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『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった

『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった
 セガより2027年に発売予定のドライビングアクションゲーム『クレイジータクシー:ワールドツアー』。Nitendo Switch 2、プレイステーション5、XBOX Series X|S、PC(Steam、XBOX on PC)に対応する、はちゃめちゃすぎるゲームだ。
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 本記事では開発を手掛ける菅野顕二クリエイティブプロデューサーと、百渓曜ディレクターへのインタビューをお届け。メディア向けの日本マップが遊べる試遊版をもとに、開発秘話をお聞きした。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった

菅野顕二かんの けんじ

『クレイジータクシー:ワールドツアー』クリエイティブプロデューサー。初代『クレイジータクシー』ではディレクター兼ゲームデザイナーを務めていた。文中は菅野。

百渓曜氏ももたに よう

『クレイジータクシー ワールドツアー』ディレクター。かつては『ボーダーブレイク』シリーズのディレクターを務めていた。文中は百渓。

スタッフ総出で考えた“クレイジー”

――試遊させていただき、すごく驚きました。現代では車で暴走するゲームは当たり前に存在しますし、どうクレイジーにするのか気になっていたところ、すっげぇクレイジーでした。

菅野
 ありがとうございます。私は「『クレイジータクシー』ってこういうものだよね」と固定観念を持っていた部分もあり、チームに参加している同じような世代にも、ある程度『クレイジータクシー』とはこういうものであるという共通認識があるはずです。

 ただ、本作には若いスタッフが非常に多いんですよ。20~30代のスタッフたちから、『クレイジータクシー』はどうすべきかとフレッシュな意見が飛ぶことも多々ありました。何を残すべきか、何を新しくするのか、どこまでやったら“クレイジー”なのか。何度も議論を重ねて制作してきました。

 本当に何度も何度も議論していまの形に落ち着いたんです。すべての世代のスタッフたちが同じテーブルで議論を重ね続けたからこそ、驚いてもらえたのだと思いますね。“クレイジー”なんて名が付いているからこそ、タイトル負けしないように、どう“クレイジー”にするのか全員が本気で考えた結果なのではないでしょうか。

――そんな本作ならではのカーアクションを、どうやって現在の手触りへ落とし込んでいったのでしょうか。

百渓
 まず考えたのは、『クレイジータクシー』がもともと持つ要素を、しっかりと拡張しようと。『クレイジータクシー』はドライブゲームであると同時に、アクションゲームの側面もあります。“クレイジー”と名の付いた多彩なテクニックがありますからね。

 もともとの操作方法は、ハンドルとシフトレバー、アクセルやブレーキがついた体感型(第1作は1999年2月にアーケードゲームとしてリリース)。本作ではパッド操作をメインに考えて、操作周りはかなり変えています。変えてはいますが、アクションゲームのような感覚は絶対に失わないように気を付けました。

 旧作の各種テクニックには上級者向けの面があって、操作自体がそもそも難しかったんですよね。それをより幅広いプレイヤーでも楽しめるように、両立させています。

――とくに“アクショントリガー”ボタンが重要ですよね。各種アクションと織り交ぜることで、操作が忙しいんですけれども、比較的簡単に高速で走り回れるのが楽しかったです。

百渓
 急発進や加速ができる“クレイジーダッシュ”や、急停止する“クレイジーストップ”など、基本は旧作からあったアクションです。ただ、旧作ではそれが複雑な要因にもなっていました。

 今回は「もっとたくさんのテクニックを気軽に使ってもらおう」と広げていきました。もとはアーケードゲームで、体感型コントローラーですからね。シフトレバーとペダル操作を組み合わせて使いこなす必要があり、難しいからこそ成功したときのメリットが大きいデザインだったと思うんです。そこは設計した菅野のほうが詳しいと思いますが。

菅野
 車は基本的に曲線を描いて曲がりますよね。ドリフトした場合もそうです。『クレイジータクシー』では直角に曲がるように、どうしてもしたかったんですよ。映画的な走りにできたら気持ちいいじゃないですか。で、かっこつけられる操作を重んじたわけです。

――かっこつける?

