毎年進化し続ける、F1レースゲームの究極進化形
F1ファンにはすっかり秋の風物詩となった感のある、イギリスのデベロッパー、コードマスターズのF1レースゲームシリーズ。その最新作『F1 2012』が、今年もF1日本グランプリ(10月5日から開催)直前の10月4日にリリースされた。本シリーズは、世界選手権を管理するFOMの公式ライセンスタイトル。コードマスターズはF1のゲーム化権を獲得して、最初にリリースした『F1 2009』から毎年コンスタントに最新の公式データを反映したタイトルをリリースし続けている。
最新作『F1 2012』は2012年の最新レギュレーションに対応しているのはもちろん、マシンの挙動やコースの作り込み、ゲームモードの充実など、あらゆる面で大幅なパワーアップを果たしている。基本的なゲームモードの紹介などは紹介記事に譲るとして、本稿では筆者が実際にリリース直前の最新ROMをプレイさせていただいて、気に入った点を中心にリポートしていこう。
ちなみに2012年のF1シーンは、開幕前は2011年の覇者であるセバスチャン・ベッテルとレッドブル・レーシングが圧倒的な力を見せつけるかと思われていたが、蓋を開けてみると近年稀に見る大混戦の様相を呈している。ミハエル・シューマッハ(1994~95年、2000~04年)、フェルナンド・アロンソ(2005~06年)、キミ・ライコネン(2007年)、ルイス・ハミルトン(2008年)、ジェンソン・バトン(2009年)、セバスチャン・ベッテル(2010~11年)の6人のワールドチャンピオン経験者が激しくしのぎを削っている状況。現状、アロンソが一歩リードしているが、まだまだ油断はできないポイント差だ。ベルギーGPではフロントローも獲得した小林可夢偉が健闘(最近ちょっと元気がないが……)している点も見逃せない。
また、アメリカグランプリが2007年以来、ひさびさにレースカレンダーに復活したのも重要なファクター。ヘルマン・ティルケの手による新造サーキット、サーキット・オブ・ジ・アメリカズは、もちろん本作にも収録されている。シルバーストンや鈴鹿を彷彿とさせる高速S字やイスタンブール・パークの第8コーナーなど、有名なコースのセクションをオマージュした構成となっていて、いまからどんなバトルが開催されるのか楽しみだ。アメリカGPは11月18日開催なので、『F1 2012』なら1ヵ月以上早く実際のドライバーも走っていない最新コースを体験することができる。あらかじめコースを攻略しておき、実際のレースがどのような展開を見せるかシミュレートしてみるのもいいだろう。
細部に至るまでブラッシュアップされたゲームシステム
マシンの挙動の方向性としては、従来同様シミュレーター寄りのアーケードレースゲームといった感覚。操作のレスポンスも快適で、強力なダウンフォースにより、レール上を走るようにコーナリングするF1マシンの気持ちいい走りが思う存分堪能できる。また、タイヤや路面のシミュレーションは明確に進化していると感じることができる。プライム(ハード)とオプション(ソフト)のタイヤの差がしっかり付いていて、グリップの違いが明確に感じられる。タイヤの摩耗状況によるグリップの変化も非常に繊細だ。レース終盤は、ギリギリのタイヤ状況でいかにライバルを抑えるかといった、本物のドライバーが体験しているであろう極限状態の戦いを堪能することができる。
前作『F1 2011』で導入された天候の変化についても、さらなる進化を遂げている。コースの一部がウェットで、一部がドライといった特殊な状況もしっかりと再現され、その違いによるシミュレーションもさらに緻密になっている。今回の先行プレイでは体験できなかったが、コースの北と南で天候の違うスパ・フランコルシャンの名物"スパ・ウェザー"も再現できるかもしれない。このようなドラマティックな天候変化と、前述のタイヤシミュレートの進化により、タイヤ選択がこれまで以上に重要な意味を持つようになった。インターミディエイトタイヤを冷やすためにあえて乾いているレコードラインを外すなど、実際のレースで行われている戦略がそのままゲーム内でも通用するのだから驚きだ。
AIも進化しているのか、他車が前作よりもスマートな走行を行うような印象を受けた。難易度設定にもよると思うが、試しに最高難易度のプロフェッショナルでプレイしたところ、しっかりとコースを攻略してセッティングを詰めなければ、とてもじゃないが勝利することはできなさそうな雰囲気だ。実際のF1ドライバーのすごさを体感することができるので、一度は試してみるといいだろう。もちろんアシスト機能をONにしたり、難易度を適切に調整すれば、誰でもプロのドライバーのような極限のバトルを楽しむことができるので安心してほしい。
充実のチュートリアル"ヤングドライバー・テスト"
ゲームを起動すると、まず最初にチュートリアルモードの"ヤングドライバー・テスト"をプレイすることになる。実際のドライバーがF1参戦に向けてのテストに挑むようなシチュエーションで、指定された課題に挑戦したりムービーを見ることで、F1ドライバーとして必要な基礎知識やスキルを習得していく。現在のF1独特のレギュレーションであるKERS(運動エネルギー回生システム)やDRS(ドラッグリダクションシステム)の使いかたもマスターできるので、しばらくF1観戦から離れていたというような人でも、現代のF1をしっかりと学ぶことができるだろう。
このヤングドライバー・テストがかなりていねい。反面、コーナリングの練習などはちゃんと指定されたクリッピングポイントを通過していかないとやりなおしになるなど、ちょっと難しいと感じる人もいるかもしれない。だが、コーナーをパスする方法やウェットで走ったときの感覚、KERSとDRSを使ったときの違いなどを勉強できるので、うまくいくまでくり返しプレイするほうがいいだろう。ちなみに、テストの結果によって金、銀、銅のメダルが獲得できるが、この結果がキャリアモード開始時にオファーがくるチームの数に影響している。もちろん、いきなりフェラーリなどのトップチームで戦うことはできないが、優秀な成績を収めればフォースインディアやウィリアムスといった中堅チームからステップアップを目指すことも可能なのだ。
ヤングドライバー・テストが終わるとメニュー画面へ。本作ではクイックレースやキャリア、タイムトライアルなどの各モードは独立して用意されている。これまではキャリアモードが中心で、すこしクセの強いメニュー構成だったが、本作はかなりスッキリとしたスタンダードな構成になっている。キャリアモードでも、ドライバーの拠点であるモーターホームを移動して各メニューを選択する方式だったが、今回はシンプルな1画面のメニューで進めていく。好みの分かれるところかもしれないが、個人的にはわかりやすくなって、レースに集中できるので気に入っている。
チャンピオンモードでワールドチャンピオンに挑め!
