主要クリエイターにインタビュー~中編~

 18世紀のアメリカ独立戦争の背後でくり広げられるアサシン教団とテンプル騎士団の抗争を描く『アサシン クリードIII』。ここでは、2012年9月下旬にアメリカのボストンで開催された“ボストンプレスツアー”の様子をお届け。このプレスツアーのリポートは、全部で5回更新予定。気になる人は前回の記事をチェックしてほしい!

第1回:ゲームの舞台、ボストンの街紹介 2012年10月22日(月)更新
第2回:ボストンフリーダムトレイルツアー 2012年10月23日(火)更新
第3回:クリエイターインタビュー(前編) 2012年10月24日(水)更新
第4回:クリエイターインタビュー(中編) 2012年10月25日(木)更新
第5回:クリエイターインタビュー(後編) 2012年10月26日(金)更新予定

 第4回は、前回に引き続き、開発スタッフのインタビューを掲載! シリーズを通してメインシナリオを執筆しているリードライターのコーリー・メイ氏と、ゲームのアクションパートを手掛けるリードゲームデザイナーのスティーブン・マスターズ氏、ミッション制作を担当するミッションデザイナーのフィリップ・バージェロン氏、そしてストーリーの歴史公証を行ったチーム・ヒストリアンのマキシム・デュラン氏に話をうかがった。

キーパーソン#4 リードライター コーリー・メイ氏

主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_09
メインシナリオを執筆
リードライター
コーリー・メイ氏
Corey May

――本作のシナリオができるまでのプロセスを教えてください。
コーリー・メイ氏(以下、コーリー) とても長いプロセスになります。3年前に本作に関するアイディアが浮かんだ際、まずは18世紀アメリカについてできるだけ多くのことを勉強しました。本を読み漁り、そのあいだにゲームのストーリーについてブレインストーミングを行ったのです。それを短いアウトラインにまとめ、チーム全体がいっしょになって作業を始めました。クリエイティブディレクターや、リードゲームデザイナー、ミッションデザイナー、アートディレクターたちと話し合い、彼らの仕事と自分が語りたいストーリーのすり合わせをした感じです。これは、全員のコラボレーション作業です。以降は行ったり来たりの作業の始まりです。私がストーリーを書き、それに基づいてチームがミッションを作成。あとは私がそのミッションに合わせてストーリーを修正する必要があるかどうか検討します。新しいミッションが必要なのか、そして新しいキャラクターを入れる必要があるのか、場面を移動する必要があるのか、それらをチェックするのです。ゲームが完成するまで、ずっとこの作業をやり続けました。

――ストーリー作りにおいて意識した点は?
コーリー 今回は、3つのポイントを意識しました。ひとつ目は、アサシンである主人公のコナーにフォーカスを当てること。彼が特定のイベントにどう影響されたか、ほかのキャラクターとどう関係するのか、何を考え、感じているかなどです。執筆中は、コナーについて考える時間がいちばん長かったですね。ふたつ目は、本作のファンが何を期待しているか、何を見たいのか、どんな疑問に答えてほしいと思っているか、どんなミッションをやりたいのか、ということ。最後は、ゲームのストーリーが史実を正確に捉えていること。歴史書に書かれている内容とマッチして、信頼できるものになっているかどうかという点に注力しました。

主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_01
主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_02

――前作では、誰が敵で誰が味方かわからないという、サスペンスのようなストーリーラインが展開していきました。今回は、敵と味方が明確な物語になるのでしょうか?
コーリー コナーの敵が誰なのかはすぐにわかりますが、彼らが本当の意味での敵なのかはわかりません。ある程度、不明瞭に描いています。コナーが敵に直面するとき、敵は自分の正当性を訴えます。敵にもまた信念があり、その行動には動機があるのです。ゲームを進めるうちに敵対するテンプル騎士団に出会い、彼らを理解していくことになります。

――テンプル騎士団とコナーの関係は?
コーリー 残念ですが、その質問には答えられません! ゲームで確かめてください(笑)。

――アメリカと言えば、建国以来つねにヒーローを掲げてきた国ですが、コナーはプレイヤーにとってどんなヒーローとなりますか?
コーリー 彼は、正しい行いと悪い行いをはっきりと区別し、すべての人に自由と平等があるべきだと信じています。そして、他人から生きかたや行動を指図されるのではなく、自分で決められるようにならねばと考えています。これは、自由意思を尊重してきたアサシン教団の理念に共通しています。世界中には間違っていることがたくさんあって、これに対して誰もアクションを起こさないと思っているので、一歩踏み出して自分が行動を起こす。そんな強い意志を持ったヒーローです。