菅野
 それを実現したくて“クレイジーダッシュ”を付けたのですが、どちらかというと操作自体に主体を置きました。片手でハンドルを持ち、もう片方の手はレバーを上下にカカッと動かして、急加速で直角に曲がる。これを操作している自分がかっこいい! と。

 家庭用版ではそのままのシステムで移植したため、ボタン操作だとかなり難しいシステムになっていました。一度根本からリセットできる機会だったこともあり、自分のほうから「もっと簡単なシステムにしてよ!」と丸投げした結果、うまい塩梅にしてくれました(笑)。
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――高速で走り回れる爽快感を味わえる要因のひとつが、障害物やら一般車が当たってもほとんどロスにならないぐらい、全部ブッ飛ばせることだと感じました。

百渓
 旧作にあったマップも再現していますが、旧作で壊せなかったものはそのまま引き継いだ表現でもいいのでは、という話もありました。ただ、菅野が「全部ぶっ飛ばせるようにしてもいいんじゃないか」と言い出しまして。そこからより快適に、爽快ドライブが楽しめる方向に振り切りました。

菅野
 年を取ったからなのか、なんか全部ブッ飛ばせたほうがいいんじゃないかって思ったんですよね(笑)。ゲーム的に障害物は必要だろうみたいな話はわかるんですけど、もう要らなくない? みたいな。

――思い切りがすごい。

菅野
 賛否両論あったんですよ。車にぶつかっても「ティッシュ箱に当たったみたいな感覚で嫌だ」みたいな意見もありましたし。そこの重みがあることよりも、まあなんかバーンと飛ばせたほうが気持ちいいよねと。

 もともと昔のゲームですからね。(第1作の開発)当時は開発環境やマシンスペックですとか、いろいろな縛りはありました。アーケードゲームなので、もう100円入れてほしいという意識もあります。どこまでスコアを稼げるかみたいな遊びはありつつも、失敗しても再チャレンジさせなきゃいけない部分もあって。ですから旧作は、障害物はやはり必要だろうと考えてレベルデザインした結果だと思います。
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――ぶつかるとちょっとだけスピードが下がりますよね。障害物としての役割は残っているのが、うまい調整だなと感じます。派手さに特化した仕様に見えて、細かいところでしっかりと身に付けたテクニックが評価されるのだなと。

百渓
 突き詰めると、多少のロスがあるので障害にならないわけではありません。障害物によっても差はあって、それをどう回避するのか、どうアプローチするのかで差が出るゲーム性になるように設計しました。一部ミッションは最高評価を得るのに難しい部分もありますので、ドラテクが活きるやり込みの奥深さを感じてほしいです。

菅野
 『クレイジータクシー』はバカバカしいゲームに見えますよね。でも、じつはプレイしていくとかなりスキルが試されるゲームなんです。何度も何度もくり返してうまくなっていくように設計していますから。障害物をぶっ飛ばせるようにはなっていますが、突き詰めると本当にテクニックが必要。そういった深みをデザインしてくれたので、今回のスタッフたちはすごいですよ。

――実現には、もちろん苦労もあったと思いますが。

百渓
 そこは土台作りの部分で、かなり最初から決まっていた部分でもありますね。

菅野
 今回は家庭用ゲームですし、世界中の幅広いプレイヤーに遊んでほしい。そう考えると、入り口は広ければ広いほどいいので、爽快に走れる仕組みは必須でした。そして、長く遊んでもらうためにも、高みを目指せる歯応えや奥深さがほしいよねと話していましたね。
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菅野
 と、簡単は言ってはいますが、実際には実現するのは難しいところがあって。いちばんたいへんなのが、レースゲームやドライブゲームの“走行”の部分。いちばん最初に決めないといけなくて、いちばん時間の掛かる部分なんですよ。

――なるほど。それはたしかにそうですよね。

菅野
 その“走行”がベースにあったうえで、どんなアクションが出せるのか、どこを走るのか、何ができるのか。みたいなことを組み立てていくので、ベースを決めるのはたいへんでした。

百渓
 “走行”部分には、セガ社内でもレジェンドクラスの、ベテラン中のベテランスタッフたちが関わっていたりと、とても大事なものとして作り上げていきました。完成したと思っても、ゲーム側の要素が増えればまた調整が必要になります。何度も何度も作り直し続けました。

――そのベテランスタッフさんの経歴は伺っても大丈夫ですか?

