元メジャーリーガーが立ち上げた異色のスタジオ産
スパイク・チュンソフトより2012年9月20日に発売となる『キングダムズ オブ アマラー:レコニング』。ジャンルはオープンワールドのRPGで、大物有名人が多く関わっており、超大作と呼ぶにふさわしい作品だ。
本作は、その開発の経緯から大きく注目されていたタイトルでもある。本作を手がけた38 Studiosは、じつは元メジャーリーグの大投手、カート・シリング氏が立ち上げたゲーム会社。もともとゲームが趣味だった同氏は、現役引退後に趣味が高じて会社を作るにまで至ってしまったのだ。開発を担当した38 Studios傘下のBig Huge Gamesは、かつてPCゲーム『Rise of Nations』シリーズなどを開発していた熟練のスタジオ。コアなPCゲーマーは聞き覚えがあるかもしれない。
そんな感じで産声を上げた本作だが、さらに大物たちが開発に携わることになる。スポーンを生み出したアメコミ作家のトッド・マクファーレン氏がアートワークやバトルアクションを監修、ファンタジー作家のR・A・サルバトーレ氏がシナリオを担当、そしてエグゼクティブ・ディレクターは『The Elder Scrolls IV: オブリビオン』を手がけたケン・ローストン氏と、そうそうたる開発スタッフが集結。大物ばかりが集まってコケてしまう作品も過去にはあったが、果たして本作はどのように仕上がっているのか。さっそくプレイしてみた。
主人公が目覚めた場所は……死体捨て場!?
まず行うのはキャラクターメイキング。種族はアルメイン、ヴラニ、ロサルファー、ドカルファーという4つから選択でき、性別も変更可能。それぞれ外見や初期に取得しているスキルに違いがある。続いて、守護神を6つから選択する。守護神ごとに“マナ+10パーセント”などのボーナスが設定されており、なしを選ぶとXP(経験値)ボーナスが1パーセント加算される。
キャラクターの外観は、まず5つのプリセットから選択し、さらに肌の色やひげの濃さといった細部を調整していく。カスタマイズ範囲はそこまで広くないかわりに、何を選択してもそれなりに整った顔を作成できるスタイルだ。
そうして作成した主人公が目覚めた場所は、なんと死体廃棄場の洞くつ。わけがわからぬまま死体の山から這い出て、周囲を探索してみると、ツアサという種族がこの場所を襲撃してきた。拾ったボロボロの剣で応戦し、救出したノームから話を聞き出すと、どうやら主人公は不思議なことに生き返ったらしい。
ツアサの襲撃を退けながら、ヒューズ教授という人物からさらに詳しく話を聞くと、どうやらここは“魂の泉”で死体を生き返らせる研究施設で、主人公はその初めての成功例らしい。記憶がないのも、転生のときの副作用ということだ。
命からがら塔から脱出し、教授の友人であるアガースからさらにくわしく話を聞くと、なんと主人公は運命が存在しない希有な存在だとか。そればかりか、他人の運命をも変えられる力を持っている、とのこと。
いったいこの力はなんなのか、そして自分は何者なのか。何もわからぬまま、ひとつずつ答えを見つけ出すために、長き冒険が始まるのである。
膨大な数のクエストが待ち受ける!
