世界的に高い評価を得た『バットマン』ゲームの続編

 ダークヒーローが帰ってきた! ワーナー・ホーム・ビデオから発売中のアクション『バットマン: アーカム・シティ』。尽きせぬ魅力を持つ本作を、ライターのマンモス丸谷が語る。

 『バットマン: アーカム・シティ』はタイトルが示すとおりアメリカンコミックの代名詞的存在、『バットマン』を題材にしたアクションゲーム。前作『アーカム・アサイラム』はギネスに“もっとも高い評価を得たヒーローゲーム”として認定され、日本に先んじて10月に発売された海外版『アーカム・シティ』は発売初週に460万本の出荷を記録するなど、海外ではビッグタイトルのひとつとして認知されている。このシリーズが高い評価を受けるのは画面やゲームデザインからにじみ出る“バットマン愛(こだわり)”とアクションゲームとして一級品のクオリティを誇っているからだろう。

バットマンの設定をうまく取り入れた上質なアクション

 本作の舞台となるアーカム・シティは、原作コミックの『バットマン』の設定にある凶悪犯を収容する精神病院アーカム・アサイラム(前作の舞台でもある)の規模をひとつの都市に拡大したという設定。このおかげで今作から大きくフィーチャーされることになったのが、バットマンがマントを使って行なう“グライド”。建物内部での探索がメインだった前作から、街全体を縦横無尽に移動してミッションをこなしていく内容になったためグライドの使用頻度が大幅にアップ。飛行とバットクロー(ワイヤー)を移動がスピーディーで気持ちよく、細かい部分まで作りこまれたアーカム・シティのグラフィックとあいまって、ただ街の上を飛んでいるだけで『バットマン』の世界に入っている気分になれる。またこのグライドがオープンワールドアクションで面倒になりがちな移動の快適化にもひと役買っているというのも見逃せないポイントだ。

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▲『バットマン』の舞台、ゴッサム・シティの負の部分を凝縮したような場所のアーカム・シティ。そのグラフィックの作り込みはほかの大作アクションにも負けず劣らず。かつ近年のコミックや映画『ダークナイト』をほうふつとさせる世界観を醸し出している。

 マント、バットクロー以外にもバットマンならではのガジェット(装備)が用意されており、これらの効能がこの作品ならではのアクション、謎解き要素につながっている。一例をあげると……。

・スーツに内蔵された高度なCPUを使った捜査モード。透視機能で壁の向こう側の敵を発見。現場に残った痕跡(血液やアルコール反応、弾痕など)を調べて犯人を追跡するなど
・爆破ジェルを使って壁や床を壊し、新たな移動ルートを作る
・リモートコントロール・バットラングを投げて隠された目標に命中させる
・暗号シーケンサーでパスワードを解読
・足場のない場所でも水平移動を可能にするラインランチャー

などなど多岐に渡る。ガジェットの中には瞬時に水を凍らせバットマンの足場を作り水上での移動を実現させるフリーズ・ブラストなど本作オリジナル、しかも敵であるミスター・フリーズの技術を流用したガジェットも存在する。

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▲開発スタッフは“優秀な探偵”としてのバットマンをこの作品で描きたかったとのこと。ミッションにはゲームの進行を滞らせないほどよい難度の謎解きとガジェットを使ったアクションが挿入されている。

『アーカム・シティ』でしか見られないヴィランの競演

 ガジェットの説明で少し触れているが、『アーカム・シティ』にはミスター・フリーズなどヴィラン(悪役)の技術を使ったガジェットの開発や、問題解決のために共闘するといった映画の『バットマン』ではあまり見られないストーリーを体験することができる。かといってその流れが不自然というわけでなく、原作の『バットマン』でもありうる展開だな、と感じさせる内容となっている。このあたりはアニメ版『バットマン』でエミー賞を獲得しているポール・ディニが本作の脚本も担当しているからだろう。

 長い歴史を持つ『バットマン』に登場してきた30人近いヴィランが一堂に会するのが見られるのも『アーカム・シティ』の魅力。ジョーカーやペンギン、トゥーフェイスといったメジャーどころはもちろん、デッドショットやポイズンアイビーなど原作コミックの初期(1940年代後半~1960年代)を彩った面々も現代風にアレンジされ、アーカム・シティの中で生き生きと(?)悪事を働いている。こういったある種マニアックなヴィランなど知らない、それほど『バットマン』に詳しくない人も心配無用。ゲーム内のバットコンピューター(アーカイブ)に目を通しておけばバットマンやその協力者、ヴィランのプロフィールやこれまでの行動などの情報はわかる。なので、ゲームプレイ中に登場キャラクターの関係性がわからなくなって話に取り残されるようなことは起こらないはずだ。

