Take-Two Interactive Japanから2013年4月25日に発売予定の『Bioshock Infinite(バイオショック インフィニット)』。FPSライター・BRZRKによるプレイ・インプレッションをお届けする。
ドモー、BRZRKです。4月25日に発売予定の『バイオショック インフィニット』をプレイする機会に恵まれたので、早速Take-Two Interactive Japanさんのオフィスに伺ってきました! 今回はその時に思った事などをメインにレポートしたいと思います。とはいえ、一部は編集部のミル☆吉村氏の内容(記事はこっち)と被ってしまうのでご了承を。では、行ってみよう。
『バイオショック インフィニット』の舞台は今から約100年ほど前の1912年のアメリカ。プレイヤーは主人公となる私立探偵のブッカー・デュイットとして天空都市コロンビア(もちろん架空の都市)へと訪れることになる。
この主人公は、私生活が非常にだらしないらしく、多額の借金を抱えている。この返済しきれない借金を帳消しにしてもらうため、天空都市コロンビアに囚われている『エリザベス』を連れて帰る依頼(というか選択の余地がない命令)を受けることに。
ここで問題となるのが天空都市コロンビアの所在地だ。実はコロンビアの位置は誰も知らず、合衆国ですら把握できていない。だが、とあるルートを辿ることで足を踏み入れることになる。この過程は『バイオショック』シリーズ(特に1作目)を遊んだことがあるプレイヤーならニヤニヤせずにはいられないニクイ演出となっていた(ネタバレ気にしない人は以下の動画を参照)。
政治的対立・人種的対立の上に成り立つ天空都市コロンビア
さて、このコロンビアの頂点に居るのが、ザッカリー・カムストック。彼は予言を得意とし、多くのコロンビア市民から熱狂的な支持を得ている。その一部はカルト宗教化しており、主人公がコロンビアを訪れて間もない頃、彼は団体の構成員から手荒い“洗礼”という名の歓迎を受けることになる。この一大勢力は政治にも関与している模様なのだが、その思想傾向は右に曲がりきっている。ゲーム中では、この極右勢力をファウンダーズと称していた。
このファウンダーズに対抗する勢力“ヴォックス・ポピュライ”も本作には登場する。彼らの多くは真っ赤な装束で身を包み、無政府主義、つまり、アナーキズムを信奉している集団。当然、超国家主義者のファウンダーズと、無政府主義のヴォックス・ポピュライは相容れない存在としてお互いを認識しており、命が落ちるような事件にも発展している。その最たる事件は、ザッカリー・カムストックの妻の殺害事件。
この両勢力がお互いを憎みあっているのは明らかで、ゲームの序盤で訪れるカーニバルの会場では、ヴォックス・ポピュライを的とした射的ゲームを遊ぶことが可能だ。このミニゲームは至極単純な物なのだが、ボーナスキャラクターとして、ヴォックス・ポピュライのリーダーであるデイジー・フィッツロイが登場する。
少し話が飛んでしまうが、射的ゲームはお祭りや縁日で見かけることが多い。こういった催し物は子供にとって一大イベントであり、どんな内容でも幼少の精神に大きな影響を与える一端となっている。これは日本だけでなく、海外でも同様なのだろう。カーニバルの会場には子供が多く訪れており、物心がつき始める段階から射的ゲームなどによるプロパガンダを活用したザッカリー・カムストック"による思想・主義についての洗脳教育が行われているように伺えた。
この2大勢力が争っているものは、政治面だけではない。とある人物を争っている模様なのだが、そちらはぜひとも製品版が発売された暁に自分の目で確かめてほしい。
本作の様々な場所を歩いていると頻繁に見受けられるのが人種差別だ。幾度と無く登場するファウンダーズのトップ、ザッカリー・カムストックも白人至上主義者であり、有色人種を差別的に見下している発言をしている。
