日米英の3ヶ国による新生『デビル メイ クライ』!
週刊ファミ通2011年11月17日号(2011年11月2日発売)にて、『ディーエムシー デビル メイ クライ』(以下、『ディーエムシー』)の記事を掲載。その中で、同作の開発を手掛ける江城元秀氏、アレックス・ジョーンズ氏、タミーム・アントニアデス氏の3人にインタビューを行った。本稿では、その完全版をお届けしよう。
●設定、ストーリー、ゲーム性が密接に絡み合う
──本作は、カプコン、カプコンアメリカ、イギリスのニンジャセオリーと、3ヵ国の開発会社が協力して制作しています。まずは、ニンジャセオリーに開発を依頼することになった経緯を教えてください。
アレックス そもそもはカプコンから「新しい『デビル メイ クライ』を作りたいんですが、いい開発会社を知りませんか?」という相談を受けたのがきっかけだね。いまカプコンアメリカにいる人間がマイクロソフトに在籍していたころに、タミームを始めとするニンジャセオリーのコアメンバーと仕事をしたことがあって、彼から「ニンジャセオリーはどうでしょうか」という提案を受けたんだ。ニンジャセオリーはストーリーに関する演出的なノウハウを持っているので、そこにカプコンが持っている、アクションゲームの作りかたについてのノウハウを組み合わせたら、究極のゲームが作れるんじゃないかと思ったのさ。
江城 今回の『ディーエムシー』は“新生”をテーマに、既存の世界観を活かしたまま、新たなデビル メイ クライとして制作したいと考えていました。そのためには、日本人とは違った価値観や考えかたを持ちつつ、『デビル メイ クライ』シリーズのおもしろさを理解しているスタッフに任せたほうがいいのではないか、と思ったのです。アレックスの話にもありましたが、ニンジャセオリーとカプコンの力を合わせれば、まったく新しいゲームが作れるのではないかと思い、制作を依頼することにしました。日本側では僕がプロデューサー、伊津野(『ドラゴンズ ドグマ』でもディレクターを務める伊津野英昭氏)が監修として立っています。こうして海外とガッチリ組んでゲームを作るということも、カプコンの新たなチャレンジのひとつだと考えています。
──日、米、英の3ヵ国体制は、こうして生まれたのですね。その中で、皆さんはどういった役割を担われているのでしょう?
アレックス 僕がおもにやっているのは、スケジューリングや契約、予算管理など、言わば“仕事っぽい仕事”だね(笑)。また、いい作品を作るために、カプコンとニンジャセオリーの橋渡し役もやっているよ。
江城 今回の僕の役割は、クリエイティブ・プロデューサーという感じですね。伊津野とふたりでゲームの中身を監修しています。それに加えて、プロデュース面からこういう部分がウリになるんじゃないかとか、スケジュール的にしんどいんじゃないか、ということも考えていますね。アレックスはもっと具体的なスケジューリングに落とし込んだりとか、プロモーションでこういう素材が必要だとかといったことをフォローしてくれています。こういった作業分担を行うのは、カプコンではかなり珍しいんですよ。
タミーム 私はディレクターとして、ニンジャセオリーでの開発を統括しています。みんなの意見を合わせて、みんなが納得できる、すばらしい作品を作りたいと思っています。
アレックス 日本と海外がガッチリ組むというこの新しいチャレンジには、『デビル メイ クライ』というタイトルはピッタリだね。欧米と日本でともに高い人気を誇っているし、今回の開発スタイルにもとても合うんじゃないかと思っているよ。
──プロデューサーとディレクターが合わせて3人もいると、意見のすり合わせがたいへんなのでは?
