新たなフェイズに突入したゲーム産業の展望は?

 2012年4月13日、都内のエンターブレイン社屋イベントスペースにて、同社代表取締役社長・浜村弘一による講演”ゲーム産業の現状と展望 2012年春季”が行われた。この講演は、エンターブレインがまとめたゲーム産業に関するデータに基づいて、アナリストや報道関係者向けに定期的に行われているもの。今回のテーマは“新世代ゲーム機とソーシャルシフト 試されるガラパゴスモデル ~新成長カテゴリーはどの領域か~”。国内、及び海外のゲーム市場の現状を分析しつつ、現在もっとも注目を浴びているソーシャルゲームに関しても、そのビジネスモデルや市場戦略を解説。「新たなフェイズに突入した」とするゲーム産業を、いくつかのキーワードから読み解くとともに、その課題にも言及。また、今後大きな成長が期待されるジャンルについても触れ、ゲームはどこへ向かうのか? ゲーム産業はどう拡大していくのか? といった疑問に対するひとつの指標を示す内容となった。(※本記事中の数値はエンターブレイン調べ)

※本講演のダイジェスト版はコチラ

エンターブレイン・浜村弘一による講演”ゲーム産業の現状と展望 2012年春季”詳報_01
エンターブレイン・浜村弘一による講演”ゲーム産業の現状と展望 2012年春季”詳報_02

携帯ゲーム機では世代交代期が到来。家庭用ゲーム機各ハードの現状と課題

 2011年の家庭用ゲーム市場は、国内、海外ともに前年比で若干のダウンとなったが、これについては「理由は明確で、ゲーム機の世代交代期となったため」と、その要因を分析。世代交代期となったゲーム機とは、任天堂のニンテンドーDSとニンテンドー3DS、ソニー・コンピュータエンタテインメントのPSP(プレイステーション・ポータブル)とプレイステーション Vitaだ。

 まずはニンテンドー3DSについて。昨年2月に発売された同ハードは、出足こそ低調となったが、8月の価格改定と年末の大型タイトル連続投入で一気に販売を加速。3月に一時的に上回ることがあったのみで、依然ニンテンドーDSのほうが多かったソフト販売本数も、『スーパーマリオ 3Dランド』が発売された11月以降はニンテンドー3DSのソフト販売本数がニンテンドーDSを圧倒。発売から約一年後までのハードの販売ペースもニンテンドーDSに並んだ(発売から57週目の累計販売台数がニンテンドーDSが約550万台、ニンテンドー3DSが約544万台)ことで「完全に世代交代を果たした」との見解を示した。
 ただし、世代交代は進んだが「まだいくつかの宿題、課題も残している」という。そのひとつが、ニンテンドーDS、Wiiでもあった任天堂とサードパーティーのソフトシェアの比率だ。「市場の要求を幅広くカバーし、総取りを目指すとなると、サードパーティーの力は不可欠。これを考慮してかニンテンドー3DSのローンチ時はサードパーティー製のタイトルが80%近くを占めていたが、年末商戦での任天堂製のキラータイトル投入などもあり、現在はこれが50%強とニンテンドーDSと同程度の比率になっている。『モンスターハンター3(トライ)G』という成功例は出ているものの、今後のラインアップ編成が気になるところ」と語った。
 そして、ニンテンドー3DSの中期的な展望については「有力タイトルも多く控えていることから、ハードの販売台数は順調に伸びていく」としたうえで、「次の一手がE3でお披露目されるのか、期待したい」と同ハードに関して総括した。

 つぎにプレイステーション Vita。最初に、世代交代という点で比較対象となるPSPについて、PSPのソフト累計販売本数トップ50のうち、2011年度の発売タイトルが7ランクインしていること。一時期に比べると勢いは落ちているが、PSPソフトがいまも月間50万本以上売れているといったデータを挙げて「PSPがまだまだ元気」と分析。プレイステーション Vitaに関しては、期待されたPSプラットフォームの人気シリーズが、現状では思うように販売本数を伸ばせておらず、結果的にキラータイトル不在のローンチとなってしまった点。加えて、現時点で公開されているタイトルラインアップに確実にハードの牽引役を担うと言えるものがないことなどから「PSPとプレイステーション Vitaの世代交代にはまだ時間がかかる」と展望した。
 今後に関しては、体験版を含めた無料ソフトやアプリケーションの充実、『サムライ&ドラゴンズ』のようなフリートゥプレイのゲーム、ハード性能の高さからHD仕様のタイトルをマルチプラットフォームで獲得しやすい土壌、などを期待する要素として挙げつつ「各社の有名クリエイターたちの多くがプレイステーション Vitaのタイトルを開発中だという話は聞こえてきており、これらにも期待したい」とのこと。そして、「プレイステーション Vitaが本当に盛り上がるためにはタイトルが揃い、”ならでは”のゲームが出てくることが必要だと思う」と語った。