――シリーズのファンとしては、もうひとりの主人公であるデズモンドも気になっています。物語の核心となるキャラクターなので、多くは語れないとは思いますが、物語が大きく動くことを期待してもいいでしょうか?
コーリー イエス。デズモンドの身には、これまで以上にいろいろなことが起こります。シリーズを通して遊んできたプレイヤーには、きっと何らかの“ペイオフ(成果、精算、完済などの意味)”があるでしょう。本当はもっと話したいのですが、現時点ではお伝えできません。気になる人は、ぜひ遊んでみてください。

キーパーソン#5 リードゲームデザイナー スティーブン・マスターズ氏

主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_10
ゲームデザインを担当
リードゲームデザイナー
スティーブン・マスターズ氏
Steven Masters

――本シリーズを未体験の人に、ゲームの魅力を簡潔に説明するとしたら、どうしますか?
スティーブン・マスターズ氏(以下、スティーブン) 本シリーズは、歴史的事件とゲームのアクションが見事に融合している作品です。歴史が動いた瞬間をつねに捉えており、『III』ではアメリカの誕生を背景にした、アサシン教団とテンプル騎士団の抗争が描かれ、すべてのピースがぴったりとはまっています。

――本作では移動と戦闘の速度が上がったように感じました。この意図を教えてください。
スティーブン 18世紀のアメリカには多くの自然があり、その中を移動することは大きな課題でした。主人公は、木の上を縦横無尽に途切れることなく移動しなくてはなりません。起伏の激しいフィールドでもスムーズに移動できるようにすることは、大きなチャレンジでした。そのためにシステムを再構築し、壁や木を上るときに主人公がどこに手を置くか、どうやってジャンプするかといったアニメーションを刷新しました。ただ新しい動きを作るだけではなく、モーションのテンポを上げてダイナミックで流れるような動きを表現し、コナーに新しい息を吹き込んだのです。

――木々が生い茂るフロンティアと違って、ボストンはこれまでのシリーズ作品に登場した市街地です。同じ市街地でも今回は新しい要素はあるのでしょうか?
スティーブン 移動システムを改善したので、今回から建物の屋根に傾斜をつけることができるようになりました。じつは過去作では屋根がフラットだったのですが、本作ではとがった屋根も作ることができます。また、本作で初めて建物の内部を作ることになりました。空いている窓から建物に飛び込み、中にいる女性を驚かせながら、猛ダッシュで反対側の窓から飛び出すことができます。これは新しいシステムです。

主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_03
主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_04

――なるほど。それでは、戦闘についてお聞きします。今回は敵がマスケット銃(火縄銃)を撃ってくるので、かなり手強いですね。
スティーブン これは、当時のヨーロッパの戦略や武器を研究して、ゲームに落とし込んだものです。戦いの最中に、敵兵の4~8人が整列して、マスケット銃を撃ってくることがあります。このときプレイヤーは、敵を捕まえて盾として防御するか、煙幕で対処する必要があります。18世紀のアメリカを舞台にした際に、銃火器とゲームバランスの関係をきちんと考慮する必要がありました。本シリーズは、あくまでも近接戦闘が主体であり、シューティングゲームにはしたくなかったので。実際の歴史を調べてみると、当時のマスケット銃は正確性に欠けていて、10メートルの距離でも的を外すことがあり、さらに訓練された兵士でもリロードに数十秒かかるとのことでした。これによって、本作で銃撃が猛威を奮うことはなくなりました。

――ゲームとして見たときに、近接攻撃と銃のバランスが釣り合っていたのですね?
スティーブン その通りです。銃火器がゲームプレイの可能性を広げてくれました。

――今回はリアルタイムで天候が変化しますが、視界の悪くなる意外にゲームプレイにどんな影響がありますか?
スティーブン 霧や雪のために、敵兵の視界が悪くなります。また、冬のあいだは地面が雪に覆われているので、敵の動きが鈍くなったりします。このとき木の上を移動すれば敵よりもずっと効率よく動けるので、有効活用してください。ちなみに、開発当初は雨が降るとマスケット銃の火薬が濡れてしまい、使えなくなるというシステムを考えていたのですが、直感的に理解しづらくて、さらにゲームとしてもおもしろくないので、カットしました。