本作のゲームシステムは、先に述べたようにオープンワールドタイプのRPGだ。物語はクエスト形式で進行し、各地にいる住人との会話のなかで、さまざまな依頼をクエストという形で受ける。メインストーリーに絡むものから、村で発生した事件を解決するもの、ある派閥に属して仕事をこなしていくものなど、その内容は多岐にわたる。
クエストの量は非常に膨大で、あるクエストを受けて目的地へと向かう最中、出会った人物と会話をしたら新しいクエストが発生した……ということが何度もあり、気がついたら10個以上のクエストを受けていた、なんてことがよくある。
クエストを受注できる人物は!マークで、目的地や人物は○マークでミニマップ上に表示される親切設計。このおかげで迷うことはほぼなく、膨大な数のクエストを楽しめるのだ。メニュー画面から、受注済みのクエストを一覧表示することも可能。
素材収集に隠された宝など探索要素タップリのフィールド
本作における冒険の楽しさは、新たな場所やクエストを求めて歩き回るだけではない。フィールドにあるさまざまな植物を採取して錬金術の材料にしたり、隠された宝を見つけ出す探索要素も楽しめるのだ。
これらの探索には、主人公のスキルが大きく関わっている。スキルとは常時効果が発動する専門分野の技術で、主人公はレベルアップ時に得られるポイントを割り振って強化する仕組みだ。スキルは鍛冶や開錠など、全部で9種類存在する。
たとえばフィールドで錬金術の材料を調べたとき、調達できるかどうかは確率で判定される。錬金術スキルを育てれば、調達できる確率が高くなるという仕組みだ。また、より高度なポーションを調合することも可能になる。
探知というスキルも、探索に大きく役立つ。スキルを成長させると敵がミニマップに映し出されるほか、隠された財宝や隠し扉も表示される。また洞くつなどのダンジョンに設置された罠も解除可能になるなど、冒険には必須ともいえる能力が多数そろっているのだ。
好きなタイプに育てられる成長システム
スキルの話ついでに、主人公の成長に関しても紹介しよう。本作は戦闘や新たな場所の発見、クエストの達成などさまざまな行動で経験値を得ることができ、一定まで溜まると主人公がレベルアップする仕組みだ。
レベルアップ時に強化できるのは、まずさきほど述べたスキル。生産系や探索系など、その能力はバラエティに富んでおり、冒険の手助けになる。ただし、上級、達人クラスに成長させるには、主人公のレベルが一定以上必要となる。
続いて成長できるのが、アビリティだ。これはおもに攻撃面での能力で、ソーサリー(魔法)、マイト(戦士)、フィネス(盗賊)の3カテゴリが存在する。アビリティはツリー形式で配置されており、下位から順次取得していくスタイルだ。また上位のアビリティは、そのカテゴリに一定以上ポイントを割り振っていないと取得できない。アビリティの内容は、攻撃力や守備力を強化させるものに加え、戦闘で使用できる特殊技"ムーブ"を覚えられるものも存在する。
アビリティにポイントを割り振ったら、最後にディスティニーというカードをひとつ選択する。これは近接攻撃ダメージが増加したり、消費マナが減少するなど、主人公の基本能力を底上げするボーナス能力。最初は4種類からしか選べないが、アビリティの各カテゴリに一定以上ポイントを割り振ると、より強力な効果を持つカードが解禁されるという仕組みだ。
このアビリティとスキルの組み合わせで、さまざまなタイプのキャラクターに成長させられるため、育成の自由度はとても高い。肉弾戦のエキスパートながら手先も器用で開錠も得意、なんて自分好みのキャラクターを作り上げていく楽しさを存分に味わえるのだ。
おもしろいのは、複数のカテゴリのアビリティに精通することで、取得できるディスティニーがあることだ。本作のようなスキルタイプのRPGは、さまざまな分野をかじったキャラクターは長所がなく、メリットよりデメリットのほうが強いことが多かった。だが本作では、このような万能タイプのキャラクターにも明確なメリットが存在しており、(最終的に強いかどうかは別として)育てる楽しさがあるのは特筆したいポイントだ。
アクション性が高いダイナミックな戦闘シーン
RPGでは外せないバトルに関しても解説しよう。本作の戦闘はアクション要素が強く、ダイナミックなバトルを楽しめる。
主人公が行えるアクションは、基本的にはメイン武器攻撃とサブ武器による攻撃、回避行動。攻撃ボタンを連打することで連続攻撃をくり出せるという、シンプルなシステムだ。だがレベルアップによって新たなアビリティを獲得すると、特殊攻撃であるムーブをつぎつぎと覚えていく。
