携帯ゲーム機でしっかりと遊べるTPS

PS Vita初のTPSはいかにして作られたのか――『Unit 13』開発者インタビュー_04

 ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンから2012年3月18日に発売されたプレイステーション Vita(以下、PS Vita)用ソフト『Unit 13(ユニットサーティーン)』は、数ある携帯ゲーム機向けTPS(サードパーソン・シューティング)の中で、かなり据え置き機に近いプレイ感覚を実現した作品だ。PS Vitaの特色のひとつである、デュアルスティックの存在が大きいのは言わずもがなだが、実際に遊んでみるとタッチスクリーンの巧みな使いかたも、このプレイ感覚の実現にひと役買っていることがよくわかる。開発を担当したのは、『SOCOM』シリーズ、『MAG(マッシブ アクション ゲーム)』で知られるジッパーインタラクティブ。今回、ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカのフォスターシティスタジオで、ジッパーインタラクティブのプロデューサーを務めるKen Inagaki氏にインタビューする機会を得た。『Unit 13』のゲームデザインや、こだわりの操作性など、そして気になる某タイトルの今後についても、話を聞いてみた。

(本インタビューは2012年3月30日に行われたものです)


PS Vita初のTPSはいかにして作られたのか――『Unit 13』開発者インタビュー_01
▲フォスターシティスタジオのKen Inagaki氏。

――『Unit 13』を遊んで最初に感じたのは、携帯ゲーム機でTPSがちゃんと遊べるということへの驚きでした。
Ken 『Unit 13』を手掛けるに当たって我々が目標にしていたのは、携帯ゲーム機でプレイステーション3と同じように遊べるシューター、というものでした。それに加えて、ちょっとした時間で、好きなときに楽しめるという携帯ゲーム機らしさも、もちろん考えています。ゲーム内容はコアユーザー向けで、遊びかたはカジュアルという感じですかね。

――ジッパーインタラクティブは、『SOCOM』シリーズでも携帯ゲーム機向けのTPSを出し続けています。携帯ゲーム機でTPSを出し続けることに、何かしらの狙いなどはあるのでしょうか?
Ken そこに関しては、とくにコレといった狙いなどはありません。ジッパーの戦略のひとつとして、ポータブルもやってくというシンプルな理由ですね。ただ、今回PS Vitaというハードで作るうえでは、PSPでできなかったことをやろう、という目標がありました。たとえば、PSPは右スティックがなかったので、どうしてもTPSやFPSの操作が難しかった。しかし、PS Vitaでついにそれが実装され、コアなシューターの要望にも応えられるようになったと思います。それに加えて、タッチパネルの操作も搭載され、据え置き機並の操作が実現できるようになった。携帯ゲーム機でもいいシューターができる、という事実を『Unit 13』で知ってもらいたかったんです。

――確かに、本作の操作性は据え置き機に迫る完成度の高さでした。開発期間はどれくらいだったのでしょうか?
Ken 約8ヵ月で作りました。プレイステーション3の『SOCOM4:U.S. Navy SEALs』が終わって、その直後から開発をスタートしたのですが、最初は同作のエンジンを使いプレイステーション3の開発環境で作っていたんですよ。

――『Unit 13』は元々プレイステーション3で開発がスタートしたんですか?
Ken あくまで、当初の開発環境がプレイステーション3だった、という話です。と言うのも、開発がスタートした最初期の段階ではまだPS Vitaがありませんでしたから、必然的にプレイステーション3の環境を使わざるをえませんでした。プレイステーション3で途中まで作って、それをPS Vitaに移した、といった感じですね。

――PS Vitaはよく据え置き機並の性能と称されることもありますが、プレイステーション3で培ってきたノウハウをそのまま活かすことができた、というわけですね。
Ken コントローラのボタンの数などは違いますが、開発の手順に関しては共通するところが多かったですね。

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――コントローラ操作と言えば、本作はPS Vitaならではのタッチ操作がじつにうまく機能していました。たとえばリロードや武器交換などは、タッチ操作とキー操作、どちらでも行うことができますが、自分はタッチを使うことがほとんどでした。個人的にこれはスゴイことだと思います。操作入力はけっきょくボタンに敵わないところがあるといままで思っていたのですが、本作を遊んでタッチ入力も工夫次第で、キー操作以上に便利になるんだな、と。
Ken 仰る通り、操作方法にはかなりの時間を費やし、いろいろな実験をしましたね。据え置き機と同等に遊べる携帯ゲーム機用TPSを目標にしていましたから、デュアルショックにあってPS Vitaにないボタンを、どうやって表現するかは大きなテーマになりました。たとえば、コアなゲームユーザーというのはプレイ中にコントローラから手が離れるのがあまり好きではありません。それを念頭に入れて、PS Vitaでも手を離すことなくすべての操作ができるデザインにしました。