――天候は完全にランダムなのでしょうか?
スティーブン いつもランダムというわけではありません。メインミッションのあいだは私たちが設定した天候になっています。こうしないとゲームの難しさが変わってしまいますから。フリーで探索しているときは完全にランダムですけどね。それと天気の移り変わりですが、青空からいきなり嵐になるということはなく、あいだに曇り空を挟んでから嵐になります。

――新要素がたくさん詰まった本作ですが、どんなところに注目してほしいですか?
スティーブン 多様性を楽しんでほしいですね。いろいろなことを試して、探索するもの、遊べるものを見つけてください。私が好きなアクションは、“ランニングアサシネーション”です。敵に向かって走りながらアタックボタンを押すと、走りながら敵を倒すことができます。ダイナミックかつスピーディーに暗殺できるので、テンポよく遊べるはずですよ。

キーパーソン#6 ミッションデザイナー フィリップ・バージェロン氏

主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_11
ゲーム中のミッションを制作
ミッションデザイナー
フィリップ・バージェロン氏
Philippe Bergeron

――フィリップさんが担当するミッションデザイナーとは、どのような仕事ですか?
フィリップ・バージェロン氏(以下、フィリップ) リードライターのコーリー・メイと、リードゲームデザイナーのスティーブ・マスターズのあいだをつなぐ、橋のような役割です。彼らがきちんと話をしていることを確認し、システムやストーリーラインをもとに、おもしろいミッションを作れるようにしています。

――本作のミッションが完成するまでのプロセスについて、教えてください。
フィリップ ひとつのミッションは、コーリーが書いたストーリーの、ある部分を切り出したものになります。それは歴史的瞬間だったり、ふたつの出来事のあいだに起きたことだったりします。これをプレイヤーに体験してほしいアクション要素と結びつけるのです。

――ミッションの制作で意識した点は?
フィリップ ミッションの前後を確認して、同じタイプのミッションが続かないようにしました。全体を通して多様性を保てているか、そしてプレイヤーにつねに新しい体験を提供しているかどうかを、つねに検討しています。

――有名な歴史的事件を体験するというおもしろさと、ゲームとしての爽快感のバランスを取るのは、たいへんそうですね。
フィリップ 確かに、新作を出すたびに難しくなっている印象ですね。というのも、歴史がより新しいものになるほど、歴史的資料がしっかり残っているからです。これまでのシリーズ作品では、ある歴史的人物がどのような末路を遂げたかはっきりわからないという、いわば“グレーゾーン”を利用してきたのですが、最近はそれを見つけづらくなりました(笑)。

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主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_06

――『アサシン クリード』シリーズは、プレイヤーの数が非常に多いことでも有名です。誰もが楽しめるような作りにするために、難度のバランスをどうやって調整しているのでしょうか?
フィリップ これはつねに難題です。これまでのシリーズ作品は、ライトなプレイヤーは楽しんでくれますが、ハードコアプレイヤーからは「簡単過ぎる」と言われていました。そこで、本作ではある制約をつけることにしたのです、カジュアルプレイヤーはメインの目標を達成すれば何の支障もなくゲームを進められますが、ハードコアプレイヤー向けに、ミッションごとにメインの目標とは別の“サブ目標”を設定しました。ゲームの達成率をフルにしたいハードコアプレイヤーは、さまざまな制約のなかでミッションをクリアーしなければならないのです。たとえば、誰も殺害せずに、誰も気付かれずにメインの目標を達成するなどの制約です。すべてのサブ目標を達成するのは、かなり歯ごたえがありますよ。

――新要素の海戦を採用した意図を教えてください。
フィリップ さまざまな検証の結果、本作のストーリーに海戦が適していることがわかりました。実際のアメリカ独立戦争でも海戦が重要な部分を占めていて、多くの歴史的な瞬間がありました。最初は海戦をメインストーリーに組み込む予定はなかったのですが、アメリカの歴史を紐解くうちに、史実に基づいた海戦をゲームで再現できることが判明したので、チャレンジしました。

――海戦のどんなところを楽しんでほしいですか?
フィリップ プレイヤーはふだん、ひとりのアサシンとして行動しています。しかし、海戦になると船のクルーどうしのぶつかり合いになるので、よりスケールが大きいゲームプレイが楽しめます。大砲と爆発満載のインパクト溢れる戦いをぜひ楽しんでください。