江城 すべての意見を取り入れようとすると、たいへんかもしれません。でも、この部分はこうするべきだと誰かがハッキリと意思表示をすれば、そうはならないんです。譲るところと引かないところの基準を、僕らプロデューサー陣は持っていないといけないかなと。タミームにしても伊津野にしても、クリエイターは自己主張が強いので、これはいい、これはダメときちっと線引きをするのが、僕やアレックスの仕事だと思います。
アレックス 予算も守ってくれるとありがたいな(笑)。
──なるほど(笑)。さて、『ディーエムシー』ではダンテの姿が大きく変わったということで、反響を呼びました。なぜデザインを刷新したのでしょう?
江城 『デビル メイ クライ』を新生させることの一環ですね。海外の人から見たクールなダンテとはどういうものか、ニンジャセオリーに考えてもらいました。ただ、日本人にも受けるデザインでなくてはならないので、いろいろ調整を重ねて、現在のようなデザインになっています。
タミーム 髪の毛の色などもシリーズから変えていますが、そのあたりの設定はストーリーに絡んできます。こういうことがあったから、ダンテはこうなった、というような説明を、ストーリーでしていくつもりです。欧米の人は、そのキャラクターがなぜそのような姿をしているのか、ということが気になるものなのです。
──ダンテが人間と悪魔のハーフから、天使と悪魔のハーフに変わったことも驚きました。
タミーム これもストーリーに関わるのでお話はできませんが。理由はきちんとあります。
アレックス 天使と悪魔のハーフという設定は、エンジェルパワーとデーモンパワーという形で、ゲームに活かされているね。
江城 悪魔というものの捉えかたが、日本人と欧米人で違うのがおもしろかったですね。日本人は、悪魔イコール絶対悪と捉えがちですが、欧米人はそうではない。悪魔には悪魔の生活や営みがあり、文化があるというのが欧米人の考えかたなんですよ。悪魔は悪魔なりに考えたうえで、人間にアプローチをしてくるわけです。こういったところも、ゲームのシナリオや設定に反映されています。
タミーム 今回はダンテの設定だけではなく、舞台も大きく変わっています。『ディーエムシー』では、従来のシリーズよりもリアルな世界を描きたいのです。リアルな世界の裏にLimboという世界があって、そこに入ると人間を操っている悪魔が見えるという構造になっています。
江城 従来のシリーズは、ゴシックホラー的な雰囲気を持っていたと思います。今回はよりリアルな雰囲気を重視していて、いろいろな建物、いろいろな場所で戦闘が行えるようになっています。ここも見どころというか、新しい『ディーエムシー』のスタイルになっているんじゃないかなと思います。
──Limboについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
江城 まず、ダンテは現実の世界で暮らしています。そして現実世界には、悪魔たちがいろいろな姿で潜伏しているわけです。ダンテは悪魔に追われていて、悪魔はダンテを見付けると、Limboに引き込み、殺そうとします。さらに、Limboという世界自体が生きていて、Limboもダンテを殺そうとするわけです。なぜダンテが襲われているのか、ということに関しては、少しずつ明らかにしていきます。
──こうした設定を考えているのは、カプコンとニンジャセオリーのどちらなのでしょう?
江城 それはニンジャセオリー側からの提案です。シナリオを見せてもらって、その中で、日本人の感覚ではこうですよ、という意見も出しています。ただ、それは絶対に変えてほしいということではありません。こちらからあまり要望を出しすぎると、彼らのよさを潰してしまうことになります。こういう意見を踏まえたうえで、よりおもしろくしてください、という形でお願いしています。
──わかりました。ちなみに、『ディーエムシー』の従来のシリーズに対する位置付けはどうなっているのでしょう?
江城 別物の作品と考えてもらっていいと思います。タイトルを『ディーエムシー デビル メイ クライ』としたのも、それが理由です。外伝とも違う、本当に新しい作品になっています。
──バージルやトリッシュなど、シリーズのキャラクターが出てくることはあるのでしょうか?