 そのほかの現行ハードに関して、まずプレイステーション3は、同ハードのソフト累計販売本数トップ50に2011年度の発売タイトルが12本入ってくるなど「ハードの成熟期を迎えて継続的にヒット作も生まれており、今後も堅調に推移していく」と予測。「ソフト開発にかかるコストが格段に下がってきており、ビジネスとして成立しやすい環境」も好評価した。また3月に配信が開始され、またたく間にSCEアメリカ歴代最高のダウンロード数を記録、国内でも好調だという『風ノ旅ビト』(ダウンロード専売)などを例として挙げ、「ダウンロードコンテンツビジネスとネットワークサービスも成長中で、この部分には今後も要注目」。
 つぎにXbox 360については「国内では変わらず苦戦。アメリカではKinectが健闘し、ダンスゲームやパーティーゲームでファミリー層の獲得に成功。また、コアユーザー向けナンバーワンプラットフォームとしての足場もしっかりと固めつつある」と現状を分析。そのうえで、Xbox LIVE上で展開しているクラウドストレージサービスを今後の注目要素として挙げた。
 Wiiの現状に関しては、世代交代の準備期間に入っているものの「例年通り、パーティーゲームを中心に年末に盛り返した」とし、今後の注目は「やはり『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン 』。クローズドβテストでの評判も非常にいいようで、MMORPGでありながらソロ(ひとり)でもプレイしやすいシステムは魅力的。どういったビジネススキームを採用するかは現時点では明らかになっていないが、いずれにせよ長期間に渡って大きな収益を上げるビジネスになる可能性が高い」と語った。また後継機となるWii Uについては、現時点では発表時からほとんど情報が更新されていないため、全貌の判明は今年のE3を待つことになるが「Green Hills SoftwareやHavokとのライセンス契約締結、コントローラにNFCを搭載、といった動きを見ると、着々と準備が進んでいる印象」とのことだ。

国内は携帯ゲーム機、海外では据え置きゲーム機が主流に。ゲーム市場の現状

 まず、2011年度の国内家庭用ゲーム市場規模について。前年比でハードの市場規模はほぼ横ばいだったが、ソフトが落ち込み、全体では約4425億円と前年から約6.4%のダウン。この要因は冒頭にもあったように、ハードの世代交代期であったことが大きく影響しているとのこと。これはハードとソフトの販売数にも顕著に表れており、2011年度のハード販売台数は前年比106.9%とアップしているが、ソフトの販売本数は前年比84.9%と大きくダウンしている。ハードが変わってもソフトの充実には一定の時間が必要となるのは当然で、こういった現象はゲーム市場では5~7年おきに訪れるものだという。そしてハードの世代交代がより進んでいく2012年度以降は「国内の家庭用ゲーム市場規模は上向いていく」と展望。また、近年のハード・ソフト販売数、ハードの累計販売台数の伸び、加えて2011年度のハード販売シェア(数量ベース)の約74%が携帯ゲーム機といったデータから「国内の家庭用ゲーム市場の主役は携帯ゲームに移行したと言え、今後もしばらくはこの流れが続くだろう」との見方も示した。
 つぎに海外(北米・欧州)のゲーム市場について。国内とは違い据え置き型ゲーム機が主流の北米市場は、全体で前年から若干のダウンとなったが、これは年末商戦の不振、タイトル数の減少、ビッグタイトルが期待された本数を下回ったことが要因と分析。また、任天堂がハードの端境期を迎えて落ち込んだ点も影響を与えたとのことだ。欧州市場に関しては北米とほぼ同傾向にあるが、据え置き型ゲーム機のコアゲームファンの市場において、北米ではXbox 360がトップシェアなのに対して、欧州(英国を除く)ではプレイステーション3がトップといったトレンドの違いがあるという。

