『ブレイブリーデフォルト』開発者インタビュー全文掲載第2回
代表作:『光の4戦士 -ファイナルファンタジー外伝-』、『ファイナルファンタジーIII』(ニンテンドーDS版)
写真左:シナリオ 林直孝(はやし なおたか)氏
代表作:『ロボティクス・ノーツ』、『シュタインズ・ゲート』
スクウェア・エニックスが、ニンテンドー3DS向けに放つ新作、『ブレイブリーデフォルト』。本作は、自由に世界を巡り、旅の過程で成長したキャラクターを操って強敵と戦うという、日本人にとって馴染み深いスタイルを踏襲したRPGだ。ニンテンドー3DSのカメラを通じて、現実とムービーが融合する“ARムービー”の採用など、さまざまな点で話題になっている。そんな本作の開発者インタビューを、2本同時に掲載。どちらも、週刊ファミ通に掲載されたものを増補改訂した完全版となっている。今回掲載するのは、週刊ファミ通2012年4月12日号に掲載された、プロデューサー浅野智也氏と、シナリオを担当する5pb.の林直孝氏へのインタビュー。林氏が本作に関わることになった経緯から、シナリオを制作する過程まで、ふたりの本作への想いをインタビューから感じとってほしい。
きっかけは『シュタインズ・ゲート』
――5pb.の林さんがシナリオを担当することになったきっかけから、教えていただけますか?
浅野 本作のアシスタントプロデューサーを務める高橋(真志氏、※高橋の“高”は旧字体)が、僕に『シュタインズ・ゲート』を薦めてくれたのがきっかけです。本作を作るにあたっては、シナリオでプレイヤーを驚かせたい、そして魅力的で愛されるキャラクターを生み出したいと思っていたのですが、『シュタインズ・ゲート』は、まさにキャラクターが魅力的で、シナリオがとてもおもしろかった。そこで、ぜひ本作のシナリオを書いてもらえないかと、ダメもとで5pb.さんにお願いしました。
――林さんの具体的な担当を教えてください。
林 ストーリー全体のプロットと原案、キャラクター設定などです。細かい部分はスクウェア・エニックスさんや開発のシリコンスタジオさんと分担していますが、ほとんどのテキストを書いています。
浅野 シナリオを書いていただく前に、“魅力的なキャラクターを生み出すにはどうすればいいか?”、“プレイヤーに感情移入をしてもらうにはどうすればいいか?”といった議論と考察を重ね、その上でいくつもプロットを出していただいたんです。最終的には、ゲーム画面に表示されるテキストについても、何文字で何行にするかという部分まで計算しながら書いていただいたので、たいへんな苦労をかけてしまいましたね。
――シナリオのコンセプトは?
浅野 コンセプトは、タイトルの『ブレイブリーデフォルト』という言葉に表されているんです。……ようやくこの説明ができますね(笑)。これは、“勇気を持って、果たすべき約束・責任を放棄する”という意味です。言われたことを漫然とこなすのではなく、自分で意思を持って行動するという、“自立”を表現したいと思っています。
――なるほど。漠然とですが、ストーリーの展開が予想できそうなテーマですね。
林 たとえばヒロインのアニエスは、強い使命感を持っているがゆえに、最初は視野が狭いんです。それはみずからに課せられた使命、責任という意味では正しい信念なんですが、やがて広い世界を知るなかで、それは自分にとって正しいのか、世界にとって正しいのかという葛藤が生まれてくる。登場人物が多く、それぞれが信念と正義を持っていますから、ぶつかり合って当然ですよね。
――本作の舞台は、王道ファンタジーの世界ですが、それもコンセプトのひとつでしょうか?
浅野 そこは、設定としての大前提です。ただ、王道ファンタジーと言っても決して懐古主義ではなく、現代の日本のゲームファンである皆さんに向けていますので、キャラクターもシナリオも楽しんでいただけるように、林さんにお願いしました。
――林さんは、ここまでのファンタジーのシナリオを書くのは初めての経験でしょうか?
林 そうですね。その世界ならではのしっかりしたルールを最初に決めたのですが、根本の世界観から作っていくのはたいへんながらも、おもしろかったです。
浅野 シリコンスタジオの網代(恵一氏)さんと組んで、相当に細かい部分まで設定を作ってくださいました。並行して僕のほうから「こういうキャラクターを出してくれ」、「こういう展開にしてくれ」といった要望を出すのですが、辻褄を合わせるためにかなり悩ませたと思います。ですが、そういう辻褄合わせを含め、細かく設定を作ってくださったからこそ、しっかりとしたオリジナルの世界ができたんだと思います。
――いろいろな国が多く出てきますが、シナリオのボリュームはどれくらいでしょう?
林 相当なボリュームだと思います。シナリオを書いていて、「……こんなに多いっけ?」って驚きました(笑)。
――シナリオを書くにあたって、スタッフから林さんに要望やオーダーはありましたか?
