発売約3ヵ月にして20万本以上の大ヒットとなった『魔法少女ノ魔女裁判』を世に送りだし、早くも次回作として『配信少女ノ裏垢迷宮』と『魔法少女ノ因習村』の2タイトルの発売を控えている、シナリオ制作会社Re,AER(レ・アエル)の原作創造ブランドAcacia(アカシア)。
そして『デジモンサヴァイブ』や『ルーンファクトリー5』など、さまざまなジャンルのゲームにおいて豊富な開発実績を持つ企業であるハイド。その両社が2025年10月30日に、新たなゲーム開発会社“Acacia Games”の設立を発表した。
果たして、このAcacia Gamesはどのような経緯で、そしてどのような目的のもとに生まれた開発会社なのか。ここではそのコアメンバーとなる3名に、“Acacia Gamesが目指すもの”をうかがった。
※本インタビューは週刊ファミ通2025年11月13日号(No.1921/2025年10月30日発売)に掲載された記事をもとに、一部加筆したものです。畑 俊行(はた としゆき)
合同会社Re,AERおよびAcaciaブランド代表。株式会社ハイド専務取締役である井芹真一郎氏とともに、Acacia Gamesの代表取締役を務める。
東風輪 敬久(こちわ のりひさ)
アイデアファクトリーで数々の作品を制作し、後にコンパイルハートの社長を経て退社。2024年にRe,AERに参加して『配信少女ノ裏垢迷宮』や『魔法少女ノ因習村』のプロデューサーを担当。ハイドの柳原氏とともにAcacia Gamesの副社長を務める(文中は東風輪)。
柳原健一(やなぎはら けんいち)
2014年より株式会社ハイド代表取締役社長に就任。数々のゲームタイトルの開発に携わる。Acacia Gamesにおいては東風輪氏とともに副社長を務める(文中は柳原)。
Acacia Gamesは“石橋を叩かない”
――まずはAcacia Gamesについてうかがう前に、先日10月7日に『魔法少女ノ魔女裁判』の販売本数が20万本を突破したとのアナウンスがありました。こちらの手応えなどをお聞かせください。
畑
想定を超える推移に驚いています。3ステップくらい飛び越して作品が成長する姿に、身が引き締まっています。さらにこの後はSwitch版や、北米での展開も控えていますから、いまは期待に応えるための体制作りがたいへんで、今回のAcacia Games設立もその一環となります。
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――そのAcacia Gamesにおいて、皆さんそれぞれがどのような立ち位置となるのかを教えてください。
東風輪
この3人の体制としては、畑さんがハイドの井芹さんとともにふたりで社長を務め、私と柳原さんが副社長としてサポートて、畑さんを支えられればと考えています。
柳原
ある意味、「畑さんをスターダムに押し上げよう」という目的も含めたプロジェクト、と言っていいかもしれません。
――そもそもどういった流れで生まれたプロジェクトなのでしょうか。
東風輪
まず自分がAcaciaに参加した経緯から説明しますと、去年、あらためて自分でゲームを作ろうと考えたときに、「やっぱりオリジナル作品を作りたい」という気持ちが強かったんです。ただ、いまの時代にオリジナル作品を自由に作れるゲーム会社は非常に少なくて、そのうえさまざまな規制や組織の縛りの中で作らざるを得ない形になってしまいます。
そんな中、もっとフットワークが軽くて、かつ“原作・シナリオ・キャラクターをいまのユーザーの目線で作れるところ”と組みたいと思っていました。そのときにクラウドファンディングを実施していたAcaciaの『魔法少女ノ魔女裁判』に出会い、まさに「自分がいままでの経験を注ぐべきなのは、こういうチームだ!」と感じたわけです。
――東風輪さんとしては、『魔法少女ノ魔女裁判』のどのような部分が響いたのでしょうか。
東風輪
組織や規制にとらわれず、自分たちならではの表現を貫いてお客さんに共感を得てもらう……そんなインディー精神でしょうか。Acacia Gamesはその精神をさらに貫き通すためのプロジェクトと言えるかもしれません。
――柳原さんはどのような経緯で参加した形でしょうか。
柳原
僕はもともと東風輪さんとは業界の中でもかなり古い付き合いで、ほぼずっと何かしらの仕事で声をかけていただいています。ですから今回も東風輪さんがAcaciaに参加したタイミングで、声をかけていただきました。
東風輪
柳原さんは人としても信頼できる方ですし、今回、さまざまなゲームジャンルに対してノウハウのあるハイドと組むことが、Acaciaにマッチしていると感じたのです。
柳原
長い付き合いの中で、お互いの強みがわかっていますからね。そしてなにより、東風輪さんが畑さんたちについて、「おもしろい人たちに会ったんだよ!」と、本当に子どもみたいな感じで話すんですよ(笑)。それを聞いて僕もワクワクして、全力でサポートしようと思いました。
――実際にお会いしたときの畑さんの印象はいかがでしたか?