――やり込み要素となるサブミッションには、どのようなものが用意されていますか?
フィリップ 本作のメインミッションは、『アサシン クリードII』と同じくらいのボリュームですが、サブミッションが大幅に増えています。たとえば、収集アイテムの種類が増え、羽根、宝箱、年鑑、お宝といったように細かく分かれています。また、プレイヤーをサブミッションに誘導する要素として、“クラブ”があります。プレイヤーがどんな行動をしているかを調べて、好みに合ったサブミッションを提供するのです。戦闘を得意とするプレイヤーには、拳闘クラブから「トーナメントに出てみないか?」という誘いが来たりしますよ。

キーパーソン#7 チーム・ヒストリアン マキシム・デュラン氏

主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_12
アメリカの歴史を検証
チーム・ヒストリアン
マキシム・デュラン氏
Maxime Durand

――“チーム・ヒストリアン”とは何ですか?
マキシム・デュラン氏(以下、マキシム) “ヒストリアン”は歴史家を意味する言葉で、本シリーズのストーリーに説得力を持たせるために、歴史を研究するチームです。本作の開発チームが、18世紀のアメリカに詳しいアメリカ人を捜していて、条件に合う私が大学卒業後にチームに合流することになりました。

――チーム・ヒストリアンの仕事は、デスクワークとフィールドワーク、どちらが多いですか?
マキシム どちらかというとデスクワークのほうが多い印象ですね。大学で古文書を調べたりすることもありますが、インターネットを使って調査することも多かったです。また、ボストンとニューヨークの市立図書館歴史協会から協力してもらい、18世紀アメリカに関する書籍や映画などを取り寄せて、開発チームで共有しました。ときには開発チームといっしょにボストンを見て回り、ネイティブ・アメリカンの村などのさまざまな場所を訪問したこともあります。

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主要クリエイターにインタビュー~中編~『アサシン クリードIII』プレスツアーリポート【第4回】_08

――アメリカ独立戦争をよく知らない人のために、本作の世界情勢について教えてください。
マキシム アメリカ独立戦争は、イギリス人とイギリスの植民地人(アメリカ人)との闘争で、実際には内戦、市民戦争でもあります。よく、イギリス側が一方的に植民地を攻撃したという捉えかたをされていますが、そうではありません。これはイギリス政府と遠く離れた場所に住む植民地人の対立、そして彼ら自身のポリシーを巡る闘争なのです。また、経済上の闘争でもあります。ボストンの経済が不況に陥る一方で、ニューヨークの景気はよかったため、植民地では経済のバランスが崩れていました。そしてフレンチ・インディアン戦争で植民地人はイギリスとともにフランスと戦いましたが、植民地人は新しく獲得した土地に入ることを許されなかった。このような多岐にわたる理由で闘争は爆発し、革命となって独立戦争へと発展していったのです。

――ゲームとしてのおもしろさを優先するために、歴史に嘘をつくことはありますか?
マキシム 戦いの歴史は、勝利した側が記録していることが多く、そこには多くのグレーゾーンがあります。我々は、史実を曲げるというよりは歴史のグレーゾーンを描いています。暗殺者のコナーは、歴史の陰に暗躍する人物であり、彼は史実のグレーゾーンに立ち会うことになります。たとえば、コナーはボストン茶会事件に遭遇しますが、史実では警備員が現れませんでした。そこでゲームではコナーが警備員を排除してしまったことにしたのです。こうして、史実のグレーゾーンに対して私たちなりの解釈を与えていきました。

――本作のどこを楽しんでほしいですか?
マキシム ゲームプレイを通じて、歴史上の偉人や事件について知ってもらえればうれしいです。本作のキーパーソンに、あのジョージ・ワシントンが出てきます。彼は偉大な人物ですが、ひとりの人間として深く描写しています。そのあたりもお楽しみください。


アサシン クリードIII
メーカー ユービーアイソフト
対応機種 PS3プレイステーション3 / X360Xbox 360 / Wii UWii U
発売日 2012年11月15日発売予定(※Wii U版は2012年12月8日発売予定)
価格 各7700円[税込]
ジャンル アクション・アドベンチャー / 暗殺
備考 開発:モントリオールスタジオ