その内容は様々だが、筆者個人が特に気になったのはトイレだ。本作では、豪華と言えばいいのだろうか、整理整備が行き届いている綺麗で清潔なトイレは白人専用の施設となっており、有色人種が利用できるトイレは汚いとまでは行かないが、非常に雑然とした場所だった。
これは実際に当時あったことで、レストランやトイレでは白人専用と有色人種用が公然と用意されていたのだ。
また、とある建物では黒人の召使いが床の清掃を行なっているのだが、白人に対して卑屈なまでの低姿勢を貫いていた。白人男性と黒人女性のカップルがカーニバルで晒し者にされているようなシーンも登場する。
ちなみに、本作でたびたびモニュメントとして見かけるアメリカ合衆国建国の父、ジョージ・ワシントンだが、彼は黒人奴隷農場のオーナーであり、先住民であるインディアンを狼と同じ猛獣と呼んだりしている。もしかすると、こういった部分がファウンダーズやザッカリー・カムストックから崇拝されている理由のひとつなのかもしれない。
ただし、注意してもらいたい点がある。これは言わずとも理解してもらっていると思うが、本作は決して人種差別主義を助長するようなタイトルではない。これは、当時の世情を表しているに過ぎず、当時のアメリカでは人種差別問題が今以上に根深かったということを踏まえたて、地上との交流を断絶しているコロンビアで起きていることだと思ってほしい。
『バイオショック インフィニット』の賑やかな世界
さて、ちょっと長くなったがコロンビアのバックグラウンドについて書いたので、今度はゲーム面のレポートをしていこうと思う。
まず、舞台となるコロンビアだが、『システムショック2』と『バイオショック』のように閉所・暗所恐怖症の人には身の毛もよだつレベルの閉鎖的な空間ではなく、青空が見える開放感あふれる場所だ。その見た目はまさに雲上の楽園。
コロンビアで生活している人々も、『システムショック2』のハイブリッドや『バイオショック』のスプライサーのように、謎の触手が頭から出ていたり、血色が悪くウサギの仮面を装着していたりすることはなく、ごく普通の人間が多い。
そのため、フラフラと歩いていても周辺の人々が気軽に挨拶をしてくれたりする。『システムショック2』や『バイオショック』といったケン・レヴィン氏が手がけた過去作をプレイし、孤独な世界を味わった人からすれば、人と多く接することができる本作は新鮮に見えるかもしれない。
そうそう、孤独を感じさせない要素の中でも特に大きいのがエリザベスの存在だろう。彼女はこの世に生を受けてからずっと鳥籠の中の鳥と呼ぶに相応しい軟禁生活を強いられている。外の世界に思いを馳せ、どんな所なのかと日々夢をみているようだ(物語の序盤にその様子を見て取ることができる)。
もうトレイラーなどで承知だと思うので書いてしまうが、主人公はエリザベスを鳥籠から連れ出し、外の世界を見せる(コロンビア内だが)。見るのも触れるのも初めてだらけの彼女の様子は、ここに至るまでの険しい道のりを忘れさせてくれるレベルで可愛らしく表現されていた。
開発元Irrational Gamesの過去作品である『バイオショック』と『システムショック2』の共通点のひとつとして上げられるのが、単独行動がほとんどという点だ。シリーズ作ということであれば『バイオショック2』にリトルシスターという存在こそ居たが、特にこれといった人間的な会話はなかった。
しかし、エリザベスは過去の作品と相反するように主人公と積極的なコミュニケーションを図ろうとする。あまり外の人間と接したことがないのか不明だが、エリザベスと主人公の距離感が非常に近く感じられた。そのためか、ゲーム中は彼女に対してかなり感情移入しやすいだろう。
そんなエリザベスだが、行動を共にしているときに戦闘が発生すると、周辺から各種アイテムを拾い集め、主人公に投げ渡してくれる。戦闘中に弾薬が尽きそうなタイミングでこれが発生した際の嬉しさは、つい「おおっ!」と声がでてしまった。
