『NARAKA: BLADEPOINT』制作秘話。剣や太刀、弓などで戦うアジアンテイストなバトロワはこうして生まれた

文:佐藤ポン

公開日時:2021-12-01 18:00:00

 現在好評配信中の、剣戟アクションバトルロワイヤルゲーム『NARAKA: BLADEPOINT』。連載3回目の今回は、本作を開発したプロデューサーの関磊(カン ライ)氏にインタビューを行った。従来のバトロワとは世界観が大きく異なる『NARAKA』。銃火器ではなく近接武器に重きを置いたゲームシステムの理由や、中国文化の“武侠作品”についてもお話を伺った。

『NARAKA: BLADEPOINT』制作秘話。剣や太刀、弓などで戦うアジアンテイストなバトロワはこうして生まれた

バトロワの重要な要素は“運”と“安全地帯”

――『NARAKA』を開発したきっかけについて、お聞かせください。

関磊 『NARAKA』のゲームデザインは、私が2003年に制作に参加したPCオンラインゲーム『流星胡蝶剣』がもとになっています。

――『流星胡蝶剣』は、どのようなゲームですか?

関磊 簡単に説明すると、武侠モノの対戦型マルチプレイアクション格闘ゲームです。プレイヤーはさまざまな武器の中から好きなものを選び、オープンワールドのマップ内で戦います。壁をよじ登ったり屋根に飛び乗ったり、自由度の高いアクションをしながら追跡、戦闘を楽しめるゲームでした。

――その移動方法は『NARAKA』と通じるものがありますね!

関磊 もう何年もの月日が経っていますが、このゲームはいまだ多くのプレイヤーの記憶の中に残っていて、たくさんの人がゲーム性に深い愛着をもっています。バトロワ系ゲームが登場した時、私は当時の『流星胡蝶剣』がバトロワゲームと多くの共通点を持っていたことに気付き、そこからヒントを得て、『NARAKA』を新たに作り出しました。

『NARAKA: BLADEPOINT』制作秘話。剣や太刀、弓などで戦うアジアンテイストなバトロワはこうして生まれた

2003年にリリースされたPCオンラインゲーム『流星胡蝶剣』。

――昨今は多くのバトロワゲームが流行っていますが、どのように分析していますか?

関磊 バトロワ系ゲームの真のおもしろさは“ランダム性”にあると思います。ゲームがスタートし、順調に勝ち進んでいけるかどうかは、その時々の運にかかっています。ですので、プレイヤーの挫折感も少なく、失敗しても再び挑戦しようという気になります。次回は自分に運が回ってくる可能性があるわけですから。

――確かに“運”も重要な要素だと思います。

関磊 これは『流星胡蝶剣』にはなかった特徴です。昔の格闘ゲームは“闘いの公正さ”を過度に重んじる傾向があり、スキルの足りないプレイヤーが達成感を得るのは難しかったと思います。

――ハンデをつけない限り、両者が同じ条件で戦うのが格ゲーですよね。

関磊 バトロワゲームのもうひとつのポイントとなる要素として“安全地帯”があります。徐々に縮小してくる安全地帯は、1回1回のプレイに緊張感をもたらしてくれます。この仕組みがあるおかげで、最後まで戦いを避けることはできません。

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――その通りだと思います。

関磊 もしも『流星胡蝶剣』をそのままバトロワにしたら、アクションの自由度が高すぎて、なかなか決着がつかなかったと思います。壁を登ったり屋根を飛び越えて逃げ続けられますから。『NARAKA』の開発で気をつけた点は、『流星胡蝶剣』の核となるゲーム性は基礎にしつつ、バトロワのよい部分を取り入れたところです。具体的には“敷居の低さ”と“ランダム性の強化”です。こうすることで、さまざまな腕前のプレイヤーが勝利の達成感を得られるようになるのではないかと思ったんです。すべてのプレイヤーが純粋に冷兵器(火薬を使わない武器)による戦闘の魅力を味わえるよう、重点を置いて開発しています。

――『NARAKA』はバトロワでありながら近接戦闘が多いのが斬新と感じました。これは当初から狙ったシステムでしょうか?

