『バイオショック インフィニット』でいかにしてエリザベスちゃんに命が吹き込まれたか――Irrational Gamesスタジオツアーリポート【バイオショック特集】_09
▲ボストン郊外のとあるビルの2・3階にそのスタジオはある。扉を開けるとこんな感じだが、機密情報ありまくりなので表札も出ていない!

 Take-Two Interactive Japanから2013年4月25日に発売予定のアクションシューティング『Bioshock Infinite(バイオショック インフィニット)』。本作を開発するIrrational Gamesのスタジオツアーで訪問してきたので、その模様をお届けする。

 同スタジオがあるのは、アメリカはマサチューセッツ州ボストンの郊外、中心地から雪が残りまくりの道をクルマに揺られて15分ほどのところ。フランス、オランダ、スウェーデンなどのメディアとともに意外なほど一見普通のビルの中に入って行くと、そこがIrrational Gamesだった。

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▲入り口では初代『バイオショック』のビッグダディとリトルシスターがお出迎え。『バイオショック インフィニット』には出てこないのであしからず。

ガーン! 祝日でした

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▲勝手におもちゃ持ち込むのは基本です! パーティションでスペースを分けずに、オープンな環境にしてあるのもアメリカのスタジオによくある特徴。

 実はスタジオツアーがあった2月18日はアメリカの祝日ということで、取材対応してくれるスタッフ以外は基本的にほぼお休み。
 というわけでスタジオ内部を案内してもらったのだが、写真はIrrational Gamesがくれた普段の人がいっぱいいる状態の写真ということでご了承ください。

 面白かったのはゲームをテストするQAチームの部屋が“光の部屋(Light Room)”と“闇の部屋(Dark Room)”に分かれていたところ。実際にそれぞれ照明が明るめと暗めの設定になっているそうで、両方のシチュエーションを用意してテストを行う体制にしてあるのだという。

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▲なんでオープンな環境にするかっていうと、こんな感じに議論を行いやすくするため。
▲欧米のスタジオにかならずあるリラックススペース。フリードリンクだ!
▲全員集合してミーティングしたり、最新の映像をチェックしたりする大きめの部屋なんかもあった。

気を取り直してここが本番! 首脳陣が語る『バイオショック インフィニット』のキモ

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▲主だった開発チームの首脳陣が集まってプレゼン、というか「エリザベスちゃんはAIの点でも大分苦労したんだよね、キミちょっと話して」、「僕らにとって大事なのはエリザベスがプレイヤーの行動の動機となること。プレイヤーのことを無視したバカ女に見えちゃうようではダメだったんだ、だからいろんなことをテストしたよ」「じゃあ昔のエリザベスの映像流していい?」ってな感じに複数人が入れ替わり立ち代わりしゃべりまくり。

 スタジオツアーのあとは、Irrational Gamesを率いるケン・レビン氏以下、開発首脳陣からのプレゼンテーションを受けることができた。

 冒頭で強調していたのは、FPSタイトルを多く手がけてきた同スタジオが、プレイヤーにいかにして物語を体験させることを重視してきたかということ。後ほど別途お届けするインタビューでも、FPSの“S”、つまりシューティングの部分はさほど重要ではなく、一人称視点でプレイヤーが世界を体感できるからこそFPSタイトルを開発してきたという趣旨のことを語っていた。

 一人称視点で崩壊するユートピアを探索させるというのは、同スタジオの最初のタイトル『System Shock 2』から初代『バイオショック』、そして今回の『バイオショック インフィニット』に共通する要素だ。(ちなみに『System Shock 2』はWindows 8にも対応したPC版が最近GOG.comで発売されたばかり

 初代『バイオショック』は、現世代にふさわしい物語体験を提供できたものの、プレイヤーが体験できるのは舞台となる海底都市ラプチャーが狂気と崩壊に見舞われた後で、いわば廃墟を歩いているようなものだったこと、そしてほとんどの会話がラジオ通信によるものという、孤独な物語であったと解説。(ちなみに『バイオショック2』には関わっていない)

 そこで本作では、この部分を一新。『バイオショック インフィニット』の舞台である空中都市コロンビアは、通常の生活が行われている生きた街として登場する。プレイリポートをすでに掲載しているが、何か大混乱が起きる予兆こそあちらこちらにあるものの、ゲーム冒頭のコロンビアでは、人々が夢のテクノロジーによって支えられた豊かな生活を送っているのを存分に見ることが出来る。

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▲初代『バイオショック』と異なるのは、死んだ街が舞台ではないということ。彼らも普通のおまわりさんなのである。
▲歴史改変SFでもある本作だが、よく指摘される政治的要素は重要度が高い要素ではないのだという。あくまで、ありえそうな世界を描くためのツールとして捉えているようだった。

エリザベス、エリザベス、エリザベス!