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▲各ヴィランが持つ強烈な個性や攻撃方法、犯罪行為に手を染める目的など、原作の設定が本作のストーリーやゲーム中のギミックにうまく取り入れられている。

ステルスアクションと殴り合い、メリハリの効いた戦闘パート

 戦闘は大別すると近距離での殴り合い、銃を持った敵との戦闘、ボス(巨大な敵)戦の3つがあり、それぞれプレイ感覚が大きく変わる。
 まずもっとも回数をこなすことになる近距離戦はバットマンが有利に進められる戦闘。攻撃ボタンを連打すれば相手の状態や間合いに応じて適切な打撃が発生し、敵の攻めは頭上に出る攻撃開始のマーク(青いアイコン)を見てからカウンター攻撃のボタンを押せば無効化できる。近接戦はプレイヤーが操作に慣れると一方的に勝てる(いわゆる“無双”状態)戦闘になるが、ストーリーの進行にあわせて刃物持ち、アーマーやシールド装備、スタンスティックを持った強敵が登場。それぞれの弱点をつくアクションが要求されるようになるため、終盤までダレずに一定の緊張感を保った戦闘になるように工夫がなされている。接近戦ではヒーローらしい強さを発揮するバットマンだが、銃弾に対する防御力は低く設定されており、銃を装備した敵との戦闘は慎重な立ち回りが基本になる。グラップリングでヴァンテージ・ポイント(空中にある隠れ場所)を移動しながら機会を待ち、敵の背後に回ったり空中からの攻撃で気絶を狙っていく緊張感あふれるステルスアクションは近距離での戦闘とはまったく異なるプレイ感覚だ。残るボス戦は周囲の地形やガジェットを利用した攻撃がメイン。ダメージを与える方法に気づくまでは手こずるだろうが、初期設定だとヒントが表示されるようになっているため手詰まりになることはない。ネタさえ知ってしまえばある意味1番楽に勝つことのできる戦闘かも?
 いずれにせよ接近戦、ステルスアクション、ボス戦のいずれもプレイヤーに歯ごたえのある戦闘を提供してやりごたえを感じてもらうというよりは、バットマンのスタイリッシュなアクション、戦闘の前後にはさまれるヴィランとのイベントシーンを楽しんでほしいという調整のように思った。難易度イージーにすれば敵の耐久力と攻撃頻度が目に見えて落ちるので、アクションゲームが相当苦手な人でもスムーズに進められる。逆に難易度ハードやゲームクリアー後の状態を引継いでニューゲームを始めた際の敵はかなり強化されている。自分のアクションゲームの腕に応じて難易度を選べば、ストレスなくゲームを進行させられるはずだ。

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▲敵が銃を持っているか否かでどう戦っていくかの方針が大きく変わるのが本作の特徴。素手の相手に対しては正面から殴り合い、飛び道具持ちの敵に対してはガジェットを駆使しながらテイクダウン(気絶)を狙っていこう。

ゲームクリアー後のボリュームも充実

 前作はマップの規模などの関係でゲームのボリューム的な部分がやや物足りないといった意見があったようだが、『アーカム・シティ』はその点も抜かりない。そもそもフィールドの規模は前作の5倍だし、そこに用意されたミッション、登場するヴィランも3~4倍ほどの数になっているらしい。その証拠といってはなんだが、自分がゲームをクリアーした際の達成度はわずか40%。プレイ時間は約20時間だったので、残ったサブミッションやダウンロードコンテンツのキャットウーマンやロビンでのプレイを含めると40~50時間は遊べそうなボリュームだ。ダウンロードコンテンツのほとんどは初回版を購入すれば無料で追加できる。発売直後のいまはまさにお買い得(ダウンロードのためのパスコードを取得するにはクラブワーナーへの登録が必要であることに注意)。バットマンに愛着がある人はもちろん、知らない人も上質なアクションゲームとして楽しめると思うので、ぜひ一度プレイしてみてほしい。(原稿:マンモス丸谷)

■マンモス丸谷
ファミ通Xbox 360やアルカディアなどでアクションゲームやサッカーゲームを担当する、ペンギンを縦と横に2回りぐらい拡大した体型のライター。次作(海外で400万本以上売れたんだから確実にあるでしょう!)ではバットモービルに乗ったレース系のミッションがやってみたいっすね。あと来年公開予定の『ダークナイト ライジング』で出てくるであろう新しいガジェットもゲームで使ってみたい!

『バットマン: アーカム・シティ』
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
対応機種:プレイステーション3、Xbox 360
発売日:2011年11月23日
価格:7980円[税込]