たとえばロングソード(片手剣)の場合、ボタン連打では連続攻撃が発動するが、少しタイミングをずらしてポン、ポン……と押すと、通常攻撃から打ち上げ攻撃をくり出せる。小さな敵はこの技を当てると空中に浮くため、この直後に連続攻撃をたたき込むことも可能だ。
また盾を構えて敵の攻撃をガードできるが、アビリティを成長させると、ガード状態から攻撃をくり出すムーブも覚えられる。このほかに、攻撃ボタン長押しでのダッシュ攻撃、敵を引き寄せる技のハープーンなど、技の種類は膨大だ。
武器の種類もとても多い。さきのロングソードに加えてハンマー、グレートソード(両手剣)、ダガー、ロングボウ、スタッフ、チャクラムなど膨大なタイプが存在し、それぞれ特長が異なるばかりか、専用のムーブも多数存在している。もちろん、武器だけでなく魔法による攻撃も可能だ。
またステルス要素も存在しており、敵に気づかれることなく背後に忍びより、大ダメージを与えるという戦闘スタイルも可能。隠密プレイが好きな人には朗報だ。
また必殺技といえるものも存在する。バトルを通じてフェイトゲージが溜まっていき、満タン状態になると"レコニングモード"を発動できる。スピードや攻撃力が強化されるほか、敵の運命を変えるフィニッシュムーブ“フェイトシフト”が使用できる。体力が減った敵に近づいてボタンを押すとフェイトシフトが発動でき、専用のトドメ技が表示されたあと、画面に表示されるボタンを連打すると、入手できる経験値が増加するといううれしいボーナスが発動するのだ。
細部まで丁寧に作られた遊びやすさが大きな魅力!
本作をプレイして、筆者がいちばん魅力的に感じたのはその世界観だ。さまざまな種族が入り乱れる世界は独自の歴史が構築されており、未知なる世界を冒険して異文化に触れるという、RPGの醍醐味をたっぷりと味わうことができる。映像のクオリティも高く、美しい世界を存分に堪能できるのも嬉しい。反面、こだわって作られた世界観には独自の単語が多く登場するため、序盤からすべてを完全に理解するのが難しく感じた。この練り込まれた世界観は、好みに応じて長所とも短所とも取れるだろう。
また多彩なアクションが楽しめるバトルも魅力的だ。オープンワールドのシングルRPGというと『The Elder Scrolls』シリーズが有名だが、本作は3人称視点ということもあってか、よりアクションゲームに近いダイナミックなバトルを楽しめた。ただ、筆者は難度ノーマルでプレイしたのだが、序盤のバトルはとても簡単に感じたため、いきなりハードで始めるのもアリかもしれない。
そのほかのシステムは、海外産RPGではおなじみといえるものを多く採用している。目新しさはないがそのぶん細部まで練り込まれた作りになっており、とても快適にプレイできる。これらの多彩な要素を違和感なく詰め込んでいることこそ、本作最大の特徴かもしれない。
非常にプレイしやすく、前評判の高さにバッチリ応えてくれた完成度の本作。名作であることに違いはないが、個人的には主人公の明確な目標が序盤からガツンと提示されていたほうが、より入り込みやすく傑作に仕上がったことと思う。
続編にも大きく期待できるタイトルだが、じつは開発会社の38 Studiosは本作をリリース後、経営難によって閉鎖。傘下のBig Huge GamesのスタッフたちはEpic Gamesの新スタジオに吸収されたようだ。
同スタッフによる続編はほぼ絶望的なのが残念なポイントだが、海外RPGファンはぜひとも遊んでほしい。非常に遊びやすく作られているため、海外RPGは初めて、という人にもオススメできる作品だ。
著者紹介 喫茶板東
ファミ通Xbox 360で海外ゲームマニアックス、実績解除愛好会などを担当していたフリーライター。最近は海外RPGのローカライズが当然のように行われており、海外RPGファンとしてはうれしい限り。今後もこの流れが続きますように……!!
キングダムズ オブ アマラー:レコニング
メーカー | スパイク・チュンソフト |
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対応機種 | PS3プレイステーション3 / X360Xbox 360 |
発売日 | 2012年09月20日 |
価格 | 8190円[税込] |
ジャンル | RPG(ロールプレイング) |
備考 | 音声:英語ボイス / 日本語文字:字幕対応 ※海外版とのビジュアル表現に関する修正・差異はございません。 開発元:38 Studios, LLC. / Big Huge Games |