外山ディレクターら3名が、『GRAVITY DAZE』の制作過程をプレゼン

 既報の通り、第16回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門において、プレイステーションVita用ソフト『GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』が優秀賞を受賞した。本日2013年2月17日に、同作の外山圭一郎ディレクターら3名による、“ゲームの中と外~変容する空間”と題した受賞者プレゼンテーションが行われた。

<出席者>
外山圭一郎(『GRAVITY DAZE』チーム・ディレクター)
山口由晃(『GRAVITY DAZE』チーム・アートディレクター)
横川裕(『GRAVITY DAZE』チーム・リードプログラマー)

モデレーター:伊藤ガビン(編集者、クリエイティブディレクター)

第16回文化庁メディア芸術祭・エンターテインメント部門優秀賞『GRAVITY DAZE』受賞者プレゼンテーションリポート_01
第16回文化庁メディア芸術祭・エンターテインメント部門優秀賞『GRAVITY DAZE』受賞者プレゼンテーションリポート_02
▲司会進行役の伊藤ガビン氏。
▲プレゼンは、プロジェクターの画像を見ながら進行。

●独創的なビジュアルと圧倒的な完成度は、いかにして構築されていったのか?

 会場には、事前応募で申し込んだ100名弱の希望者が参加。メディア芸術祭では、ゲーム部門の審査をおもに「担当させられた」という伊藤ガビン氏の司会進行で受賞者プレゼンテーションが進行した。
 ちょうど約1年前の2012年2月、プレイステーションVitaのいわゆるローンチ時期に発売された『GRAVITY DAZE』は、2012年の日本ゲーム大賞をはじめ、数々の賞を受賞した。外山氏といえば、代表作には『サイレントヒル』や『SIREN』といったホラーゲームが多いが、じつは本作の漠然としたイメージは4,5年前からあったのだそう。かつて、ソニー・コンピュータエンタテインメントが青山にあったころ、近所のビルを行き来する際に、「重力をコントロールして、反転、反転をくり返せば、あのビルにすぐ行けるな」などと、ゲーム的な思考で考えたとのこと。「その時は、コレだ!と思ったわけではないですが、いま振り返れば、そこからじゃないかな」と語った。また、ゲームの企画を立ち上げる際の3つの柱として、“メカニック”、“アートワーク”、“興行性”があると考えていて、『GRAVITY DAZE』の場合、メカニック=重力アクション、アートワーク=フレンチコミック、興行性=新ハード(PS Vita)のフラグシップタイトル、というふうに、3つが固まったと語った。「最初は興行性=自分がやりたかっただけ、ですけどね。でも、当初プレイステーション3で考えていたのですが、PS Vitaで開発することになって、3つ目がハマったわけです。それに君のソフトとVitaの“ジャイロセンサー”が合うんじゃない?、と会社側から言われて検証したところ、とても相性がよかったんです」(外山氏)
 従来は、海外ではウケないとされていた、日本風のキャラクターに対する認識もずいぶん変わってきたといい、「本当は、“バンド・デシネ”(フランス語圏のマンガ)をモチーフにした手法をもっと取り入れたかったんですが、それをやるとアーティスティックでマニアック過ぎるものになるし、哲学的な内容もウリではあるけれども、ふつうはついていけない。ですので、僕らが昔から慣れ親しんできた日本のキャラクターやマンガ、アニメ、ゲームと掛け合わせようということになりました」(外山氏)

 続いて、プレゼンを担当したのは、メインプログラマーの横川氏。PS Vitaの機能面から、『GRAVITY DAZE』がいかにしておもしろくなっていったのかを解説してくれた。タッチパネル、ジャイロセンサーといった、PS Vitaのあらゆる機能を使ったという同作。また、空中を落下する際も、アニメーションとプログラムを融合して、自由で自然な浮遊感の表現に成功した。そして、最後にオープンワールドの構築方法として、各階層をブロックで分け、たとえばプレハブで作ったものを効率的に組み合わせるような感覚で、広大なオープンワールドを作り上げたのだという。

 最後は、アートディレクターの山口氏が、PS Vitaを操作しながらプレゼンを担当した。山口氏は、外山氏の頭にある“バンド・デシネ”的な表現を、どのようにゲーム内で再現するかを考えたとのこと。それは、自身も興味がある表現方法で、「ゲームでしかできない、ゲームが得意な表現方法は、背景とインタラクティブ性だと考えた」(山口氏)。『GRAVITY DAZE』では、よくある一本道ではなく、提供した世界の中で自由に遊んでもらうようなゲーム性の構築を考え、開発当初から、“箱庭”を提案した山口氏。相当な作業量だが、スタッフも喜んで、また楽しんで作ってくれたのだそう。「壁に立てるという変わった世界を作っても、それを体験できるのがゲームのおもしろいところです」(山口氏)

第16回文化庁メディア芸術祭・エンターテインメント部門優秀賞『GRAVITY DAZE』受賞者プレゼンテーションリポート_04
第16回文化庁メディア芸術祭・エンターテインメント部門優秀賞『GRAVITY DAZE』受賞者プレゼンテーションリポート_03
▲左から、外山氏、山口氏、横川氏。
▲山口氏は、実際にPS Vitaを操作しながらのプレゼン。

 3人のプレゼン後は、ディスカッション形式で進行。エンターテインメント部門で多数のゲームの審査に携わった伊藤氏の印象として、「エントリーしてきたゲームの多くは続編であり、新作であっても、それまでにディレクターが積み上げたものの続編として作られたものがほとんど。新規性のあるゲームは、パズルのように小ぶりだった。『GRAVITY DAZE』は、新しいゲーム性でありながら、大作並みのクオリティーも持っていた」と評価。それに対し外山氏は、「ホラーゲームを作っているときから、無意識のうちに、将来このゲームを開発するとしたら、向いているだろうなというスタッフを集めていたかもしれない(笑)。僕が出した“1”のものを、“10”にも“20”にもしてくれる。そうして、ノッてくれるいい関係でした」と答えた。山口氏も「外山氏のアイデアに興奮したスタッフも何人かして、まず最初にムービーを作ろう、と。それこそヨダレを垂らしながら作っていましたね(笑)。その作ったムービーが、最後まで迷わない指針になりましたね」と当時を振り返る。そのムービーは、プロジェクトのかなり序盤に作った“コンセプトムービー”で、YouTubeなどで公開されているものなので、ここで紹介しよう。

 最後に3人から、開発を志す人に向けてメッセージが贈られた。
「いまのゲーム開発は混沌としてきたと思うんです。インディーズやスマートフォンの台頭、さらには“Kickstarter”のような、これまでにはなかった資金調達が可能だったりするので、ぜひいろいろとやってほしいと思います」(外山氏)
「いまは個人もゲームを作ることができて、Webなどで多くの人に見てもらえることもできるようになりました。自己アピールとしては“おいしい”時代になっていますが、逆に数が増えすぎて、より優秀なクリエイターが育つのではないかなと思います」(山口氏)
「プログラムも昔より作りやすくなったと思います。PS Vitaでも、“PlayStation Mobile”で、自分で作ったプログラムをVitaで動かすことができます。これを使えば、タッチパネルなども使うことができるので、学生やインディーでは、PS Vitaをプラットフォームとして開発するのもおもしろいのではないかと思います」(横川氏)