●最小の労力で最大の成果が出る仕組みを作り、それを最大の努力で運営
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2011年9月6日〜8日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的としたCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス) 2011が開催されている。
本稿では、開催初日に行われたセッション“『週刊トロ・ステーション』のつくりかた 〜1200回配信を可能にする制作体制とビジネスモデル〜”の模様をリポートしよう。
講師として壇上に立ったのは『どこでもいっしょ』のプロデュースを手掛けるソニー・コンピュータエンタテインメント JAPAN Studio 制作部 プロデュースグループ アソシエイトプロデューサーの伴哲氏。セッションでは『まいにちいっしょ』から新サービス『週刊トロ・ステーション』へ至った歴史や、数字で見る『週刊トロ・ステーション』、そして気になる制作体制についてやコラボレーションに関する内容が語られた。
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『週刊トロ・ステーション』は、プレイステーション3用のコンテンツとして『まいにちいっしょ』というタイトルで2006年11月11日からスタートした。当時は、プレイステーション3を毎日起動してもらう、ユーザーに気楽にアイテム課金を体験してもらう、プレイステーション3の新機能をイチ早く取り入れることが目的とされた。その目的のため下記のよう施策が取られたという。
・毎日起動してもらう→毎日ニュースを配信
・気楽にアイテム課金をしてもらう→低額アイテムを多数リリース
・PS3の新機能をイチ早く取り入れる→定期的なアップデート
そして、2008年にはPSP(プレイステーション・ポータブル)版のPlayStation Store用に同ハード版をリリース。2009年3月時点では『まいにちいっしょ』の配信は約850回になり、当初の目的を達成したとの判断で、2009年には“第2ステージ”、つまり現在の『週刊トロ・ステーション』へと進むことになる。
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『まいにちいっしょ』がプレイステーション3でのネットワークの啓蒙という観点からスタートしたが、次のステージでは“ネットワークの成功”へとテーマが変わる。そこで、まず『まいにちいっしょ』の問題点をピックアップすると、実験重視のアップデートのくり返しによって機能が多過ぎてユーザーが混乱しているという点が改善点として挙げられた。さらにユーザーが土日の休日にまとめてトロ・ステーションを観ているというデータから、毎日配信をやめることを決定。毎日配信をやめることについては、スタッフ間でも意見が分かれたというが、最終的には週末にまとめて観るというユーザーの視聴スタイルを重視し、週刊での配信となったという。また、同時にスタートしたプラチニャ会員(月額料金を払うことで、さまざまな恩恵が受けられる)については、1ヵ月の月額課金が800円という料金設定について「高い」との声もあったというが、コアなユーザー向けが月に費やす平均金額よりは安く設定したため、その後の調査で利用者の満足度は高いというデータが出ているという。さらに『まいにちいっしょ』で得意だったこと、評価されていたことに特化。最小の労力で最大の成果が出る仕組みを作り、それを最大の努力で運営するというコンセプトで、2009年に再スタートを切った。
新たな戦略が奏功し、現在『週刊トロ・ステーション』は、近日累計100万ダウンロードを突破する勢い。サービス開始1年で『まいにちいっしょ』の総アカウント数を超えるという。ちなみに『まいにちいっしょ』からの配信回数は2011年8月末現在で1205回、制作本数は1676本で、“コンソールゲーム機で最も多く更新をしたニュースサービスとしてギネス世界記録にも認定された。
▲『トロ・ステ』のニュース制作を積み重ねて、驚異的な数字に。これだけ回数を重ねても、日々新しいゲームもリリースされるため、ネタ不足にはならないという。ただ、続編など同じような紹介の切り口になったり、似たような構成のニュースにならないように差別化する苦労はあるという。 |
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■『トロステ』の制作体制
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セッションの後半は、そんな『週刊トロ・ステーション』の制作体制が紹介された。同コンテンツの制作体制はこれまであまり語られていないので、読者も興味深いところだろう。
『週刊トロ・ステーション』は、『どこでもいっしょ』シリーズを制作したビサイドが開発している。『週刊トロ・ステーション』に関わるスタッフとしてはプロジェクトマネージャーを筆頭にプランナーが7名、専業ライターが3〜5名、デザイナーが1名、プログラマーが1名と、時期によって変動するというが基本的にかなり小規模。このチーム体制は、『まいにちいっしょ』のころから変わっていないという。
ニュースのネタ決めやスケジュールは、1ヵ月分の番組表を決める“トロステ編成会議”で決定される。ニュースの制作には5週間前から動き出し、まずはライターが取材。取材から1週間後(配信4週前)、ライターの原稿をもとにプランナーがシナリオ化して、トロステを2週間かけて制作。最初に完成した“初稿”をデバッグや権利元などのチェックを経てようやく配信という流れになる。伴氏は制作にゲームスタッフだけではなく、ライター業を生業としているスタッフが加わっていることを『トロ・ステ』の特徴のひとつとして挙げる。ライターには、ゲーム雑誌のライターやテレビ・ラジオの放送作家であったりと幅広いライターが参加しているという。これにより、ゲーム以外の切り口、雑学を盛り込んだニュースの制作が可能になっているとのことだ。
▲シナリオは紙に書くのではなく、スクリプト上に組み込む形で作り上げられる。そのため、初稿の段階で配信される『トロステ』と同じような状態となる。権利者へはそれを録画して、Web動画としてチェックに出せるため、『トロステ』自体の説明も省け、イメージも伝えやすいというメリットがあるという。 |
▲アンケートで得られたユーザーからの意見や嗜好も、扱うニュース選びなどの参考にしているという。 |
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▲『トロ・ステ』の制作スタッフが実際に紹介するゲームをプレイして紹介するポイントを構成しているため、同じゲーム開発者だからこそわかる視点での紹介となる。そこがメーカー側にも好評だという。 |
最後に、伴氏はこれまで培ってきたノウハウを活かして、週刊トロ・ステーションチームの新しいチャレンジとして、PlayStation Vita(プレイステーション ヴィータ)向けに「タイトルなど何も言えないのですが、新しいコンセプトのものを近日中に公開させていただければと思っております」とサプライズ発言を残して、本セッションを終了した。
プラチニャ会員などコアユーザー向けの課金システムを作り“最小の労力で最大の成果が出る仕組みを作り、それを最大の努力で運営”している基本無料の『週刊トロ・ステーション』。ソーシャルゲームと似たようなビジネスモデルとして、プレイステーションフォーマットで成立しているという点が興味深く、“PlayStation Vitaでの新たな挑戦”となる新コンテンツにも大いに注目したいところだ。
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