ただ、そんな彼女もイロイロと大変な身。あまり書いてしまうとネタバレになってしまうので伏せておくが、常に何かに狙われている状況だ。特筆して目立つのがソングバードだろう。ソングバードとは、エリザベスを『バイオショック』におけるリトルシスターとするならば、ビッグダディの役割を果たすキャラクターだ。
非常に大きな躰を持ち、空を飛び回り、圧倒的な力を見せつけるこのソングバード。文字通り見た目は巨大な鳥のようだが、人間のような腕があったり、謎な点もある。ちなみに、ビッグダディと同様に怒ると眼の色が真っ赤に変化し、大暴れをする。連れ去られたエリザベスを奪還しようと襲いかかるのだが、手段は問わず圧倒的な力の差を見せつけられてしまう。
そうそう、謎と言えば、エリザベスの右手の小指が何故か短く、銀色のカバーで防護しているのだが、それに気付いた読者はいるだろうか? これは、初期のコンセプトトレイラーやコンセプトアートには見受けられず、2012年中から変化した模様だ。これがただのデザインなのか、それとも重要な要素なのかが筆者としては非常に気になるところ。実際どうなんでしょ?
■参考:“City in the Sky Trailer”(オリジナル版は2013年1月31日公開)(48秒ごろ)
“BioShock Infinite TGS Gameplay Trailer (Japanese)”2011年9月15日公開(25秒ごろ)
それにしても、鳥籠の中に人間(エリザベス)が入れられ、それを監視しているのが鳥(ソングバード)というのも、なんだか皮肉で面白い。
FPSライターが見る戦闘システム
次は戦闘について書いていこうと思う。まず最初に書かねばならないのが、特殊能力だろう。これは、“ビガー”と呼ばれる特殊能力を宿した薬を飲むことで得ることができ、道中で入手したり、自動販売機で購入することが可能だ。筆者がデモプレイで入手できたのは以下の能力。
・ポゼッション
LV1 機械を味方につけて敵を攻撃
LV2 人間にも使用できる
・デビルズ・キス
LV1 火の玉を投げる・地面にトラップとして設置する
LV2 効果範囲およびダメージが増加
・マーダー・オブ・クロウ
LV1 カラスを使って敵を攻撃する
LV2 マーダ・オブ・クロウで倒した敵の死体をトラップに変える効果が追加される
・バッキング・ブロンコ
敵を宙に浮かせたり、飛ばす
といった所だろうか。これらの能力にはレベルの概念があり、アップグレード版の特殊能力を自動販売機などで入手することができる。ただ、能力によってはアップグレードに必要な値段が超高額となっているため、筆者がデモプレイをさせて頂いた3時間ほどではとても購入することができない物も多数あった。まぁ、この辺は実際に製品版を触ってから楽しもうと思う。
これらの能力は、『システムショック2』のPsy、『バイオショック』のプラスミドにあたる“ソルト”を消費して発動させることが可能だ。このソルトはマップ上に多く存在するので、序盤こそソルト切れを起こしにくい。
さて、実際の戦闘だが、最初は銃撃だけで敵を黙らせることも可能だ。しかし、敵の出現する数が増えると銃撃だけで対応するのが非常に難しい。そこで、各特殊能力を効率よく使うことが要求される。
一例を挙げるとするなら、バッキング・ブロンコを使用した戦術だ。この能力を使用すると、ターゲットは一定時間、宙に浮いて身動きが取れなくなる。このスキを利用し、無防備な敵をスナイパーライフルなどで一方的にダメージを与えることが可能だ。物語の序盤では特に有効な戦術で、ソルトこそ消費するものの、弾薬を大きくセーブできる。もちろん、多数の敵が出現したときに、行動可能な敵の数を減らし、残った敵を攻撃するということもできる。
