最後まで試行錯誤を続けた新たなる挑戦作
『メタルギア ソリッド』シリーズに登場した雷電を主人公に、新たな時代の戦いを描いた『メタルギア』シリーズ最新作、『メタルギア ライジング リベンジェンス』。これまでのシリーズ作の特徴であった、敵に見つからずに進む“ステルスアクション”ではなく、斬撃や高速移動を駆使した壮快感溢れるアクションをメインに据えた、新たな形のアクションにも注目の本作。今回は、週刊ファミ通2月14日号(2013年1月31日発売)に掲載された、同作の開発スタッフである是角有二氏、稲葉敦志氏、齋藤健治氏、玉利越氏へのインタビューの完全版をお届けする。本誌では語りきれなかった、開発秘話も……?
ブレーキを踏まない男たちが作り上げた渾身のアクション
――今回、日本庭園や下水道などの光景が新たに公開されましたが、いったいどのくらいのステージが登場するのでしょうか?
是角 有二氏(以下、是角) オープニングで雷電がサムエルにボコボコにやられてしまう、アフリカ某国を皮切りに、アブハジア、メキシコ、アメリカのデンバー……。さまざまな地域が戦いの舞台として登場することになります。
――世界を股にかけた、スケールの大きい物語が展開するということですね。
玉利 越氏(以下、玉利) 多くの地域を登場させたのには理由がふたつあります。ひとつは、物語上『メタルギア ソリッド 4』(以下、『MGS4』)後の世界がどうなったかを描きたかった、ということ。もうひとつは、アクションゲームとしてたくさんのシチュエーションを演出したい、という齋藤さんからの要望をいただいたことです。
齋藤 健治氏(以下、齋藤) 燃えるシチュエーションがたくさんあると、それがプレイするモチベーションになりますから。「このキャラクターとあの場面の組み合わせはできませんか?」と、あらかじめお願いしていました。
玉利 もともと、プラチナゲームズさんと組む前から作っていたシナリオがあったのですが、齋藤さんからのリクエストを見ると、シナリオの核となる要素を変えないと整合性が取れなくなる部分が多々あったんです。それを消化するために、根幹から物語を作り直すことには最初は葛藤がありました。でも、話を詰めていくうちに、ゲーム全体でやりたいテーマが明確にあって、それを活かすためのシナリオが不可欠だということが、自分でも納得できたんですね。それで、逆にこちらからも「舞台は『MGS4』の後の話にしたらどうですか」と提案するなど、全面的にシナリオを作り直すことにしました。
齋藤 こちらからもいろいろ提案させていただいて、バチバチやり合いながら詰めていきました。当時は相当ギスギスしていたと思います(苦笑)。
是角 物語のハイライトでもある、サムエルとの荒野の決闘シーンなども、その段階で入ることが決まっていましたね。
齋藤 『メタルギア』シリーズとして、なくてはならない要素もあるのですが、固定された概念を壊していくべき部分もあり、そのバランスをにらみながら作り上げていきました。
――そのバランス調整は、小島プロダクションのほうで行っていたのでしょうか?
是角 私も含め、小島プロダクションだけで行っていたということはないですね。今回の制作に関しては、スタッフ全員が『メタルギア』の魅力を理解していて、“ファンが望んでいるもの”をつねに念頭に置きながら、どんどん新しいアイデアを積み重ねていった、という印象でした。齋藤さん自身が、『メタルギア』の大ファンで、「こうしたらファンは喜ぶ」ということを、全部わかってくれていたんですよ。
――一方で、“プラチナゲームズらしさ”は、どんなところに注入されているのでしょうか?
稲葉 敦志氏(以下、稲葉) 『ライジング』という作品自体が、その塊だと思います(笑)。僕らの開発は、アクセルを踏み続けるしかないんですよ。とにかく、やれることは全部詰め込んでいく。多少やりすぎても、玉利さんあたりがあとは何とかしてくれると思って、ひたすら突っ走り続けましたね。
玉利 実際、無茶振りもあったんですよ。「ダンボールを被るとサイボーグ無人機にも見つからないということにしたいから、何か理屈を考えておいて」とか。
是角 たくさんありましたね(笑)。
玉利 そのときも、「段ボールって紙でしょ?」と悲鳴を上げながら理屈をひねり出しました。そこにも齋藤さんの“メタルギア愛”が存分に現れていて、僕なんかは「設定しようがないからダンボールなんていれなくていい」などと思ってしまうのですが、「いや、ダンボールは『メタルギア』になくてはならない要素だ!」と、頑として譲ってくれませんでした。
齋藤 自分でやっておいて何ですが、ものすごい量の無茶振りをしたと思います。細かい設定まで、何から何までやってもらいました。
稲葉 僕らがブレーキをかけちゃダメなので(笑)。
カメラ、斬り口……こだわり抜いた斬撃モード
――二社間の意思の疎通も含め、完成までにかなり苦労されたと思うのですが、なかでも本作の目玉である“斬撃モード”で苦労された点は?