今シーズンのF1は、冒頭で説明しているように6人のワールドチャンピオン経験者が参戦している。この極めて珍しいスペシャルな状況を存分に堪能するべく、チャンピオンたちと限定的なシチュエーションで戦える"チャンピオンモード"が用意されている。
たとえば、第1戦の"アイスマンの帰還"では、残り3周、前方を行く消耗したプライムタイヤのライコネンを、新しいオプションタイヤを履いた状態でオーバーテイクしてフィニッシュするとチャレンジクリアー。これをクリアーするとつぎはハミルトン、そしてバトンと、ひとりずつ挑戦することになる。最終的には6人とレースを戦い、勝利するのが目標となっている。イージー、ミディアム、ハード3つの難易度が用意されているが、イージーでもなかなかの歯ごたえ。最低限、コースは覚えておいて、かつ大きなミスをせずに走り切らなければチャレンジ達成は至難だろう。
単純なレースやタイムアタックとは違い、ワールドチャンピオンに勝利するという明確な目的が設定されているので、レースに対するモチベーションを非常に高く保つことができるのが、わりと飽きっぽい筆者にはうれしいかった。何度も何度もくり返し挑戦し、見事オーバーテイクして勝利したときのうれしさは格別だ。また、チャンピオンモードを遊ぶことで、バトルの駆け引きはもちろん、シチュエーション別の対策を学ぶこともできる。チャンピオンたちと戦っているうちにドライビングテクニックを向上させることもできるという、一石二鳥のモードといえるだろう。
ラップチュートリアルでコース攻略
本シリーズは,元F1ドライバーで、スーパーアグリ時代には佐藤琢磨のパートナーも務めたアンソニー・デビッドソンがテクニカル・コンサルタントを務めている。そんな彼が、F1マシンでコースを攻める際のポイントを解説してくれるのが"ラップチュートリアル"だ。ライン取りはもちろん、ブレーキの目安やKERS、DRSの使用ポイント、縁石の使い方、マシンセットアップのポイントなどが動画とナレーションで確認できるのだ。
レースゲーム初心者はとりあえずこの動画を見ることで、コース攻略の基本を学ぶことができる。レースゲームを遊び慣れている人でも、プロがどういうところを見ながらレースを戦っているかを知ることができるので、ぜひチェックしてみてほしい。早速今週末開催される日本グランプリの、鈴鹿サーキットのチュートリアルをチェックし、攻め方を覚えたうえで実際のレースを観戦すると、普段とは違った視点で楽しめること請け合いだ。
さまざまなサーキットの攻略法やマシンのセットアップを走り込むことで見つけていく。これは本作だけでなく、レースゲーム自体の楽しみのひとつであることは間違いない。しかし、セッティング箇所の増加やマシン、コースのシミュレーション精度の向上により、その難易度が飛躍的に上昇してきたのは、"リアル"を追求してきたレースゲームの問題点でもあった。この問題に対し、時間を巻き戻せるフラッシュバックやオートブレーキ、走行ライン表示などのアシスト機能を充実して、初心者を救済しようとしてきたものの、コース自体の攻略は完全にプレイヤーに委ねられてきた。ラップチュートリアルは、このコース攻略をフォローするための答えのひとつ……といったら言い過ぎだろうか。F1は好きだしレースゲームも好きだが、セッティングの詰めかたやコースの攻めかたがイマイチ掴みきれていない’’ヘタの横好き’’を卒業できない筆者にとって、まさに天啓のように感じられた。個人的にはそれくらい感動したポイントなので、ぜひコースを走る前にチェックしてみてほしい。
F1ファンもレースゲームファンも大満足の完成度
本作は、とことんF1の世界を再現しつつ、レースゲームとしてのおもしろさも追求した、バランス感覚に優れたタイトルだ。世界最高峰のモータースポーツを気軽に楽しむことができるチュートリアルやアシスト機能が充実しており、幅広いプレイヤーにおすすめできるタイトルとして着実に進化を遂げている。
毎年、コードマスターズの『F1』シリーズがリリースされるたびに「もうマシンとドライバー、レギュレーションのアップデートだけやってくれれば十分なんじゃないか」と思っているが、いつもいつも期待を上回る進化を見せてくれる。つねに最高峰のレースゲームを提供してくれるコードマスターズには、今後もハイクオリティーなレースゲームを追求してもらいたい。
■著者紹介 黒鉄タカスエ
ファミ通Xbox 360、月刊アルカディアほかで活動中のライター兼編集・デザイン屋。
今年のF1はせっかく盛り上がっているというのに地上波放送がないとは悲しすぎます。
『F1 2012』
メーカー | コードマスターズ |
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対応機種 | X360Xbox 360 / PS3プレイステーション3 |
発売日 | 2012年10月4日 |
価格 | 7770円[税込] |
ジャンル | レーシング |