●吉川氏の現在に迫る!

 2011年10月27日〜10月30日の期間、大阪・梅田ロフトのロフトフォーラムで開催されている“アサシン クリード アート展 in Osaka”。本展には、ゲストアーティストのひとりとして、現在フリーのデザイナー・イラストレーターとして活動中の吉川達哉氏(元カプコン)が参加している。

 『ブレス オブ ファイア』シリーズ、『デビル メイ クライ4』、『ラストランカー』など、数々の名作のデザインを手掛けてきた吉川氏。今年、吉川氏が長年勤めたカプコンを退社し、フリーに転身した理由とは? ファミ通.comは、“アサシン クリード アート展 in Osaka”に来場していた吉川氏に直撃インタビューを実施。出展作品の見どころから、今後の活動に関することまで、幅広くお話をうかがった。
(※“アサシン クリード アート展 in Osaka”のリポート記事はこちら

吉川達哉氏と、氏の出展作品。

――まずは、“アサシン クリード アート展 in Osaka”に参加することになったきっかけを教えてください。
吉川 きっかけは、少し前の話になりますが……僕は、プラチナゲームズの橋本祐介くん(※アート展のゲストアーティストのひとり)と仲がよくて。カプコン在籍時の後輩で、いまでも会って絵の話をする仲なんです。その橋本くんからの紹介で、ユービーアイソフトの方とお知り合いになり、「東京での“アサシン クリード アート展”に参加しませんか?」とお話をいただきました。ただ、そのときはまだカプコンに在籍していて、とても時間が作れなかったので、お断りしたんです。それからしばらくして、「今度は大阪でやりますが、いかがですか」と再びお誘いいただきまして。フリーになったとはいえ、忙しくはありましたが、以前よりはスケジュールを調整する余裕がありましたので、「やってみます」とお受けしたんです。

――橋本さんから縁がつながって、出展されることになったんですね。それでは、今回描かれた絵について教えていただけますでしょうか?
吉川 『アサシン クリード』はプレイしていたので、主人公がどのようなキャラクターなのかはわかっていました。ですので、オファーをいただいた瞬間、ぱあっ、と絵のイメージが浮かんだんです。僕はもともと、クライアントからお話を受けたとき、すぐにイメージが浮かぶタイプで。ユービーアイソフトの方とお話しながら、「もう頭に浮かんでいます。この絵ができたらおもしろいと思います」と話していましたね。

――そして描かれたのが、この空から舞い降りるエツィオの絵ですね。
吉川 光の中から暗殺者が舞い降りてくる場面です。『アサシン クリード』はダークなイメージのある作品ですが、正義のために手を汚す人たちの話でもあるので、光の部分もキレイに見せたかったんです。ほぼ、最初に浮かんだまま描いています。本当は、CGではなく油絵で描きたかったんですけどね。

――油絵! それは観たかったです……。
吉川 さすがにムリでした(笑)。油絵を描こうとすると、まるまる1ヵ月かかりますから。展示会に行って観るなら、筆の陰影などが見られないCGより、油絵のほうがいいとは思ったんですが。

――油絵はお得意なのですか?
吉川 美術コースのある高校に通っていたのですが、そのときから油絵ばかり描いていましたね。先生も褒めてくれましたし。

――つぎの機会には、ぜひ油絵で描いていただきたいです。ところで、ほかのゲストアーティストの方の作品で、とくに気になったものはありますか?
吉川 前田真宏さんの作品ですね。これまでカプコンで“デザイン”をやってきた身としては、やはりデザイン的な処置を施してある作品には心が躍ります。僕の絵も、好き勝手描いたわけではなく、いろいろと計画して描いたものなんです。1枚絵を描くときには、観て長く楽しめるような技法を入れるようにしています。油絵で描けなかったぶん、構図にはこだわりましたね。

――デザイナーである吉川さんならではのご意見ですね。ちなみに、今回の作品が、フリーになられてからの初めての作品ですよね?
吉川 そうですね。『アサシン クリード』の世界に見られる、レンガ造りとか、埃っぽさとか、光と影とか――そういったものがとても好きなので、楽しく描けました。