林 浅野さんから「キャラクターを重視したい!」と、かなり熱く語られましたね(笑)。
浅野 そんなに熱かったですか?(笑)
林 ええ(笑)。敵も味方も魅力的にしたい、と。それと、対象年齢を少し上に設定したいというお話もいただいていたので、キャラクターの考えかたや言葉遣いにも気をつけました。結果的に、重厚な世界観になったと思います。
闇が忍び寄る世界
――本作の舞台であるルクセンダルクは、どのような世界なのでしょうか?
林 約5000年の歴史があり、アニエスが所属する“クリスタル正教”を始め、いろいろな国の元首など、多くの勢力が存在する世界です。
――クリスタル正教について詳しく教えていただけますか。
林 クリスタルを信仰対象にした宗教団体です。クリスタルは世界に4つあり、それぞれに巫女とクリスタルを奉る神殿が存在するのですが、最盛期に比べて信仰は薄れ、神殿を訪れる巡礼者がほとんどいなくなってしまっている状態です。
――本作のクリスタルはどのような存在なのでしょうか?
林 世界の秩序を維持するための、火、水、土、風を司る重要なものです。それが闇に飲まれてしまい、恩恵を受けられなくなった人たちが、慌て始めています。
浅野 最初にアニエスが仕える風のクリスタルが闇に包まれ、風が止まってしまいます。近郊の工業都市である砂漠の国ラクリーカは、その影響で風車が動かなくなったため、生産力が落ちてしまうんですね。それで、いままでは18時までだった仕事が23時までになったりと、生活に影響が出ている状態です。つい先日、そのシーンのボイスを録ったので印象が強いのですが、ベースにしっかりした設定があるので、セリフにも生活感溢れる、ちょっと笑ってしまうような要素も入れられました。そのほうが、この世界やキャラクターを好きになってもらえると思うんですよね。
――風のほかに、どんな影響が出ていますか?
浅野 海が腐って船が往来できなくなったり、火山が活発化したりといった異変が出始めています。
――それに関係しているのが、大穴から出てきているという“闇”なんですね。
林 なぜ大穴が出現したのか? 闇に包まれた世界はどうなるのか? 主人公たちはそれぞれの想いを胸に、その謎を追うことになります。
浅野 アニエスは巫女として、世界がおかしくなってきている原因を探るために大穴の調査へと向かいます。そこで、絶望に打ちひしがれた主人公のティズと出会うという流れですね。
――ルクセンダルクの人たちは、この大穴をどう捉えているのでしょうか?
林 穴の近くに住んでいる人たちはかなり深刻に受け止めていますが、遠くの人たちは穴が空いたことも詳しく把握していなくて。でも、何か異変が起こっていることは感じています。とはいえ、「これはなんだろう」と思いつつ、具体的な行動はしていない状況です。
――ティズとアニエスは、どのような関係ですか?
林 アニエスは一見おしとやかですし、敬語を使う品のよさそうなキャラクターですが、強い使命感を持って行動しているので、どんどん突き進んでいきます。ティズはそんなアニエスといっしょに旅をする仲間であり、そばで彼女を見守るパートナーという立ち位置ですね。
――ほかのパーティーメンバーには、どのようなキャラクターがいるのでしょうか?
浅野 ティズとアニエス以外にふたりのパーティーメンバーがいますが、だいぶ違う性格と考えかたを持っています。四者四様の個性的なキャラクターですね。近いうちにそのふたりもご紹介できると思いますので、楽しみにしていてください。
林 シナリオを手掛ける最初の段階で、4人パーティーというオーダーをいただきましたので、4人の掛け合いがいかにおもしろくなるか、個性がうまく立つように、性格を設定しています。
――そういった掛け合いは、アドベンチャーを手掛けてきたノウハウが活きましたか?
林 そうですね。でも、ひとつひとつのセリフにかけるエネルギー量は、RPGのほうが断然高いですね。ノベルゲームは全体の流れでセリフを作っていくのでスラスラと書けるんですが、RPGは表示できる文字数の制限もあって、ひとつひとつのセリフにじっくり力をかけるので、時間をかけてセリフを練っています。
浅野 許されるセリフの文字数が、ノベルゲームと比べるとRPGはだいぶ少ないんですね。ノベルページだと1ページ使うところを、RPGでは22文字などになってしまうので……。
林 RPGであまり長く話していても飽きてしまうので、いかに短いやりとりのなかで、物語の要点を満たしつつ、キャラクターを成立させるかという勝負になります。
――やはり執筆に時間はかかるのでしょうか?
