『エースコンバット アサルト・ホライゾン』に見るシリーズ作の“セオリー”からの突破のススメ【CEDEC 2011】

CEDEC 2011のトリを飾るセッションのひとつとして行われた、『エースコンバット アサルト・ホライゾン』の制作事例にせまるセッションの模様をお届けしよう。同作はいかに過去作からの脱皮に成功したのか?

●こだわった“破壊表現”

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▲出たがりのナガセさんが聴講者をお出迎え。

 2011年9月6日〜8日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的としたCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス) 2011が開催された。開催最終日に、CEDEC 2011のトリを飾るセッションのひとつとして行われたのが、“『エースコンバット アサルト・ホライゾン』ビジュアルワークスの俯瞰”。こちらはバンダイナムコゲームスの人気フライトシューティングシリーズ最新作『エースコンバット アサルト・ホライゾン』の描画表現や演出への取り組みに迫るセッションだ。登壇したのは、アートディレクションを担当した菅野昌人氏とカットシーンの背景リーダーである反町信哉氏、そして演出監修および映像ディレクションを担当した糸見功輔氏だ。

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▲菅野昌人氏。

 まず登壇したのが菅野氏。「超音速・大破壊シューティングとして生まれ変わった」という『エースコンバット アサルト・ホライゾン』。シリーズの方向性を変えたことにより取り組むことになったのが“破壊表現”。ただし、昨今破壊表現を取り入れたゲームは増えており、“破壊表現”をより昇華させるには独自の味付けが必要。そこで挑んだのが、“Steel Carnage(鋼鉄の虐殺)”というコンセプトだ。具体的に取り組んだのが、(1)機銃、ミサイルなどの着弾時に被弾痕と小破片の発生、(2)フラップやエルロンなど、中程度の揚力装置の脱落、(3)ダメージ最大となった時点で主翼や機首、本体を破壊、などだ。ところがそこでプロデューサーの河野一聡プロデューサーより「なんかふつうじゃね? もっともげたりちぎれたり、メカのスプラッターにしてよ!」というクレームが入り、さらなる対応を迫られることに。そこで思いついたのが、機体を“破断”すること。“破断”とは、金属などの構造物が衝撃や疲労などの原因で破壊すること。物体がちぎれるようにもげることで、“鋼材的破壊表現”を満足の行く形で実現できた。ちなみに本作では、撃墜した敵機がすぐに見えなくなるとシューティングとしてのやり応えがないとの判断から、撃墜した機体は3秒程度破壊が見られるようにしている。気持よさを味わえるようにしているとのことで、『エースコンバット アサルト・ホライゾン』をプレイした暁には、こだわりの“破壊表現”をじっくりと堪能してみてほしいところだ。

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●近接表現の充実

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▲反町信哉氏。

 反町氏は、描画表現の変革として、“近接表現の導入と広域表現への融合”を説明。まずは『エース』シリーズを俯瞰して課題として挙げられたのが、「これまでのシリーズは中景や遠景が中心で、近景に弱い」、「いままでの手法ではゲーム中と地表のドラマが地続きの世界と信じられない」というもの。その対応作として導入されたのが、近接用のシェーダー(陰影処理をプログラムとして実行する技術)。こちらは接近戦に対応し、ゲームとデモを地続きの世界として表現することを可能にする技術。そのうえで、基本のライティングと基本マテリアルを構築することで、空間の中の実在感と立体感を増大させ、統一した世界観を構築できるレギュレーションを整えることができたのだとか。さらに、近接や広域、デモなどのすべてのケースに対応するために基本シェーダーの機能拡張も行い、最終的には効率的な品質アップを実現できたとのことだ。

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●秘密兵器が“PREVIS”

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▲糸見功輔氏。

 続いて登壇した糸見氏が掲げた命題は「エースコンバットフランチャイズを再活性化させる」というもの。そのための道筋はふたつ。「国内海外双方に向けた製品であること」と「TPS(三人称視点シューティング)、FPS(一人称視点シューティング)の市場で互角に渡り合える、新しいフライトシューティングゲームを創出すること」だ。このふたつの実現に向けてアイデアは浮かぶも、スタッフ間で完成に向けてのイメージが共有できず、開発は難航。プロジェクト自体が暗礁に乗り上げようとしていた。そんなときに導入された秘密兵器が“PREVIS(プレビジュアライゼーション)”だ。糸見氏いわく“PREVIS”とは、「複雑なシーンの制作初期段階において、必要な制作工程・問題点を洗い出し、スタッフ間での最終イメージ共有を図り、実制作の作業効率を上げるために低コストで作成された簡易イメージ映像(または画像)」という、まさに便利づくめのツール。これにより、実際のプレイ画面に近い形でのイメージ映像などが実現可能となり、スタッフ間のコンセプトの共有などが図られることになった。

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▲“PREVIS”で制作された開発初期に制作されたイメージ動画。こういった動画によりイメージの共有を図った。

 また、海外市場に向けての作品であることから、「その国のことはその国の人に聞かないとわからない」との判断から、社内のアメリカ人プロデューサーを“グローバル開発プロデューサー”として起用し、キャラクタービジュアル、シナリオのスーパーバイザーを担当してもらうことに。さらに、海外作家、海外スタジオとのコラボも展開。アメリカの軍事小説家であるジム・ディフェリカ氏と共同でシナリオ制作を行うことに。とはいえ、キモはシナリオ制作をすべてディフェリカ氏に任せるのではなく、あくまでチーム主導で行ったこと。ディフェリカ氏とチームは緻密にやり取りを行い、すべてのシナリオを完成させた。そのほか、キャラクターデザインを『inFAMOUS(インファマス)』を手がけたジャスティン“コロ”カーフマン氏に依頼したり、演出監督に『アンチャーテッド』のカットシーンを担当したクリス・ジマーマン氏やゴードン・ハント氏を起用するなど、一流どころとのコラボを実現。作品の質を高めることに成功する。

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▲シナリオライターとの緻密なやりとりにより、シナリオが完成された。

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 なお、カットシーンのベースとなる“パフォーマンスキャプチャー”においても、大いに威力を発揮したのがさきほど紹介した“PREVIS”。(1 )シーンごとに“PREVIS”(簡易CG+コンテ)を流し、簡単な流れを説明→(2)監督やアクターとともに細かい演技プランを決めていく→(3)必要であれば、文化の違いによる違和感をなくすためにセリフやアクションをその場で変更していく→(4)リハーサル→(5)本番収録という段取りを踏むことで、納得のいく撮影を実現することに。ちなみに、糸見氏は、冗談に対するツッコミで相手の頭をはたいたところ、「アメリカ人はこんなことはしない」との理由からNGを食らったのだとか。文化の違いによる違和感をなくした一例だ。

 最後に再び登壇した菅野氏は、「シリーズ作の“セオリー”は強力な重力で、突破するのは覚悟がいります。しかしお客さんが期待しているのはけっして“前と同じ体験”ではありません。開発内部には“どう変えるか”ではなくて、“どのような製品なのか”をはっきりさせるべきです」とまとめた。そして菅野氏が表明したのが20代の若い開発者への期待。「常識にとらわれない20代の発想力はいまの開発にもっとも重要です」とコメントした。事実、『エースコンバット アサルト・ホライゾン』は20代の開発者が大活躍したそうで、若い感性が築き上げたシリーズ最新作がますます楽しみになった。

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▲講演の最後には“ビジュアルワークスの俯瞰”として、東京の街並みが披露された。この作り込みには鳥肌が立った!