――『アンチャーテッド -地図なき冒険の始まり』などにあった、ジャイロセンサーを使ったエイム(照準)操作を、本作では取り入れていませんよね。これはやはり、コアユーザーをターゲットにしていることが関係するのでしょうか。
Ken ジャイロエイムはPS Vitaならではの操作ですから、当然検討はしました。しかし、コアユーザーがああいった操作を好むのか? と考えた場合、本作に限って言えば、まず使うことはないだろうと思ったんです。実際、ジャイロエイムを入れたバージョンでテストプレイをやってみたのですが、ほとんどの人が使っていませんでしたから(笑)。

――ちなみに、テストプレイの段階でボツになったアイデアなどはありましたか?
Ken システムはそこそこありますね、あとはストーリーの部分でけっこう。もう少し、世界状況をリアルに反映してみようと思いました。たとえば、実在する人物をターゲットにしたりとか(笑) ……ただそれはさすがにマズイだろう、ということでボツにしました。

――PS Vitaの機能を活かすうえで苦労した点などはありますか?
Ken PS Vitaというハードに対して苦労させられたことというのは、ほとんどありませんでした。強いて言えば、これは我々に限ったことではありませんが、ソフト開発中にまだハードがなかったことが苦労ですかね(笑)。

――それは確かに多くのメーカーさんが頭を悩ますところですね(笑)。しかも、『Unit 13』はPS Vita初のシューターというプレッシャーもありました。このジャンルをPS Vitaで成功させる、という使命感はありましたか?
Ken それはかなりありましたね。そして、ユーザー様からの反応を見る限り、その使命には十分応えることができたと考えています。本作が支持される理由は、クリアするだけならば誰でもできるが、そこからさらにスキルを磨くことができる、というゲームデザインにあると思います。

――腕を磨くという点では、“デイリーチャレンジ”や“オンライン Co-op”など、ほかのユーザーと切磋琢磨する要素が充実していますね。
Ken TPSやFPSは、人といっしょにプレイする意味の存在が大きいジャンルだと考えています。ただクリアするのではなく、ほかの人といっしょに何かにチャレンジするということが重要なのでしょう。

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――両モードの盛り上がりはいかがですか?
Ken 我々が想像していた以上に盛り上がっていますよ。とくに日本のユーザーさんがすごい。デイリーチャレンジのグローバルランキングで1位になっている人もいますし、プレコミュで行なっている企画にも非常に多くの人が参加してくれています。

――ジッパーさんのタイトルだと『MAG』も日本で大いに盛り上がっていましたね。
Ken 我々のタイトルには、日本のユーザー様に刺さる何かがあるのかもしれませんね(笑)。

――一方で、マルチプレイ対戦がないのを残念に思っている人も多そうですが……。
Ken それについては、我々も強く思っています。しかし、正直なところジッパーと言えばマルチプレイ、という印象を持たれてしまうことへの危惧が少なからずありました。我々は『Unit 13』で新しいブランドを作り出そうと思ってた。もしマルチプレイ対戦を入れてしまった場合、「じゃあ『SOCOM』でいいんじゃないの?」と思われてしまう可能性がありましたから、今回マルチプレイ対戦は外させていただきました。

――『Unit 13』はジッパーの新しいブランドとのことですが、『SOCOM』シリーズとの決定的な違いはどこだと思いますか?
Ken いま話した通り、『SOCOM』シリーズはマルチプレイ対戦が人気です。その点で、まず『Unit 13』にはマルチプレイ対戦がない。加えて、キャンペーンモードの充実ぶりも本作の大きな魅力ですね。全36ミッションとボリュームが十分ある一方で、各ミッションは10分くらいでサクっと遊べて、かつ、ランダムにミッションを生成できるシステムが入っています。

――確かに、本作のボリュームはかなりのものです。ロンチに近いタイミングで手掛けられた作品とは思えないほどです。
Ken  本作を手掛けるにあたっては他のスタジオから技術協力をいただきました。とくに、我々に先駆けて『アンチャーテッド -地図なき冒険の始まり』をPS Vitaで出した“ベンドスタジオ”の協力は大きかったですね。彼らがいなければ、この時期にソフトを発売することは不可能だったかもしれません。

――スタジオ間の技術協力は、日本ではあまりないことですね。
Ken  海外では決して珍しくない事例になっています。品質の高い大作ソフトがつぎつぎと開発される背景には、こういった環境が関係しているのかもしれません。クオリティーの高い作品ができるというのは、業界全体で見れば歓迎すべきことですから、ほとんどのスタジオは協力的です。

――少し気の早い話しなのですが、PS Vitaでつぎにやりたいことなどは考えていますか?
Ken やりたいことはたくさんありますね。ただ、具体的に何かあるか、ということについてはまだ何も言えません。個人的には、PS Vitaのソーシャル機能をもっと活かしたいですね。

――では、最後に『Unit 13』とは関係ない質問なのですが……『MAG』の続編は出るのでしょうか?
Ken その質問がどこかで来ると思っていました(笑)。『MAG』の続編はですね……私からは何もお伝えすることができません。個人的には『MAG』大好きですし、日本のユーザー様に楽しんでもらっていることも、うれしく思っています。だから、個人的には続編をやりたいなとは思います。でも、これはあくまで私個人の意見。『MAG』はいまでも多くの人が楽しんでいる作品ですから、続編を出す意味がある作品だとは思っています。