新生『FFXIV』の3つの柱
既報のとおり(→こちら)、E3初日となる6月5日、スクウェア・エニックスのMMORPG(多人数同時参加型RPG)、新生『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)についての情報が公開された。これを受け、吉田直樹プロデューサー兼ディレクターにスクウェア・エニックスブース内でインタビューを敢行。吉田氏の考える新生『FFXIV』を掘り下げて尋ねた。
新生『FFXIV』の3つの柱
――じつに8ヵ月ぶりの情報更新となる、新生『FFXIV』ですが、プレイステーション3版を意識した内容のものなのでしょうか。
吉田直樹氏(以下、吉田) もちろんです。詳細な情報は次の機会に見送ることとなりましたが、全世界の注目が集まるE3ということで、ひさびさの情報更新をしました。現状のご報告ですね。プレイステーション3版については、とりわけ新規のお客さまに向け、ゼロからプロモーションすべきものだと思っているので、不定期に公式サイトで更新している“プロデューサーレター”にも書いていますが、プロモーションサイトも本当に最初の最初から、「(冒険の舞台である)エオルゼアとはどんな世界なのか」というところから、まっすぐに入ろうと思っています。
――期待を寄せている多くの新規プレイヤーの皆さんに加え、既存のプレイヤーの皆さんにも訴えかけていくのでしょうか。
吉田 既存のプレイヤーの皆さんには、公開されていく情報に触れ、「ここが違う、ここも違う、でもここはいっしょだね」と、新規の皆さんとは違った角度で楽しんでいただくことはできると思っています。ただ、やはりこのタイトルは、『FF』シリーズの最新作であり、ナンバーの振られたタイトルだということを徹底的にお伝えし、「MMOだからといって難しく考えなくていいですよ」、というところをベースにお話していくつもりです。具体的に言うなら、僕も、開発スタッフも、スクウェア・エニックスも、今回の新生『FFXIV』に対して3つの大きな柱を掲げて開発を進めています。3つの柱をわかりやすい言葉で言うなら、ひとつ目は“最高のゲームプレイ”。ふたつ目は“『FF』を感じられるメインストーリー”、そして3つ目は、最高のゲームプレイと最高のストーリーを盛り上げるための“最高のグラフィックス”です。
最高のゲームプレイ
――吉田さんの考える、“最高のゲームプレイ”とはどんなものでしょうか?
吉田 スタンドアローンの『FF』にも言えますが、『FF』がRPGである以上、まずバトルが最優先だと考えています。ただ『FFXIV』には、プレイステーション3という家庭用ゲーム機からのお客さまや、MMOPRGを体験したことのない従来の『FF』ファンの方々が触れたときに、安心して遊べるスタンダードな間口を作ったうえで楽しさを高めていこうと考えています。MMORPGは、いろいろなプレイヤーと協力体制を取り、どんなプレイヤーにも通じるシステムの言語共通化ができないとパーティプレイが成立しないので、高いアクション性や、難解なシステムは搭載していません。やはり『FF』は絆のゲームだと思っていますから。メインストーリーもそうですし、プレイヤーキャラクターとNPCの絆や、プレイヤーどうしの絆もそこに含まれます。その意図を受けて、『FFXI』にもある、連携というプレイヤーが協力して戦う仕組みをさらに高めた“バトルレジメン”というほかのMMORPGには見られないまったく新しい連携システムをバトルに組み込んで打ち出していきます。MMORPGなので、ほかにもゲームシステムを挙げ始めたらキリがありませんが、たとえばモーグリを活かした宅配システムや、世界に住むための自分の家、"ハウジング"があったりなど、そこかしこに『FF』を感じながら、ゲームの世界でストレスなくゲームプレイが、なんでも楽しめるようにしています。また本格的という意味では『FF』シリーズで初ではとなりますが、プレイヤーとプレイヤーが戦うPVPを設けます。それらさまざまな仕組みを携え、世界標準のレベルで戦っていきたいと考えています。こうしたゲームシステムや、コンテンツ全部の合言葉が「最高のゲームプレイを提供しよう!」という柱に繋がります。
――世界標準のレベルとはどんなものでしょう?