柳原
クリエイティブで先鋭的だけれど視野がものすごく広い。そしてちゃんと人の言葉を受け止められるクリエイター、ですかね。そういうバランス感覚を持った方は少なく、だからこそ多種多様な尖ったクリエイターたちがついてくるのだろうと感じました。
東風輪
実際、Acaciaのクリエイターたちは本当に先鋭的なんです。そしてシナリオ、キャラクターを重視し、それを生み出すために妥協をしない。自分も企画の立ち上げ時にシナリオやキャラクターの草案を出すのですが、チームメンバーが見事にぶっ壊して、さらによいものに昇華してくれる。それを見るのが醍醐味ですね。
柳原
いまのゲーム業界では、プロデューサーや経験者に対して、若い開発者がなかなか物申しにくい雰囲気にあります。でも、Acaciaでは物作りの過程で若いクリエイターがプロデューサーにぶつかっていける。ある意味、昔のゲーム業界のように「自分がおもしろいと思わないと納得できない」環境が、いまでも作られているのは奇跡だと思います。
でも物作りって、本来そうだと思うんです。何が優先かといったら“作品ファースト”。ビジネスファースト、ユーザーファーストよりも、まずは作品ファーストでいいはずで、作品さえおもしろければユーザーはついてくると思っています。
――以前のファミ通.comのインタビューでは、畑さんがRe,AERを作られた際の目的として「作家たちの楽園を作る」と語られていました。やはりAcacia Gamesの設立についても、「自分たちの作りたいゲームを形にしたい」という思いがいちばん強かった感じでしょうか。
畑
はい。柳原さんがお話しされたように、商業でやっていると世の中のしがらみや、クライアントからの制約などがどうしても存在します。そういう“大人の事情”は理解しつつも、「せめて自分たちの経済圏で届く範囲だけでも、自由に物語が作れたらいいよね」という思いがありました。
――インタビューでは「Acaciaは原作屋である」という点にこだわっているとお話しされていました。ゲーム作りにおいても、「おもしろい物語・おもしろい原作を作ろう」というところが出発点なのでしょうか。
畑
まさにそうです。あくまで私たちは“ストーリー屋”から始まっていますし、その延長線上にあるものとして企画制作、キャラクター作りなどをしています。そのうえで、ゲームはストーリーを総合芸術として立体的に届けるための力強い手段だと考えており、これから作るものの中でも大きなウェイトを占めるだろうと思っています。
――そのウェイトが大きくなったからこそ、Acacia Gamesを設立し、本格的にゲームでAcaciaの物語を伝えるべきだ考えられたのですね。
畑
はい。そしてAcaciaには“原作の種”がたくさんあります。いまも30個くらいのアイデアが、才能のあるクリエイターたちからあふれ出ている状態なんです。それに対してひとつひとつ、外注で開発してくれる会社を見つけるために時間を割くのがもったいないなと。
ですがAcacia Gamesを作れば自分たち自身で機動性を持ってゲーム制作に挑めます。そしてAcaciaがAcaciaらしくプロジェクトを進めるために、ハイドさんのような、よいパートナーを見つけることもできました。
柳原
畑さんがおっしゃった「自分たちの経済圏の中でやる」ということは、かなり重要だと思います。その経済圏で物作りをしていけば、お金も守れるわけです。そして、お金が担保されてさえいれば、周囲から変な雑音は入らない。自分たちがこだわったものを、自分が生きていてよかったと思える作品を作ることができます。
ですからAcacia Gamesでは、畑さんの背後にいる尖ったクリエイターたちの純度の高い切れ味を、そのまま世に出してあげたい。裏方としてスターを生み出すことこそ、今の自分の使命だと思っています。
――お話をうかがうと「まだ世に出ていない才能のあるクリエイターの物作りを、ちゃんとした体制で支援しよう」という熱意を感じました。
柳原
まさしく気持ちはインディーですね。でもそれだけではなく、将来的にはもっと経済規模を大きくして、より広い範囲でいろいろなことができるようにしたいなと思います。失礼な言い方ですが、僕らの立場が圧倒的に強くなれば、さまざまなところと手を組んだときにも、自分たちのこだわりを貫くことができます。