江城 どうでしょう(笑)。ただ、新キャラクターも含めて、登場人物はダンテ以外にもたくさんいます。今後を楽しみにしていただきたいですね。
●ふたつの力はリアルタイムで変更可能
──では、つぎにアクション部分についてお伺いします。今回は、エンジェルパワーとデーモンパワーの使い分けがカギになりそうですね。
江城 そうですね。エンジェルパワーはスピード重視で、攻撃の手数が多いのが持ち味です。移動に関してもスピーディーに行えます。逆に、デーモンパワーは手数は少ないですが1発が重く、力強い攻撃がくり出せます。このふたつの力をリアルタイムに切り換えられるというところがミソです。従来のシリーズでは一度サブ画面に入り、銃や剣を装備し直してコンボをつなげたりしていましたが、本作ではリアルタイムに、通常状態の剣や銃と合わせた4種類の武器を使い分けられます。
タミーム 天使の武器を使って銃を撃って、悪魔の能力を使って、また天使の武器を使って……というように、それぞれのユーザーが自分のスタイルにあったスタイリッシュな遊びができます。とにかく自由度が高い、いつでもどこでも何でもできるというゲーム性を目指しています。
江城 ただ歩いて近付いて斬るのではなく、うまくエンジェルとデーモンの能力を切り替えて空中でコンボを決めることで、評価が上がるようなシステムになっています。これまでのシリーズは、どちらかというと地上でのコンボがメインでしたが、空中でのコンボをしやすくすることによって、よりスタイリッシュアクションができるようになりました。また、足場のない空間で戦闘したり、空中を移動しつつ攻撃するなど、戦闘のシチュエーションも多彩です。
タミーム エンジェルパワーとデーモンパワーは、少しずつ増えていきます。すべて技が揃えば、かなり直感的にプレイできるようになりますよ。うまくプレイするほど曲のテンポが上がるので、ランナーズハイのような、ふつうのゲームでは楽しめない感覚が味わえます。
──エンジェルパワーとデーモンパワーは、戦闘だけでなく、移動や探索にも使えるようですね。
タミーム そうですね。エンジェルパワーを使えば敵や物体に近づくことができますし、逆にデーモンパワーを使えば、敵や物体を引き寄せることができます。これにより、いままでのシリーズよりも、移動や探索などのゲーム性が増しています。
江城 今回は、Limboという空間を、演出だけではなく、ゲーム的にきちんと使いたいと思っています。街自体がダンテを襲ってくるわけですから、ステージも敵の一部なんですよ。ですから、ステージに対してやれることを増やして、移動や戦闘の自由度を味わってもらえたらと思っています。
タミーム ステージは従来よりも広めです。オープンワールドのゲームというわけではありませんが、スキルを覚えることで行ける場所が増えたりというように、探索の要素が楽しめるようになっています。
──なるほど。戦闘についてもう少しお伺いしたいのですが、銃についてはいかがでしょう?
江城 基本的には、剣と銃を使ったアクションゲームというところは変わっていませんが、銃をうまく使うことで、より有利になる仕組みを導入しようと思っています。銃は2丁拳銃以外にも、いろいろな種類を用意していますよ。また、ショップや技といったシステムは、従来のものを受け継ぐつもりです。
●『ディーエムシー』を待つすべてのファンへ
──では、最後になりますが、本作の発売を心待ちにしているファンに、皆さんからひと言をお願いします。
タミーム 本作は、いままでのシリーズの一部としてではなく、新たな作品として受け入れていただければと思います。楽しさの共通点はシリーズと同じなので、ファンの方には必ず楽しんでいただけます。ぜひともよろしくお願いします。
アレックス いままでのシリーズとは、見た目的にはだいぶ違っていると思うけれど、シリーズで守らなければならない部分があるのは、我々も認識している。そこをしっかりと守りつつ、このコラボレーションならではのスパイスを加えて、いままで味わったことがないようなゲームを作りたいと思うよ。期待してほしいね。
江城 今回は、大きなチャレンジだと思います。作り手が違うので、いままでのシリーズとは異なるものになりますが、シリーズのプレイ感を受け継ぐべく、スタッフ全員でがんばっているところです。シリーズのDNAを受け継いだ新生『ディーエムシー』に、ぜひご期待ください。