――長年勤められたカプコンを辞めて、フリーになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
吉川 理由はいくつかありますが、いちばん大きい理由は、バランスが取れなくなったことです。10年ほど管理職の仕事もやっていたのですが、管理職のために使う力と、絵のために使う力、どちらも強くなってきて、“やりたいこと”と“やれること”がぶつかるようになったんです。パンクしそうになって……「ああ、こんなやりかたをしていたら死んでしまう。そんなことになるくらいだったら、別の選択肢を探そう」と思いまして。僕の作風と親和性の高いファンタジックなゲームを作る機会が減ってきたことや、後輩にチャンスを与えたいという思いもあって、フリーになって絵を描くことを選んだんです。

――絵を選ぶことに迷いはなかったのですか?
吉川 ありませんでしたね。ずっと、「もっと絵の勉強がしたい、もっと絵が描きたい」と思っていましたから、いまは絵の勉強ができてとてもうれしいです。後悔はないですね。

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▲こちらが吉川氏こだわりの名刺。

――たとえば、どのような勉強ができるようになったのでしょう?
吉川 山のようにありますよ! まず、絵を描くことが全部勉強です。いまは自分の名刺を何種類か作って皆さんにお配りしているんですけど、名刺を1枚描くにも知識が必要で。たくさんの資料を見て、文字を入れる場所、形、色……いろいろなことを勉強して作っています。

――ちなみに、名刺は何種類あるのですか?
吉川 いまは4種類で、明日5種類目ができます(笑)。集中したら2、3日でできますから。空いた時間を見つけて、思いついたら作っています。名刺も自分の作品だと思っているので、手を抜かずに作りたくて、印刷も自分でして、角も自分で切っているんですよ。

――先ほどいただいた名刺は、吉川さんの手作りだったんですね! ところで、フリーになられてからも、ゲームのお仕事はされるのですか?
吉川 はい。僕がこれまでいちばん勉強してきたのが、ゲーム専用のデザインワークだと思うので。効果的なお仕事ができると思います。作り始めたら2、3年かかるのは、もう慣れていますので、問題ありません(笑)。

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▲アサシン クリード アート展で販売中のポストカード。

――(笑)。では、逆にフリーになったことで、新たに挑戦したいと考えているお仕事は?
吉川 グッズのデザインですね。“アサシン クリード アート展 in Osaka”でも、グッズを展開していただけると聞いて、とても心が踊ったんです。「うわ、商品になるんや!」って。ポストカードやクリアファイルはもちろん、たとえばコップとかスプーンとか、とにかく商品というものが大好きで、どんどんデザインに関わりたいと思っているんです。手に取ってもらえるものを作りたい。だから、名刺を作るのも楽しいんですよ。

――確かに、ゲームのデザインをしていると、なかなかグッズのデザインはできませんよね。
吉川 基本、すべて他部署、他社の方に委ねていたので、思っているものと違うものができあがることもあったりしましたねー。これからは積極的に関わっていきたいですね。

――フリーになったことをきっかけに、ご自身のサイトなどを立ち上げる予定はないのですか?
吉川 よく訊かれるのですが、いまはあまり考えていないんです。そのホームページが、ファンの方との交流の場なのか、自己満足的に絵を載せる場所なのか……自分の中で答えがでないので。お仕事の話は、顔を見ながらさせていただきたいので、仕事の窓口にするというのもピンとこない。「なんか、要らんな。そしたら名刺作るわ」って思っちゃうんですよね(笑)。ツイッターも同様の理由でやっていないんです。ただ、これからフリーとして行った仕事が積み重なってきたら、「こんな仕事をやりました」と告知するページがあってもいいかな、とは思っています。

――いつか告知ページができるのを楽しみにしています。それでは、最後に吉川さんのファンへ、ひと言メッセージをお願いします。
吉川 僕は仕事には手は抜きません。皆さん――とくに僕の絵を好きでいてくれる方には、ぜったいに損はさせませんので、僕のつぎの仕事や絵を楽しみにしていただければと思います。カプコン在籍中にもたくさんの励ましのお言葉をいただきましたが、温かい言葉をくださった皆様に、仕事を通じて応えていけたらと思っていますので、引き続きよろしくお願いします。