林 かかりましたねー。
浅野 最初にシナリオ執筆のお願いをしに行ったとき、林さんは『ロボティクス・ノーツ』を担当されていたので、スケジュールの話になったんです。それで、「どれくらいの分量を書くことになるんでしょう?」と聞かれ、一般的なRPGの文章量をお伝えしたところ、「その文字量なら1ヶ月で終わります」と(笑)。
林 ああ、言いましたねー。けっきょく、半年以上かかりました(苦笑)。でも、その分濃いドラマができたと思います。
自由度の高いシナリオ
――シナリオには分岐や自由度はありますか?
浅野 エンディングは、ひとつではありません。それと、メインストーリーとは別に、サブシナリオが構造的に作られているので、メインストーリーだけを進めることも、メインストーリーを進めずに、サブシナリオでジョブを集めたり、さまざまなストーリーを楽しんだりすることもできるようになっています。
――サブシナリオというのは、いわゆる“お使い要素”のあるクエストなのでしょうか?
林 ただのお使いではなく、メインキャラクターの4人が関わってくる内容にして、そこでしか見られない4人の側面に踏み込んだお話になっています。
――今回、バトルが少しだけ公開されましたが?
浅野 体験版の『BRAVELY DEFAULT Demo Vol.2』を最後までプレイすると、ちょっとだけバトルが体験できるようになっています。これはまだバトルの新要素を抜いた状態ですが、雰囲気は味わっていただけるかなと。ちなみに、バトルで最後に戦う大男は、クリスタル正教の対立組織である、エタルニア公国の人間です。前述のサブシナリオのひとつでは、エタルニア公国とクリスタル正教の対立の物語が主軸となって進んでいきます。
――サブシナリオでジョブが絡むというのは?
浅野 体験版の最後に出てくる大男は、モンクのマスターなんですが、マスターにあたる彼らを倒せばジョブが手に入ったりする……ということですね。このあたりは、シナリオとシステムが絡んだ内容ですので、次回ご紹介します。
――プロットを読んだだけでも楽しめるようなシナリオなのでしょうか?
浅野 いえ、そういうものではなく、RPGですから長く遊んで楽しめるものだと思っています。
林 あくまでキャラクターメインで作っていますから、それぞれのキャラクターのドラマを重点的に見ていただきたい作品です。ですので、プロットだけではなく、プレイしていただいて魅力が発揮されると思います。
――『シュタインズ・ゲート』などの科学アドベンチャーシリーズのファンも楽しめる内容なのでしょうか?
林 もちろん科学アドベンチャーシリーズとは雰囲気はまったく違うと思います。でも、科学アドベンチャーシリーズについてこられた方は、相当な猛者の集まりだと思いますので……(笑)。『ブレイブリーデフォルト』は、間口が広く万人に受けるものになっていると思います。
――ちなみに、林さんのお気に入りキャラクターは?
林 まだ公開されていないパーティーメンバーのひとりですね。けっこう変わっています。たぶんユーザーさんからも気に入ってもらえると思いますよ。
浅野 主人公のティズはプレイヤーの皆さんが感情移入できるように個性は薄いんですが、その分まわりの人々は、みんな濃いキャラクターになっていますね。
――では、シナリオの見どころは?
林 アニエスがクリスタルに祈るシーンが見どころです。それはARムービーで登場しているアニエスと同じ服を着ている場面なのですが、あれは巫女が祈るときに着る衣装なんです。そこは、見どころですね。
――ところで、林さんにおうかがいしたいのですが、スクウェア・エニックスと組んでみた感想は、いかがでしたか?
浅野 僕も気になりますね(笑)。
林 昔はフリーランスでやっていたので、もともといろいろなクライアントと組むことに抵抗はないんです。しかも、日本のRPG、ゲーム業界を引っ張ってきたスクウェア・エニックスさんとやらせていただけるということで、とても光栄でした。何よりここまでの本格RPGのシナリオを手掛けるのは初めてでしたので、すごく楽しみながらやらせていただきました。
浅野 ありがとうございます。僕は、これまでのゲームのシナリオで『シュタインズ・ゲート』がぶっちぎりにおもしろかったので、それを書いた林さんにここまで深く関わっていただいて、しかもいいシナリオを書いていただけたのが、とてもうれしかったですね。
――最後に読者へメッセージをお願いします。
林 科学アドベンチャーシリーズを知っている方にとっては、ネットスラングや現実とのリンクをメインにしたシナリオを書くというのが、僕のシナリオのイメージだと思います。でも、本作は王道と言いますか、きちんとした世界観のファンタジーRPGですので、スクウェア・エニックスのRPGが好きな方にも、安心してプレイしていただけると思います。
浅野 今回、魅力的なキャラクターを生み出すという点にかなり力を入れています。科学アドベンチャーシリーズのようなアドベンチャーゲームファンの方にも遊んでもらいたいですし、逆にRPGファンの方はこの作品をきっかけに、『シュタインズ・ゲート』などを遊んでみてほしいですね。