吉田 まずユーザーインタフェースですね。どんなにいいシステムやコンテンツを用意していてもユーザーインターフェイスが悪ければ、100パーセント実力が発揮できなくなります。PC版でいえば、『World of Warcraft』という世界一のMMORPGがあり、そこで見られるような、当たり前のように共通言語になっているユーザーインターフェイスでストレスなく遊べるというのが絶対条件だと思ってますし、プレイステーション3版なら、MMORPGに触れたことのないお客さまにとっても家庭用ゲーム機の感覚で遊べるユーザーインターフェイスを専用に用意すべきだと思っています。世界標準レベルであるためにはそういう部分に始まり、あとは人と人を引き合わせる“マッチング”機能がゲームの隅々まで行き届き、パーティメンバーを募るストレスがなくコンテンツに挑める、という部分がなくてはと思っているので、"コンテンツファインダー"という、いつでも簡単にコンテンツを探し、パーティが自動編成される仕組みを用意しようとしています。
――新生『FFXIV』の発表時に挙がった話ですね。当時の狙いはすべて実現できているのでしょうか。
吉田 はい、機能的にはそうですね。それが最低限のスタートラインだと思っていますので。
――そのなかでも、とくに従来の家庭用ゲーム機で遊んでいるプレイヤーを意識した部分はありますか?
吉田 とにかくMMOROGは用語も多く、覚えなきゃならないことがヤマほどあるゲームですので、今回のゲーム序盤は、とにかく徹底したチュートリアルを入れ込んでいます。それもシステマティックなものでなく、ゲームをプレイして依頼されるクエストをひとつひとつクリアしていくと、それぞれ覚えられるようにしています。じつは開発現場でいまいちばん力を入れているところが時期的にそこなんですね。あともうひとつ、"To Do"というシステムを考えています。僕も『ウルティマオンライン』の昔からMMORPGをプレイしていますが、ログインしたあと何をしていいのかわからないことってありますよね。それがおもしろさでもあるのですが、新生『FFXIV』では、ログインすると、「今日はこれだけクエストのおすすめがあるからどう?」だとか、プレイヤーの現在地の近くにあるコンテンツを、「ちょっとプレイしてみませんか」と、ゲームシステムからおすすめがあるという、ちょっと変わった仕組みです。そのおすすめを自分の中で“To Do”として確定させてもいいですし、「今日は別のことをやりたい」と断るのもいうのも自由です。提示されたものに優先順位がつけられ、することに迷わなくなりますよ。
――「迷わない」というのはひとつのキーワードですね。
吉田 そうですね。最初の3ヵ月でMMORPGを続けなくなる要因としてよく挙がる、何をしていいかわからない、パーティが組めない、コミュニケーションが取れない、ずっとひとりぼっち、という状態をできるだけ序盤で解消することが家庭用ゲーム機からのプレイヤーの皆さんにとってはいちばんいいことかなと思っています。
最高のストーリー
――ふたつ目は“『FF』を感じられるメインストーリー”でしたね。
吉田 はい。『FF』はMMORPGである以前にRPGなので、ストーリーラインに『FF』を感じられる、しかもプレイヤー全員が大きな敵と戦うというひとつの目的に向かって共感しながら突っ走れるシナリオであることが必須です。シナリオもそうですし、キャラクターもそう。ハイクオリティなカットシーンもそうです。あとは、チョコボだったりモーグリだったり、召喚獣だったりという『FF』らしいキーワードを徹底的にゲームの中に盛り込みたいのです。僕の中にあるポリシーとして、『FFXIV』はファンサービスのタイトルでありたいと思っているところがあります。『FF』は今年で25周年を迎え、『FFXIV』を含めると14本という数がありますが、たとえば新生『FFXIV』のコンテンツの中に"クリスタルタワー"というものを入れました。これはご存知のとおり、『FFIII』に登場した場所の名前です。このように、これまでの『FF』シリーズの中にあった要素を『FFXIV』のグラフィックスや世界観の中で、再現して楽しんでいただきたいと、かなり意図的に盛り込んでいます。『FF』は『ドラゴンクエスト』に比べて共通言語化されていない部分も多いんですね。『ドラゴンクエスト』は、最初の敵といえばスライムというわかりやすさがありますが、『FF』の最初の敵というと、昔こそゴブリンでしたが、そうではなくなってしまっている面などがあります。一方で、25年にわたって展開しているタイトルですので、各世代、そして世界中に『FF』ファンの皆さまがいる状態。『FFXIV』は、そうした世代も違えば、国も違う人たちが集えるタイトルなので、たとえば新生で登場する魔導アーマーがほぼ『FFVI』のデザインになっていたりなど、昔のタイトルの要素が入ることで会話も弾むと思いますし、いろいろな世界が含まれていていいと思うんですよ。たとえばイヴァリースがあったり、『FFXIII』の世界があったりという。それらを『FFXIV』ならではの形で取り入れたいと思っています。そういう意味でファンサービスタイトル。そこもひとつの軸として、楽しみにしていただければいいなと思います。つぎはどのタイトルのエッセンスが入ってくるんだろうねと。
――新生は、既存のストーリーが一段落したあとの話ですが、どんなものになるのでしょう?
