世界が注目するQuantic Dream
Quantic Dreamをご存じだろうか? 同社は、フランスに拠点を置くゲーム開発会社。クリエイターのデヴィッド・ケイジ氏という人物が1997年に創設し、現在までに3作品ほど輩出している。日本では、2010年2月にソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンからリリースされたプレイステーション3用タイトル、“『ヘビーレイン -心の軋むとき-』の開発会社”と言えば、ピンとくる人も多いだろう。
Quantic Dreamについて語るうえで、避けては通れないのが、『ヘビーレイン -心の軋むとき-』の存在だ。この作品では、プレイヤーは4人の主人公(子どもを誘拐された父親、女性新聞記者、元刑事の私立探偵、FBI捜査官)を交互に操作して、不可解な連続殺人に隠された秘密を体験することになる。主人公たちは、それぞれ悩みや葛藤を抱えた等身大のリアルな人間として描かれており、彼らの“愛”、“贖罪”、“絶望”、“恐怖”といった感情が複雑に入り交じった、奥深い物語が展開していく。こうした“銃を持たない主人公”の感情の機微を丹念に描いたインタラクティブ性の高いドラマが好評を博し、ワールドワイドでさまざまな種類のアワードを受賞。日本でも多くのクリエイターやゲームファンから賞賛を浴びた作品である。
そんな『ヘビーレイン -心の軋むとき-』を手掛けたQuantic Dreamが新たなゲームの開発に取り組んでいる。それが、『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』だ。ただし、今回は複数の主人公ではなく、ジョディ・ホームズというひとりの少女の8歳から23歳までの15年間を描いた作品になるという。ジョディは生まれたときから目に見えない鎖で霊体の“エイデン”とつながっていて、エイデンとコミュニケーションを取ることで、さまざまな超常現象を引き起こせる。ただし、エイデンは社会のルールや仕組みを意に介さない気まぐれな存在であり、ときにはやさしさを見せてジョディを守ったり、ジョディに嫉妬して周囲の人間を傷つけたりするのだ。『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』では、特別な力を持ってしまった少女の苦悩と成長が描かれる。果たして、Quantic Dreamは本作で何を表現するのだろうか?
去る2013年3月19日、フランスにあるQuantic Dreamのスタジオで、メディア向けのスタジオツアーが開催された。このツアーは、Quantic Dreamの中核を成すスタッフたちが『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』のゲーム内容について説明するというもの。いまだ多くの謎に包まれた本作の新情報が明かされるとあって、世界中から80以上のメディアが集まった。ということで、ファミ通.comでは、Quantic Dreamのスタジオツアーリポートを複数回にわたってお届けする。1回目は、Quantic Dreamの創始者であり、『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』のディレクターでもあるデヴィッド・ケイジ氏が行ったプレゼンテーションの内容を紹介していこう。
『BEYOND: Two Souls』のストーリー
プレゼンテーションは、Quantic Dreamの中にあるパフォーマンスキャプチャーのスタジオで行われた。パフォーマンスキャプチャーとは、俳優の体にあちこちに電気信号を発するポインターをつけて、その動きをコンピューターでトレースするシステム。本作的なパフォーマンスキャプチャーが行えるスタジオを所有しているゲーム開発会社は珍しく、Quantic Dreamの3Dモデリングへの注力度合いが窺える。このスタジオにジョディ役のエレン・ペイジや、物語の鍵を握る教授役のウィレム・デフォーといったハリウッドを代表する女優・俳優が訪れたのだ、と思うとじつに感慨深いものがある。スタジオに設置された巨大なスクリーンの前に現れたデヴィッド氏は、まず、『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』の概要について語った。
デヴィッド「長らく秘密に包まれていた『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』ですが、今日はゲームが具体的にどんなものなのか、ゲームを通してプレイヤーがどんな体験をできるのか、お見せしたいと思います。『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』とはなんでしょう? それは誰かの人生を通して語られる旅です。ストーリー性が高く、『ヘビーレイン -心の軋むとき-』よりも感情的で、ユニークな体験をもたらす、Quantic Dreamにおいてもっとも意欲的な作品になるでしょう。この作品では、ジョディという女性が主人公で、彼女はなぜ霊体のエイデンがいるか、わかりません。わかっているのは、ただそこにふたりがいるとうことのみです。エイデンはジョディとまったく違った性質を持っていて、ときにはやさしく、ときには暴力的で怒り狂って行動します。本作は、ジョディとエイデンのふたりの感情のつながりの物語になります。特徴的なポイントは、15年間にわたるストーリーです。この長い年月を通してふたりの関係がどのように変化していくのか。人生のさまざまな岐路において、ふたりで立ち向かい、成長していく姿が描かれます。このゲームでは、ふたりの関係性に加え、生きることと死ぬこと、そしてあの世と呼ばれる場所に何があるのかについて語りたいと考えています。プレイヤーは、ゲームを進めるうちにエイデンの正体と、彼がなんのために存在するか理解することになるでしょう。