齋藤 狙ったところが右スティックで斬れるように、スティックの感度やカメラ位置を見直しました。音も全体的にブラッシュアップしています。とくに、斬撃では距離感が命なので、カメラ位置は最後まで調整をくり返しました。製品版では、慣れればほぼ思うままに斬ることができるようになっていると思います。
稲葉 毎日のように「カメラ、カメラ」とプレッシャーをかけ続けたこともありましたね。
齋藤 そのたびにこちらも「もうちょっとだけ待ってください」と。開発終盤になるにつれて、プレッシャーがキツくなってきました(笑)。
稲葉 斬撃は気持ちいい半面、操作性が粗いとストレスになりやすい要素でもあるので、あまり荒削りなものは出せないと思って、とくにこだわりました。
是角 長い調整を経て、“斬る”ことは思い通りにできるようになったのですが、“斬られた後”の表現が曲者でしたね。
――斬ったところから対象がまっぷたつに分かれるという演出ですよね?
齋藤 物理法則に則って動かすと、斜めに斬ったときはずり落ちるので問題ないのですが、真横から斬ると、切断面が平らなのでくっついたままなんですよ。とくにサイボーグ相手だと、それでは斬った手応えがなくておもしろくありません。それで、サイボーグを斬ったときだけ、物理演算によるものではなく、指定のリアクションが入るようにしました。といっても、どの部位を、どの方向から斬られた時に、どう反応すると気持ちいいのか……など、課題は山積みで、完成まで相当揉めました。
――それほどたいへんな作業だったのですね.
稲葉 “自由切断”という、見た目にもすごく魅力的な要素を持ったゲームがこれまで世に出てこなかったのには、やはりそれだけの理由があったということを、今回身をもって知ることになりました。
土壇場で誕生した“イージーアシスト”の奇跡
――アクション面でもうひとつお聞きしておきたかったのが、“難易度”についてです。製品版は、PS Storeで配信中の体験版と比べて、手応えが大幅に変わったと感じたのですが、そこにはどういったいきさつがあり、どのような変更が加えられたのでしょうか?
齋藤 もっとも大きかったのは、東京ゲームショウでユーザーさんがプレイしている様子を直接見たことです。いい評価もいただいたのですが、多くの人が手こずっていたのを見て、難易度を見直さなければならない、とすぐに取り掛かりました。当初は、“アクションゲームが得意な人”を基準に考えていたのですが、東京ゲームショウ以降は、『メタルギア』の“世界観”が好きな人にも楽しんでもらえるような難易度を意識し、調整を行ったんです。
稲葉 さらに、昨年12月に配信開始した体験版からもフィードバックを受けて、斬奪を狙いやすくすなど細かく調整を入れたり、“Easy”限定ですが“イージーアシスト”というオプションを選択可能にしています。
――実際にプレイしてみたのですが、セミオートで“シノギ”を発動することができて、劇的に戦いやすくなった印象があります。
稲葉 単純に簡単にするだけではゲームの魅力を損なってしまうし、かと言って戦闘のキモであるシノギを使いこなせないがためにLQ-84i戦で挫折して「もういいや……」ということになってもいけない。そこの救済措置を何とか作ってほしいと、齋藤に伝えました。それが、開発終了予定日の2週間前だったんですけどね。
齋藤 本当にギリギリのタイミングで言われたので、非常に濃密な作業が楽しめました(笑)。
稲葉 じつはその1週間前に、「もうこれからは細かい調整以外はプログラムをいじることを禁止する」と、スタッフ全員に通告したばかりだったというのにね。
玉利 実際に開発に携わっていた僕たちでも、最初はイージーアシストがゲームとしておもしろいものになるのか不安でした。でも実際にプレイしたら、簡単なのにおもしろさはきちんと味わえるので、本当に驚きましたね。
齋藤 救済措置というとマイナスイメージを持たれてしまいかねないので、それを払しょくするものを目指したんです。短い期間でしたが、それはうまく実現できたかな、と。
稲葉 ちなみに、“フルオートマチックシノギ”も一度試してみたのですが、あまりに簡単になりすぎてボツになりました。やっぱりやりすぎはよくないですね。
一同 (笑)
――発売まであとわずか。物語の内容にも注目が集まるのですが、見どころを教えてください。
玉利 本作の物語は、『MGS4』の直接の続編となっています。いままでは、スネークという偉大すぎる主人公の引き立て役になってしまっていた雷電が、その枷が外れどのような活躍を見せていくかについて、注目してください。
齋藤 『MGS2』、『MGS4』から続く、雷電の成長した姿を描き出せたのではないかと思っています。とくに、『MGS2』で消化されていなかった“少年兵”や“ジャック・ザ・リッパー”としての過去についても、本作で改めて描き出されることになるので、楽しみにしていただきたいですね。
――最後に、ファンへコメントをお願いします。
是角 僕は『メタルギア』って、“箱庭ゲーム”だと思っているんです。ゲーム内で与えられた道具を使って、いろんな遊びかたを楽しむ、という。今回も、斬撃アクションがメインとなりながらも、武器やスキル、地形を利用することで、それぞれ独自の楽しみかたが可能になっています。そこに『メタルギア』らしさを感じてほしいと思います。また、先日発売に先駆けて、メディア向けに体験会を実施しました。不安もあったのですが、楽しんでいただけたようでひと安心しています。よい作品を創れたと思いますので、発売を楽しみにしてください。