そうしていかないとやはりいいものは作れませんし、言うなれば “世界を制覇したい”わけですよ(笑)。それが畑さんといっしょならばできると信じています。
――尖りに尖りつつ、世界を制覇すると(笑)。
柳原
ほかの会社さんなどに持っていったら「え?」となることも、このメンバーならば作れますから。結局ほかの人が届かないものを作り出すのがクリエイターなのかなと。
東風輪
そうですね。本当にこのメンバーだと“石橋を叩かない”んですよ(笑)。
柳原
もちろん経済的に生き残れる状態にしておくことが前提ですが、「とりあえず叩かずに渡るか」という形にしたいなと。周りが「そのまま走ったら橋が崩れて死ぬぞ!」と言っていても、僕らは畑さんたちを信頼しているから「渡ってみたら?」と勧めるし、橋が崩れたとしても、落ちる途中で新しい景色が見えるかもしれません(笑)。
東風輪
ちなみにAcacia Gamesは尖った作品を作っていますが、作っているクリエイター自身は、非常に優しいです(笑)。そのアンバランスさが個人的に居心地よくて、本当に素晴らしいと思っています。
新たなスタークリエイターを誕生させるために
――ここからは、具体的にどのような体制で、どんなコンセプトのゲームを作っていく予定か教えてください。流れとしてはAcaciaが原作や物語の設定を手掛け、それをAcacia Gamesがハイドのサポートを受けゲームに落とし込んでいくイメージでしょうか?
東風輪
まさにそんな感じですね。
畑
ちなみにAcacia Gamesという新たな名前を名乗っていますが、制作クリエイターとしてはAcaciaのメンバーをすべて含んでいて、いっしょになって作っていく形です。そのうえで、Acacia所属のエンジニアやゲームプランナーなどは、Acacia Gamesでの活動が中心になっていくかと思います。
――ハイドさんはもともとグループの子会社や、外部の開発会社さんとも積極的に連携されています。それらと比べて、今回のAcaciaさんとのタッグはどんな点が異なりますか?
▼参考記事
柳原
おっしゃる通り、ハイドはこれまで多くのスタジオやクライアントとアライアンスを組んできており、単独では作れないものをチームの力で形にすることを大切にしてきました。そのうえでAcacia Gamesとの取り組みは、“作品をともに作るパートナーシップ”として考えています。
単に受託先としてゲームを作ったり、売上を上げたりというビジネス的な視点だけなく、「作品をいっしょに作っていく」という想いですね。ひいてはゲーム業界の未来を一緒に作っていくことを目標に掲げています。
畑さんや東風輪さんが描く、物語や世界観への情熱は本当に熱いんです。それをハイドがいろいろな開発で得た技術力を持って、新しい作品として昇華させていく。それ本気で取り組んでいこうというのが今回の狙いです。
あとはもうひとつ少し異なる視点がありまして……新しいスタークリエイターを誕生させていきたいんです。もちろんゲーム業界には昔からのスタークリエイターがいますが、若い人のあいだには、まだほとんどスターがいません。
――たしかにそれは言えるかもしれません。
柳原
これってまずい状況だと思っていて、スターがいないということは、野望がある人が入ってこないということでもあり、いずれは業界として枯れてしまうと思うんです。
だからこそまずは畑さんにスターになってもらって、その後ろにいる尖った人たちにも、どんどんスターになってもらえる場所を作りたいなと。
いまの時代、尖っている人はメーカーやデベロッパーには入社せず、自分でインディーゲームを作る流れになっているかと思います。それはそれでよいことですが、才能があっても商業に乗せないと世界に発信することが難しいですし、より多くのユーザーに広めるためにはお金も必要です。ですから、きちんとした経済圏を作って、尖ったクリエイターを守りながらスターを生み出せる環境を用意したいですね。
ストーリー、世界観、キャラクターにおいて世界一のブランドに
――畑さんたちAcaciaにとっては、ハイドとタッグを組むことで、どんな可能性が広がりそうでしょうか?