ここでお伝えしたいのが、本作のストーリーは時系列順ではなく、映画『メメント』のようにジョディの人生のワンシーンが複雑に絡み合って進んでいくことです。最初は大人のジョディから始まって、つぎの場面は子どものジョディといったように、ストーリーは“時間と記憶のパズル”とでも言うように各シーンが折り重なって構成されます。それぞれのシーンでは、ジョディが違う姿で描かれるのです。彼女が着ている服だけではなく、髪型、表情、仕草、話しかたなどがシーンごとに全部異なります。ゲーム内では全部で40種類ほどの姿が登場するでしょう。プレイヤーは、ジョディの記憶と感情の旅を通して、彼女がどのように成長を遂げたかを理解していきます。『ヘビーレイン -心の軋むとき-』では、我々は4人の異なるキャラクターの生き様をお見せしましたが、今回はたったひとりのキャラクターを描きます。ただし、ジョディはそれぞれのシーンで別のキャラクターのようにふるまうことでしょう」
豪華キャストの熱演
『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』では、3Dモデルを世界的に有名な役者が担当する。これまでの情報で、主人公のジョディを映画『JUNO/ジュノ』や『インセプション』などで知られる女優・エレン・ペイジが、ジョディと密接な関わり合いを持つ教授を実力派俳優のウィレム・デフォーが演じることが発表されている。デヴィッド氏は、今回のキャスティングとキャプチャーシステムについてこう語った。
デヴィッド「テレビゲームの業界では、3Dモデルのキャスティングにあまり重点を置きませんが、私たちはエレンやウィレムといった実力派の役者を起用しました。ここでお伝えしたいのは、ただ有名な役者を呼んで音声を収録したのではなく、いま私たちがいるQuantic Dreamのスタジオで実際に役者が演技して、それをキャプチャーしたということです。ですので、その見た目だけではなく、演技もゲームに落とし込むことを実現しました。Quantic Dreamは第一作の『オミクロン』で、ヴァーチャルアクターを起用しましたが、その16年前の経験がいまの力となっています。エレンやウィレムは、『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』の内容に興味を持って仕事に臨んでくれました。彼らは顔や体に90以上のボールをつけて演技します。この部屋にある装置はボールの動きをワイヤレスでキャプチャーします。通常のキャプチャーは俳優にカメラをつけて進めますが、今回は役者が自由に演技できるよう完全にワイヤレスな環境を整えました。エレンとウィレムとの仕事はじつにエキサイティングな経験でしたね。とは言え、誤解してほしくないポイントは、私たちはカットシーンを見せたいのではなく、インタラクティブかつプレイアブルなストーリーをゲームとして表現したいと思ったのです。これはまさしく“実際にプレイできる物語”と呼ぶのがふさわしいかと思います。なお、通常のアクションゲームの主人公は、たとえば□ボタンを押すと敵を攻撃し、アナログスティックを倒すと移動といったように、ボタンごとに決められたアクションをくり出しますが、本作では、ただドアを開けるという動作だけにでも、物語のどの時点で開けるのか、ジョディがどんな状態かによっても違う体験が必要になります。だから、膨大なアニメーションを表現しています。すべての経験は一回きりのもので、くり返すことはありません。」
革新的なUIとゲームエンジン
『ヘビーレイン -心の軋むとき-』では、“QTE(クイック・タイム・イベント:カットシーンにおいて、画面に表示されるボタンのアイコンに合わせて、タイミングよくボタン入力すると、成否に応じてプレイヤーキャラクターの行動が変化するシステム。)”を入力してゲームを進めていったが、今回はそのシステムをさらに推し進めたものになるという。
デヴィッド「ユーザーインターフェース(以下、UI)は革新的な変化を遂げました。『ヘビーレイン -心の軋むとき-』で使った矢印の通りにボタンを入力するQTEは登場しません。あのシステムは人によっては難しいと感じることもあり、直感的かつ流れるようなゲーム体験を目指している私たちとしては、ゲームの流れを悪くするシステムは意図するものではありません。『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』では、キャラクターをなるべく直感的に操れるようなUIを考えました。画面に表示された白い丸印に合わせてプレイヤーがアナログスティックを倒すことになります。
また、ゲームエンジンは、『ヘビーレイン -心の軋むとき-』をベースに大幅に進化させています。よりシネマティックな表現ができるように、奥行きの見えかたやライティングを向上させました。先日、ソニー・コンピュータエンタテインメントからプレイステーション4が発表されましたが、『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』のグラフィックはプレイステーション4に影響を受けて作っています。火や煙といった自然物に加え、キャラクターのアニメーションにも注目しました。顔や体の動きを非常に細かい部分までリアルタイムで動かせるようにしたのです。ちなみに、私たちはディスクの読み込み時間もなるべくなくそうと努力したので、今回はローディング画面がほとんど表示されないことを、お知らせしておきます」