関磊 はい。プロジェクト立ち上げ当初から、“冷兵器”で戦うバトロワとして開発を進めました。しかし、結果から言えば、このゲームは決して“近接戦闘”というテーマに限られたものにはなっていません。

――そうですね。弓や大砲など、遠距離武器も豊富に揃っています。

関磊 とくにリリース当初は、近接武器よりも遠隔武器のほうが遥かに多かったんです。このようなバランスになった理由は、ハードコアアクションゲームのプレイヤーだけでなく、昨今のバトロワファンにも訴求したかったからです。近接武器だけしか登場しないゲームでは、従来のバトロワファンを惹きつけるのは難しいのではないか……と判断しました。

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――武器の種類をバトロワの流行に合わせたのですね。

関磊 武器の種類だけでなく、似たような調整は枚挙にいとまがないほど実施しています。ゲームの開発過程において、初心を曲げないことは大切ですが、同時に大きな柔軟性をもたせることも重要です。

――SFの世界観が多いバトロワゲームですが、『NARAKA』は武侠です。当初から注目されたのでは?

関磊 ゲームのジャンルと世界観は、必ずしも関連付けなくてもよいと思っています。世界観は各タイトルごとのイメージを持っているわけですから。そして『NARAKA』の世界観について言うと、じつはとくに“武侠”を強調しているわけではありません。

――そうだったのですね。それは失礼しました!

関磊 私たちの目的は、『NARAKA』を全世界のプレイヤーに楽しんでもらうことです。この目標の達成を考えると、“武侠”は必ずしもベストな選択ではないと思っていました。ですので、武侠よりも広い意味を持つ“オリエンタル”な世界観を選びました。世界観を広く設定しておけば、英雄たちの見た目やアクションなどを作るとき、デザインの幅を広く持たせられますから。

――確かに“テムル”や“三娘”のデザインは、武侠ではありませんね。

関磊 はい。しかし『NARAKA』に登場する英雄は武侠風な人物が多数を占め、また近接武器とアクションも武術的色彩が濃いデザインになっています。プレイヤーのみなさんに“武侠モノのタイトル”という第一印象を与えているのも確かです。もちろん、このゲームで中国の武侠文化を世界中に伝えることができるのなら、私たちにとっても大変喜ばしいことです。

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NARAKA』の開発に影響を与えた作品は存在する!?

――小説や映画、アニメなどで、お好きな武侠作品は? また、参考にした作品はありますか?

関磊 学生時代、金庸と古龍の武侠小説はすべての人の必読書と言っても過言ではないほど読まれていました。彼らの作品の世界観は、多くの学生たちを惹きつけました。その中からあえて作品を選ぶなら、『神雕侠侶』が好きですね。私が初めて読んだ武侠小説でした。『神雕侠侶』は小説だけに留まらず、ドラマや映画にもなり、当時のエンターテイメント業界は彼らの作品で溢れていた記憶があります。日本の『機動戦士ガンダム』にも影響を及ぼしたほどです。

――あら! 小説以外でお好きな作品は?

関磊 香港系の武侠漫画が大好きでした。馬栄成の初期作品『風雲』は私の一番好きな武侠漫画です。

――では、いま挙げていただいた作品群が、『NARAKA』の参考になった?

関磊 いえ、『NARAKA』がこれらの作品を参考にしているかというと、「参考にしていない」とも言えますし「全部参考にしている」とも言えます(笑)。『NARAKA』は私のオリジナル作品ですが、私はさまざまな作家の作品に触れながら育ってきています。ですので、特定の作品を意識して開発しているわけではありませんが、「何も参考にしていない」と言い切ることもできません。人の考えとその人の成長過程は、切り離せないものでしょう?