吉田 既存の物語の最後は、少しトリッキーなことをするのでそれはこの先のお楽しみにしていただきたいのですが、新生ではストレートに、物語の舞台であるエオルゼアを支配しようと目論んでいるガレマール帝国と冒険者たちの勢力のあいだで、本格的に戦いがくり広げられ、彼らと決着をつけるというところがまず大きなテーマになります。もうひとつは、『FFXIV』の世界では蛮神と呼ばれている召喚獣たちが、シナリオの中で綿密に絡んできますので、その2本軸ですね。一方で、“第七霊災”と呼ばれる事件とはいったい何だったのか、という話がサイドストーリーとして語られるわけです。“第七霊災”という現行の物語のキーワードだけが残っている新しい世界で、それははたして何だったのかと真相を追いかけるところは既存のプレイヤーの皆さんも、新生から参加される皆さんも変わりません。決して現行版に触れていないとプレイできない、というものではなく、同じスタートラインから新しい物語を楽しめますよ。現行のメインストーリーにはいない新キャラクターも登場するのでお楽しみにしてください。
最高のグラフィックス
――公開された画像を見ると、また印象が大きく変わっていますが、実際にはどんな変更がなされたのでしょう?
吉田 いちばん大きく変わったのは、リアルタイムシャドウとライティングですね。あとはMMORPGである『FFXIV』に特化させたエンジンを使っているというところが大きいですね。描画エンジンのコンセプトから僕が関わっています。まずプレイヤーの表示数を多くする、という思想が設計のベースにあります。さらに、ハイスペックPC、ロースペックPC、プレイステーション3など、いろいろな環境で動くゲームであることを考慮し、ものすごくカスタマイズ性の高いエンジンになっています。プレイステーション3は、家庭用ゲーム機なのでどうしてもプレイヤーにコントロールをゆだねられない部分もありますが、PCに関しては、処理が重くてもいいからキレイに遊びたい人は高品質のセッティング、とにかくディティールの描画レベルやLODの距離を下げてもいいから軽く遊びたいという設定もできます。
――公開された画像はPCのものなのですか?
吉田 そうですね。あと15パーセントくらいはクオリティーが上がります。今回のエンジンのは、キャラクターにカメラが寄るとどのハードでも完璧に美しく見えるという思想が特徴です。つまりキャラクターの画面占有率が高かったり、キャラクターをあえてたくさん表示しないような局面だったり、自分でスクリーンショットを撮ろうとカメラを寄せたりしたときですね。その場合、プレイステーション3も含め、どんなハードでも遜色のない見えかたをします。環境によっては、テクスチャーの解像度が若干落ちたり、LODの適正距離が縮んだりなどあると思いますが、もちろん周囲に馴染ませる処理をしますので、実際の忙しいプレイ中や、静止画で見たら、ほぼ違いがわからないと思います。
ロードマップは?
――このE3を皮切りに、続々と新生の情報が露出されるわけですね。
吉田 現状は、ぎりぎりオンスケジュールで突っ走っているという状態です。プロモーションの本格的かつ垂直的なスタートを8月くらいに始めたいと思っているのに加え、9月下旬くらいにαテストを始めようと思っています。予定では、それから間を置かない時期にβテストを始めたいのですが、αテストでどの程度サーバーが安定するかなどにより、詳細な時期は決まっていきます。作っているときはスケジュールに則って進みますが、フィードバックを取ることで、結局どうなるかわからない部分もあります。僕らもプロなので、スケジュール優先はもちろんなのですが、ゲームプレイの楽しさが損なわれる要因があったら、どんなにハイクオリティーなグラフィックスでもどんなに泣かせるシナリオがあったとしてもプレイしていただけないと思っているので、僕はゲームプレイのフィードバックに時間をかけたいと思っています。もちろんあらかじめフィードバックの期間は設けますけどね。
――プレイステーション3でテストに参加したいと考えているプレイヤーの皆さんはどこから参加可能でしょうか?