その勢いはどこまで続くのか? 国内外のソーシャルゲーム市場展望

 「いまもっとも話題になっている」ソーシャルゲーム市場について。最初に、世界的に中心となっているPC向けソーシャルゲームの世界市場は、ここまで急激な成長を遂げたため、とくに地域ではアメリカ、プラットフォームではfacebook向けの市場は成長の速度を落としていく可能性が高いと指摘。逆に今後はfacebook以外のSNSに成長の余地がある欧州、アジアの市場が伸びていき、全体としては2016年までにゆるやかに成長すると予測されているという。また、ビジネスモデルの内容に関しては「広告による収益とアイテム課金を比較した場合、アイテム課金による売上が伸びると想定される」とのこと。欧米では子ども向けのソーシャルゲームが人気になるといった例もあるそうで、まだまだ成長の芽は多い市場であると言えるようだ。
 国内に目を向けると、SNSユーザーはfacebookを中心に増加中で、ソーシャルゲームのプレイ率もアップしているとのこと。課金者の割合はほぼ変わっていないが、「SNSユーザー自体が増えていることは、追い風の状態と言える」と評価。また、国内で主流の携帯電話端末向けのソーシャルゲームにおいて、急速に普及しつつあるスマートフォンの影響については「フィーチャーフォンからスマートフォンへ移行したソーシャルゲームユーザーのゲーム継続意向は高いようで、懸念されたユーザー数の減少といった影響はいまのところない」とのこと。また、「スマートフォンではフィーチャーフォンよりもリッチなグラフィックや複雑なインターフェイスが実現可能で、それを活かしたソーシャルゲームもすでに出てきている。これらが順調に受け入れられれば、さらにビジネスが拡大していく可能性がある」との見解を示した。
 さらに、国内の大手ゲームメーカーのソーシャルゲーム事業での現状については、企業風土がマッチしているかどうかがいまのところ成否を分けており、とくにスピード感やプロデュース能力が問われているという。また、現状で成功しているKONAMI、バンダイナムコ、コーエーテクモのほかに、今後この市場で注目するメーカーとしてレベルファイブを挙げた。
 そして、国内のソーシャルゲーム産業においていま一番の話題であるグローバル展開について、GREEとMobageの世界進出戦略を解説。まずGREEの戦略においてもっとも大きなトピックスとして、全世界で約7500万ユーザーが利用する世界最大級のスマートフォン向けソーシャルゲームプラットフォームOpenFeint社の買収を挙げた。これを加えた新しい”GREE Platform”は全世界で1億9000万ユーザーを抱える巨大ワンプラットフォームになり「ノウハウの共有や規格の統一、マーケティングの面で非常に効果的で、期待が持てる施策」と評価。対するMobageは各地域で提携先を見つけ、そこでSNSのコミュニティ育てていくという戦略を採用。大きなトピックスとしてはウォルト・ディズニー社との提携を挙げ「海外で通用する大きなIPを得て、これを日本で成功したカードゲームというフレームに乗せて世界に打って出るということで、期待したい」とのこと。両社とも「順調に準備が進んでいる印象」としながらも、最大の課題は「ソーシャルゲームのルーツの違いからきている、収益モデルと対象ユーザー層の違い」であると指摘。この違いが顕著に表れているデータとして、まず日本と欧米のソーシャルゲームユーザーの年齢分布を紹介。これによると、日本は男女の比率はほぼ同じで、若年層のユーザーが多く、年齢が上がると利用者が減少していく傾向にあり、欧米は逆の傾向。また、日本では課金額の平均は約2200円。これに対し、一部調査によると欧米での課金額は1~5ドルが主流とのことで、日本と海外のソーシャルゲームは「まったくの別物」と言ってもいい違いがあるとのことだ。なぜこのような違いが生まれたかの理由については「日本のソーシャルゲームの源流は、恐らく月額で遊べたiモードのゲーム。これによりお金を払って遊ぶという習慣があり、その延長線上でアイテム課金型のゲームが発展してきたのではないか。対して欧米のソーシャルゲームは、仕事を辞めてリタイアしたあとに、時間を潰すためにPCで無料のカジュアルゲームを遊んでいた人たちが流れてきたのがルーツと考えられる。結果、収益モデルも対象とするユーザー層もまったく違うものになったのではないか」と分析。つまり「GREEやMobageが世界に提案しようとしているものは、彼らにとって触れたことのない異質なものとなる」。このチャレンジの成否に関しては「どうなるかはわからないが、個人的には文化の壁を越えて、日本初のワールドワイドで成功したインターネットビジネスになってほしい」と語った。