百渓
 すみません。詳細はお伝えできないんですけど、現在セガで発売しているレーシングゲームを作っている方々とは、また別のメンバーです。昔レースゲームを作った経験があったり、それはもういろいろなゲームに関わっていて。プログラムもできるし、モーションも自分で作れて、企画だってできる。それこそ何でもこなせる人なんです。

――御社を取材すると、よく“じつはものすごいスタッフがいる”話が出てくるんですよね。

菅野
 クリエイティビティが高くて、サービス精神あふれる人間が多いんですよ、昔から。お願いしたことを、お願いされたこと以上に返したい人たちばかり。そもそも“SEGA”は“サービスゲームス(SErvice GAmes)”ですしね(笑)。

 これは、ベテランに限らず、若いスタッフもそうです。今回は3~4年目のスタッフが中核を担っていますし。本当にパワフルで、アイデアもおもしろくて。エネルギッシュなパワーが詰め込まれたタイトルになったと思います。
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緻密に計算されたゲーム設計

――従来のアーケード的な、タクシーとしての遊びやお金稼ぎがRPGのように車の強化につながっているのが、とても遊びやすかったです。それで車を強くしてミッションをこなし、ストーリーを進めていくような。

菅野
 従来の遊びがそのままゲーム進行に組み込まれているのがいいですよね。じつはかなり苦労したポイントでもあって、試行錯誤を重ねているのを見ています。私としては、アイデアが固まってしまうのはよくないので、「従来の遊びは壊してしまってもいい」と言っていたんですよ。

 ですが、百渓は「お客を目的地に届けるという、従来のタクシー遊びは絶対に守るべきだ。そこがいちばんアドレナリンの出る部分だ」と言って、壊さずに守ってくれた。生みの親としてすごくうれしかったですね。

百渓
 最初はもう少し緩やかなゲーム性にしようかみたいな案もあったんです。でも、どうしてもうまくいかない。そこで、もう一度チームメンバーを集めて、「『クレイジータクシー』とは何なのか、何がおもしろいタイトルなのか」と改めて洗い出して、いまの形に落ち着きました。ですから正確には、僕が守ったというよりは“チームみんなで壊さないことにした”が近いと思います。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった
――お客を運ぶ以外の遊びがメインだった時期もあったということですか? たとえば、ミッションをつぎつぎこなしたり。

百渓
 そういう設計のときもありましたね。ですが、やはり『クレイジータクシー』として全体を引き締めるものは、タクシー業務だと思うんです。制限時間に追われながら客を届けるために、集中してタクシー業務に挑む。従来の魅力がベースにあるべきだと考えました。

――それでお金を稼いで、さらに速くなって。バラエティ豊かなミッションにも挑めるようになっていくと。ミッションの内容は、まさに『クレイジータクシー』らしさがあってとても楽しかったです。

百渓
 ありがとうございます。ミッション要素は旧作にはなかったのですが、『クレイジータクシー』らしさを出すにはどうしたらいいのか全員で考え抜いたものですから、『クレイジータクシー』らしいと言っていただけるのが、とてもうれしいんです。

菅野
 本当にバラエティ豊か。ピザを届けたり、ゴミ拾いしたりとか、もうたくさんのアイデアが盛り込まれているので「つぎは何が来るんだろう!?」と、わくわくしていました。「こういうのはどう?」と出したら真剣に考えてくれましたし。

 こういうところから、『クレイジータクシー』を超える『クレイジータクシー』が生まれてくるんですよ。生みの親としてはとてもうれしく思いつつ、ドキドキもありましたが(笑)。「『クレイジータクシー』の要素を壊してもいい」と言っていたのに、それを超えて全員が踏み込んでくるんですよ。これは本当にすごい。

 “『クレイジータクシー』とはこうあるべきである”みたいな概念に囚われてしまうと、それは旧作の焼き直し。皆さんが喜ぶ形で「『クレイジータクシー』らしいね!」と言っていただけるのは、とてもうれしいことです。

――従来の遊びを残しつつも、しっかり現代的なゲームになっていたのも驚きました。スコア稼ぎゲームに留まらず、探索、育成、ミッションなど多彩なコンテンツが用意されていて。しかも、ストーリーもあるわけですよね。

菅野
 がんばりました(笑)。とてもゲームの全体像が広く見えますよね。スコア稼ぎのゲームであるという前提はありますが、ストーリーが加わることで、主人公のアクセルたちが生きている感覚ですとか、人間味が見えてきます。だから深みが増していく。

 ストーリー部分はかなりこだわって制作しています。旧作ではキャラクター造形や音楽などで世界観を構築していましたが、説明はありませんでした。もちろん、そういった部分から感じ取ってもらえたものもあると思います。