吉田 ダウンロードの形式でクライアントをお手元に届けつつ、βテストの後半からご参加いただける予定です。正式サービスの時期は、まだ具体的には言えませんが、できるだけ早くというのはもちろん心得ています。βテストが始まれば、かなりのプレイヤーの皆さんが新生『FFXIV』に触れられる状況になると思いますし、新生の潜在能力の高さも理解していただけると思います。あとはどのMMORPGもぶつかる、スタート時のコンテンツ量の問題がありますね。とくに『FFXIV』が難しいのは、現在LV50でカンストされている方がたくさんいる状況下で、低レベル帯用のコンテンツも高レベル帯用のコンテンツも取り揃てからリリースしないといけないところがあるので、まさに時間との戦いかなと思っています。
――『FFXIV』を楽しみにされているプレイヤーの皆さんにひと言お願いします。
吉田 いろいろな評判をネットで見たり耳にされたりしていると思いますが、改めて『FF』シリーズの最新作として、最高のゲームプレイ、最高のストーリー、最高のグラフィックスを用意してお待ちしています。
――ありがとうございます。最後の最後に。Xbox 360で展開される可能性は……?
吉田 MMORPGなので、ひとりでも多くの方にプレイしてもらうべきだと思っていますし、ビジネスとして考えたとき、ひとつでも多くのアカウントを作っていただくのが僕の仕事だと思っているので、可能性がないとは言いません。ただ、まずお約束しているプレイステーション3版をお手元に届けないかぎり、何を言っても「本当なの?」、「新生って動いているのかよ」と言われてしまうので、まずは新生を出すことに集中していきます。
そして……プレイ実機登場!
インタビューの終盤で、それまで語ってきたことを実際に確認すべく、PCの実機で動く新生『FFXIV』を確認することができた! 残念ながら画面の撮影は適わなかったが、以下のリポートから記者の受けた衝撃と興奮を汲み取ってほしい。
吉田氏が操作するデモプレイは、緑生い茂る黒衣森からスタート。木漏れ日の陰影がくっきりとしており、現行の黒衣森とはおなじ快晴でも、明らかに違う印象。空が高く、広い。そして森にも疎密があり、氏の操作するキャラクターが行く道は現行の数倍の幅を持っていた。
「わかりやすく道沿いを歩いていますが、ジャンプも可能ですし、道を外れてどこへでも入れますよ」と吉田氏。道の脇の草むらに、木立の陰にマスコット的なモンスターのスプリガンや大きな蚊のようなモンスターのチゴーがいることからも立ち入れることがわかった。E3会場ということもあり、サーバーにつながっていない状態だったため、残念ながらモンスターたちは位置を移動しなかったが、配置は正しい想定とのこと。そこまででき上がっていることに驚いた。
やがてミコッテは、黒衣森のどこかは不明だが、木造のサイロのような、見張り塔のような施設前に到着。「これがなぜ建ったかなどは、この先のパッチをお楽しみに」と焦らされる。どうもグリダニアを出てすぐのいまあるゾーンとのこと。「最適化がまだ15パーセント程度なのですが」と吉田氏は謙遜していたが、リアルタイムライティングの威力がすさまじかった。カメラがキャラクターに寄っても影が自然に落ち、どんな角度でも絵になるため、スクリーンショットが撮りたくなる。一方、カメラをかなり引き始めた吉田氏。現行のカメラよりもかなり引いた状態に。これは状況把握をきっちりしたい、という氏の趣味で採用された経緯が。キャラクターの足元にも上空から確認しやすいターゲットマーカーの赤い円が見えている。ここで黒衣森編は終了。場所はザナラーンに移る。
どうも現場はウルダハ近郊のようで、遠目に街が見えるのだが、いまキャラクターがいる位置に見覚えがない。中央ザナラーンのど真ん中にハムレット? 小規模ではあるが、決して簡素な作りではない集落。微笑む吉田氏がキャラクターをぶらぶらさせている集落で見かけた石壁の質感が現行のもの以上で、レンガなど柔らかな材質の石が風化した感じがよく出ている。足元の石畳にもそれは明らかだ。
ウルダハに向かって丘を越え、ある程度近づいたときに、ある構造物が目に飛び込んだ。そして声を挙げた。以前公開されたマップの設計図にあったのだろうが、目の当たりにすると、驚きとにやけ、そして妄想が止まらなくなった。スクリーンショットの一枚から位置がわかるマップを見て感激していると、「目標があるから行きたくなりますよね。行けばリアクションもあります」という吉田氏の言葉に新生への期待は一段と高まった。
バトルはまだ時期尚早ということで確認できなかったが、吉田氏が徹底的にレベルデザイン班とこだわってモックアップから歩いたというマップは、新しい『FFXIV』を予感させるには十分以上のものだった。
以下は、公開されたイメージアートだ。シリーズではおなじみだが、新生から登場のものが多い!