――おっしゃる通りだと思います。

関磊 私はこの世に“独創性”などないと思っているんです。あるのは、出てきた発想やアイデアがその作品にふさわしいか、ふさわしくないか、ということだけだと思います。

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開発当初、武者の固有のスキルは存在しなかった

――武者のデザインがおもしろく感じました。

関磊 ありがとうございます。武者のデザインには紆余曲折がありました。いまみなさんがゲームで見ている姿は、最初に計画していたものとはかなり異なっています。また、キャラクターは見た目が異なるだけで、スキルなどは存在していませんでした。

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――キャラクターはどのように作られたのでしょうか?

関磊 キャラクターデザインは“ストーリー”から考えました。プレイヤーのみなさんに世界観や登場人物に興味を持っていただきたかったからです。作業の工程はまず、作家が男性キャラクター3名、女性キャラクター3名のストーリーと人物背景を書き、続いて美術責任者がキャラクターの全体的な雰囲気を決定しました。そして、数名のデザイナーがストーリーと人物設定に沿って魅力的なキャラクターにデザインし、さらに大規模な人員投入をしてモデリングに入りました。

――かなり計画的に行われて作ったのですね。

関磊 しかし、こうした開発過程で、RPGやMOBAの影響なのでしょうか、プレイヤーは各キャラに個別のスキルがあることを望んでいることを知りました。そこで企画担当者たちが、すでに出来上がっていたキャラクターたちにそれぞれのスキルを付け足していったのです。この製作過程は非常にきつかったですね(笑)。ゲーム性と同時に、各キャラクターの持つテーマも維持しなければならなかったわけですから。

――制限が多そうに感じます。

関磊 モデリングが完了していたので、「はい、要りません」という訳にもいきません。いまあるようなゲーム性がプレイヤーに受け入れられると検証できた後、武者のデザインもようやく軌道に戻りました。作家がストーリー背景を書き、ゲーム企画担当がそれに対応するスキルを設計し、続いてデザイナーがこれらの情報から外見の輪郭を組み立て、皆で話し合い共通認識が得られた後に実際の製作に入っていったのです。

――開発でもっとも気をつけた点はどこでしょうか?

関磊 開発チームのメンバーそれぞれ答えは異なると思います。どれも重要な要素ですし、どれもチーム内の専門家が心血を注ぎながら練り上げていかなければできあがらないものですから。ただ私個人としては、“アクションの設計”にもっとも注意を払いました。

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――アクションですか?

関磊 アクションゲームは動きのリズムが違えば、まったく異なるゲームに仕上がります。従って、「このアクションには真実味がない」といった意見を聞くたびに、私は悩み続けました。理由は、私たちはアクションによってゲーム性を作りあげるのであり、真実味の度合いは目的ではありません。プレイヤーの受け入れ度合いや、なりきり感を高めることができるので、真実味の追求はある程度必要でしょう。しかし、真実味のある描写が自分たちの目指すゲーム性と合致しないのであれば、真実味のある表現をあきらめ、ゲーム性を追求するようにデザイナーに要求してきました。

――ゲームならではの表現方法はありますからね。

関磊 もちろん、両者のバランスをとれるよう全力を尽くしています。非常にチャレンジングな作業でしたが、じつにおもしろい作業でもあります。

――そのほか、開発で苦労したことは?

関磊 私たちだけでなく、この業界の今日までの歴史の中で、ゲーム開発が容易なことなどなかったと思います。ゲーム開発の複雑さと投資利益率はまったく比例しないと思います。開発チームはややもすれば100人規模、開発期間も3年~5年はざらですし、人員の流動率に至っては、私は365日毎日採用面接をしている気分にさえなります。

――365日、毎日面接とはすごいですね!

