにはシュールレアリスムや騙し絵の表現を参考にしているそうだ。モチーフはヨーロッパの建築物に決定したが、この中にはゴシック、ネオゴシック、ローマンゴシック、モダンゴシックなどがある。最終的には前作のイメージを取り込み、バルセロナに見られるローマンゴシック(イタリア色が強い)にピカソなどのコンテンポラリー要素も組み合わせたモダンな建築物を制作している。さまざまなデザインが複雑にミックスされ、これまでにない独特なLimboのデザインが完成したとのこと。
建築様式だけでなく、建物を逆さまにしたり、空中に浮かせるなどの表現に挑戦している。
とくにクラブは「やりがいがあった」と語っている。クラブの壁には映画が映されていることがあるが、これを3Dイメージで表現して、レーザー光線の中を歩いて入っていく感じを出してみたら、とてもうまくいったという。
▲各チャプターのキーカラーを並べてみると、全体像が見えてくるそうだ。管理することは難しいが、全体のイメージとしてブルーが強いことがわかる。
▲現実世界が突如として変容していくMalice(マリス)。街の風景や建物ががダイナミックに変化する表現のために制作されたアートワーク。
▲参考にしたという動画も公開された。その成果について「壮大なシーンを描くことができて思い通りだった」と語った。