畑
弊社の持ち味は、我々が生み出す世界観、そしてほとばしる情熱や勢いだと思っています。でも『魔法少女ノ魔女裁判』で得た機会をどうやって広げていこうか、どうやって後ろに続くクリエイターにつないでいこうかと考えたときに、経験や体制に関しては、まだまだ他社さんの足元にも及びません。そういった部分でハイドさんが持つ実績や豊富な力を借りられることは、ものすごく心強いと考えています。
――基本的にAcacia GamesではAcaciaブランドのゲームのみを作っていくことになるのでしょうか。
東風輪
場合によってはAcaciaと親和性が高い会社さんと組んで別ブランドのゲームを作るのもありだと思います。
――今回の特集では『配信少女ノ裏垢迷宮』の正式名称やキャラクターたち、また『魔法少女ノ因習村』の詳細が発表されました。こちらの2タイトルに関して、設立されたばかりのAcacia Gamesがどのようにかかわっているのかを教えてください。
畑
会社自体は設立したばかりですが、エンジニアリングやゲームデザインなど、ゲームならではの製作過程を担う形です。
東風輪
自分がAcaciaに合流した時点では、『魔法少女ノ魔女裁判』のリリースはまだされていませんし、その後のゲームの計画は未定でした。ですが温めていた企画草案をジー・モードさん、グッドスマイルカンパニーさんが評価してくれた事で、今回発表したふたつの企画が形になったのです。
当時はまだAcacia Gamesの構想はありませんでしたが、それぞれのプロジェクトで集めたメンバーでゲームを作り始めていき、それがだんだんと形になってAcacia Gamesになっていった感じですね
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――『配信少女ノ裏垢迷宮』はジー・モードさんがパブリッシャーになり、『魔法少女ノ因習村』に関してはグッドスマイルカンパニーさんがパブリッシャーとなっています。今後もAcacia Gamesでは、さまざまなパブリッシャーと組んでいく形になるのでしょうか?
東風輪
自社、外部どちらの可能性もあると思います。外部のパブリッシャー様とご一緒する場合は、先方の強みを活かしつつ、Acaciaの原作をリスペクトしてくださるところと組んでゲームを制作したいと考えています。
ジー・モードさんとグッドスマイルカンパニーさんについては、すべてを信じてまかせてくださっているので、本当にありがたいですね。そのうえでユーザーが喜ぶ提案をガンガンしてくださっている、という関係性です。
――『魔法少女ノ魔女裁判』でAcaciaの作品に興味を持っていただいたファンに対して、Acacia Gamesとして今後どのようなゲームを作っていきたいとお考えですか?
畑
まず大前提として、『魔法少女ノ魔女裁判』をフォローしてくださっている方々に向けて、ちょっとずつ角度を広げながら、さらに喜んでいただけるものをお送りしていきたいです。
そして、最終的にはそれらの作品をひとつにつなげられるようなものにできたらいいですね。たとえばTYPE-MOONさんの作品のように、キャラクターが複数の作品にわたって生きていて、なにかひとつのコンテンツを楽しんだらこちらも楽しめるよ、という形にできればと。
東風輪
Acaciaには女性向けヒット作に関わっているライターや、謎解きコンテンツが得意なメンバー、デザイナー、作曲家や声優、ボーカリストも所属しています。クリエイターの才能を活かしたゲームを作りたいです。
――根底にあるものは変わらずとも、ジャンルとしてはもっと違うものに挑戦していく可能性も?
東風輪
Acaciaらしい闇を感じるパズルゲーム、リズムゲームなどもおもしろいかもしれませんね(笑)。
畑
当然発表した2タイトルは『魔法少女ノ魔女裁判』ファンの期待にお応えするための物語ですが、Acaciaらしさを担保できれば、もっといろいろな角度の作品をお届けできると考えています。
――最後にAcacia Gamesの今後に期待をしてほしいことや、Acacia Gamesとしての野望があればお願いいたします。
柳原
先ほどもお話ししましたが、野望という意味では尖った20代の若いクリエイターたちの居場所を、僕らの世代が後押しして作りたいです。その結果、“カッコいい”を具現化した人たちがスターになり、業界全体を、もう一度“憧れの場所”にしたいなと。ぜひ応援よろしくお願いします。
東風輪
尖ったストーリー、世界観、キャラクターは「Acaciaが世界一!」を目指して、大手や凝り固まったゲーム会社では作れないものにチャレンジしていきます! 刺激的な企画のストックが山盛りであるので、期待してください!
畑
Acaciaが日本一、世界一になれるように目標を掲げていくことはもちろんですし、走り切る覚悟があります。ただ、Acaciaはとにかく尖ったブランドですので、もしかしたら「あいつらバカだな」とか「キモいな」とか感じることもあるかもしれません。
柳原
それは褒め言葉でしょう(笑)。
畑
褒め言葉だと受け止めてがんばりたいと思いますし、やり切る自信もあります。そして、Acaciaには本当にいいクリエイターが揃っており、必ずやよい作品を作れると確信しています。ですので、今回発表した作品を始め、ぜひAcacia Gamesの今後の展開にご期待ください。