家庭用ゲーム、ソーシャルゲームともにテーマはガラパゴスからの脱却

 ここまでの総括として、国内の家庭用ゲーム市場に関しては上向いていくという展望に加えて「ここ数年の流れから、国内の主流は携帯ゲーム機。このため、国内市場を担っていくのはニンテンドー3DSとプレイステーション Vitaになる」と分析。またこれに付随して「主戦場が据え置き型ゲーム機でコアゲーマーが相手となる海外市場で、どのように携帯ゲーム機を売っていくかが大きな課題となる」と指摘。これをクリアーするためには「携帯ゲーム機を普及させるために、欧米ソフトハウスのタイトル供給を獲得すること。海外でも大きなムーブメントとなるタイトルを作ること」が条件とした。そして「日本で作られたゲームの海外市場への出口を確保するためにも、ガラパゴス化を避けることは必須条件。これまでの歴史を見ても簡単なことではないが、頑張ってほしい」とエールを贈った。また、国内のソーシャルゲームのグローバル展開に関しても課題は同様で、「現状国内でのみ盛り上がっているものを、ガラパゴス化せずにグローバルにフィットさせられるかが鍵」と述べた。 奇しくも、現在のゲーム産業で注目される家庭用ゲームとソーシャルゲームというふたつの市場は、どちらも”ガラパゴスモデルにならずに新たな一歩を踏み出せるか”というテーマに直面しているという。その動向に注目しつつ、やはり「これをクリアーしてくれると信じて、応援したい」ところだ。

今後大きな成長が期待されるジャンル、次世代セグメントの分析

 講演の最後のテーマとして紹介されたのが、次世代セグメント。次世代セグメントとは、現時点では前述のふたつの市場、家庭用ゲームやソーシャルゲームほどは目立っていない、知られていないが、着実に成長を続けている、もしくは今後大きく成長する可能性が高いジャンルのこと。これに属するものとして挙げられたのが、

[1]家庭用オンラインゲーム:全世界で有料ダウンロードコンテンツ、有料アイテムを中心に大きく成長中
[2]携帯電話向けゲーム・アプリ(Mobage/GREE含む):アイテム課金というビジネスモデルを確立し急成長
[3]タブレット向けゲーム:中国や日本などアジア地域でコアゲームファンに高い訴求力を発揮する可能性大
[4]MMOゲーム:すでにアジアでは一大市場に成長しており、さらなる拡大が期待される
[5]カジュアル(ブラウザ)ゲーム:アジアを中心に成長中
[6]PCのフルダウンロードゲーム:欧米ではすでに大きな市場。代表的なプラットフォームはSteamなど
[7]クラウドゲーム:現段階では非常に小さな市場だが、有望株の筆頭

の7つ。それぞれが得意とする地域を中心にビジネスモデルを成長させている中で「とくに大きな成長が予測されるのがクラウドゲーム」だという。このサービスを代表するメーカー"On Live"はGoogleと、"GAIKAI"はLG電子とそれぞれ提携し、両社が開発・一部普及を進めているスマートTVにクラウドゲーム機能が搭載される見込みとのこと。スマートTVは次世代のTVとして今後の展開が注目されているもので、つまり「テレビを買ったらゲーム機が内蔵されているという時代が来る可能性がある」。まだまだ一般的ではないスマートTVだが、その展開は注視しておきたいところだ。ここで挙げたジャンルを合計した市場は、合計すると家庭用ゲームソフト市場+PCゲームソフト市場をすでに上回っているというデータも公開し、その重要性を述べた。

 また、2011年度の家庭用ゲーム機の市場規模が世界で約2兆1200億円であるのに対して、この講演で取り上げたソーシャルゲームや次世代セグメントの市場規模は約3兆円に達しているとのこと。
 これらを踏まえて、今回の講演内容のまとめとして浜村は「家庭用ゲーム市場のみに目が行きがちだが、これにソーシャルゲーム、次世代セグメントを加えたゲーム産業は、まだまだ大きくなっていく。どうか大きな期待を持って見守っていただきたい」と結んだ。