関磊 ゲームが世に出るには、投資者の目利きと勇気、辛抱を必要とします。そして才能と夢を持ったメンバーを揃え、重責にも耐えられる人材を集めなければなりません。決められた通りに計画を実行する能力も必要ですし、同時にその計画はゲーム配信後のプレイヤーの期待を予測し、それに応えられるものでなければならないのです。

――『NARAKA』開発チームに、誇りを持っているように受け取れます。

関磊 ですから、改めてチームのみんなの長きにわたる努力に感謝したいと思います。また、プレイヤーのみなさんには、テスト実施のたびに本当にたくさんの応援とご意見をいただきました。改めて御礼を申し上げます。プレイヤーのみなさんのおかげで、私たちもこれまで苦労はすべて無駄ではなかったと、価値のあるものだと実感できるのです。

PS5版を開発中。他作品とのコラボや新キャラクターなども

――リリースしてからの反響はいかがですか?

関磊 『NARAKA』はSteamで、8週連続全世界販売トップ5に入りました。毎日の同時オンライン人数もSteamのトップ6に安定してランクインしています。しかもそこにはほかのプラットフォームのプレイヤー数は含まれていないのです。また、最近ではGamesRadar社の“ゴールデンジョイスティックアワード”の“ベスト・マルチプレイヤーゲーム賞”にノミネートされました。

――輝かしい成績です。プレイヤーからの印象的なフィードバックがありましたら、お教えください。

関磊 印象深かったフィードバックは、やはりプレイヤーのみなさんがさまざまなコミュニティーや動画サイトで、『NARAKA』のゲームに対する愛着を表現してくれたことでしょう。コンボの研究であったり、いろいろな変わったキャラクターメイクであったり、それからコミュニティが開催するたくさんの試合など、すべて私たちチーム一同の励みになっています。


――日本人プレイヤーの特徴はどのように感じていますか?

関磊 日本のプレイヤーの皆さんからいただいた反響は想像以上でした。日本ではPvEによる共闘タイプのゲームのほうが好まれると思っていたのですが、『NARAKA』は日本のみなさんからもよい反響をいただくことができました。さまざまなタイプのゲームになじんでいる日本人プレイヤーからは、ほかの国と地域のみなさんと同様、『NARAKA』の独特なゲーム性や美しく精緻なグラフィックに高い評価をいただいたことは、大きな喜びです。もちろん、私たちも日本の皆さんはPCオンラインゲームよりも家庭用ゲームのほうを好むことは知っているので、現在家庭用ゲーム機版の制作を急いでいる最中です。

――昨今のバトロワは他作品とのコラボをよく目にします。『NARAKA』でもコラボは考えていますか?

関磊 ゲームコラボは私たちも同時に計画を進めています。当然世界的に有名なゲームとコラボしたいと思っています。ぜひ今後の情報にご期待ください!

――まだ伺うには早いですが、今後の予定をお聞かせください。

関磊 プレイヤーからフィードバックをいただいた点について、引き続き最適化を行っていき、1シーズン3ヵ月の更新頻度も保っていきます。新しいキャラクター、武器、プレイモードなど、さまざまコンテンツをご用意しており、また新しいマップも開発中です。

――最後にファミ通の読者にメッセージをお願いします。

関磊 私は小さいころからコンシューマー系ゲームに親しんできました。そして、ゲームに関する最新かつもっとも揃った情報がほしいときに見ていたのが、まさにファミ通でした。豊富で充実した内容を見ては、いつもお小遣いを使い果たし、各ゲーム機の新しいゲームを遊び尽くしてきました(笑)。あのころの私は、こうしてファミ通のインタビューに答える日が来ようとは思ってもみなかったでしょう! 今回のインタビューで、読者のみなさんが『NARAKA』に興味を持ってくださること、そして『NARAKA』が皆さんのアクションゲームに対するさまざまな期待や想像に応え、リズム感あふれる爽快なゲームとふたりでのフレンドとのチームチャットを楽しんでいただき、さらにはゲームで新しいフレンドを見つけられるよう願っています!

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