つまり、特殊能力の使い方は1つのパターンだけではなく、使用者の発想によってはもっと効果的な使い方が望めるようになる。ハッキリ言ってしまえば、FPSが上手じゃないプレイヤーでも、こういった能力を使うことでスタイリッシュに敵を無力化でき、効率よく戦闘を勧めることができるように配慮されている。なので、「面白そうだけど、FPSが苦手だからなぁ」と躊躇している人でも安心して遊ぶことができるはずだ(もちろん、それなりにプレイできるに越したことはないが)。
また、マップ上に配置されているアイテム“インフュージョン”を獲得すると、主人公のステータスをアップさせることができる。これは、ライフの上限、シールドの上限、ソルトの上限のどれを上げるか選べるのだが、物凄く悩む。
筆者は前述したバッキング・ブロンコを多用する戦い方でプレイしていたので、ソルトの上限を優先的にアップさせ、次にシールドで身の守りを固める方向で使用した。ただ、これは使用者のプレイスタイルによっては使用する基準が大きく変わってくると思う。銃撃戦メインならシールドとライフを重視するだろうしね。この感覚はまさにアドベンチャーゲームのステータス割り振りといった感じだ。
ちなみに、敵に倒されてもマップ上に設置されている装置から即復帰できる点は『システムショック2』や『バイオショック』を踏襲しており、プレイヤーにとってストレスとなる長いロード時間などは無かった。ほんとに快適。
この素晴らしき世界
さて、ちょっと長くなったがプレイレポートは以上である。筆者は、開発者のコアメンバーであるケン・レビン氏が創造した世界や物語の詰まった『バイオショック』を心から楽しみ、その世界観に酔いしれながら遊ばせていただいた。
『バイオショック2』では楽しみこそしたが、正直違和感を感じながらプレイを続けていたのを覚えている。それもそのはず、ケン・レビン氏だけでなく開発元のIrrational Gamesは、『バイオショック2』には関わっていないからだ。
だが、本作の『バイオショック インフィニット』は再びIrrational Gamesの手で丁寧に舞台となる世界を練り上げられているだけでなく、物語の先が読めずに「次は何が起こるんだろう?」と、ワクワクしながらプレイすることができた。また、本作はゴリゴリのFPSというよりも、ストーリーテリング上で必要だからFPSを選択しているというように感じられた。実際、FPSを遊んでいるというより、アクションアドベンチャーのタイトルを遊んでいるような感触が強い。
かつてケン・レビン氏が1999年にリリースし、世界に衝撃を与えた『システムショック2』では宇宙空間で起きる人類とコンピューターの対立を描き、どんなユートピアだろうと簡単に崩壊してしまう物語が描かれた。そして、2008年に発売された『バイオショック』も同様にユートピアとなるはずだった海底都市ラプチャーが崩壊し、ディストピアへと様変わり。では、本作ではどうなるのだろうか? ゲーム序盤こそユートピアという言葉が相応しく楽園にも見えるコロンビアなのだが、そこには政治的摩擦や人種・宗教問題という点が見え隠れしている。この要素をケン・レビン氏やリードライターのドリュー・ホームズ氏がどう料理しているのか気になって仕方がない。
筆者はすでに座席に着き、後は彼らの作る料理が出てくるのを待ち、一口ずつ味わう準備はできている。さぁ、早く!
追伸 先日発表された1999モードって『システムショック2』の最高難度に近いのでしょうかね? だとしたら、体力が10しかない状態なので、敵の殴り1発で昇天でしょうか。楽しみだ!
■著者紹介:BRZRK
週刊ファミ通やファミ通Xboxに“スオミ松崎”名義で執筆していたFPS歴15年のフリーライター。現在は他媒体でも使用しているBRZRK(バーサーク)名義に変更し、執筆活動のほかにゲーム大会の実況・解説やインターネット番組に出演したりしなかったり。まぁ、そんな感じでイロイロやってます!