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▲本作はあくまで、ブッカー(プレイヤー)とエリザベスの物語。ストーリー、AI、アニメーションと、あらゆる領域でエリザベスがもっともらしく見えるように注力されている。

 そして今回もっとも注力されているのが、ヒロインであり、主人公ブッカーのパートナーであるエリザベスだ(ちなみに日本版はCV沢城みゆき)。実際、1時間半取られていたプレゼンテーションの時間の9割が、いかにエリザベスを創りだしたかということに割かれていたほど。

 エリザベスはブッカーの目的であり、世界の謎を解く鍵であり、プレイヤーを先導する案内人でもある。だからあらゆる領域で、エリザベスが実在感のある存在、プレイヤーの真のパートナーとなるよう意図されている。
 そして、プレイヤーの注意をさまざまなものにひきつけるよう活発に周囲の物に反応させつつも、「(場の空気を読まない)バカ女」(あくまでスタッフの発言です)にならないよう、AIやアニメーションなどで試行錯誤を繰り返したとのこと。
 エリザベスはこの世界のさまざまなものをそれとなくプレイヤーに示唆するために、よく「ブッカー見て見て!」と話しかけてくるのだが、普段ならエリザベスがはしゃいでても「もう、この子ったら……」ってなるが、たとえば戦闘中にこれをやられたら「それどころじゃねぇよバカ!」って台無しなわけだ。

 エリザベスはプレイヤーのすることはしないように設計されており、たとえば銃をブッ放したりはしないわけだが、それでも戦闘では異空間からお得なものを取り出す“ティア”を開けたり、弾を拾ってブッカーに投げて渡してきたりと、彼女なりの参加をするようになっている。
 ピッキング(鍵開け)なども彼女の仕事(本を読んで覚えたらしい。要するに清純派のお嬢様ではなく、自立した活発な女の子なのだ)になっており、ブッカーとエリザベスがセットになってお互いのできることを協力し合うことで困難を打開するように作られているのだ。

 まとめると、エリザベスは以下のような点に注意して作られている。
・パートナーとして信頼出来る存在になる
・プレイヤーに邪魔に感じさせない
・プレイヤーが守らされる存在ではなく、戦闘中もそばで協力する存在
・プレイヤーと関係のない所で反応するバカになってはいけない
・半歩先を行き、プレイヤーの行きそうなところなどを察して反応する

 これにあたって演技なども注意深く丁寧に作り込まれており、声を演じる声優以外にも、モーションキャプチャー用の俳優も加わって収録が行われている。声の収録だけでも全体で25日~30日がかかっているそうで、収録風景を撮影した資料映像では、かなり追い込んで声優さんを本気で泣かせるというハリウッド顔負けの場面も。
 またモーションキャプチャーでは、近距離でも遠距離でもそれなりのインパクトを持ち、かつ大げさになりすぎないよう、映画(クローズアップに適している)と演劇(離れてもわかるように身振りが大きい)の中間ぐらいになるよう配慮しているとか。

 で、その結果は、少なくとも冒頭3時間ぐらいをプレイした感想でしかないけど、これまでの『バイオショック』とは全然違う物語になっていると断言できる!
 エリザベスは時々しょうもないいたずらをしてくるのすら(ややウザ)かわいく、年上の恋人のなりかけのような、お兄さんのような、実に微妙な機微のある関係に思わずグッと来るし、崩壊が今にも始まろうとしているユートピアを探索するのは新鮮な体験。近日公開予定という新トレイラーでは『バイオショック』らしいイッちゃってる感じのシーンもちゃんとあるし、今のところ度重なる延期を待たされた甲斐はあるぜ! といったところ。

 結構レア(ほとんど日本のインタビューは受けたことないんじゃないかなとは本人談)なケン・レビン氏ほかスタッフへのインタビューも収録し、別途お届けする予定なので、そちらもお楽しみに。