よくも悪くもアツくさせられました

 イギリスの国民的ロックバンドOASISでボーカルを務めていたリアム・ギャラガーは、どこかのインタビューでこんなことを言っていた。「俺はテクで歌ってんじゃねえ、アティチュードで歌ってんだ」。確かに彼の歌声は、うまいヘタとかの概念を超えた(と言っても、十分にうまいけど)、聴く人の心へストレートに響き、熱狂させるものだったと思う。2ndアルバムの『(What's the Story)Morning Glory?』なんて何回聴いたかわからないし、代表曲『リヴ・フォーエヴァー』の「メイベ~」という歌い出しは、ソレだけで凡百の楽曲を吹っ飛ばすほどのアティチュードに溢れていた。……話が厨二臭くなってきたので軌道修正するが、なぜいきなりこんなことを言ったのかというと、先日Xbox LIVE アーケードで配信となった『Tony Hawk's Pro Skater HD』を遊んだとき、リアムの言葉を思い出したからだ。

アティチュードで遊ぶんだよ! 『Tony Hawk's Pro Skater HD』プレイインプレッション_02

 『Tony Hawk's Pro Skater HD』は、エクストリームスポーツゲーム『トニー・ホークプロスケーター』シリーズの最新作。スケートボード界の生きる伝説“トニー・ホーク”の名を冠した同シリーズは、第1作目が1999年にプレイステーションで発売されて以来、スケボーゲームの代名詞&アホでバカなスポーツゲームの代表として、ソッチ系のゲームファンたちを熱狂させてきた。日本での認知度は正直なところ“知る人ぞ知る”といったところだとは思うが、少なくとも筆者の周囲にいたオトコたちは、大学の授業があがるやいなや、ひとり暮らしの筆者宅へ集まりトリックメイクを競い合っていたのである。

 さて、そんな一部のゲーマーたちをホットにしてくれた『トニー・ホークプロスケーター』シリーズだが、近年は正直なところ迷走を続けている……というか、ほぼ終了している状態と言わざるをえない。最後に出たシリーズ作品は、スケボー型のコントローラを付属した2009年発売の『Tony Hawk: Ride』で、その出来は個人的に「楽しいんだけど、これはかつて俺が夢中になった『トニホ』じゃないなぁ……」という感じ。また、2008年からエレクトロニック・アーツが展開している、リアル路線(あくまで『トニホ』と比較してのお話)のスケボーゲーム『Skate(スケート)』シリーズが非常にイイ仕上がりで、迷走を続ける『トニホ』ユーザーをかっさらってしまった感もある。事実、筆者も『Skate(スケート)』シリーズが出てからは、『トニホ』とは距離を置いている状態。そもそも、日本市場においては2007年に発売された『トニー・ホーク プロジェクト8』が最後の『トニホ』なわけで、そりゃあ距離も置いちゃうって! 

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 しかし『トニホ』は帰ってきた。4年間もの充電期間を経て、日本に帰ってきたのである。だが安心はできない。カムバックやら再結成というのは、だいたいが期待外れな結果に終わる。ピストルズの再結成ライブでは太ったジョン・ライドンがピエロみたいだったなんて話を聞くし(あくまで聞いた話です)、The Cureのロバート・スミスだって耽美的なビジュアルが崩壊しているらしいし(曲はいいです)、ザ・リバティーンズにいたっては再結成するする詐欺じゃないか!(と思ってたら、再結成してた) 話が脱線したが、個人的な経験則からして、カムバックやら再結成なんてのはロクなもんじゃない。でも、結局は「全盛期以上とまではいかないものの……」なんて淡い期待を抱いて、気がつくと手に取ってしまっている、悲しい性なのである。

アティチュードで遊ぶんだよ! 『Tony Hawk's Pro Skater HD』プレイインプレッション_01

 そんなわけで、『Tony Hawk's Pro Skater HD』も7割の不安と3割の期待を込めてダウンロード購入。プレイしてすぐ、筆者は膝を叩いて心の中で叫んだ「こ、これは『トニホ』だ!」。それもそのはずである。『Tony Hawk's Pro Skater HD』は、シリーズ第1作目と2作目をHDリメイクして1本にしたタイトルなのだから。となると、気になるのはそのリメイク具合だが……正直な話をすると、筆者が『トニホ』にハマったのは『トニー・ホーク プロスケーター3』からで、1作目と2作目は未経験。もちろん、本記事を書くにあたって1作目と2作目を取り寄せてプレイしたが、さすがにいま遊ぶとグラフィック的にキツイところがあって、リメイク具合を検証するほどの情熱を持つことができなかった。しかし、少なくともプレイ感覚の面において“改悪”ではないことは確かだ。一部モードやステージが未収録ではあるものの、オーリーの態勢に入ろうとすると加速する“トニー・ホーク物理学”(筆者が勝手に命名)は健在だし、なによりもビッグエアーがうまく成功したときの達成感は何物にも代えがたいものがある。一方で、『3』以降の『トニホ』を知っている身としては、“リバート”(エアーの着地の瞬間にボードのスタンスをスイッチして、マニュアルにつなげることでコンボが継続できるテクニック)がないことや、グラインド中などのトリックチェンジがない点などには、物足なりなさを感じずにはいられなかった。

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 なんだか、あまり『Tony Hawk's Pro Skater HD』を楽しめなかったような記事内容になっているが、実際のところ筆者自身もよくわからないのだ。確かにプレイ中は、思うようにコンボがつながらないことにイライラもしたが、だからと言って投げ出す気にもならなかった。同じステージに何回も挑戦して、“Sick Score”(最高にヤバいスコアみたいな意味)を叩き出したときは、思わず当時の『トニホ』仲間にメールを送ってしまうほど興奮したし、どう考えても辿りつけないところにあるアイテムを、どうにかしてゲットしようとするうちに朝を迎えたこともあった。そして、その合間に、『Tony Hawk's Pro Skater HD』に対する汚い言葉も口にしていたと思う。

アティチュードで遊ぶんだよ! 『Tony Hawk's Pro Skater HD』プレイインプレッション_04

 『Tony Hawk's Pro Skater HD』は、決してパーフェクトとは言えないゲームだ。グラフィックこそキレイになったが、当時のままのゲームシステムは時代遅れの感が否めない。一方で、トリックメイクは思い通りにいかないが、だからこそさまざまな可能性を求めて熱中してしまう。また、ステージごとの課題は、腹が立つほどに困難だが、時間を忘れるほどにやりがいがある。つまりは、愛憎が入り交じったプレイ体験だ。リアムの言葉を借りれば、「俺はテクでプレイしてんじゃねえ、アティチュードでプレイしてんだ」である。とにかく、筆者にとって『Tony Hawk's Pro Skater HD』は、よくも悪くもアツくなれる作品だ。

 E3 2012で書いた記事に続いて、具体的なゲーム内容についてほとんど触れてないが、俺はテクで記事を書いてんじゃねえ、アティチュードで書いてんだ!

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著者紹介 キモ次郎
週刊ファミ通およびファミ通.comでニュース記事を担当。いまいちばん再結成してほしいバンドは、ザ・スリルズです。