 アクセルたちはどんな思いでタクシー業をしているのか、世界はどう広がっていくのか。これはどうしてもやりたかったんです。まだお話できることは少ないのですが、私の作業としてはいちばん力を注いだ部分。遊びの部分は百渓たちがうまくやってくれたので、それが合わせることで、皆さんに楽しんでもらえるタイトルになったと思っています。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった
――今回の試遊ではドイツマップと日本マップを体験しました。広いと言えば広いのですが、ゲーム的にはコンパクトにまとめられていて、ちょうどよく遊びやすかったです。とても広大なマップを作ることも可能だったと思うのですが、現在の形にまとめた理由を教えてください。

菅野
 オープンワールドみたいな作りとは違うタイプのマップにしたいという話は最初からしていました。ワールドツアーですから、世界を旅する感覚がちゃんと味わえるような。ただ、“世界を回る”というコンセプトのために5マップ作るのもなかなかヘビーな作業でした。

 そこから試行錯誤を重ねて、適度な落としどころを探して、いまの大きさに落ち着きました。ちょうどいいと言っていただけてホッとしています。狭すぎると窮屈ですし、広すぎても遊びにくい。マップの構造自体もトライ&エラーのくり返しでした。

――タクシー運転手として「ここに行ってほしい」と言われたら、「ああ、あそこね」ってすぐルートが頭に構築されるような感覚が楽しめる、ちょうどいい大きさでした。

菅野
 無理せずスポットを覚えられる大きさにしたかったので、いい形になったと思います。

――まさにタクシー運転手ですよね。担当エリアの道にめちゃくちゃ詳しいっていう。クレイジーと言いながらも、しっかり職業体験ゲームなんですね。

菅野
 ゲームデザインはじつは意外にもしっかりしています(笑)。まあ、そんなことは考えてもらわなくてもよくて。「クレイジーって言ってるし、なんかとりあえず遊んでみようかな、楽しそうだな」と思ってもらえるのがいちばんです。

 そこから遊び続けると歯応えを感じて、気づいたら沼にハマってるようなゲームがいちばんいい。そういう話をしながら作りましたので、ちょっと難しさはありますが、間口は広いはずです。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった

日本マップの実装には反対だった

――日本マップにはいろいろな驚きが散りばめられていました。実在企業がそのままマップに登場するとか。『ソニックレーシング クロスワールド』にも同じような施策はありましたが。

菅野
 日本マップは、リアリティを出したいと思って多くの企業にご協力いただきました。セガも大きなグループ企業ですから、まさに『ソニックレーシング クロスワールド』などでもそうですし、各企業と連携を図っています。それもあって、多数の企業の店舗が登場するなど、自分たちだけではできない日本マップに仕上がりました。

 じつは日本マップを作ることに、私は反対していたんですけどね。ですが百渓は「絶対に出すべきだ」と。5つのマップを作る、その中のひとつが本当に日本でいいのか。日本ならではの魅力が『クレイジータクシー』として出せるのかなど、懸念点があったんです。「物足りないものになるのでは」とずっと言っていたので、百渓は私を説得するのに苦労したはずです(笑)。

 世界には7つの大陸あるのに、小さな島国の都市をフォーカスして、本当に楽しいものになるのか何度も確認しました。結果的には、首都高のような高速道路に、渋谷・センター街の密度の高い道路と、楽しいものになりました。

百渓
 本当に苦労しました。本当に本当に何度も反対されたんですよ(苦笑)。モチーフの国を決めるにあたって、最初に考えるのは走行体験の違いです。それぞれの国の特徴を活かして、ユニークな走行が楽しめるようになるべきですから。

 たとえば、旧作から続くアメリカ西海岸をモチーフにしたウェストコーストは、急な坂道があって大ジャンプもできたりと、象徴的なものがあります。走行体験をマップに組み込んだゲームですし、5つのバリエーションを持たせるべきだと思っていました。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった
百渓
 日本を選定したのも、日本ならではの特徴的な走行体験ができると思ってのことです。ただ、やはり難しさはあります。菅野によく言われたのは「日本人が作る日本だからこそ、リアルリティを求める結果になってしまうのでは」ということ。いま思うと、心配する気持ちもよくわかります。

――それでも、チャレンジしたかったわけですよね。

百渓
 とくに道路のつながりは苦労しました。何度も何度も組み替えて。日本マップは何となく見たことのあるような景色が広がっていますが、かなり道路はデフォルメしています。ゲームとしての脚色ですね。

