耳をすませば……勝てるかも
2012年8月20日~22日まで、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2012”。会期最終日に行われたセッション“目標は「目を閉じていても見える」-格闘ゲームにおける「記号性と演出の両立」の為のインタラクティブサウンド演出-”のリポートをお届けしよう。
突然だが、記者は対戦格闘ゲームユーザーである。小学生のころにアーケードで『ストリートファイターII』が登場して以来現在まで、2D、3D問わず可能な限り格ゲーは遊んできた。そんな記者にとって、バンダイナムコゲームスの『ソウルキャリバーV』でサウンドおよび効果音演出に携わった中鶴潤一氏、矢野義人氏による本セッションは、大きな驚きこそないものの、「言われてみればそうかも……」と静かに納得できるものであった。
両氏が本セッションで訴えたメッセージをひと言でまとめるならば、“格ゲーにおける音の情報量はじつはすごく多い”と言ったところ。逆を言えば、“音がないとすごく遊びづらいよね”というものだ。わかりやすい例を挙げると、攻撃時の音が、そのまま対戦格闘ゲームの駆け引きに通じているという点だ。『ソウルキャリバーV』の攻撃アクションは大きく分けて、回避、横斬り、縦斬りの3つで、これらは回避は横斬り弱く、横斬りは縦斬りに弱く、縦切りは回避に弱い、という3すくみの状態になっている。そして、スタイルは違えど、ほとんどの格闘ゲームでこれに近い要素が盛り込まれており、駆け引きの楽しさを演出しているのだ。では、実際に3すくみの駆け引きをするとき、プレイヤーは何を判断材料にして動いているのか? まあ、最初にあるのは“読み合い”だが、これはいまは置いておこう。相手に出かたに対する反応という意味では、ほとんどの人がキャラクターの動きを見るはず。しかし、それだけではないだろう。改めて考えてみると、攻撃によって異なる効果音も、相手の出かたを察知する判断材料にしていないだろうか? また、駆け引きに負けてダメージを食らってしまったときも、効果音はいろいろな情報をプレイヤーに与えてくれる。ダメージを食らったときの音が派手なら、大きなダメージを受けたことが感覚的にわかるし、逆も然りだ。つまり、格闘ゲームにおける各種効果音は、攻撃の成否や状況の説明を、感覚で理解できる記号ということになる。また、効果音にこだわることで、戦闘の臨場感を劇的に増す。改めて力説するようなことでもない気がするが、今回の講演でいざ効果音を(意図的に)手抜きした映像を観せられたときは、「ふだん何気なく聞き流している音が、これほどまでにプレイ感覚に影響を与えていたのか!」と、落差に驚かされた次第だ。
講演の中では、そういった効果音の重要性を説くデモが数多く披露された。なかでも記者が感心させられたのが、“演出をより効果的に聴かせるための交通整理”という手法だ。これは、投げ技が決まったシーンや、演出入りの大技を決めたタイミングで、BGMの音量を若干下げて、効果音を際立たせるという仕掛け。BGMだけ抜き出して聴くと音量の強弱に違和感があるが、ここに効果音が乗ると、不思議と違和感がゼロになる。まさに効果音のマジックだ。
『ソウルキャリバーV』では、キャラの組み合わせによって変わるセリフ(勝利時の演出だけでなく、攻撃時の掛け声も変わる)や、武器の音を好みのテイスト(リアル調orデフォルメ調)に調整できる“カスタムSE”など、独自の効果音へのこだわりも多数盛り込まれている。これは、効果音を文字通りの効果を表現するだけの音として考えるのではなく、“ゲームを知らずとも、対戦を通じて自然にキャラクターや状況を理解する手助け”にしたいという両氏のこだわりが発揮された結果によるものだ。そして、それこそが本セッションにもある“目を閉じていても見える”なのである。
記者も今後は格闘ゲームを遊ぶ際、もう少し効果音に注目してみようと思う。と言うのも、最近全然勝てなくて……。中鶴氏も「上級者は、(攻撃の)立ち上がりの音を聞いただけで、横か縦か突きかがわかる」と語っていたことだし。