実機によるゲームプレイ
続いて公開されたのは、実機によるゲームプレイ。デヴィッド氏によると、今回のサンプルROMは、α版からβ版に移行する前段階のもので、ゲーム内の場面としてはジョディが8歳くらいのこと。ジョディはこのころからふつうの人間には見えない特別な存在であるエイデンの存在に気づいており、エイデンを通じて彼女のまわりに不思議なことが起こり始めている。ゲームは、ジョディのことを知ったある研究機関の施設からスタート。ジョディは待合室から実験室へと向かう。ゆっくりと歩き始めたジョディがオブジェクトや障害物に近づくと、画面に白い丸印が表示される。これが本作ならではのシステムで、白い丸印が表示されたら、状況に応じて右アナログスティックを倒すことでゲームが進行していくのだ。たとえば、立ち上がるときは右スティックを上に倒し、地面に落ちている人形で遊びたいときは下に倒したりと、入力する方向が場面ごとに変化する直感的な操作となっている。また、ゲーム中に△ボタンを入力すれば、ジョディとエイデンの操作をいつでも切り替え可能。エイデンを操作しているあいだは一人称視点になり、ジョディとつながっている“見えない鎖”の範囲内であれば、空中を自在に飛び回れる。壁を抜けたり、オブジェクトを吹っ飛ばしたりもできるので、エイデンの姿が見えない一般人からすると、ジョディが超能力を使っているように映るというわけだ。つぎに実験室に到着したジョディは、カード当ての試験を受けさせられる。これは、壁の向こう側でジョディから見えない場所にいるキャスリーンという被験者が引いたESPカードの絵柄を当てるというもの。さっそくエイデンの力を借りて、壁の向こう側にいるキャスリーンの引くカードを当てるジョディ。最初は順調に試験をクリアーしていくジョディとエイデンだが、徐々にエイデンの行動が荒っぽくなり、実験室にあった積み木を崩したり、机を吹っ飛ばしたり、さらにキャスリーンに憑依して窒息させようとするなど、制御不能の暴走状態になってしまう……。このようにエイデンはときにジョディの意志に反して暴れ狂うやっかいなパートナーでもあるようだ。
つぎに公開されたのはアクションシーン。成長したジョディが格技場のような場所でキックボクシングのトレーニングを受けているところだ。ここでは、トレーナーがくり出すパンチをかわし、隙を見つけて反撃を加えていくことになる。トレーナーが攻撃してくると、画面がスローになり白い丸印が表示される。相手の攻撃の方向に合わせてアナログスティックを入力すれば、うまく防御できる。UIは非常にシンプルで、流れるように美しいアニメーションが印象的。さまざまなアクションが、実際にどのようにゲームに落とし込まれるかが興味深いところだ。
45分間のストーリー
デヴィッド氏によるプレゼンテーションのラストは、45分間に及ぶゲームプレイで締めくくられた。「ネタバレはゲームファンのためにならないので、公開した45分のストーリーの詳細を書くのは避け、できることなら記者の皆さんが何を感じたかを書いてほしい」というデヴィッド氏のリクエストがあったため、簡単な状況のみ説明しておこう。最後に見ることができた45分間のシーンでは、雪が降り積もる都市部でホームレス生活を送るジョディが登場。霊体エイデンと交信できるという“望まぬ力”に振り回され、生きることに疲弊したジョディと、絶望と無力感に包まれた世界でなおもたくましく生きるホームレスとの交流が描かれる。ネタバレになるのではっきりと説明できないのが残念だが、プレイヤーは、この場面で“いのち”にまつわる重大な出来事を体験することになる。緊張感と高揚、不安と期待がないまぜになった、ある種神秘的な場面の描写に、記者は思わず圧倒されてしまった。デヴィッド氏はかつて、「ユーザーの心を揺さぶり、“感情のジェットコースター”を体験してもらいたい」と発言していたが、今回『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウルズ)』のたった45分間のデモを通して、記者は言葉で言い表せないような思いが湧き上がるのを感じることができた。思うに本作は、最新のテクノロジーを駆使して“いのち”そのものを描いた人間賛歌だ。デヴィッド氏率いるQuantic Dreamが、この生と死の物語の果てに何を見せてくれるのか、いまから楽しみでならない。
スタジオツアーの2回目は、2013年3月28日(木)に更新予定。デヴィッド氏を始めとするQuantic Dreamのキーパーソンへのインタビューや、試遊機のプレイインプレッションなどをお届けするので、お見逃しなく。
BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー ソウル)
メーカー | ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン |
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対応機種 | PS3プレイステーション3 |
発売日 | 2013年発売予定 |
価格 | 価格未定 |
ジャンル | アドベンチャー / ドラマ |
備考 | 開発:Quantic Dream |