――ドイツマップは比較的開けた場所が多かったですが、日本マップは道路も狭く、碁盤のようなコースだから直角に曲がるアクションが重要だったり。それでいて首都高もあって。

百渓
 そこはすごく意識して作りました。首都高も高速道路ではあるのですが、海外と違って狭いんですよね。ほかの国のマップとは異なるように、そしてエリアごとにもテーマを変えています。たとえば、センター街エリアは細々としていますが、競技場エリアはとても広い空間が広がっていて自由度の高い走りができる、ですとか。
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――試遊した感じ、渋谷が日本マップの中心ですよね。採用した理由を教えていただけますか。

百渓
 海外の方も多く訪れる場所ですし、見た目としてのわかりやすさは大事です。『ペルソナ5』などの舞台でもありますし、ゲーマーの方々にも伝わりやすい場所ですよね。馴染みのある場所を車で飛ばすのは気持ちいいだろうと。

――SHIBUYA109渋谷店がそのまま実名で出てきたので、許可を取ってるんだなと驚きました。

菅野
 確認せずにパロディにするより、聞いてみたらいいんじゃないかと思って。相談したら快諾してくださったんですよね。東京タワーや東京スカイツリーも出てきますが、それらも全部とりあえず聞いてみて、ご了承いただきました。じつはちょっと予想外でした。皆さん、好意的だなあと。

――“クレイジー”なゲームなのに(笑)。

百渓
 驚かれたかもしれないから、それはちょっと申し訳ないですね。でもやっぱり相談して正解でした。実在スポットや実店舗が入ることで見た目が締まるんです。完全再現しているゲームではないですが、何となくリアリティを感じて、本物っぽくなると言いますか。
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――店舗がめちゃくちゃ誇張されている点からも『クレイジータクシー』らしさを感じました。

百渓
 旧作もそうですが、全部がリアルに作られているのではなく、あくまでゲームとしてのファンタジーな世界ですから。リアリティはありつつも、あえて誇張した部分が多数ありますから、喜んでいただきうれしく思います。

――看板や店舗の雰囲気・密集度から『龍が如く』シリーズのような空気も感じました。チーム間で技術交流はされていますか?

菅野
 情報交換はしています。おそらく皆さんが思うよりもシンプルなやりかたで。RGGスタジオのスタッフに「あれ、どうやって作ってるの?」と聞きに行ったり、アトラスのチームにも聞いたりして。密接に連携しようと意識することはなくて、スタッフ間でつねに情報交換をしています。そういったノウハウはセガ全体で活かされていますね。

百渓
 密度感はとくにこだわったポイントです。コンパクトな走行体験とディテールにこだわったマップです。そして、特徴の異なる複数のエリアがある。そこは時間をかけて作り込んでいきました。

――作り込みと言えば、日本とドイツで一般車の違いも感じました。日本のほかのタクシーは日本的だったりして。

百渓
 ありますね。車のカラーも変えています。日本はカラフルな車が多く、好きな色の車に乗られる方が多い。一方で、国によっては偏りがあったり、シックな車が好まれることもあったりします。お国柄も調べながらマップに取り入れています。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった
――ナンバープレートの違いですとか、あと道路看板もわざわざ違うので、じつはこだわるとたいへんな部分ですよね。

百渓
 菅野に何度「ちゃんと再現してる?」と突っ込まれたことか(笑)。

菅野
 歩いている人々も国によって特徴付けしているんですよ。ちゃんと、その国の人々が歩いているようなイメージにしたくて。ただ、渋谷は海外の人も多いので、あえてガラパゴスな感じにしています。

百渓
 リアルにやりすぎると渋谷が海外の方ばかりな印象になってしまったので、ちょっと誇張してアジア系を増やしたりはしています。

菅野
 ユニークなポイントとして、お客さんに力士がいたりします。日本らしい部分は強い個性として感じられればいいなと取り入れています。ただ日本を作るのではなく、きめ細やかに考えていると思いません? クレイジーなんて言いつつ、じつはクレバーなんです(笑)。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった
菅野
 その国を感じるために、マップや目に入るものは重要です。言葉で説明できなくても、何となくその地を走っているんだなと感じてほしい。印象に残るように5つのマップを設計しています。

 ミッションやタクシー業務中ではない通常時のBGMはその国に合わせているんですけど、それも空気を感じてほしいから。あと、英語のボイスは方言を取り入れたりしていますね。ドイツならドイツ訛りですし、日本なら日本人風の発音です。

――全体の空気の作りかたにも狙いがあるんですね。浅草風の下町エリアもありましたが、これを取り入れた理由は?

菅野
 トラディショナルな日本を入れたかったんです。わかりやすく古風な、日本らしい場所がほしかった。昔ながらの部分と、最先端の雰囲気が入り混じることが、日本の風景のよさだと思っているので。あとは車好きの人たちが集まるパーキングエリアも用意したりして。これも走行体験の一環です。

 そんな街中を海外の人が爆走できるのもおもしろいんじゃないかと。車で走ってはいけない場所で爆走できるのは必要な要素です。ゲームのいいところですし、『クレイジータクシー』らしさでもあります。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった
百渓
 ドイツマップでは飛行場を走れますが、これは空港や飛行場の滑走路を車で走りたいというアイデアがあったから。で、飛行場を走れるなら、じゃあ飛行機と追走できるようにしよう、と(笑)。

――絶対ありえない体験にありえない体験が掛け合わされている。

菅野
 飛行場もかなりデフォルメしています。実際の飛行場はもっと広くて、もし飛行機と並走するのであれば、もっと広さが必要なんですよ。何なら飛行機が飛び立つには狭すぎる。でも、『クレイジータクシー』はリアルを追求するゲームじゃないですから。ここでは並走する体験がメイン。それにはどれくらいの広さが必要か計算して決めました。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』インタビュー。生みの親・菅野Pの反対を押し切って日本マップを実装。緻密なゲームデザインはクレイジーというよりクレバーだった
――ちょっと気になったのですが、ドイツはドイツの方々からすると自国らしさを感じられるのでしょうか?

菅野
 先日、ケルン出身の方から「自分の町を作ってくれてありがとう」と言われましたね。ケルン大聖堂にすごく喜んでいました。ドイツらしい走行体験ができて、遊びの感覚もマッチしていると評価していただいたので、ドイツらしさが出ているはずです。

 ドイツってイメージが薄いかもしれませんが、じつは街中にグラフィティがあったりして、おもしろい雰囲気を持つ場所なんです。実際にスタッフたちがドイツを訪問してたっぷり取材しています。そういった細かいところの表現もあって、ドイツらしさが出せていると思います。

――日本もドイツも車大国ですしね。

菅野
 車の街だから選んだという側面もありますね。

――やはり車のゲームですから、車の表現にも気を付けているのでしょうか?

菅野
 車好きの人に「こうじゃない」と言われないことは、非常に重要なポイントです。クレイジーだからと言って、車をおかしな方向に表現するのは簡単なんですよ。本作では、車のセオリーとよさを守るようにしています。車好きが見て「変なゲームに見えるけど、じつはこのゲームわかってるな」と言われた方がかっこいいじゃないですか。

 ですから、車はしっかりと整えて、実車のような形で登場します。おバカなゲームで、おバカな車がすべてだと、車のゲームとして離れていっちゃいますし、車のことをわかってないとは思われたくなくて。

――先ほどの表現を引用させてください。本当は“クレバータクシー”なんですね。

菅野
 でも、『クレイジータクシー』でいたいんです(笑)。

百渓
 最新作を制作して『クレイジータクシー』はほかのタイトルとは違う、隠れた実力・おもしろさを持つゲームだと再発見できました。冒頭にお伝えしたように、ドライブゲームであると同時にアクションゲームとしての顔も持つ。旧作からデザインされていた魅力はしっかりと伝わってたんだなと。

 それを広く濃く、もっと多くの方々に伝えなくてはならないと、とても強く感じています。これまでシリーズ作品に触れたことがにない人、これまで遊んできた方々にも、いままでにない体験を味わってもらえると思うので、ぜひプレイしてみてほしいです。

菅野
 旧作からのファンの方々に、まずは感謝をお伝えしたいです。根強いファンの方々がいたからこそ、今回の新作をお届けできることになりました。そういった声がなかったら、たぶん新たに開発しようなんて動きにはならなかったと思います。そして、そんなファンの方々も驚く、新しい『クレイジータクシー』ができました。東京ゲームショウでは触れる機会がありますので足を運んでいただければ。「知らないよそんなタイトル」っていう方々は、騙されたと思って触ってみてください。爽快で楽しい時間が過ごせますから。
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